「ふぅ、ここが私たちの拠点になるわけね...」
どさっと書類の山をデスクに置き、アンヌはつぶやいた。
ここは中央合同庁舎第7号館。
日本政府はウルトラ警備隊の日本来訪を受け、急きょ合同庁舎に作戦室を設けたのだ。
「お待ちしてましたよ、友里分析官。」
いつからいたのか、背広姿の男がアンヌに声をかけた。
「あなたが公安のモロボシ担当官ね。はじめまして。短い間だけどチームメイトになるんだから、敬語はなしでお願いするわ。」
「分かった。ではよろしく、アンヌ。」
二人は笑顔で握手を交わした。
「こちらこそ、よろしくね、ダン。」
ウルトラ警備隊の他の隊員たちが日本に上陸するまで、ダンとアンヌは先駆けて調査を行うことになった。
まず提案されたのが例のアプリ、バースによって日常生活に支障が出てしまったユーザーの訪問調査だった。
とあるマンションの一室のベルを押すと、インターホンから女性の声がした。
「はい、どちらさまでしょうか?」
「スマホ依存症支援センターの諸星と申します。失礼ですが息子さんはいらっしゃいますでしょうか?」
「あっ、少々お待ちくださいね...」
間もなくしてガチャリとドアが開く。
その向こうには母親と思わしき女性が顔をのぞかせていた。
「その節はどうも...あいにく、今日も息子は部屋にこもったままでして...」
「明夫君...でしたね。お邪魔してもよろしいでしょうか?」
「え、えぇ、どうぞ...」
ダンとアンヌは部屋のリビングに案内され、茶をもてなされた。
「つまらないものですが...」
「いえ、ありがとうございます。さて、今日は明夫くんの様子についてお伺いに来たのですが...」
「はぁ、それがずっとスマホを手放さないままずーっと部屋にこもりきりなんです。『バース』、でしたっけ?近頃の子供がよく使ってるっていう。あれをずーっと一人でやってるんですよ。ぶつぶつ独り言を言いながら。」
そう話す母親の声は暗く、不安に満ちていた。
「そうですか...」
「あの部屋に息子さんが?」
アンヌは先ほどから母親がちらちら見ていたドアを指さして尋ねた。
「はい、そうですが...」
「もしよければ、明夫君と少しお話しをしたいのですが。」
「え、えぇ。ぜひお願いします。」
ダンとアンヌは明夫の部屋の前に案内された。
「明夫?支援センターの方が来てくれたわよ!明夫!返事なさい!」
「...」
帰ってきたのは沈黙のみだった。
「開けるわよ。」
ドアを開けると、そこにはベッドに横たわり、スマホを眺める少年の姿があった。
ダンとアンヌは顔を見合わせると、明夫の母に三人で話がしたいと伝え、ドアを閉めた。
「...」
二人に気づいていないのか、表情一つ変えずに淡々とスマホをいじる少年。
「こんにちは、明夫君。私、アンヌっていうの。彼は同僚のダン。」
「...」
「そんなに面白いの、バースって。」
「...」
「ねぇ、ちょっと見せてよ。」
アンヌが画面を見ようと近づいたその時、明夫は血相を変えて起き上がった。
「来るな!」
「な、何よ。ちょっと見せてくれたっていいじゃない。ね、お・ね・が・い♡」
「騙されるもんか...そうやって僕とメトロンを引き離そうって言うんだろ!?」
「おい、明夫君、アンヌは何も...」
「うるさい!誰だって僕のことをわかってくれないんだ!メトロンだけだよ、僕のことを受け入れてくれるのは!」
明夫は布団をかぶり、ベッドの隅にうずくまってしまった。
「これが日本語でいう所の『万事休す』ってところね...」
―――…
約二時間後、ウルトラ警備隊の残りの隊員たちが日本に上陸し、無事作戦室に到着した。
「では、改めて自己紹介をよろしく頼むよ、モロボシくん。」
「はい。公安調査庁より出向してまいりました、諸星弾と申します。」
「ははーん、これで君がウルトラエイトになる、ってわけね。」
オリビアが机に頬をつきながらからかった。
「ウルトラエイト?」
「いや、こっちの話だ、忘れてくれ。」
無表情にハンズが話を逸らす。
「外星人がらみのケースとなるとヤツが干渉してくるかもしれません。一応ブリーフィングだけでもしておいたほどがいいのでは?」
「いい考えだ。アンヌ、説明を頼む。」
アキレッシュの提案をブランドンは受け入れた。
「えっ、私が?」
「当たり前だろう。最後にセブンの調査をしたのは君なんだから。」
「もう...了解しましたぁー。」
不満気味にアンヌは淡々と話し始めた。
「最近、極秘裏に外星人を抹消して回る外星人がいるのよ。まぁ、外星人って仮定されてるだけなんだけど。で、私たちウルトラ警備隊の仕事をしてくれてるようなものだからという理由で国連の委員が『ウルトラ警備隊7番目の隊員、ウルトラセブン』というあだ名をつけたの。それを気に入った参謀方がこの外星人の名称を『ウルトラセブン』にした、ってわけ。」
「そう!で、君は8番目の隊員だからウルトラエイト!ね、ハイレベルなギャグでしょ?」
オリビアのギャグ解説に、作戦室に沈黙が走った。
静寂を破るためブランドンは咳払いをコホンとすると、話を戻した。
「そして、今回のケースには外星人が絡んでいる可能性が高い。セブンがこれに食いつけば、ヤツのしっぽをつかむいい機会になるかもしれないのだ。」
「なるほど。」
「ま、今はバースについての調査が先だけどね。」
キーボードをカタカタ鳴らしながらロバートはこぼすように言った。
「
「うむ、やってみよう。スクリーンをプロジェクターで映してくれ。」
作戦室のスクリーンにロバートのパソコンの画面が映し出される。
「これが先ほどダウンロードしておいたバースのアプリです。起動してみます。」
バースを起動させると、シンプルなデザインの画面が映し出された。
ロバートはニューラルAIを起動させる。
「ニューラルAIって何です?」
「あぁ、人間の思考回路をベースにしたAIさ。元はとある外星人が残していった人工知能でね。それを僕が人間の脳に似せて調整したんだ。チューリング・テストにもパスできるほどの代物なんだぜ。」
「ウルトラ警備隊では外星人が残したオーバーテクノロジーをこのように調整・改良して使用することがある。我々はこれを
画面には、やはり心理テストの内容のような質問が表示されていく。
画面に表示される質問をニューラルAIに入力し、AIが出した答えをロバートがバースに入力していく。
この作業を10分ほど繰り返すと、ようやく最後の質問にたどり着いた。
「なんだ、本当にただの心理テストみたいね。」
オリビアが愚痴った。
「...ん?」
突如、画面が真っ黒になった。
「まさか...読まれているッ!?」
ロバートが形相を変えて動揺している。
すると今度は音声がパソコンから再生された。
「やぁ、ウルトラ警備隊の諸君。この音声が再生されているということは君は人工知能を使ってこのバースについて調べようとしていたようだね。」
声に合わせて、安らかなクラシック音楽が再生されている。
「しかし、無駄なことだ。もうじき、この国は私のものとなる。おとなしく引き下がったほうが君たちのためになるぞ。」
「この国...奴は日本が目的なのか?」
「なぜ日本を...?」
「警告はしたぞ。では、さらばだ。」
「...!アプリが自動的にアンインストールされました!」
「完全になめられてますな。」
口ひげをいじりながらハンズはつぶやいた。
「想定していた以上のことが起こっているのかもしれないな...」