やはり、主人公が活躍すると、爽快ですよね。
サラ・カーティスには、身寄りがなかった。
サラの両親は、サルデニア国内で、聖職者の地位にあったとされるが、詳細は分かっていない。
サラの物心がつく前に、両親ともに他界してしまった。
その後、紆余曲折の後、サラが3歳になるころ、遠い縁戚であった、大商人である、ボールドウィン家の娘として、預けられる。
そして、ボールドウィン家は、サラの以前の実家に関するものすべてを、
ボールドウィン家は、サラを受け入れはしたが、それは彼らが決して望んでいたことではなかった。
家庭内で、暴力を伴う虐待などはされなかったが、他の兄弟たちと比較し、ボールドウィン家の両親からは、一つ壁を作られた態度、対応をサラはとられた。
どちらかというと、両親はサラに対して、基本無関心、無頓着だったという表現が近い。
そのためサラは、幼少期は基本的に一人で、寂しい気持ちを抱えながら、過ごしていた。
サラが6歳のころ、大きな事業の商談があり、たまたまボールドウィン家に連れられて、王宮へと足を運んだことがあった。
そこで、当時同じ年のころであったアレイナと、運命の出会いを果たし、互いに友情を育むきっかけとなる。
ボールドウィン家も、王家の娘に、サラが気に入られることは、今後のビジネスをするうえで、メリットが大きいと考えた。
そのため、その後もボールドウィン家が王宮へと赴くときには、ちょくちょくサラも連れ立っていくこととなった。
その4年後、サラの些細な失敗から、ボールドウィン家の怒りを買い、サラは勘当を言い渡される。
唯一の身寄りを失い、失意の底にあったサラに、救いの手を差し伸べたのはアレイナであった。
今まで、まったくと言っていいほど、わがままを言ってこなかったアレイナが、サラを助けることに関しては、頑として譲らなかった。
娘の熱意に根負けしたライナス国王は、サラを住み込みで、王宮で働く何かしらの職業従事者として受け入れるのなら、かまわないとした。
周りの人間は、サラはてっきりアレイナのメイドとして、働くものと思っていたが、サラが選んだのは「騎士」として、国に、王家に仕えることであった。
サラがボールドウィン家で、鬱屈した気持ちを抱えながら過ごす中、唯一彼女を慰めたのが「本」であった。
ボールドウィン家は、サルデニア国内でも有数な、豊富な蔵書を抱えていた。サラは、無関心な家族から逃げるようにして、一日の大半を蔵書部屋で過ごすことが多かった。
彼女は本の中でも、英雄譚を好んでいた。その中でも、サルデニア王国に伝わる、勇者の物語が大好きであった。
孤独で、無気力で、うじうじとした自分とは違う。
物語の勇者はいずれも、勇ましく、逞しく、力があって、多くの人々に囲まれ、そしてその人々を守る英雄であった。
サラは、自分が持ち合わせていないもの、すべて持っている勇者に対し、大きな憧れを持つようになる。
だからこそ、サラは騎士を目指した。
身寄りのない自分を助けてくれて、そして病気の自分を心配してくれる、大切な友人を守れるような、強い勇者になりたかった。
ひ弱で、孤独で、無気力な自分ではない、誰もが認め、誰もがうらやむ、立派な勇者になりたかった。
その決意として、ボールドウィン家から勘当され、姓を失ったときに、おとぎ話にあった「カーティス」という家名を、新たに自分でつけた。
幸運にも、サラには才能があった。
アーマーフレームの「適正あり」と判断され、実績をつみ、ついにはクレイモア騎士団の誉れある団長にまで上り詰めた。
王女の後ろ盾があったのだろうと、陰口をたたく連中もいたが、サラは実力で黙らせた。
団長の地位は、サラが自らの手でつかんだ、誇り高き力の象徴でもあった。
そして、騎士団のメンバーも、彼女にとって、出自や、性別で差別することもなく、対等に接してくれる、大切な仲間だった。
ある時、アレイナは、国を守るために「勇者」を異世界から召喚すると言った。
それを聞いたサラは、ひどく
まるで、自分が無意味だ、無力だと言われているような気がして、サラは愕然とした。
もちろん、アレイナがそんな意味でいったのではなく、この国を守るため、あらゆる手立てを考えたうえでの選択であることを、頭ではサラも理解していた。
それでも、サラの心に、しばらくは黒い感情が渦巻いていた。
ただ、それでも、その勇者が本当に素晴らしい人物であれば、諦めもつく。
自分が昔あこがれていたような、勇ましく、覇気があって、魅力あふれる英雄であれば、自分も今抱える黒い感情を、すっぱりと忘れられるだろう。
そうサラは考えていた。
しかし、実際は違った。
現れた勇者は、まるで
その目をみていると、サラは、どうしても自分の中の苛立ち、もどかしさが抑えられず、思わず厳しく当たり散らしてしまう。
その勇者を目の前にすると、サラは、自身のほの暗い、心の隅っこの部分が、なぜか刺激されてしまうのだった。
「……フフ……ハハハハ!! いいぞ! そうだ、そう来なくては面白くない!!」
ロレントは、未知の強敵に対し、高ぶる気持ちが抑えられないでいた。強い敵と相まみえ、心が高揚するのは、戦人としての性か。
自身を喪失しかかっていたドミニクは、頼もしい将軍の姿を目にし、改めて敬意の念を強くする
「ドミニク!! 貴様はやつの左から回れ、俺は右だ!! ……おい、貴様と貴様も、我らの攻撃と併せ、支援射撃を行え!」
ロレントは、矢継ぎ早に指示をだすと、エメラルド・ケイオスの推進装置を勢いよく、作動させる。
あわててドミニクも、ロレントに合わせて行動を開始した。
まずい! と、見ていた騎士団の団員達は目を覆った。
いくらあの味方が強くとも、しょせんは汎用型フレーム。ランカー二人からの挟み撃ちにまで対応できるとは、とても考えられなかった。
「……いい気になるなよ貴様! 大方、機体も汎用型フレームに見せかけた、オリジナルフレームだろう! だが、いくら強いとはいえ、私とロレント将軍の同時攻撃に、対応できるはずもない!!」
威勢を取り戻したドミニクが、未知の機体に対して吠える。
そうこうしているうちに、未知の機体が支援攻撃をかいくぐり、ドミニクの方向へ急接近を仕掛けてきた。
機体は剣を携え、ドミニクに向かって、振りかぶるそぶりをしている。
(ふん、どっからでも斬り付けてこい! 剣を受け止めてしまえばこっちのもの! そのすきに将軍が背後から、奴を攻撃できる! そうなれば、いくら奴とて敗北は免れん!!)
ドミニクは、過去一番の集中力をもって、敵の剣の動きを見定めようとしていた。
今の自分なら、奴がどこからどう斬り付けてこようが、一度であれば確実に受け止められる。
そうなれば、ロレント将軍であれば、確実に致命の一撃を奴に入れることができる。そうなれば、こちらの勝ちだ。
ドミニクは、そう考えていた。
だが……。
「なっ………………蹴りだとおぉぉ!!?」
未知の機体は、斬りつけてこなかった。
機体はとっさに跳躍し、勢いそのまま、文字通り、ドミニクに対して「蹴り」を繰り出してきたのである。
剣の動きばかりに気を取られていたドミニクにとって、完全に意識外からの一撃。
ドミニクはその蹴りを、防ぐことも、避けることもかなわなかった。
そのまま、バウンダー・グリーンの頭部へ、飛び蹴りがクリーンヒットする。
しかも、それで終わらなかった。
未知の機体は、蹴りを放った反動をそのまま利用し、今度は、背後から近づくロレントの方へ、方向転換をしたのだ。
勢いそのまま、未知の機体は、今度こそ本当に剣を振りかざす。
「ぬうううああああああああ!!!!!」
完全に不意を突かれた形となったロレントは、それでも未知の機体へ、気迫と共に戦斧を振り下ろす。
だが、一歩遅かった。
その場で、まるで閃光が走ったような感覚を、見ている人間が感じていると、ザシュウッッ!! という大きな音がなった。
未知の機体が、ふわりと地面に着地をする。
そして、遅れて、ゴトッという鈍い音が、あたりに響いた。
周囲の人間の誰もが、目を見開いた。
その音の正体は、跳ね飛ばされた、
そして、その直後、残された首から下のアーマーフレームも、地面にうつぶせで倒れこみ、そして炎上する。
敵味方、誰もがあっけにとられたように、惚けていた。
目の前で起こった事実を、誰もしっかりと受け止められていない。
続いて、未知の機体から、よく通り、響く声で、次の言葉が述べられた。
それは、騎士団たちにとって、ここ数日一緒に過ごしてきた、例の、黒髪の男の声だった。
「敵総大将の首はとった。これより
状況をようやく理解したクレイモア騎士団のメンバーから、この日一番の歓声が上がった。
「おおおおおお!!!! バカなバカなバカなバカバカなバカなバカな!!!! こんなことがっっっ!!! こんなことが起こるはずがないっっ!!!! 何かの間違いだっ!!! そうに決まっている!!!!」
ドミニクが、周囲を顧みず、我を忘れて慟哭する。
自分の目標だった人、尊敬する人が、見ず知らずの敵にあっさりと敗北したことが、ドミニクはどうしても認められなかった。
「ドミニク副将!! ここはいったん退却するべきです! ロレント将軍が倒れた今、我々は負けたのです! これ以上兵を消耗させるのは、得策ではありません!!」
部下から必死の呼びかけに対しても、ドミニクは悲嘆にくれるばかりで耳も貸さない。
それならばと、2機のアーマーフレームが、バウンダー・グリーンの両脇を抱えるようにして持ち上げ、移動を開始した。
「離せえええぇぇぇぇ!!! 私は、仇を、ロレント将軍の仇を、とらなければ!!! 何をしているか貴様ら!! 離さんかああああぁぁぁぁぁ!!!!」
上官の言葉を無視し、部下たちはドミニクを引きずるような格好で、退却を開始した。
それに対しクリスは、これ以上の深追いをしようとしなかった。
ウラテアは、サルデニア侵攻のために、80機もの汎用型アーマーフレーム、2機のオリジナルフレームを用意した。
そんな大軍を用意しておきながら、結果として、総大将(ランカー)1名の死亡、オリジナルフレーム1機を喪失。汎用型フレームも、60機以上失うという、歴史的な大敗北を期することとなる。
こうして、第一次サルデニア・ウラテア戦役は、サルデニアの歴史的勝利で幕を閉じたのだった。
ひとまず、第一次の戦争は終了です!
次回でいよいよ、第1部の最終回となります。