フェノメノン   作:xtakashi

18 / 42
ここまで当作品をご覧いただきまして、本当にありがとうございます。第1部の最後の話となります。


第17話 エピローグ(第1部終了)

 

 

 

 第一次サルデニア・ウラテア戦役から3日後のこと。

 

 戦争の爪痕がいたるところで残る、ここ、サルデニア首都バーンズで、

 国をあげた復興作業が、急ピッチで進められていた。

 

 都市の重要施設、建物から優先的に、復旧が進められ、すでに、戦争前の機能の7割程度までには回復した。

 

 遅ればせながら本日は、第一次戦役に関する式典が、首都バーンズで開かれる予定である。

 式典を開くにあたって、王宮のひときわ大きな、ダンスホールのような部屋に、大勢の人が集められていた。

 

 まず王女である、アレイナ・エルン・フォン・バーンズ。

 ライナス国王は、復調の兆しがなく、欠席。

 そして元老院の中で、上位役職に就くものが計20名。

 市民代表が50名。

 

 戦争功労者として、

 軍事部門第1課から4課の代表者約20名。その中にカルロスも含まれている。

 クレイモア騎士団長のサラと、騎士団員9名。

 

 そして、勇者であるクリスと、功労者ではないが専属メイドであるセレナ。

 以上が、本式典に出席するメンバーである。

 

 騎士団のうち、残念ながら、約半数にあたる8名が死亡、または、騎士として再起不能となった。

 ちなみに、死亡した民間人、騎士団、兵士に対してのひとまずの合同葬儀は、先日、先んじて済まされている。

 

 団長のサラも、全身に大けがを負っている状態ではあるが、無事であった。

 今も、松葉づえをついた状態で、式典に参加している。

 

 ただ見るからに、明らかにサラの機嫌は悪い。

 松葉づえに体重を預けながら、サラの眉間にはしわが寄っていた。

 ちなみに、サラの視線の先には、先ほどから無表情のクリスがいる。

 騎士団のメンバーも、触らぬ神に祟りなしとして、特にそのことについては触れない。

 

 セレナの弟であるエリックも、その後、医者や回復術師の懸命な処置によって、何とか一命は取り留めた。

 しかし、左腕を失うことになり、兵士として国に仕えるという、本人の夢は絶たれた。

 エリックは現在、峠は越え、病院の一般病棟に移って、入院中である。

 

 さて、セレナ本人はどうしているかというと…………緊張でがっちがちの状態となっていた。

 いつものメイド服ではない、よそ行きの正装を身にまとっており、馬子にも衣裳といった様子である。

 ただ、いつもの明るい雰囲気は身を潜め、式典の様子に圧倒されながら、青白い顔をしていた。

 

 一介のメイドに過ぎない自分が、なぜこんな豪華な式典に出席しているのか。

 訳が分からずセレナは混乱していた。

 

 ちなみに、セレナが参加しているのは、クリスのたっての希望であった。

 

 

 

 

 

  

 そうこうしているうちに、式典が開かれた。

 まずは、アレイナより開催の宣言と、国民へのねぎらいの言葉が届けられる。

 続いて、今回の戦争で亡くなった人々への追悼が行われた。

 

 亡くなった市民、兵士、騎士団のメンバーが、アレイナの口から一人一人読み上げられる。

 会場は、すすり泣く声や嗚咽であふれた。

 

 騎士団の死亡者が読み上げられた際、サラの目には大粒の涙が光っていた。

 

 

 そしてその次は、この度の戦争の功労者に対する、勲章や褒章の授与式だ。

 

 アレイナから、一人ひとり呼び出され、彼らの功労に対するねぎらいと、感謝の言葉が伝えられ、勲章や褒章が授与される。

 都度、会場は割れんばかりの拍手と、歓声に包まれた。

 兵士、軍事部門の代表(カルロス含む)、サラ、騎士団と順番に、滞りなく進む。

 

 そして、いよいよクリスの番となった。

 

 

 

「勇者様、この度は国を代表して、御礼申し上げます。あなたの活躍がなければ、この国は邪悪なウラテアの侵略者たちによって、無残に蹂躙されていたことでしょう。本当にありがとうございました」

 にこやかにクリスへと告げるアレイナ。

 

 その後、騎士団の団員たちが、クリスの活躍について、如何にすさまじかったかを、その場にいる全員へ向けて語る。

 式典参加者は、その話を驚きと、驚嘆の声と共に聞き入り、勇者の成した偉業を口々にたたえた。

 

 とうのクリスはその間、終始無言。顔も無表情を崩すことはなかった。

  

「勇者様、本当に素晴らしいご活躍でございました。改めて、その偉業をたたえ、この勲章を……」

 そう言ったアレイナは、隣に立つ使用人から、きらびやかな勲章を受け取り、クリスへと歩もうとしたが……

 

 

 

 

「……恐れ入りますが、お待ちください」

 今まで黙っていたクリスが、突如として発言をした。

 

 

「はい、勇者様、どうかなされましたか?」

 急なクリスの発言に、少し驚きながら、アレイナは質問する。

 

 クリスは、アレイナをまっすぐ見据えると、次の言葉をはっきりと口にした。

「申し訳ありませんが、その勲章を受け取るわけにはいきません。また、褒賞も一切無用です」

 

 

 

 

 その発言を受け、その場にいる式典参加者は、皆一様に戸惑いの気持ちを抱いた。

 アレイナも、目を大きく見開き、動揺が隠せない。

 

「……ええと……申し訳ないのですが、理由を聞いても?」

「はい、今回私は、あくまで()()()()()()()()()()()()()()()、少しだけ忍びない気持ちになり、兵舎に()()()()置いてあったアーマーフレームを拝借して、戦っただけです。いわばなりゆき、気まぐれ、気の迷いのようなものです。私はこの国に、軍属として所属しているわけでもない、いわば民間人です。そのような勲章、褒賞は私にはふさわしくないでしょう。どうしてもとおっしゃるのであれば、亡くなった兵士、騎士団の見舞金の足しに使ってください」

 

 式典参加者の動揺は、一層強くなった。アレイナとクリスの周囲から、ざわざわとした声が響く。

 セレナは、口をあんぐりと開け、カルロスは、おいおいといった顔をし、サラはよりきつい目線をクリスへ向けた。

 

「相変わらず、勇者様は謙虚な性格をしていらっしゃるのですね。この際、正式な軍属か、そうでないかなど些細な問題です。実際に、あなたはこの国を救った一番の英雄なのですから、胸を張って、栄光をその身に受けてほしいのですが」

「申し訳ないのですが、それだけは譲れない。いまだ、私の戦う意義、ましてや、生きる意味さえも見いだせていない。こんな状況で受け取るわけにはいきません。……ただ、その中で唯一確かなことがあります。それは、私はもう、国のために戦うことは、嫌なのです」

  

 クリスは変わらず無表情であったが、その言葉には有無を言わせない、強い意思が込められているように、アレイナは感じた。

 

 

 アレイナは、ふぅっと大きな息を一度吐き出すと、口を開いた。

「…………わかりました。そこまでおっしゃるなら仕方ありません。本来はこのようなことは認められませんが、ほかならぬ、第一の功労者たる勇者様からの希望でもあります。勇者様への勲章授与については、いったん()()といたします」

 

 皆様もそれでよろしいですね? と、アレイナは周囲を見渡す。

 とうの王女がそのように判断したのであれば、それに異を唱えるものはその場にいなかった。

 参加者は、大小さまざまな疑念や戸惑いを抱えながら、ことの経緯を見守っていた。

 

 セレナは、先ほどクリスに言われた「親しい人」の言葉を思い返し、頭を抱えながら顔を赤くしていた。

 カルロスは呆れながらも、面白そうなものを見る目でクリスを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 サラは、まるで視線だけで殺せそうな勢いで、クリスをにらみつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 第一功労者に対する論功は、いったん保留という前代未聞の結末で、式典は幕を閉じた。

 

 そんな異例の式典から一夜明け、クリスは早朝、身支度を整えていた。

 

 とはいっても、クリスがこの世界にやってきてから、まだひと月もたっていない。

 自身の持ち物など、ほとんどありはしないので、わずかな身の回りの物だけを鞄に詰め、クリスは宿舎を出た。

 

 まだ、日も満足に出ていおらず、薄暗い朝の冷たい空気の中、クリスは一人歩き出す。

 

 バーンズの町はずれに差し掛かろうとするとき、クリスは見知った顔を見た。

 

 

 

 

「ど~こに行こうというんですか、クリスさん!」

 いたずらっぽい笑顔を浮かべ、きれいな青い目をした金髪のメイドがそこに立っていた。

 

「セレナ……なぜここに?」

「それは、こっちのセリフですよーまったく! 昨日は式典を微妙な空気にしちゃっても~! 見ましたか、アレイナ様の顔。笑顔がめっちゃ引きつってましたよ! サラさんも、すごい形相でクリスさんを見ていたし……」

 ひぇ~と両手で大げさなリアクションをとりながら、そうまくしたてるセレナ。

 

「……んで、どちらまで行くんですか?」

 

 セレナのその言葉に、ため息をつきながら、クリスは答える。

「その、くだんの王女様と、騎士団長様を不快にさせてしまったので、この国にはもういない方がいいと思ったんだよ……。まあ、行く当てがあるわけでもないし、持ち合わせもないので、とりあえず仕事をどうするか、といった感じだが」

 

「おいおい、何も言わずに去っていくなんて、水くせぇじゃねえか!」

 野太い声が、朝の冷たい空気に響き渡る。

 声と同時にあらわれたのは、野性味あふれる40男、そして騎士団で見知った顔が5人ほど。

 

「おやっさん……」

「こちとら、おめえさんに、しっかりと礼も言えてねえってのに。なあ、お前たち」

  

 そう、カルロスに促され、騎士団で今回生き残ることができたメンバーの一人、アンディが話し始めた。

「勇者様、いえ、()()()()()。この度は、本当にありがとうございました! あなたがいなかったら、戦争での勝利はおろか、俺たちも全員、そのまま死んでいたことでしょう。騎士団全員を代表して、お礼を申し上げます。本当にありがとうございました!!」

 

 ありがとうございました! の言葉に合わせて、アンディと、他の騎士団たちが頭を下げる。

 

「……顔を上げてください。昨日も言いましたが、戦ったのは、ただの私の気まぐれです。感謝されるようなことはないのです」

「それでも、あなたが俺たちの命の恩人であることは変わりありません。ありがとうございます!」

 

 またしても、大声でお礼を伝えるアンディと、騎士団員たち。

 クリスは気恥ずかしくなったのか、ほほをかきながら、何も言わず戸惑っていた。

 

「なあ、クリスよお。お前さん、国のために働くのは嫌だと、昨日言っていたな。過去に色々あったみてぇだが、ようは、軍人として、仕事をするのはいやだ、そういうことなんだろ?」

 そう、口を開くカルロス。その言葉に対し、無言でクリスは首を縦に振って、肯定した。

 

「だったらよう、ひとまず()()()()()になったらいいんじゃねえか?」

 カルロスが、聞きなれない言葉を口にする。クリスはその言葉の意味がよくわからず、困惑した。

 

「ようは国だとか、どっかの組織だとかに所属すんじゃなくて、お前さん自身が、どこにも所属しない、一人のフリーの職人、フリーの仕事請負人になるって感じだ。お前さんは毎度、必要に応じて、自分で仕事を取捨選択する。どんな奴からの、どんな仕事を受けるかは、お前さんの自由ってわけだ。そして、いったん仕事が決まったら、依頼する側との契約に基づいて、仕事を請け負う。契約期間が終われば、関係はおしまいで、その後何も後腐れはなし。どうよ?」

 

 カルロスの提案に、クリスはしばし考える。

 なるほど、それもありかもしれない。クリスはそう考えた。

 もともと、前の世界でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうした生活に戻ると考えれば、とくに違和感もなさそうだ、とクリスは考える。

 

「わかったよ、おやっさん。ひとまずそんな感じでやっていくとするよ」

 

「よし決まりだな! そんな、人生の新しい門出を迎えた、勇者様に対して、早速だが仕事があるようだぜ?」

 にやりと笑うカルロスに、クリスは何となく嫌な予感がしていた。

 

「お願いします! クリスさん! 俺たち騎士団の、技術指導員を受け持ってもらえませんか?」

 今度は別の騎士団員である、ロバートが頭を下げる。

 

「俺、あの時、クリスさんの動きを見てました。俺、正直言って、人生であんなに感動したことはないってくらい、感動しました! 汎用型フレームでも、あんなすごい動きができるなんて、本当に信じられません! どうやったらいいのか、いつまでかかるのかは全然わからないんですけど、あの動きに少しでも自分が近づけたらって、本気でそう思っているんです! お願いです、クリスさん! 何とか俺たちの、アーマーフレームの指導者になってくれませんか!?」

 ロバートが頭を下げるのと同時に、他の騎士団員たちも、勢いよく頭を下げる。

 

 そんな様子を、クリスはじっと見つめながら口を開く。

「……俺は、ずっと実力を隠していた。そのことに対して、何か思うところがあったりしないのか?」

 

 それに対し、ロバートは少し考えるそぶりをして、言葉を口にする。

「もちろん、俺たちとしても、何でもっと早く、できることを教えてくれなかったんだって気持ちはあります。でも、昨日のクリスさんが話していたことを聞いて、多分色々と事情があるんだろうな、と何となくですがわかりました。あと、カルロスさんから聞きましたが、模擬戦の時に、すでにものすごい技術で、ずっとアーマーフレームを操っていたそうじゃないですか。それだけの動きをしているのに、気が付かなった俺らが間抜けだったんです」

 

 

 そんなロバートの言葉を受け、クリスはしばし考えた。

 

 やがて、観念したように口を開いた。

 

「……わかったよ。どうせこちらの世界で伝手も何もないしな。教えるのは専門ではないで、あまり期待しないでほしいが、しばらく厄介になるとしよう」

 

 その言葉に、わあっと、飛び上がって喜ぶ、騎士団の面々。

 そんな様子を見ながら、カルロスは腕を組んで、顔をにやにやさせていた。

 セレナも口元に手を当て、二やついていた。

 

(なんだか、カルロスとセレナにうまいことしてやられたような気がするな)

 そんなふうにクリスは思ったが、まあ、ひとまずそれもよいかと気持ちを切り替えた。

 

 

 

 

  

 こうしてクリスは、未知の異世界の地で、新しい人生の門出を迎えるのであった。

 

 これから彼の前には、いったいどんな困難や、喜びが待ち構えているのか。

 どんな人との出会い、そして別れがまっているのか。

 

 

 

 

 

 今の段階で、それは誰にもわからなかった。

 




作者にもわかりません。




あらためて、ご覧いただきありがとうございます。
フェノメノンはひとまずこれで終了です。作者のやる気が乗る、皆様からご要望がある、などがあれば、第2部を描くかもしれません。

ではまた!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。