「……見事なり!! サラ・カーティス、赤き鷹よ!!」
ついにサラは、ロレント将軍のすぐ目の前に、その姿をさらした。
サラは、前方へ進む勢いそのまま、自身の大剣を勢いよく、エメラルド・ケイオスに振りかざす。
その瞬間、ロレントは脇から戦斧を取り出し、剣戟に応じた。
サラの大剣と、ロレントの戦斧が衝突し、ギイイィィィン! と鈍く、甲高い音が周囲に鳴り響く。
その瞬間、両軍の兵士たちは思わず動きを止め、大きな衝撃の発生源を見た。
「くっ……さすがに一撃では仕留められんか……!」
今の一撃の衝撃から、サラは、眼前の敵の力量を感じ取り、思わず顔をゆがめる。
ウラテア帝国の将軍、ロレント。そしてその乗機、エメラルド・ケイオス。
サラは、情報として彼のことは知っていたが、実際に対峙したのは、これが初めてであった。
明らかに、先ほど対峙した敵オリジナルフレームと比較し、格上の存在。
サラが、いったん距離を置こうと、後方に移動しようとした次の瞬間、すでに、ロレントはサラとの間合いを急激に詰めていた。
「なんだと……!?」
「逃がさんぞ、鷹ああぁ!! 受けてみよ!!」
ロレントの、戦斧による、怒涛の連撃が、クリムゾン・プライドに襲い掛かる!
周りの敵、味方それぞれが、たとえモニター越しであっても、その一撃、一撃が、猛烈な気迫を伴っていることを、びりびりと感じていた。
サラは、迫りくる襲撃の嵐を、己の力、技術を駆使し、何とか捌く。
あるものは剣でそらし、あるものは剣で受け止め、あるものは身をかわす。
クリムゾン・プライドは、サラの動きを正確にトレースし、美しい剣舞をしっかりと表現する。
いく合にも及ぶ、接近戦での激しい打ち合い。
力と技術と覇気の応酬。
それは、見るものを魅了し、心を湧き立たせるものであった。
ロレントは、ここぞとばかりに、戦斧による突きを繰り出した。
間一髪、サラは身をひるがえして躱すと、お返しだと言わんばかりに、大振りの横なぎの攻撃を繰り出す。
ガアンッ! という大きな音共に、ロレントはその横なぎを戦斧で受け止めた。
衝突の衝撃で、ロレントは、後ろへと少し後ずさりをする。
それを利用し、サラはいったん間合いを取ることに成功する。
間合いを取るのと同時に、サラは左手の武装を魔導拳銃に切り替え、素早く相手に連続で打ち込んだ。
エメラルド・ケイオスは、至近距離から放たれた弾丸をよけることができず、轟音とともに攻撃はすべて命中した。
しかし、サラが見たところ、有効なダメージを与えることができていない。
いつの間にか、エメラルド・ケイオスの左手には、堅牢な盾が備わっていた。
「その程度、効かぬわ!!」
そう叫ぶロレントは、お返しとばかりに、これまたいつの間にか装備していたりゅう弾砲を、至近距離から連続で発射した。
それと同時に、エメラルド・ケイオス以外のアーマーフレームたちも、一斉にりゅう弾砲を発射する。
再び、弾丸の雨が、サラに向かって襲い掛かった。サラは得意の高速移動で、回避行動をとろうとしたが……
「ぐう……!」
一発の弾丸が、ついにクリムゾン・プライドを捉えてしまった。
しかも、それは、サラにとっては最悪、そしてウラテアにとっては幸運なことに、サラの生命線ともいえる脚部へのダメージであった。
高速機動がクリムゾン・プライドの最大の特徴、強みである。
が、逆を言えば、脚部へのダメージなどによって、高速機動が困難になってしまう場合、一気に劣勢に立たされてしまう。
鷹は、その翼を傷つけられてしまうと、あっという間に力を失ってしまうのだ。
大きな布が裂けるとき、初手は小さなほころびから、とも言われる。
脚部への被弾を皮切りに、徐々に被弾率が高くなっていくサラ。
それによって、ダメージの蓄積も増え、そのことでさらに、クリムゾン・プライドの動きは鈍くなっていく。完全に負の連鎖である。
圧倒的な数の優位性を活かし、ウラテア軍からの途切れることのない、弾丸の嵐がサラに押しかかる。やがて、四方八方からの攻撃がサラへ次々と命中するようになる。
クリムゾン・プライド内での、フレーム各部の異常を表す警報が、鳴りやむことがない。
ついに、クリムゾン・プライドは、満足に動くこともままならなくなり、片膝をついてしまった。
度重なる攻撃は、操縦者であるサラにもダメージを与え、頭からうっすら血も流している。
それでも、サラの闘志は衰えることもなく、流れる血もそのままに、にらみつけるように侵略者たちを見据える。
「ふはははは、見事だ! 赤き鷹、そしてその部下たちよ。圧倒的な不利の状況の中、ここまでよくぞ戦った。こちらも、半数ほどアーマーフレームに被害がでた。さすがに肝をつぶしたぞ!」
いつの間にか、ウラテアの砲撃はやんでいた。
ロレントが手を上げ、味方に攻撃をやめさせていたのだ。
ふと、サラは周囲を見渡すと、満足に動ける味方はもう、一人も残っていなかった。
戦闘に参加した、クレイモア騎士団15名全員の機体が、いずれもよくて半壊、悪くて全壊しており、フレームの各部品などが、あちらこちらに残骸として散らばっている。
搭乗者からのうめき声のような声も、サラの魔導通信のスピーカーから漏れ聞こえた。
いったい誰が生き残って、誰が死亡したのか、それさえも正確にはわからない状態である。
いつの間にか、ロレントのそばにはドミニクが控えていた。
ドミニクは、ぼろぼろとなった、クリムゾン・プライドの姿を確認し、内心複雑な表情をうかべていた。
ドミニクとしては、自分に恥をかかせた敵を、自らの手で八つ裂きにしたい、という気持ちが大きい。
しかし、敬愛する将軍のまで、そのようなずうずうしい要求をすることは、憚られる。
代わりに、その憎き相手はこれから、その敬愛する将軍によって、無残にも叩き潰される。
そんな、残念な気持ちと、愉悦の気持ち、二つの感情が己に湧き上がるのを、ドミニクは感じていた。
「ふっ……赤き鷹よ。終いだ。最後はこの俺が、一太刀にてとどめを刺してやろう!!」
エメラルド・ケイオスが、戦斧をきらめかせ、悠然とサラのほうまで近づいてくる。
「……くそ……!」
サラは、己の無力さを呪った。1対1なら勝っていたかもしれないなど、言い訳にもなりはしない。自分の無謀な突撃で、多くの部下も巻き添えにしてしまった。
それでも、せめて一太刀、大将にくれてやりたかったが、もう、クリムゾン・プライドはいうことを聞いてくれない。
すでに、サラ自身も全身、打ち身、骨折でぼろぼろの状態だった。もう満足に、動くこともかないそうになかった。
サラは考える。アリーは無事、国外に脱出できただろうか。それとも、自分の勝利を信じて待っているのだろうか。
(アリー、ごめんなさい。もう一度、あなたに会いたかった。……でも、無駄死にはしない!! 奴が、近づいてきた時が最後のチャンス。最後の最後、奴を巻き添えにして自爆してやる!)
サラは、とどめを刺しに来るロレントに対し、意地の最後の悪あがきを敢行しようと、決意を新たにしていた。
その時だった。
次回、ついに来ます。