5. マゼラン星雲からの挑戦状
「ねぇ、聞いた?ダンの契約期間が延びたって。」
「初任務にしてはいい動きをしていたからな。本格的にウルトラ警備隊に入隊させようとする声も上がってるみたいだ。」
バースを開発した外星人の死滅が確認され、隊員たちは後始末に追われていた。
外星人のコードネームはダンの証言をもとに「メトロン」と命名され、ウルトラ警備隊と日本政府との協力の末バースはネットワークから消去された。
「それで当の本人はどうした?」
「少し用事があると言って彼が最初に訪問したユーザーの家に向かいました。名は確かアキオだったような...」
「被害者のアフターケアのつもりか。まだまだ若いな。」
ハンズはダンを小ばかにしているようだった。
「私も最初はそうだったわ...でももうじき彼も分かるはずよ。」
パソコンで報告書を書き続けながらながらアンヌは言った。
「いかに無知であることが幸福であることかをね。人々が無知に生きられるように、私たちは働くのよ。」
―――――…
「うわぁぁぁぁ!!!!」
「明夫、どうしたの、明夫!?」
明夫の叫び声がドア越しに聞こえてくる。
「メトロンが...メトロンがぁぁぁ!!!」
「落ち着いて明夫!メトロンは実在しないのよ!」
「ううぅぅぅぅ...もうおしまいだぁぁ!!!」
明夫はベッドの上で布団にくるまり、ぶるぶると震え始めた。
ガチャリ。
玄関のドアが開くと、そこにはダンが立っていた。
「すみません。インターホンを押しても返事がなかったもので...」
「あなたは支援センターの...あの、ご覧の通り今立て込んでおりまして...」
母親の言葉を無視し、ダンは明夫の部屋に向かって行く。
「ですから、また後日に...」
「お母さん。」
ダンは母親の目を直視し、視線で訴えかける。
「少し明夫君と二人にしてくれませんか。」
「は、はい。」
部屋のドアを閉めると、ダンは明夫のベッドに腰を下ろした。
「明夫君、僕を覚えてるかい?」
「...」
ベッドの隅に丸まったまま明夫は返事をしなかった。
「聞いたよ。バースがサービスを終了したんだって?これでメトロンと喋れなくなってしまったな。」
「...」
「でも、これは君がメトロンと同じくらい腹を割って話せる相手を見つけるいい機会じゃないか。」
「...そんなのいないよ。」
震えた声で明夫が初めて返事をした。
「えっ?」
「メトロンは僕のただ一人の理解者なんだ。みんな僕と仲良くしようとするふりをしてるだけなんだ。あんただってそうだ。初対面の印象だけで僕を知ったつもりになってる。人間なんて、クズばっかりだ!」
「...それが君の願望なんだね。」
明夫は布団の下からちらりとダンの方を見た。
「願望って...何がだよ。」
「君は誰かに自分を知ってもらいたい。だけどなかなか伝わらなくて苦しんでいる。そうだろう?」
「伝わらないんじゃない。みんな僕を知ろうとしないんだ!」
また明夫は布団をくるみ、丸くなってしまった。
「...でもそれは、生きている上で当たり前のことなんじゃないのかい?」
「...」
「みんな自分を理解してもらいたい。でもなかなかうまくいかないから他人のせいにしたくなる。君にだって、君のことを本当に理解したいと思っている人がいるはずだ。」
「いるわけないよ、そんな人なんて。」
ダンは深くため息をつくと、決心を付けたように明夫に近づいた。
「なら、君に僕の秘密を一つ託そう。」
「...秘密?」
「見ててくれ。」
ダンが手をかざしながら念ずると、明夫の机の上の文房具が浮かび上がった。
「...何を...してるの?」
「君たちの言う超能力というやつさ。」
「あんた...超能力者...なのか?」
「少し違うな。」
文房具たちが元の場所に戻った。
「僕はね、外星人なんだ。」
「がい...せい...じん?」
一瞬、ダンの姿が外星人のそれに変化したように見えた。
真っ赤な体に、銀色の甲冑を身にまとっているような姿だった。
「そう、地球の外から来たんだ。最も、地球では諸星弾の名を借りてるけどね。」
明夫の目が見開いている。
さっき見た光景が信じられないようだ。
「どうして...このことを僕に...?」
「君に僕を信頼してもらいたいからさ。」
「信頼...?」
「僕は君と友達になりたい。君のことを本気で理解したいんだ。」
何が起こっているのか明夫にはわからなかった。
しかし、ダンの眼差しには彼が長らく忘れていたぬくもりを感じた。
(お父さん...)
「外星人の僕には友達が少ない。だから出会いの一つ一つを僕は大切にしたい。」
「...」
ダンは明夫に手を差し伸べる。
「なってくれるかい?友達に。」
「...」
明夫はその手をそっと握った。
それをダンは力強く握り返す。
「このことはナイショにしてくれよ。男と男の約束だぜ!」
「...うん。約束するよ、諸星さん。」
―――――…
翌日、午前9時31分。
ウルトラ警備隊に国連本部から緊急連絡が入り、作戦室は緊迫した空気に包まれていた。
スクリーンには天文観測センターからの観測データが映し出されている。
「15分前、観測局が地球に向かい急接近してくる未確認飛翔体を4体確認した。飛翔体からはこの電波が繰り返し放出されているという。アキレッシュ、解析を頼む。」
「了解。これは...マゼラン星雲でよく観測される言語ですね。
「あぁ、今のところコンディションレベルは2だからな。」
「パーフェクト。では
パンスペース・インタープリターとは、言語に含まれる単語の出現頻度や文章の構造を類似する言語と照らし合わせて解析・翻訳するための
「出ました。信頼係数は97%。」
「よし、スクリーンに出してくれ。」
翻訳された電波データがスクリーンに映し出される。
昨今、そちらの観測衛星が我々の宇宙域に侵入した。
ペダン刑法第34条に基づき、文明制圧兵器キングジョーを駆使し、
攻撃を開始するものとする。
「ほう、これはこれは...人類への宣戦布告か。」
ハンズが口ひげをいじり始めた。
「観測衛星とは何のことです?」
「あぁ、たぶんホーキングのことだろう。」
ダンの質問にロバートが答える。
「確か2ヶ月前だったかな?国連がホーキングっていう観測衛星をマゼラン星雲に向けて送ったんだ。まぁ
「最近通信が途絶えて話題になってたと思ったら...まったく。こちらは観測目的で衛星を送っただけだってのに、大げさなこった。」
腕を組みながらアキレッシュが不満をこぼす。
「文明制圧兵器って、一体どんなメカニズムで機能するんだろうね?」
「
「それが先決だろうな。よし、幹部たちには私から提案しよう。」
ブランドンによる
中でもモデル03は飛行スピードに特化したモデルで、長距離での隊員の送迎や宇宙空間での調査活動に使用される。
03からのデータがウルトラ警備隊に届いたのは、翌日の午前10時42分だった。
「
「よし。ロバート、データの解析を始めてくれ。」
「了解。」
「それにしても早いわねー。宇宙空間では亜光速で飛行できるとはいえ早すぎでしょ、うちの03。」
5分もしないうちに解析結果がロバートにより報告された。
「これは...ジルコ・プラチナ合金ですね。」
「うわっ、豪華!あの量のプラチナ、地球じゃ到底手に入らないわよ!」
チョコレート菓子を頬張っていたオリビアが目を見開いて驚いた。
「それだけじゃない。この分子構造...人類の技術ではこの精度の構造を作れるまであと何百年かかるだろう...」
「人間語で話さんか、馬鹿野郎。」
専門用語で話し続けるロバートにしびれを切らしたのか、ハンズが顔をしからめながら言い放った。
「つまり超固い金属でできてるってこと。」
よそ見をしながらオリビアが答えた。
気に入らなそうにハンズはオリビアを睨みつけたが、お構いなしにオリビアはチョコレート菓子を口に運ぶ。
「現在の我々の兵器で破壊できるのか?」
「直接的な攻撃では無理でしょうね。何かこの強靭な分子構造を不安定化できる策があればいいんですが...」
「そのための脳みそだろう。なんとかならんのかね。」
ロバートがむっとした表情でハンズを見つめた。
「ロバート、すまないが今回は君に頼るしかなさそうだ。オリビア、君も協力してくれ。」
「はぁ~い。」
顔をしかめたまま、ロバートはノートを数式で埋め尽くしていく。
それに負けじとオリビアも何やら計算を始めた。
「キングジョー...」
真剣な眼差しでダンはスクリーンの観測映像を見つめる。
「どうしたの、ダン?」
「いや、なんでもない。」
「こら、二人とも油売ってもらっちゃあ困るよ。メトロンの報告書の仕上げをしてくれ。」
「...了解。」
黙々と作業に戻るダンとアンヌ。
しかし、ダンの脳裏からキングジョーの脅威が離れることはなかった。
(あれを破壊するには...僕が巨大化するしかない。できることなら避けたい状況だが...)
スーツのポケットに忍ばせてある赤眼鏡に目を送る。
(相手はあのキングジョー...最悪の事態を想定しておこう。)
文明制圧兵器キングジョー。
マゼラン星雲を統一する惑星ペダンが誇る、無人決戦兵器である。
無数の知的生命体がこれに敗れ、文明を壊滅させられた。
タイムリミットは約6日後。
キングジョーによる地球侵略のカウントダウンが切って落とされた。