7. セブン処刑計画・前編
キングジョーに勝利し、神戸湾に一人立つウルトラセブン。
「またコイツにしてやられたな。」
腕を組みながらまじまじとハンズは彼の姿を見ていた。
「...!あれは?」
突如、セブンの頭上に2機の飛行体が実体化した。
セブンに抵抗する力が残っていないのを知っているかのように、飛行体は容赦なくセブンに攻撃を開始した。
2筋の光線が飛行体によって発射され、セブンの頭を直撃する。
苦しそうに頭を抱えてもがくセブン。
しかし、キングジョーによってほぼ壊滅させられた国連軍の戦力では飛行体を迎撃することさえできなかった。
ぐたっ。
力尽きたように、セブンは膝から崩れ落ち、神戸湾に沈んでいく。
追い打ちをかけるように飛行体はセブンの上を怪しげな光線を放ちながら旋回していった。
「セブンが...死んだ...?」
あまりにも突然の出来事に、ウルトラ警備隊員たちは悶絶していた。
しばらくすると、セブンの体が水面から浮かび上がってきた。
「い、生きていたのか!?」
「いや、様子がおかしい。」
よく見ると、セブンの体の周りを半透明の物質が囲んでいる。
その姿は、まるで十字架にはりつけにされたキリストのよう。
ぐったりとした彼の体は、十字架状の物体に閉じ込められながら空中を浮遊していく。
まるでそれを吊り上げるように、二機の飛行体がセブンの頭上を飛んでいた。
「十字架とは...なかなか悪趣味な真似をしてくれる。」
「
「くっ、次から次へと...私から日本政府に捜索要請を申請しておく。残りの隊員は作戦室で合流するように!」
「...了解。」
―――・・・
日本政府による24時間の捜索が行われたが、ダンは未だ行方不明のままだった。
一方、セブンを捕らえた十字架は神戸市内を通過し、まっすぐ東京都内へと移動していった。
東京に到達した十字架は、練馬区の上空で静止したまま活動を止めた。
結果、一千万人を超える市民が事態を目撃し、あまりの情報漏洩の規模に国連の情報規制局も対応しきれなかった。
SNSやマスコミを通じ赤色の巨人の姿が拡散され、様々な憶測が世間の間で飛び交っていた。
混乱と好奇心が入り混じった心境を人々が抱える中、とある映像がSNSに投稿される。
そこに移っていたのは鳥人のような姿をした外星人だった。
「地球のみなさん、始めまして。私の名はガッツ。宇宙の秩序を保つため、地球に派遣された者です。」
外星人は流暢な日本語でカメラに向けて語り掛ける。
「私が地球に来た理由は一つ。この星に寄生する悪質な外星人を一人残らず駆逐するためです。その手始めに私はこの悪質な外星人、ウルトラセブンを排除することにしたのです。」
画面が切り替わり、ウルトラセブンの姿が映し出される。
「3日後、私はウルトラセブンを処刑すると宣言しましょう。これは私の誠意を証明するためだけのものではありません。この星に蔓延る、邪悪な外星人たちへの宣戦布告でもあるのです!私はこの星を愛しています。この星のために命を懸けて戦うことを誓いましょう!」
1分30秒ほどのこの映像は、瞬く間に世界中に拡散され、外星人の存在と人類のヒーロー、ガッツの存在が周知の事実となった。
「諸星...さん?」
明夫は自宅のリビングのテレビから映像を見ていた。
あれから1週間の時が経ち、明夫は徐々にいつもの生活を取り戻しつつあった。
何気なく点けたテレビの緊急ニュースに流れた映像に映っていたのは、あの日彼に正体を明かした
「何あれ、怖いわねぇ...」
朝食を作っていた明夫の母もその映像に視線を奪われた。
「でもあのガッツっていう人がコイツをやっつけてくれるんでしょ?なら安心なのかしらね。」
明夫は知っている。
あの十字架に張り付けにされている外星人は、決して悪意のある者ではないことを。
なぜならば、彼に立ち直る勇気をくれたのは他の誰でもない、あの彼なのだから。
「本当に...そう思う?」
「何が?」
「あのガッツっていう外星人...本当に僕たちの味方だと思う?」
「だって、あの悪い外星人を捕まえてくれたんでしょう?味方なんじゃないの?」
しかし、明夫は言えなかった。
一週間ほど前に部屋を訪れた支援センターの男が、あのウルトラセブンであることを。
(男と男の約束...だもんね。でも、このままじゃ...)
そう。このままではセブンはガッツに処刑されてしまう。
耐えがたい現実から逃げるように、明夫はテレビのチャンネルを変えた。
―――・・・
「...なかなか厄介なことになったな。ダンの行方もまだ見つかっていないというのに...」
作戦室にて、険しい表情を浮かべながらスクリーンをブランドンは睨みつけていた。
「完全に我々の裏を突かれましたね。恐らく奴はウルトラ警備隊員の存在を知っている。」
「あぁ。ここで我々が変に動けば国連の組織としての信憑性がガタ落ちになる。」
「でも、このまま指をくわえて見ているわけにはいかないわ!セブンを助けてあげないと!」
オリビアが焦りを見せる。
「幹部の連中はセブンを味方だと認識していないようだが...」
「いや、あの時セブンは我々を攻撃しなかった。人類の味方だと確信していいはずだ。」
「そうよ!彼がいなかったらキングジョーは倒せなかったかもしれないのよ!」
数式で埋め尽くされた報告書をブランドンのデスクに積み上げ、オリビアは訴えた。
「
「しかし、その後はどうするんだ?あの状態じゃあまだセブンは敵に対抗できないだろう!」
ダメ出しをするようにアキレッシュが反論する。
「そうだけど...!」
セブンを助け出したい気持ちは、アンヌも負けてはいなかった。
(あの日、セブンが助けに来てくれなければ...ダンは死んでたかもしれない。ダン...)
空席と化したダンのデスクを見つめるアンヌ。
彼女にとってバディとは特別な存在なのだ。
(どこかで生きてなさいよ...私のバディなんだから。)
アンヌのパソコンにはセブンの十字架の監視映像が流れていた。
(ん?これは...)
アンヌはとある事実に気づく。
「待って!」
アンヌの声が作戦室に響く。
「みんな、これを見て。」
スクリーンに十字架にはりつけにされたセブンの映像が映し出される。
「これが何だというんだ?」
「ここ。ここを見て。」
セブンの頭部をアンヌが拡大する。
彼の額にはランプのような緑色の光を放つ箇所があり、それが不規則に瞬いていた。
「だからこれが何だというんだい?」
「この点滅のパータンがモールス信号になってるのよ!翻訳すると...M,A,G,N,E,R,I,U,M。きっとセブンが私たちになんらかのヒントを送ってるんだわ。」
「マグネリウム...マグネリウム鉱石のことか?」
眉間にしわを寄せながらしばらくロバートが思考すると、
「そうか!!」
目を見開いてこれまでにないほど大きな声で叫んだ。
「オリビア、光子イルーム効果だよ!!」
「...なるほど...そういうことね!!」
作戦室の残りの隊員たちはぽかんとしていた。
「その何とかイルーム効果てのはなんだい?」
「えーっと...簡単に言うと、マグネリウム鉱石っていう鉱石を使うと高純度の光子エネルギーが放出されるのよ。これを使ってセブンにエネルギーをあげようってわけ!」
「ただこのスケールのエネルギーを生成できた前例はない...アキレッシュ、君の力が必要だ。光子スペクトルの固有値の算出アルゴリズムの開発に協力してほしい。」
「それは構わないが...しかしこれの後始末をどう取るつもりなんだ?ガッツは民間人の信頼を我がものとしているんだぞ!」
「私がなんとかしよう。」
口ひげをいじりながらハンズが発言する。
「ウルトラセブンに関する一部資料を公表しよう。ウルトラ警備隊の活動が明らみになることになるがな。」
「公表資料の準備、手伝いますわ。」
アンヌも協力を名乗り出る。
「よし、幹部には私が掛け合おう。アキレッシュ、ロバート、オリビアはセブン救出用の打開策を、ハンズとアンヌは公表資料と公表手段の作成に当たってくれ。」
ブランドンは隊員たちに命ずると、声を張り上げて宣言した。
「これより、本作戦を『セブン救出作戦』と呼称する!」
―――・・・
もうろうとした意識の中、セブンはかろうじて十字架の中で生きていた。
公安局の薩摩次郎という人間の記憶に残っていた「モールス信号」という通信法。
ウルトラ警備隊の誰かがこの信号を理解してくれると信じ、セブンはただ助けを待っていた。
「他文明への不要な干渉は控えるべきだったのだよ、恒点観測員340号。」
セブンの意識に直接語り掛けてくる声。
その声にセブンは聞き覚えがあった。
(その名で私を呼ぶのはよしてくれ、アルジュン。この星で私は『ウルトラセブン』の名を授かったのだ。)
彼の故郷である、光の国の恒点観測局長、アルジュン。
セブンの上司に該当する人物である。
「ウルトラセブン、か。どうしてそこまでこの惑星を好きになったのだ?」
(この星の生命体は未知の可能性を秘めている。「絆」と「信頼」を頼りに、互いに協力しながら生きる人類を私は理解したい。)
「しかし、そのために死んでしまってはどうしようもないだろう。もうすぐ天体防衛局への援護要請が完了する。それまでもう少し耐えてくれたまえ。」
(それは不要だ。人間たちがもうじき私を救出してくれるだろう。)
「どうしてそう確信できる?人類はまだ十分に発達していないのだぞ。」
(私を捕らえたガッツと言う外星人...奴は私と人間との信頼を絶とうとしている。しかし私は学んだのだ。人間から信頼を得るためには、まず彼らを信頼しなければいけないと。)
「随分と楽観的だな。ならばこちらも君の安全は保証できないぞ。」
その言葉を最後に、アルジュンの声が聞こえなくなった。
しかし、セブンの心に迷いはなかった。
(アルジュン...君が考えるほど人間たちは弱くはない。)