三女神の人形   作:風呂

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 地方競バ場内守衛室モニター(10:09)

 

 入場口前広場を映す監視カメラには、常にはない人だかりを捉えていた。

 交流重賞程という訳ではないが、それでも平日競争と比べれば圧倒的に多い。

 家族連れが多い中、友人同士恋人同士、または一人で。ヒトもウマ娘も関係なく入場している。

 その中で、まるで動画を切り貼りしたかのように、何もない空間からウマ娘が現れた。

 そのウマ娘は暫く立ち尽くしていたかと思うと、足元に落ちていたチラシを拾う。

 書かれた内容を読んだウマ娘はそのまま人の流れに沿って競バ場内に入っていった。

 

 そしてこの一連の様子は、沢山あるモニターの一つとして風景に溶け込み、守衛に意識されずにそのまま放置された。

 

 

 とあるチラシ

 

 本日は○×トレセン学園とのコラボイベント!

 ☆現役ウマ娘交流会☆

 ローカルシリーズを走るウマ娘達と一緒にコースを走ろう

 開催日:■月◆日(日)

 時間:午後一時~午後四時(状況により多少前後します)

 併走参加者におきましては、事前予約の方は十二時三十分よりパドック前に集合になります。

 当日参加者には十二時四十五分集合になりますので、お間違え無いようお願いします。

 なおその他のイベントにおきましては、開催イベント一覧にてご確認ください。

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 あるウマ娘ファンのウマートによるフォロワーとの会話TL

 

 ウマ娘に魂を焼かれた奴@umasuki・10:12

  目の前に突然ウマ娘が現れた件

 

 たのすけ@inosukeniarazu・6分前

 返信先@umasukiさん

  ん-?今競バ場いんだろ?当たり前では?

 

 ウマ娘に魂を焼かれた奴@umasuki・3分前

 返信先@inosukeniarazuさん

  そうなんだけどさ、何もない所から突然現れたんよ。

  こう、人ゴミの中から何の脈絡もなく出現したみたいな。

 

 たのすけ@inosukeniarazu・1分前

 返信先@umasukiさん

  疲れてるんでは?確か昨日は遅かったとか言ってたろ。はよ帰って寝ろ。

  もしくはオカルトか?他は知らんがウマ娘に関してはたまにあるっていうし。

 

 ウマ娘に魂を焼かれた奴@umasuki・現在

 返信先@inosukeniarazuさん

  嫌だね!今日はウマ娘ちゃんと一緒にコースでキャッハウフフするんだ!

  オカルトかあ。そういや中央トレセンに幽霊が見えたり、神様お告げが聞こえるってウマ娘がいるんだっけ?

 あ、待てよ?もしかしてあのウマ娘ちゃんとフラグ立った?やったぜ。

 

 たのすけ@inosukeniarazu・現在

 返信先@umasukiさん

  単純にきめぇよ。どうせ秒でぶっちぎられるし、フラグなんて存在自体ねえよ。

 

 ウマ娘に魂を焼かれた奴@umasuki・現在

 返信先@inosukeniarazuさん

  ……せめて夢くらい見させてくれよ!

 

 

 

 地方トレセン学園生誘導係のインカム

 

「ユーちゃんそっちどう? 人手足りてる? 送ろうか?」

『大丈夫! けどやっぱり併走参加者だけでも集まるとそこそこ多いねえ』

「そうねー。それにやっぱり大変だわ。誘導係も」

『今回のイベント、地方トレセン学園(こっち)が主導なんだっけ? ローカルシリーズ活性化の一環とかで』

「そ。午前はサブイベントと並行して平日競争やって、午後から併走イベントよ」

『ヒトならタッチリレー形式、ウマ娘なら人数減らしたリレーか普通に並走の選択式、だっけ』

「ええ。まあそれでも地方とはいえ現役のウマ娘に勝てるもんじゃないけどね」

『確か私達に勝ったら金一封だっけ? いいなあ私も欲しいなあ。今からでも出走登録しようかな』

「何バカなこと言ってるの。そんなだからこの間のテストも悪かったんでしょ」

『アイ、その話はしない方向で。このインカム、後輩やトレーナーとかも聞いてるんで……おっ?』

「うん? 何かトラブル?」

『あ、そうじゃなくて。すっごい美人のウマ娘が並んできてさ。いやホント今まで見たことないくらい』

「そんな事……。真面目に仕事しなさいよ」

『こうやって片手間に駄弁ってる時点で同罪同罪。でも本当に美人でさ。多分そっちからでも見えるよ? 白毛のショートカットの子』

「……あら、本当ね。遠目からでも分かるわ。って他の子もあんまりじろじろ見るんじゃないわよ! 失礼でしょ」

『えー、でも先輩だって見てるじゃないですかー』

『じろじろ見なきゃセーフって事よ。慎みを持ってこっそり見なさいって言ってるのよアイは』

「…………」

『先輩、顔が赤くなっててカワイイ』

「アンタ達、あとで覚えておきなさい」

『きゃー!』

『……おーいお前ら、その辺にしとけー。そろそろ併走イベントの入場始まるぞー』

「分かりましたトレーナー。それじゃみんな、トラブルのないように!」

『はーい!』

 

 

 とある家族のホームビデオより抜粋

 

 観覧席最前列からの撮影だろう、素人の撮影にしては迫力のあるレース映像が撮れている。

 レース体験ということで本番と同じゲートまで使用しているのがズーム画面に映る。

 撮影者の子供も参加しているらしく、それらしいウマ娘が走っている時は撮影者とその家族が大声で応援しているのが分かる。

「あなた、まだ撮ってるの?」

「ああ、せっかくだしあの子がこっちに来るまでは撮っておこうかと」

「そう? はぁ、妻としては若い子を追っかけてるのは感心しないんですけど?」

「うっ、そ、それはその……、決してそういう目で見てる訳では」

「あはは、お父さんよわーい!」

 撮影者の妻と走っていたウマ娘よりもさらに幼い男の子が画面に映るも、またすぐにその視界はコースに戻った。

 そして次のレースが始まった。

 前走と変わらずヒトとウマ娘の混合レースではあるが、これまでで一番ウマ娘比率が多いレースだ。

 ゲートから飛び出したのはいかにもなアスリート風の男性が二人。一般参加のウマ娘が四人、学園側のウマ娘が三人の九人。枠順もこれに倣っている。

 ヒトの二グループは途中までは健闘したが、中盤に入った辺りでウマ娘達に置いていかれた。

 対してウマ娘達はというと、流石地方とはいえトレセンの現役ウマ娘、一人が先行して二人が一般参加ウマ娘達の集団と混ざって走っているが、彼女達と比べて息が乱れていないし余裕も感じられる走りだった。

 しかしその光景は、中間付近を過ぎた辺りから様子が変わった。

 徐々に順位が変わり、学園生が三人とも先行するような形になった時に、今までウマ娘達の中で最後尾だった白毛のウマ娘が上がってきたのだ。

 それも地方どころか中央でも通用するかと思わせるような加速をもって。

 ビデオカメラのマイクが周囲のざわめきを拾う。

 それは一般客は元よりイベント主催側、係員をやっていたウマ娘やそのトレーナー達をも含むものだ。

 その白毛のウマ娘が一般参加者を全員抜いた辺りで、先行するウマ娘達も気づいた。

 白毛のウマ娘が迫ると同時に学園生たちも抜かされまいと加速する。

 しかしそれに意に介さないかのように、一人、二人と学園生を追い抜いていく白毛のウマ娘。

 勿論学園生は真面目に走っていて、必死な表情がそれを物語っている。

 そして最終直線。

 残り一人となった学園生と件のウマ娘との一騎打ち。

 ぐんぐんと追い上げてくる白毛。

 それから逃げ切ろうとレース前半の様子からは考えられない程の全力で走る学園生。

 だが無慈悲にも白毛のウマ娘は勢いを落とすことなく最後の学園生を抜き去っていった。

 そのままゴールイン。着差は二バ身。圧倒的な差しきり劇と言えた。

 劇的なレース内容とは裏腹に、レース場は驚愕と戸惑いで誰も言葉を発せられないでいた。

 それに気付いているのかどうか、白毛のウマ娘は徐々に速度を落とし、決められた出口へと歩いていった。

 

 

 景品受け渡し係の証言

 

「はい? 私に話を聞きたい? なんでまた。……中央の方でもファン感謝祭のときの参考にしたい? 光栄なことですけどなんで私に? ただの平凡な地方トレセンのウマ娘ですよ?」

「普通の生徒からの視点が欲しい? あー、いや全然! 全然大丈夫ですから頭を下げないでください! 良いんです。中央ウマ娘たちと比べたら。……そう言っていただけると助かります」

(省略)

「……そう、それでアイちゃんったらもう! え? あの時の話ですか? ああはい、全然構いませんよ」

「あのときは凄かったですね~、会場全体が静まり返りましたもん。まさに異様な雰囲気って奴です」

「実はレースそのものはあまり見てないんですよ。前走の参加者たちに参加賞を渡してて忙しかったので」

「それで途中からなにかスタッフや観客席の人達の様子がおかしいなって思って」

「コース横で景品渡してたんですけどね? コースを見たらラストスパートに入ったところですかね。残り二ハロンあったかな? あ、既に動画がネットに流れてる? 私もあとで探してみます」

「あ、で、あのウマ娘さんの話でしたっけ。走り終わってそのままの足でこちらに歩いてきたんですよ」

「息を切らした様子もなくて、汗もかいてる様子は殆どありませんでしたね。レース直後の様子とは思えませんでしたよ。服装も完全に普段着で、散歩にでも来た感じで。靴は流石に蹄鉄入りのレースでも走れる仕様のものっぽかったでしたけど。よく見てますねって? そりゃまあこんなでもトレセンの学生なんで足回りは気にしますよ」

「他にはどんな様子だったか? う~ん、そうですねえ。……浮世離れしたところがある、みたいな?」

「なんというか、超然としてるというか、なんかフワッとした感じ? 目の前にいるのに現実感がないというか。変ですよね、あんなスタイルも良くて綺麗で目立つのに」

「まあ見た目もなんですけど彼女、渡された賞金を不思議そうに眺めてたんですよ。まるで初めてお金を見たような感じで。日にかざしてたりもしてましたね。意外と天然さんかもしれないですね」

「それでまあこっちが、『仕舞ったほうが良いですよ』って言ったら、『ありがとう』って一言言って封筒に戻してからポケットに入れて普通に去っていきましたね。あれ多分周りの様子に気付いていなかったんじゃないかなあ」

「後で聞いたんですけど、上り三ハロンのタイムがG1レベルだったそうで。あのイベント、過去にも何度かやっていて、たまに現役ウマ娘に勝っちゃう人もいるそうなんですが、そういうウマ娘って大概別の所の現役か引退してなお強いウマ娘じゃないですか。でも彼女のこと誰も知らなくて、在野のウマ娘であの実力なら絶対スカウトすべきだってトレーナー達が騒いでましたよ。まあ気付いた時にはどこにもいなかったんですが。一体どこの誰なんでしょうね、彼女?」




禁書の一冊丸々特殊な書き方した時のを思い出してやってみた。やっぱ作者のかまちーはすげえよ。
次からは普通の小説形式になる予定。
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