ロン・ベルク外伝   作:ソニカ

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伝説の竜の騎士と、魔界の名工の運命が、星々の導きにより交差する。
テラン王国に代々伝わる竜信仰の言い伝えが意味するものとは…
今回第4話アップです。


【第4話】三連星に導かれし運命

 

 …ベンガーナ地方からみて北東に位置するテランは、美しい森と澄んだ湖を有する穏やかな平和主義の王国である。

 そこには古くから竜信仰があり、人々に語り継がれている伝説があった。

 

 正確には、テラン王家の書庫に収蔵されている古文書において以下のような記述が残されている。

 

【…オルファンの蒼き星、サイナスの紅き星、アーカサスの(みどり)の星とが1つに重なりしとき、神々は三つ星に秘めたる力を聖母竜の胎内に宿し、戦神の子として人間界に遣わさん…】

 

 「竜の戦闘力」、「魔族の魔力」、「人間の心」。

 この3つを融合させた究極の生命体————それが竜の騎士である。

 戦乱の時代が近づくと、天界の神々により遣わされた聖母竜が現れ、竜の騎士の証である「竜の紋章」をもった赤子を地上の人間に託す。

 そしてそれを授かった人間は、神の子として崇めて育て上げる————

 

「私は、この村の孤児院でその伝説を初めて聞いたとき、子供心にとても胸が高鳴ったのを覚えています」

 

 戦争孤児としてランカークス村の孤児院を兼ねた教会で育ち、12歳の時にテラン王国に神官見習いとして修行に出たシェーラは、1年ほどして神殿での生活にようやく慣れてきた頃、新月の日の明け方に森の中の泉を1人で訪れて(みそぎ)をしていた。

 そのとき、彼女の前に聖母竜が一筋の神聖な光とともに静かに舞い降り、神秘的な輝きに包まれた赤子をシェーラに授けたのである…

 

「バランという名は、私が名付けました。誕生の神ギネの子である、(ちから)を司る神・バランからとったものです」

 

 当時、なぜ自分のもとに聖母竜が突如現れ、竜の騎士を託したのかが分からなかったシェーラは戸惑い、世界の伝承に詳しいテラン国王・フォルケンに直々に報告をした。すると、国王は目を大きく開き、感慨に溢れた眼差しで彼女に伝えたのだ。

 

 古来より、【オルファン、サイナス、アーカサスの三つの星が1つに重なる日】は、神々の導きにより宇宙の万物が駒のように動き出すといわれ、シェーラが泉に訪れた新月の日はちょうどその暦にあたる。運命の星回りによって聖母竜に巡り逢わされたということは、すなわち天界の神々の采配によるものなのだと————

 

 一介の神官見習いに過ぎない自分が、竜の騎士の育ての親としての役割を与えられたことに深い畏怖の念を抱いたシェーラは、自らが信仰する神ギネに強く誓った。自分の持ちうる全ての能力を尽くして、この竜の騎士が成人するまで立派に育て上げることを…

 

「竜の騎士は、この世界の調和を乱すものを制裁するため、戦うことを使命としています。ですから、彼には現状に満足することなく、更に高みを目指してもらわねばならないのです」

 

 シェーラの話を聞きながら、ロンは朝食の際にバランの額から感じた並ならぬエネルギーの理由について深く納得がいった。それと同時に、魔界にいたときに少しだけ耳にしたことのある、竜の騎士についての伝承を思い起こした。

 一代限りで終わらず、世襲制のように未来に受け継がれていく特殊な魂の戦士。先代の戦闘経験値が次の新しい代へと継承されていくため、代が進むほど脅威的な存在となる。それは竜族をも圧倒する力であり、冥竜王ヴェルザーも警戒するほどであると————

 

 今朝の様子から察するに、普段はなりをひそめているが、おそらく竜の騎士としての本領が発揮されるときには、あの額に竜を形取った紋章が浮かび上がるとともに、戦神の化身としての力が爆発するに違いない。

 

 その恐るべき力が真に目覚めるときが近づいているのだと、シェーラは語る。

古来より、人間界において調和の崩れる兆候が見えてきたときに必ず竜の騎士が誕生しており、この法則性に今のところ例外はない。すなわち、竜の騎士の誕生は、その後に世界情勢が不安定になることを示唆している。

 バランが成人を迎える頃に、おそらく彼の竜の騎士としての真の能力が覚醒することになるが、それと同時に、この人間界の覇権を握ろうとする勢力が必ずその姿を地上に現わすだろう…。

 

 ロンは、彼女のその読みには納得できる部分があった。

 自分が大魔王バーンの勧誘を断ったのが数十年前のことで、その後魔軍司令の座をバーンが誰にあてがったかは知らないが、おそらく魔王軍の編成が整う時期はそれほど遠い未来ではない。

 あるいは、竜族の中で最も野心の強い冥竜王が先に地上に出てくる可能性もある。

 であれば、その魔王や竜族に対しての牽制役があの少年バランになる可能性が高いということだ。

 

 自分は魔界出身の魔族ではあるが、だからといって魔王軍に荷担する気もなければ、人間界に味方するつもりもない。更に言えば世界の覇権を誰が握ろうと、自分の知ったことではない。

 ただ自分は、神をも超える強さというものを手にしたいだけなのだ————「あの日」に受けた呪いを乗り越えるために…………

 

 

「あなたのその剣…そしてあなたの全身から漂う魔力を見れば、あなたが並ならぬ実力をもつ剣士であることは容易に想像がつきます。その見事な剣さばきも、たった今この目で拝見させて頂きましたし」

 

 シェーラは今しがたロンから剣を突き付けられたことを軽く皮肉るように微笑んだ。

 

「バランが成人を迎えるまでの間だけで構いません。私たち人間よりも10倍寿命の長い魔族のあなたからしたら、人生の息抜き程度の時間に等しいでしょう。ロン、引き受けて下さいますか?」

 

 ロンは壁にもたれて腕組みをしたまま、沈黙している。

 

 

 

 すると、小屋の扉が開き、村の商店で購入した大麦の麻袋を抱きかかえたバランが帰ってきた。

 ずっしりと重量感を増した袋を床に置くや、バランは二人に話し始めた。

 

「…なんだか村中が大騒ぎになっている。昨日ベンガーナ国境付近で捕らえられた魔族が魔法を使って牢屋から脱獄し、武器を奪い返したまま逃走中だから、領民の安全のためにこの村にも厳戒態勢を敷くって…」

 

 城付近はもとより、ベンガーナ国内の町や村も対象で、このランカークス村の入口にも24時間体勢で番兵が配置されることになったらしい。

 

 国から村へと通告された内容としては、

 

一、もし魔族を発見した場合には速やかに村長に報告すること

二、自衛の目的に限り、全ての領民に短剣の所持を一時的に許可する

三、もし逃走中の魔族を生け捕りにすることができた場合には、国はその者に対し報酬金として500万ゴールドを支払う

 

…などであるという。

 

「まあ、それは一大事」

 

 まるでそうなることを事前に予想していたかのように、至極落ち着き払った様子でシェーラは感想を述べた。

 バランは言葉を続ける。

 

「シェーラと何の話をしてたかは知らないが…ロン、今この森を出ることはしない方がいいと俺は思う」

 

 懸賞金付きの犯罪者や魔物(モンスター)を狩る「自称勇者」の賞金稼ぎや、雇用主を失った傭兵稼業の戦士などにも、ベンガーナ城下町の冒険者ギルドを通じてこの事が知れ渡ってしまうことは明確だった。

 特にベンガーナ王国の懸賞金は大陸全体でも飛び抜けて高額なことで有名であるため、この一帯のみならず、世界中から賞金稼ぎが魔族狩りに集まる可能性もある。

 

 そんなことをバランの口から伝えられたロンは舌打ちした。自分の知らないところで、いつの間にか賞金首にされてしまうなど、何とも胸糞の悪くなる話だ。

 

 かつて魔界最強の剣士とうたわれたこともある自分であるから、人間程度に負ける気はしないし、追っ手をことごとく斬り捨てて逃亡の旅を続けることは可能だろう。だが、そんな後味の悪い生き方は自分の望むところではなかった。

 

「…わかった。その剣術の師とやら、引き受けよう」

 

 ロンの言葉に、シェーラは目を大きく見開いた。

 

「ロン、本当ですか?!」

 

「ああ。…ただし、条件がある」

 

 そのロンの言葉を聞き終わるか終わらないかのうちに、シェーラはバランの方を向いて言った。

 

「バラン、剣術の修行が再開できますよ。今日からこの方が、あなたの新しい先生です」

 

 少年バランは晴天の霹靂といった様子で完全に言葉を失い、シェーラとロンの両者を交互に見やった。

 ロンは、不機嫌そうにシェーラを睨んだ。

 

「条件があると言ったろう。人の話は最後まで聞け」

 

「条件など、何でも聞きます。どうぞ全ての希望を仰ってください」

 

 あまりにも調子が良すぎるそのシェーラの言葉に、ロンは内心で呆れて絶句した。

 

「…やけに嬉しそうだな」

 

「もちろんです。バランの剣術の先生を見つけることは私の長年の課題でしたし、それ以外にも、あなたが単なる居候としてでなく、ここに居住する立派な理由ができたのですから…そう、すべてはギネの御言葉どおりということです」

 

 “…万物には神の意図が宿り、全ての存在は独自の役割と使命を持っている…”

 

 昨夜牢屋の中にいたときにシェーラが話していた言葉がロンの記憶に蘇る。

 

 自分の役割と使命。それがこの少年に剣の稽古をつけることだとでもいうのか————まるで奇妙な白昼夢を見ているかのようだ。

 しかし、仮にこの人間界での夢から覚めたとしても、魔界に戻る現実の方がよほど悪い夢かも知れなかった…。

 

 バランの剣術の師となることを承諾する代わりに出した「条件」についてロンが改めて伝えると、シェーラは二つ返事で快諾した。

 そして、ここで生活するのに必要なものを少し揃えないといけませんね、と言い残してシェーラはベンガーナ城下町へ再び魔法で飛んでいった。

 

 一方バランは、自分を取り巻く状況の急転直下にしばし呆然とした様子だったが、物置から鋸と鎚、釘などの大工道具一式を持ってくると、そのまま無言で屋外に出ていった。

 

 再び小屋の中に一人残されたロンは、椅子に腰かけて天井を仰ぎ、ひとつ短いため息をついた。

 

 どうせ時間をもて余しがちな永い人生だ、ほんの少しばかり人間どもに付き合ってやるとするか————

 

 陽射しを受けた窓の外の雪が、その形をゆるめて透き通った光の雫となり、地にしたたり落ちていく。それはまるで、束の間の太陽が、頑なな魔族の心をも溶かしたことを比喩するかのようにも映った………

 

 そして澄み渡った空には、太陽によってその存在感が大いに損なわれているが——伝説の星々——オルファン、サイナス、アーカサスが、一列に連なって地上に微かな光を届けていた。

 

 この3つの天体は、それぞれ竜族・魔族・人間の命運を象徴する星とされ、それらが「ひとつに重なるとき」は竜の騎士の誕生を意味し、「一直線上に並ぶとき」は、また別の意味を象徴するとされる。

 

 この日に決定された事柄は、世界に激動の変化を巻き起こす、というものだ——————

 

 シェーラとロンの間で交わされたこの日の「契約」。宇宙のはるかな視点からみれば、地上の微細な蠢動にすぎなかったそれが、結果として当事者三人の人生はもとより———その後の世界全体の運命も大きく揺さぶる未来に発展しようとは、このとき誰一人として予想していなかったのである…………

 

 

 

 

 

 

 

(続)

 

 






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