あれから3日の日々が経ち、刻一刻とキングジョーは地球に接近してきていた。
時刻は午前11時53分。ロバートとオリビアは連日キングジョーの対策に追われていた。
「くそっ、こんな超合金どうやって破壊すりゃいいんだよ!?」
ロバートは髪を掻きむしった。
彼の机には数式が書きなぐられた紙切れが積み上げられている。
いつもは丁寧に整理されているオリビアの机も同じ状況だった。
「ねぇ~、もうアイツ太陽系圏内に入って来てるんだけど...」
「ふむ...なんとか時間稼ぎができないものか...アキレッシュ、この距離なら通信電波を送れるか?」
ハンズが提案する。
「ギリギリできますね。奴らと交信するつもりですか?」
「指をくわえて待っている訳にもいかんだろう。パンスペース・インタープレターでなんとか交信を試みよう。」
キングジョーとの回線接続は成功し、ハンズは敵側との交渉を図ることにした。
「私は地球を警備する組織の者だ。君たちと少し話しがしたい。我々の間に大きな誤解があるようだ。」
数秒の間をおいて、キングジョーから通信信号が送られてきた。
「話しとはなんだ。」
「君たちが発見した我々の衛星はあくまで観測用のもの。決して君たちの領土を踏みにじろうとしたわけではない。」
またしばらくして返事が返ってきた。
「だとしても、この惑星への攻撃は中止されることはない。」
その返答に、ハンズの表情が一層険しくなった。
「この惑星の衛星を分析したところ、かなりの文明発達度が伺えた。我々は君たちの文明が我が惑星に脅威をもたらすものとなると判断したのだ。」
「我々の惑星と惑星ペダンとの同盟を結ぶ、という手はないのか?」
「同盟?その手には乗らないぞ。観測と言えど、いずれは自らの利益のために利用するデータを集めるのが目的なのだろう?違う天体の知的生命体である限り、同盟など結べはしない。」
その言葉を最後に、ブツリと通信は途絶えた。
「む...アキレッシュ、再接続を頼む。」
「駄目です、こちらのシグナルを一切受け付けません。」
「時間稼ぎどころか、余計に怒らせちゃったんじゃないの?」
頬杖をつきながらオリビアがからかった。
鬼のような形相でハンズが彼女を睨みつける。
「...まぁいい。我々の運命は君たちにゆだねられているのだからな。」
ハンズはパソコンを立ち上げると、先ほどの通信についての報告書を書き始めた。
「頼んだぞ。」
二人に聞こえぬよう、小さな声でハンズがつぶやいた。
―――…
「これだ...これだよオリビア!」
ウルトラ警備隊の作戦室にロバートの歓喜の声が響く。
「へへーん、このオリビア様を舐めないでよね!」
「すごい、これがジルコ・プラチナ合金の唯一の弱点だ...」
オリビアの発見により、キングジョーの装甲に唯一の弱点が存在することが判明した。
「で、弱点ってなんなんです?」
「それはね、ジルコ・プラチナ合金の分子配分と構造のプランクポテンシャルを4次元軸に沿ってトレースすればわかるんだけど、ギブス波動方程式の整数解が正となる時空座標が...」
「わかったわかった、それで対策は立てられるのね?」
説明を邪魔され、オリビアがぷくっと頬を膨らませる。
「反陽子弾頭を搭載したミサイルを撃ち込めばライトン方程式のR係数を最低30にまで調整できるかもしれません。」
「ライトン...R...30...えぇい、面倒くさいからライトンR30ミサイルと呼称しよう。」
ブランドンの適当なネーミングにロバートは若干不満気味だった。
「よし、詳細を科学開発局に送ってくれ。すぐに製造に取り掛からせよう。」
―――…
ウルトラ警備隊がキングジョー対策に乗り出してから5日。
タイムリミットギリギリでライトンR30ミサイルは完成した。
対キングジョー用の軍事作戦がハンズにより立案され、国連軍も作戦に参加することとなった。
ロバートの計算結果によると、キングジョーは日本の神戸港の上空から地球に侵入してくることが分かった。
現地には国連軍の迎撃戦車が配備され、海には海上自衛隊の護衛艦が、空にはライトンR30ミサイルを搭載した
作戦予定地の近くにウルトラ警備隊専用のテントが設置され、隊員たちは作戦の進路状況を監視できるようになっていた。
「キングジョー到達予定時間まで、あと1分。まもなく来ます。」
快晴の空に、うっすらと四つのシルエットが浮かび上がる。
異様な形をした飛行体が地上めがけて接近しているのが目視できた。
「総員、迎撃準備!!」
国連軍の司令官の声が辺りにこだまする。
「
「了解。アシステッド・ロッキング、開始します。」
敵の姿がどんどん明らかになっていく。
かなりはっきりと敵が目視できるようになってきたその時、01のパイロットから通信が入った。
「こちら01、敵の動きに異常を確認。」
よく見ると、4つの機体がどんどん互いに近づいている。
「まさか...合体を!?」
バラバラだと思われていた4つの機体。
それが1つの機体へと合体していっているのだ。
ザブン!!!
壮大な水しぶきを立て、キングジョーが神戸湾に上陸した!
金色のボディが太陽の光を反射し、静止の姿勢を保っている。
「01、砲撃を開始しろ!」
ハンズの命令を受け、01からライトンR30ミサイルが発射された。
その数、20発。
放たれたミサイルは全弾命中した。
「迎撃開始!!」
国連軍と日本海上自衛隊の総攻撃が開始された。
あまりの攻撃の数に、巻き起こった黒煙がキングジョーを包み、状況が確認できなくなっている。
「やったか?」
その瞬間、黒煙の中から光線が発射された。
光線は国連の戦車を一層し、国連軍の攻撃の手が緩まる。
収まった黒煙の中から、赤く変色したキングジョーの機体が露になった。
「こ、これは...」
「そうか...だから合体したのか...」
「どういうことだ、ロバート?」
「奴らは合体することで、個々のパーツのR係数を複合させたんです!僕たちのR30ミサイルではこの係数には対応できない...」
「だからどういうことなんだ!?」
「つまりパーツ単体よりもさらに強靭になった、ってことよ...」
オリビアの声が震えている。
あの彼女でさえこの圧倒的強度には絶望せざるを得ないのだ。
「あっ、やばい!」
キングジョーから放たれた光線がテントの周囲を直撃する。
爆発により、各隊員は散り散りに吹っ飛ばされてしまった。
「...ぐっ...各隊員は現在地を維持!
各隊員はスーツのポケットからサイコロ状の立方体を取り出すと、ポチっとボタンを押した。
すると立方体は数秒の内に大人一人が収まるほどの大きさに拡大し、隊員たちはドアを開けると中で待機した。
D-キューブはC4爆弾の資金爆発にも耐えられるように設計された、ウルトラ警備隊専用の携帯シェルターである。
壁はマジックミラーのような仕組みになっており、中からは外の様子を確認できた。
「はぁ、はぁ...これが日本語で言う『絶体絶命』ってとこね...」
負傷した右腕を押さえながら、アンヌは何とかD-キューブの中に避難することに成功した。
一方、ダンは物陰に隠れ、キングジョーが戦車を一機、また一機と爆散させていく様を見ていた。
ダンはポケットから赤眼鏡を取り出し、覚悟を決めた。
(あのライトンR30ミサイルを食らった今のキングジョーなら...勝てるかもしれない。)
眼鏡を顔の前に構え、深呼吸をする。
(巨大化は膨大なエネルギーを消費する...でも奴を倒すにはこの手しかないんだ!)
「デュワッ!!!」
―――…
「結局...僕たちの努力は無駄だったのか...?」
ロバートはD-キューブの中で自分の非力を嘆く。
「無線、切り忘れてるぞ。」
無線から聞こえてきたのは、ハンズの声だった。
「ハンズ...僕のミスが...地球の危機に陥れたんです...」
言葉では説明しがたい程の罪悪感がロバートを襲う。
「単体兵器を送り込んでくることは考えればわかるはずなのに...僕は...僕は...」
「それでも、お前は最後まで戦った。」
ハンズの声はいつもと違い、どこか温かかった。
「知っているぞ。お前とオリビアが寝る間も惜しんで敵の装甲の解析に当たっていたことを。お前たちは人類のためにベストを尽くしたのだ。」
ダムが決壊したように、こらえていた涙がロバートの目からあふれる。
ロバートの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていった。
「今は生きることを優先しろ。生きていればいくらでもミスを挽回できる。お前はこんなところで死ぬべき人間ではない。」
「ハンズさん...」
「やめろ、みっともない。」
二人の会話をオリビアも聞いていた。
無線を切り、涙を拭くとため息交じりにつぶやいた。
「何よ...泣かせてくれるじゃない。」
その時だった。
ザッパーン!!!
凄まじい水しぶきが神戸湾から上がった。
巨大な何かが墜落したような音だった。
「何だ、あれは...?」
水しぶきが収まり、中から赤色の巨人が姿を現す。
「あ、あれは...」
「ウルトラ...セブン!?」
「おいおい、奴は等身大の外星人のはずじゃあなかったのか!?」
セブンとキングジョーとの水上決戦の幕が切って落とされた。
ぶつかり合う二つの巨体が海流を乱し、大波が神戸港を飲み込んでいく。
二人は互角に戦っているように思えたが、徐々にセブンの方が押されて行っているように見えた。
「セブンが...押されている?」
「きっとあの状態ではエネルギーの消耗が激しいんだ!」
しかし、セブンも負けてはいない。
渾身の力を込め、キングジョーを突き放すと腕をL字に組んだ。
組んだ腕から、必殺の光線技が発射される!
「すごい...一体何ギガジュールの熱量なんだ...」
セブンの光線の直撃を食らったキングジョーは、ゆっくりと後ろに倒れ、大爆発を起こした。
「ウルトラセブン...お前は人類の味方だというのか...?」
セブンは振り向くと、D-キューブの中で避難しているウルトラ警備隊員たちを見つめた。
気のせいか、ブランドンはセブンが何かを言おうとしているように感じた。