今回オリジナル要素多めです。
商業大国ベンガーナ。
それは、この地上で最も物質的な豊かさに溢れた国家である。
あらゆる産業が発達し、この国で手に入らないものは何もないと称されるほどで、各種基幹産業はもちろん、世界の手工業製品などを卸す小売業や、宿泊業、飲食業なども盛んなことで知られている。
中でもベンガーナが誇るのは、その資金力を駆使した世界初の大砲設備と戦車部隊だ。これによって「世界一安全な国」の誉れを欲しいままにし、近年は全国各地、特に隣国テランからの移民が増え続け、現時点で人口数は世界最多となっている。
豊富な物資と経済が活発な場所に人が集まるのは古来からの法則である。海岸に面した立地の良さも手伝って、商人のみならず、陸路や船で旅を続ける冒険者たちにとって食料補給もできる宿場町であると同時に、情報交換の場としても重宝される国だった。
そのベンガーナ王国の城門をくぐったところにある城下町は、これまた世界初となる百貨店を有し、大陸一の商いの都とされている。
この年は100年に一度の厳冬期によって客足が激減し、営業時間を短縮したり、休業する店舗も多くなっていたが、この日は久々の晴天ということもあって人通りはそれなりに復活し、通りのあちこちで客寄せの呼び声が上がるほどの賑わいとなっていた。
シェーラがこの日何度目かの瞬間移動魔法【ルーラ】を使いベンガーナ城下町に降り立つと、人々が町の中央広場に掲げられた国王からの御布令の立て札に釘付けとなっていた。
そこには、バランが言っていた内容は勿論、賞金首の容姿の特徴についても詳しく書かれていた。身の丈は成人男性より高く、長い黒髪と尖った長い耳、肌は青く、顔に大きな十文字の傷があることなど————
「何てことだ、ここ何年も魔族の姿なんて見ていなかったのに」
「しかも武器を持った状態で逃走中だとよ」
「怖いわ…魔族って恐ろしい魔法も自在に使えるんでしょう?」
このベンガーナでは、世界のなかでもとりわけ魔族に対する印象が良くない。
魔界から人間界に対して侵略行為がなされるとき、大抵真っ先に標的となるのが大陸の中心部にあり最も栄えたベンガーナ国であるという歴史的背景もあるのだが————それ以外においても、ベンガーナ王宮内において不祥事があった場合に、領民から王族に向けられた不満や怒りの矛先を逸らすための「仮想敵」もしくは「冤罪を着せられる相手」が必要で、それに魔族はうってつけの存在だった。「魔族は人を喰らう」「魔族は人間から根刮ぎ略奪する目的で魔界からやってきている」などという悪意の偏見に満ちた噂を、工作員を使って巷に流布することもあるのだ————
自分が昨夜ロンを救出させなかったら、今ごろ彼は間違いなく、この広場の大衆の前で拷問された末に死刑となっていたに違いない…とシェーラは背筋に冷たいものが走るのを感じた。
立て札の前で不安に取り憑かれざわめく町人たちの様子を横目にしつつ、シェーラは商店が立ち並ぶ大通りの一角にある衣類店に入った。
布織物が高品質であることで有名なパプニカ地方の旅商人が数年前にやって来て、この店に防寒用衣類を卸していたのを思いだしたのだ。店主に聞くと、当時の在庫が何とか残っていたとのことで、広げて見せてくれた。
それは、衣類の下に着込む長袖の黒い肌着であった。
これさえあれば、地上の寒さにまだ耐性がない魔族のロンも多少は快適に過ごせるに違いない。少し値段が張ったが、シェーラの手持ちの金銭で何とか支払うことができた。
店の主人と少しばかり世間話——という名の情報収集——をした後に店の外に出ると、広場の日時計が正午に近い位置を示していた。
買ったばかりの衣類をその日のうちに森小屋まで届けに行きたいところだが、今日は諦めた方が良いかもしれない、とシェーラは思った。神殿での執務がまだ少し残っていたし、脱獄事件から一夜明けた宮廷の様子も今一度確認しておかなければならなかったからだ。
広大すぎる敷地の中央に位置するベンガーナ王宮は、王族が過去6世代にわたり資産を蓄積し続けてきたその栄華を象徴するように、随所に彫刻や貴金属の調度品が飾られている。そのため、初めて訪れる者は大抵、その贅を極めた煌びやかさに圧倒される。
それは他国からの外交使節団に対する国力の演出として多少見栄を含んでいる部分もあろうが、しかしそれは間違いなく王家の財力を持ってこそ可能なことなのである。
昨夜シェーラは、ロンの旅の荷物の行方を追うためにこの城内に入ったが、可能性のある場所に限定してこの城内部を探索魔法で透視したにもかかわらず、それでも明け方まで時間を要した。この宮廷に仕え始めて10年近くが経つが、いまだにこの広すぎる城には馴染めないと彼女は思うのだった。
門の両脇で自分に敬礼をする門番兵に軽く会釈をしたシェーラが、王宮の建物内部へと入っていくと、文官や召使たちが書類の束や筆記具を抱えて慌ただしく室内外を出入りしていた。やはり、昨夜の影響で何か大きな動きがあったように見える。
シェーラが2階へ続く中央階段を昇っていくと、信仰神が異なる同職の宮廷神官ホブスがすれ違いざまに彼女に声を掛けた。彼が崇めるのは、商いと豊穣を司る神・イシュである。
イシュはこのベンガーナにおいて最も信仰者の多い神で、国教でもあるため、王族関係者も全員洗礼を受けている。そのためホブスは普段は「最も王に近い存在」「影の指導者」と噂されるほどに、政治の実権をほぼ握っているに等しいが————昨夜城内で起きた事件に対して、動揺を隠せない様子である。
冷や汗を拭いながら、ホブスはギネの若い神官に言った。
「おお、シェーラ殿…これから間もなく緊急宮廷会議が開かれることになったそうだ。そなたも出席されよ」
「…わかりました」
「ところで、そなたが城外に張った魔法陣は、効果はいつまで持続するのだ?」
「あれは破邪魔法【マホカトール】の陣形を私が独自に改良したものになりますが、まだ実験段階ですので…そうですね、この冬を越すまではもつかと」
シェーラが答えると、ホブスは「そうか」と安心したような顔になり、
「このベンガーナで上級の破邪魔法が使えるのはシェーラ殿、そなたしかおらぬ。多忙になられると思うが、頼りにしておるぞ」
そう言い残して、不安そうな足取りで去っていった。
シェーラはホブスの後ろ姿を見送りながら、この国の危うさを思った。治世において商いの神は大きな栄華をもたらすが、乱世においては驚くほどその存在感を薄くするものだ。
昨夜の事件で、王宮全体が大きく揺れている。もちろんその種を撒いた張本人は自分なのだが、このことによって少しは
定刻が近づくにつれ、宮廷の大広間に閣僚や文官、特殊専門職などの人材が数十名集まり、中央の巨大な会議テーブルに各々着席していく。
ほぼ全員が揃い、しばらく経つと、広間中央の入口の扉から国王が側近数名をともなって姿を現した。
ベンガーナ王国は、今現在、クルテマッカⅥ世によって統治されている。
今年70歳を迎える国王は、年齢と体力への不安から子息への王位継承を検討中と噂されているが、まだ指導者としての威厳を十分に備えてはいる。側近に導かれながら緩慢な足取りで玉座に向かう。
国王の着席によって、厳粛な空気の中、緊急宮廷会議は始まりを告げた。この日の議題の内容は言うまでもなくただひとつであることは、その大広間の場に居合わせる全ての者が理解していた。
「…城外の領地境界線付近にて捕獲した魔族が、昨夜のうちに脱獄した件については、みな既に知っていることと思うが————」
国としての大きな失態を国王の口から改めて示されたことで、大広間の空気が張り詰める。
「今朝方、余の権限により緊急令を城下町と村々に取り急ぎ出してはおいたが…今回みなの者に提言したいのは、国全体における正式な戒厳令執行の是非についてである」
この国において戒厳令自体は、疫病の流行や敵国侵攻の折りに過去幾度か施行されており、その都度、潤沢な資金力と軍事兵力によって被害を最小限に抑えることを可能にしてきた。
だが、今回は少しばかり事情が違った。というのも、近頃、
国王に指名された文官が、その被害の統計数値を読み上げる。
各国からの報告によれば、今日までの世界各地での被害件数はオーザム11件、リンガイア23件、アルキード31件、テラン19件、パプニカ36件、ベンガーナ31件、カール42件、ロモス65件にのぼるという。
野生
「…この人間界においては、百年に一度は、魔界から何らかの形で侵攻を受けてきた歴史がある。昨日捕獲した魔族の件は無論のこと…こうした世界における一連の被害報告も、それにまつわるものかも知れん。つまり…百年に一度の魔王軍襲来という可能性もありうるということだ」
その言葉に、将軍や文官たちはどよめき、そして戦慄した。
魔王軍襲来————
それは戦を知らぬ若い世代においても、不安と動揺をかきたてるには十分すぎる言葉であった。
「今現在、我が国の防衛設備についてはどうなっておる。有事の際には大砲での迎撃も可能であろうな、軍務大臣?」
王からそう問われた軍務大臣は、若干口ごもりながら現状報告をした。
「…今は雪の湿気で砲弾の火薬が着火せず、使えない状態でおります」
大臣のその言葉によって、鉛のような重い沈黙が大広間全体の空気を覆い包んだ。
ベンガーナに住む者にとって、世界初の大砲と戦車は、この国の財力と権威を象徴するものだ。王宮関係者はもとより、多くの領民たちにとっての誇りでもあった。それが機能しない、ということはこの国の威厳の失墜を意味する。
誰一人、軍務大臣の言葉に対し反応できず、ただ虚無の時間がいたずらに過ぎていった。窓の外の晴れやかな空模様に反比例するように、希望の灯火が次第に閣僚達の心から消え去り、灰色に沈んでいく。
「…軍務大臣、お言葉ではありますが…数年前に騎士団を7割以上も解散して戦車と大砲の部隊を新設したのは時期尚早だったのではありませんか?」
長く続く沈黙のカーテンを切り開くように発言したのは、会議テーブルの最も目立たない隅の位置に着席していた宮廷神官シェーラだった。
「天文士の分析によれば、おそらくまだあと半年以上はこの雪による湿度が続くとのことです。今からでも騎士団の人員を増やし、白兵戦力を整えれば敵急襲の対処には十分有効と思われます。どうか、ご再考を」
その言葉に軍務大臣が激昂し、掌をテーブルに叩きつけた。
「黙れ!今さらそのような事はできん。莫大な予算をかけて編成した大砲戦車部隊を今になって変えられると思っているのか!」
シェーラは、大臣の口調に心の中で小さくため息をついた。この人物は、目先の利益にとらわれ物事の大局が見えていない————
数年前に、共に宮仕えをしていた幼馴染みが、この大臣に殴りかかり宮廷を追い出される事態になったが、今になってみれば、その幼馴染みの気持ちも理解できるような気もした。
頭に血を上らせた軍務大臣は席から立ち上がり、シェーラを指差すと、更に声を荒げた。
「だからこそ、上級破邪魔法を操ることのできるおぬしの協力をあおいでおるのではないか!国教でもないギネを信仰する神官など、本来宮廷には入れぬ立場なのだぞ!」
シェーラはその言葉には反応せず、冷静な様子で大臣の怒りが通りすぎるのを待った。
しばらく玉座で沈黙していた国王は、大臣の怒りをなだめ、再び重い口調で発言した。
「…その件はともかくとして、やはり本日のうちに国中に正式な戒厳令を出さねばなるまいな。対象は、ベンガーナ領土全域。すなわちこの城と城下町、8つの街と6つの村とする。それから、世界各地の冒険者ギルド支部にも懸賞金の告知を出せ。…みなの者、国の威厳にかけて魔族の捕獲に努めよ。そしてその魔族から何としても魔界の情報を引き出せ————以上だ」
国王の離席をもって、緊急宮廷会議は終了した。
会議終了後、大広間を出た廊下の通路で、シェーラは宮廷魔術師のイザムから声を掛けられた。
イザムは、魔法の専門家として宮廷に仕える魔術師だが、僧侶魔法の心得がなく、それを補うために、僧侶魔法——特に破邪系に対する高い見識をもつ神官として城内外で名前の知れたシェーラを国王に推薦し、宮廷役職に迎え入れた。よって、シェーラの表面的な肩書きは「宮廷神官」ではあるが、実質上はイザムに力添えをする宮廷魔術師のような立ち位置で責務に当たっている。
「災難だったなシェーラ。今日は軍務大臣の腹の虫の居どころが悪かったらしい。何せ捕獲した魔族に脱獄されたことで、軍の面目丸潰れだしな」
大広間から焦りと苛立ちのヴェールを身に纏ったまま足早に去っていく軍務大臣の後ろ姿を見やりながら、イザムは皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「幼馴染みの鍛冶職人を助けてやりたい気持ちは分かるが…今は大人しく従った方がいい」
「分かっています」
本当は、寒さに弱い魔族の率いる魔王軍がこの人間界の厳冬期に侵攻してくる可能性は極めて低いことをシェーラは知っていた。会議の場でそれを口にしても良かったのだが———しかし、経済至上主義に傾倒しがちな国政を支え続ける宮廷に対し、誰かが苦言を呈しなければいけないという気持ちの方が、それを上回ったのだった。
「お前さんも、それだけの魔法力があるなら神官を辞めて魔術師に転職した方がよっぽど発言力も増すし、良い待遇を受けられるというのに…勿体ない話だ。まあ、そのおかげで私程度の中級魔法使いでもこうして王宮に登用されて、妻や子供を養っていけてる訳だがな」
「あなたのお役に立てているのなら何よりですよ」
シェーラは穏やかに微笑んだ。
確かに、イザムの言うとおりかも知れなかった。宮廷魔術師の方がより重用され、地位と収入が高くなれば、城から追放されて村に引きこもってしまった幼馴染みを再び宮廷に呼び戻すよう工面することも、養子のバランにもっと良い環境を与えてあげることも可能に違いない。しかし————
「いま、私は聖職者としての立場を優先したいのです。誕生の神ギネの教えとその光は、きっとこれからの世界にとって必要なものとなるに違いありませんから…」
シェーラは窓の外に視線を向けた。
これは予想以上の大きな波紋を巻き起こす事態になりそうだ。
しかし、不思議とそこに不安や後悔といったものはなく、バランに新しく剣術の師ができたことの喜びの方が、はるかに大きかった。
たとえ一時的に人間界が多少の混乱に陥ったとしても、聖母竜から託された責務を全うし、竜の騎士が力を育むことは、後々に世界にとっては大きな貢献となりうる————今はそう心から信じることが、何より大切なように感じられた。
王宮通路の小窓から望めるのは、東の山岳地帯であり————そこには自分の故郷・ランカークス村があった。
先ほどのイザムとの会話で、数年前に宮廷を追い出された幼馴染みのことがふと脳裏に浮かんだ。今あの小さな村で武器屋を営んでいる彼は、もしかしたら今回の戒厳令によって、少しばかり恩恵を得ることになるかも知れない………
「魔族脱走事件」がこのベンガーナに与えた衝撃が、意外なところにも影響を及ぼしたことに、彼女は心の中で静かに笑みを浮かべるのだった。
ベンガーナ城から東に位置するランカークス村の通りの一角にある、一軒の小さな武器屋。
今まで、この村の武器屋を地元の住民たちが利用することなどほとんどなかったのだが、この日は「魔族逃亡中」の報を知った村人たちが、自衛のための短剣を我先に購入せんと次々と店を訪れ、50本程の在庫が夕方には完売する有り様であった。
店の主人である男・ジャンクは、この村で商売を始めて以来の売上高に少し上機嫌になりながら、金貨を太い指で数えて羽筆で帳簿に記していく作業を続けていた。いつの間にか日が落ち、外が闇に包まれているのに気付くと、彼は慌てて店の外に掲げていた看板を下ろし、入口の扉に施錠して店じまいをした。
ジャンクが店舗を兼ねた住まいの2階に上がると、そのうちの一室の扉の隙間から明かりが漏れていた。彼は小さな鍵穴からそっと部屋の中を覗き込んだ。
ここ一週間ほど、妻がこの部屋を占拠していることは知っていた。なるべく彼女の邪魔にならないようにしていたのだが、日々の睡眠時間を削ってまで作業に没頭している妻の身を案じ、思わず扉越しに声をかけた。
「スティーヌ、もう夜だ。今日はその辺にしておけ」
はい、まもなく。
そう返事はかえってきたものの、一向に道具を片付ける気配がないため、ジャンクは扉を開けて中へ入った。
彼の妻・スティーヌは、部屋の奥の壁に立て掛けられた木枠に張られた帆布に向き合って作業していたが、夫が部屋に入ってきたことに気づくと、絵筆を止めて振り返った。
「あともうちょっとだけ…今つくったこの色を塗り終えたら夕食の準備をしますから」
その妻の顔の右頬に絵の具が付いているのに気づくと、ジャンクはそれを指でそっと拭ってやった。
かつて宮廷画家であったスティーヌは、夫の幼馴染みである宮廷神官から依頼を受けて、村の外れにある神殿に飾るための神の絵を描いていた。
全てのものの創造主といわれる誕生の神ギネ————天界から射し込む光とともに地上に舞い降りる、天使と精霊たちに囲まれたその女神の姿は、柔らかい色彩と繊細な陰影を含んで描かれていた。それは神聖さという語彙の範疇にとどまらない、観る者の心を静かに震わせるような絵画であった。
今回も良い絵だな。
ジャンクはしみじみと述べたが、そう言いながらも実際ジャンクは絵の良し悪しについてはよくわからない。
芸術性を理解できなくとも、彼は妻の絵が評価されないはずがないと確信していた。彼女の描くものは何でも素晴らしいに決まっている。画家本人が素晴らしいのだから…
あれは5、6年前のことになるだろうか。宮廷鍛冶職人であった自分が、新しい宝刀の試作品を献上しに国王の部屋へ入ったところ、ちょうど宮廷画家スティーヌがクルテマッカⅥ世の肖像画を描いている最中だった。窓からの逆光を受けながら絵筆をとる彼女の横顔に、自分は一目惚れしたのだ————
「でも、今回の絵については…謝礼は頂かないことにします。シェーラさんには、これまでもいろいろと助けられていますから」
そうだな、とジャンクは深く頷いた。
田舎の村の小さな武器屋ではあるが、今回の戒厳令で村民に一時的な武器の所有が認められた。これにより、当面の間は短剣やナイフの売上が伸びるだろうから、生活に困ることはあるまい。
「…それにしても、今日は一日村じゅうが大騒ぎだったわ。何でも、魔族が城から脱獄して逃亡中だから、外出を控えようとか、子どもを外で遊ばせないようにとか、騒動が落ち着くまで店を閉めようとかって言ってる人もいるし…これから一体どうなるのかしら…」
ジャンクは、その太い腕で妻の小さな肩を抱いて言った。
「心配するな。魔族だろうと何だろうと、見つけたら俺がウチの武器で八つ裂きにしてやる。俺は見てのとおり、腕っぷしには自信があるからよ」
二度とお前を路頭に迷わすことはしないさ。
そう言うとジャンクはスティーヌの頭をくしゃっと愛おしむように撫で回して、妻の作業部屋を去った。
結婚して数年経ち、そろそろ子供が欲しいと感じていたが、戒厳令が施行されたとなっては、もう少し村の状況が落ち着いてからの話になるかもしれない、とジャンクは思った。
この武器屋の無骨な主人が、あることをきっかけにしてその「指名手配中の魔族」と酒を呑み交わす友になるまでには、ここから実に20年近くの時間を必要としたのである————
(続)
★備考【各国の宗教】
公式にはありませんが、僧侶や神官にもいろんなタイプがいて地域ごとに宗教が違うかもしれないと思い、下記の通りオリジナルの国教を設定しました。
オーザム=大地の神ラムルーン
リンガイア=勇気の神マヌス
パプニカ=知恵の神デリト
テラン=誕生の神ギネ(*テランの竜信仰は言い伝えであり、宗教とは異なる)
ベンガーナ=商いと豊穣の神イシュ
アルキード=太陽の神ゾーナ
カール=戦いの神アルゴル
ロモス=力の神バラン