フェノメノン   作:xtakashi

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すみません、諸事情で投稿が遅くなりました。


第12話 始動

 

 

 

 散発的に発生する爆発、倒壊した建物、逃げ惑う人々の波を、どうにか潜り抜け、セレナは目的の場所まで、あと少しのところまでやってきた。

 

 頼む、自分の気のせいであってくれ。自分の思い過ごしであってくれ。

 セレナは祈るような気持ちで走る。

 

 そうして、セレナは、自分が生まれ育った生家に、ようやくたどり着いた。

 

 2階建てでレンガ作りだった家は、今や見るも無残な姿をさらしていた。

 流れ弾の直撃を受けたせいか、家の半分が崩れ落ち、正面から見て右半分が、荒く削り取られたような有様である。

 セレナが大好きだった庭は、いまや大量の瓦礫や残骸によって覆われ、以前の美しい姿は、もはや見る影もない。

 

 その有様にショックを受けつつも、セレナは、目的の部屋へと入っていく。

 もはや、玄関から鍵を開けて入る必要もない。

 

 彼女の、生前の父と母が使っていた寝室へと入っていく。

 

 彼女の命よりも大切な、弟たちの名前を声に出しながら。

 

 

 

 

「………………ウゥ」

 そこで、セレナは、確かに、ほんの小さな声であったが、うめき声のようなものを聞いた。

 聞き逃すまいと、よく耳を澄ませると、今度は先ほどよりもはっきり聞こえる。

 

 大急ぎで声の主を探す。あたりには大きな瓦礫が散乱しているが、声はその瓦礫のいずれか下から聞こえるような気がする。

 まさか、まさかと、体温が一気に下がるような気持ちに襲われながら、セレナは瓦礫をどかそうと懸命に手を動かした。

 手のひらを切って、血が滲んでこようが、一向にかまうことなく、彼女は手を動かす。

 

 

 と、そこへようやくクリスが追いついた。

 ただ事でない様子で、瓦礫を撤去する彼女を見た彼も、すぐさまその手伝いに入る。

 

 ようやく、うめき声の主の前に鎮座していた、大きな瓦礫をどかせることに成功し、ひとまず上半身を確認することができた。

 

 

 

 

「…………エリック!!!!!」

 そこには、頭から大量の血を流し、体の一部を無残にも瓦礫に圧迫された、セレナの愛する弟の姿があった。

 

 

 

 

 

「エリック!! エリック!!!」

「………………あぁ……姉貴か……元気そうじゃん? …………やっぱり……あんたは、殺したって……死なない、タイプだよな……」

 エリックの頭部からの出血はひどく、顔色も明らかに悪い。

 彼のちょうど左腕肘先から、右の腿あたりまでを、大きな木材が圧迫している。圧迫している部分の肌の色は、ひどく変色していた。

 

 そして、彼の右手には、生前の両親と、子供たちが仲良く並んで描かれた肖像画が、しっかりと握られていた。

 肖像画は、粉塵やほこりで少々汚れていたが、傷は一つもついていなかった。

 

(このままではまずい……!!)

 クリスは、彼の様子から、一刻の猶予もないことを察した。

 

 すぐさま、クリスは大声で周囲の人間に助けを求める。幸運にも、誘導係である兵士や、まだ非難が完了していない市民が何人かいた。彼らとも協力して、エリックの体に覆いかぶさる瓦礫を、一斉にどかす。

 

 時間にして30分ほどか。ようやく、エリックを瓦礫から救い出すことに成功する。

 

 しかし、彼の状態はひどい有様であった。

 特に、長時間押しつぶされたであろう左腕は、皮膚が変色した部分から、骨まで飛び出しており、おそらくもう、再起不能であることが予想された。

 

 しかもそれどころか、彼の命の灯さえも、このままでは消えてしまう恐れがあった。

 トリアージでいえば、間違いなく赤色(最優先治療)、場合によっては黒(死亡)とされる状態である。

 

 

 すぐさま、臨時の救急病院へと、エリックは運び込まれた。

 

 しかし、そこにはすでに、大小さまざまなケガを負った人間であふれていた。

 医者、看護師、回復の魔法を使える術者は、すでに既存のけが人で手いっぱいの状態で、エリックの順番はいつ回ってくるか、わからない状態である。

 

「お願いエリック! 頑張って! もうすぐ術師様が来てくれるから、それまで頑張って!!」

 

 エリックの右手をつかみながら、先ほどからセレナは必死の思いで何度も声をかけている。

 現在、エリックには簡単な止血処理のみが施されており、意識もすでになかった。

 そして、顔色はどんどん悪くなる一方であった。

 

 そんな状況を、クリスはただ、こぶしを握り締めながら、黙ってそばに立っていた。

 

 

 病室内は、まさに地獄のような有様であった。

 いたるところで、けが人のうめき声、子供の鳴く声、そして患者に寄り添う人々のすすり泣く声であふれていた。

 無残にも息を引き取った人のそばで、泣き崩れる老婆がいた。

 

 妹らしき子供の手を引き、涙をこらえながら、死んだ両親の亡骸の前で立ちすくむ男の子がいた。

 

 包帯だらけの状態で、ただひたすらうめき声をあげる男がいた。

 

 部屋の隅で手を組み、必死に神に祈る中年の女性がいた。

 

 患者たちの間を、彼らを救うために医者、看護師、回復術師が必死になって駆け回っていた。

 

 

 

 自分は一体何をしているのだ? こんな時に何をしているのか? 本当にこのままでいいのか? 

 

 様々な思いが、クリスの頭に浮かんでは消える。

 

 目の前で苦しむ人々に、自分は何ができるのか? 何をするべきなのか? 

 クリスは、ひたすら自問自答を繰り返していた。

 

 

 

「……クリスさんは逃げてください」

 

「セレナさん……」

 そんな葛藤渦巻くクリスに対し、セレナは、顔をクリスの方に見せることなく、話しかける。

 

「クリスさんは何も悪くありません。この国の問題は、この国が解決すべきことです。クリスさんは関係のないことですから、何も心を痛める必要はありません。この病院も、いつ攻撃に巻き込まれるかわかりません。早く安全なシェルターに逃げてください。私はこのままエリックのそばにいます。私のことはかまわず、早くいってください」

「…………」

 

 いつものお茶らけた様子を一切のぞかせず、淡々と話すセレナ。

 よく見ると、彼女の背中はわずかにふるえているようだ。

 

 

 

 

 

 

 そんなセレナに対し、

 

 

 

 

 

 

 クリスは、

 

 

 

 

 

 

 淡々とであるが、

 

 

 

 

 

 意を決したように口を開く。

 

 

 

 

 

 

「国同士の争いに、どっちが正義、どっちが悪など、基本的にありはしない。そんなものは立場の違いでしかない。俺は前の世界で、そのことをいやというほど思い知った」

 

 

 

 

 

 

 

「……しかし、今ここで奴らを倒さなければ、この目の前の惨状は終わることはない。少なくとも、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 クリスの瞳は、いつもの無気力なものではなく、わずかに光がともっているように見えた。

 

「どうやら、俺は、思っていたよりもだいぶ()()()()()()()らしい」

 

 その言葉に疑問を覚えたセレナは、思わず後ろを振り向く。

 そんなセレナに対し、クリスは問いかけた。

 

 

 

 

()()()……ここから、兵舎までどのくらいだ?」

 

 

 

 




長らくお待たせしました!皆様!!

ついに主人公くんがやる気を出してくれました。

ようやくここから、主人公の活躍が始まります。

次回をお楽しみください!
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