お待たせしました。第二部を本日より開始いたします。
投稿頻度は、第一部の時よりも落ちると思いますが、ご了承ください。
第二部からは、主人公の【過去編】となります。
アーサー・J・エバンスが、彼に出会ったのは偶然であった。
その日も、アーサーはいつものように「廃品回収」を行うため、グレートロックキャニオンに出向いていた。
今後の活動エリアとして、しばらく前から、アーサーが目を付けている
「グレートロックキャニオン」。
広大な砂丘が水平線いっぱいに広がり、ところどころ大小さまざまな岩山が鎮座する、荒野である。
その場所は、かつて大規模な軍事衝突があった古戦場であった。
複数の陣営による、
その時の「残骸」が今でも未回収のまま、砂丘のあちこちに散らばっている。
そうした残骸の中から、有益なもの、使えそうなものを「廃品」として回収し、
その日は、前日までの成果がウソのように、「いまいち」な日であった。
もともとアーサーも、一攫千金で大金持ちを、といった子供じみた夢をいまさら持っているわけではない。
ただ、それでも成果が「いまいち」であれば、さすがに目覚めも悪い。
そのためその日は、未開拓であったところにも足を延ばしてみようと、アーサーはグレートロックキャニオンの更なる奥地まで歩みを進めた。
軽快なブースター音を響かせながら、アーサーの乗る作業用フレームが、広大で無人の砂丘を疾走する。
照りつける太陽の日差しは、フレームの表面を焦がさんばかりの勢いだ。
グレートロックキャニオンの、だいぶ奥地まで移動した際、ふと、アーサーは、前方に大きな黒い塊のようなものがあることを確認した。
アーサーが近づくにつれ、だんだんと「それ」は輪郭を明らかにする。
それは、アームドフレームも搭載できる「大型輸送機」であった。
全長約150メートルのその機体は、アームドフレームを10機以上、やすやすと搭載できる代物で、その生産性、運用性のよさから、一時期多くの陣営で普及したモデルである。
翼に損傷が見受けられるが、そんな輸送機が姿をほぼそのままに、グレートロックキャニオン奥地に投棄されていたのだ。
これほどまでの「大物」は、いくらグレートロックキャニオンといえど、そう何度も拝むことはできない。
輸送船そのものも価値があることにも加え、場合によってはアームドフレームをはじめとする、各種武器、兵器なども、中に埋まっている可能性があるのだ。
アーサーは、久しぶりにうきうきした気分で、その輸送船に近づく。
作業用フレームを「大物」のそばに止めると、周囲に誰もいないことを確認し、アーサーは砂丘に降り立った。
ひとまず、護身用の銃を腰に下げ、輸送機の周囲をアーサーは歩く。
大型輸送機AX-03、通称「ヴィトール」。
見れば見るほど、その輸送機は、その当時使われていた状態をそのままに、残されていた。
まるで、
「…動くな」
その言葉と共に、背中に
(ちっ…いやだねぇ。俺も鈍ったものだ。軍を抜けてずいぶん経っているうえに、しかも久方ぶりの大物に浮かれちまったようだ)
アーサーは、己の油断を後悔したが、時すでに遅し。
おとなしく両手を上げて、抵抗する意思はないことを示す。
「すまねぇ。あんたのものを奪う気はこっちにはない。いくらか渡すんで、ここはひとつ穏便にすましてはくれねえか?」
アーサーは両手を上げながら、後ろ向きの状態で、相手へ言葉を投げかける。
その間にも、相手はアーサーのホルスターに下げられた銃を奪い取っていた。
アーサーの後ろに立つ相手は、先ほどから一言も言葉を発しない。
ふとアーサーは、背中越しに突き付けられているものの位置が、
その瞬間、アーサーは背中に突き付けられる銃を支点にして、とっさに体を回転させた。
流れるような素早い動きから、相手の手から銃をもぎ取る*1。
形勢は突如として逆転。
アーサーは勢いのまま相手を押し倒し、奪った銃を逆に相手へ突きつけた。
「子供か…!?」
アーサーは、その時初めて、銃を突き付けてきた相手の顔を確認した。
押し倒され、苦しそうな顔をしながら、目だけはアーサーを射殺さんばかりに睨みつける少年。
アーサーの目から見て、どう見ても10歳にも届かない子供であった。
「……だからよう、悪かったって。」
ブリキ缶に入った焚火を支点にして、ちょうど90度に位置するように、アーサーと少年は座っている。
その少年は、砂嵐防止のためか、全身をすっぽりと包む茶色の外套を身にまとっていた。
首には、大型のゴーグルのようなものを下げている。
ちなみに、笑いながら話すアーサーとは対照的に、少年は先ほどから、押し黙ったままアーサーをにらみつけていた。
よく見たら、少年の右手人差し指に、包帯がまかれている。
アーサーが銃を奪ったときに、痛めてしまったようだ。
「言っとくが、最初に銃を突き付けてきたのは、おまえさんの方だからな!その後、ちゃんと治療してやったんだから、文句はいわせねえぞ。」
あの後、色々とひと悶着があったが、ひとまず落ち着き、二人はこうして火を中心に話ができる状態にまでなった。
聞けば、その少年はその大型輸送船を家代わりに使っていたらしい。
そのため、アーサーが来た時も、最初泥棒だと思って、警戒していたとのこと。
アーサーが自分に課したルールとして、「廃品の所有権は最初に手にしたやつにこそある」というものがある。
戦争によって発生したジャンクは、すべての人にとって平等。
だからこそ、「早いもん勝ちであるべき」というのがアーサーの考えであった。
既に持ち主がいる廃品を、自分は奪う気はないことを、アーサーは少年に懇切丁寧に説明。
ひとまず、少年も納得してくれたようであった。
とはいっても完全にわだかまりが消えているわけではない。
いまでも、少年は訝しげにアーサーを見ているうえに、アーサーから返してもらった銃を、いつでも手にとれる場所において警戒している。
反対にアーサーは完全に警戒を解いていた。
いつもの彼を知る人からすれば、驚くべき状態である。
いくら相手が子供とはいえ、会ってまだそんな時間もたっていないにも関わらず、完全に丸腰であった。
アーサーの長年のカンが、目の前の少年は、本質的には「悪人ではない」と、訴えていた。
「それにしても、いくら俺が鈍っていたとはいえ、俺に気取られずに背後をとるなんざ、大したものだぜ。しかも、まだ子供の時分で。お前さん、間違いなくセンスあるぜ。」
そう指摘するアーサーに対し、少年は黙って横を向く。
そして、何も言わず、少年はほほをかいた。
よく見ると、うっすら、ほほが赤くなっているようだ。
「…でも、結局、銃はとられた。」
「ははは!それは確かにそうだな。まあ、これは、俺がズルを使ったみたいなもんだから、あまり気に病むな!」
朗らかに笑うアーサーを、黙ってみているクリス。
アーサーにつられて、クリスもわずかだが、口元に笑みを浮かべていた。
「なあ、少年。お前さん親はどこにいるんだ?」
「…
「あん?」
「少年じゃない。俺の名前はクリス。」
はっきりとした口調で、クリスは自分の名前を口にした。
「そりゃ悪かったな、クリス。」
アーサーも、クリスの態度を受け、素直に謝罪の言葉を述べる。
「…あと、親はいない。もう2年くらい、一人で暮らしている。」
その言葉に、アーサーは目を見開いた。
10歳にも満たない少年が、人里離れたグレートロックキャニオンで、たった一人で2年も暮らしているというのだ。
たしかに、大型輸送船の各種設備が、今でも生きていることを差し引いても、並大抵のことではない。
先の戦闘技術と言い、アーサーは、少年の持つセンス、逞しさに驚きを隠せなかった。
一方、クリスもまた、自分自身に対して驚いていた。
なぜ、自分はあって間もない、よくわからない相手に対し、べらべらと余計なことを話しているのだろうか。
自分のことや、今はいない家族のことなど、初対面の相手に、これほどまで話してしまっている自分に対し、クリスは驚愕していた。
アーサーの持つ、どこか温かみを持った覇気、包容力を前にしていると、どうしても警戒心が薄れてしまうことに、クリスは気が付いた。
しばらく他愛もない話が続いたのち、おもむろにアーサーが口を開いた。
「なあクリス、提案なんだが……俺と一緒に来る気はないか?」
その言葉に、クリスの目が大きく見開く。
「まあ、最終的にはお前さんの判断にはなるが、このまま、へき地にずっと閉じこもっていても、未来があるとは思えねえ。とはいっても、俺もしがないジャンク屋だ。いろいろと大変だし、危険な荒事だってしょっちゅう起きる。それでも、結構やりがいもあるし、金もまあまあ手に入るし、何といっても自由だ。ここにずっといるよりも、やりたいことや好きなこともなんだってできる。どうだ、俺と一緒にやってみないか?」
アーサーにとっても、その時なぜ自分がそんな提案をしたのか、自分でもわからなかった。
軍を退役し、一人で気楽なジャンク屋稼業が性に合っていると考えていたのに、出会ったばかりの少年に対して、なぜそんな提案をしたのか。
アーサーにとって、その瞬間は本当に、ただの気の迷い、気まぐれだったのかもしれない。
しかし、その提案がまさに、アーサーにとっても、クリスにとっても、人生の「大きな転換点」となったのだ。
後にクリスは、アーサーに対し、今はもういない、自分の父親の影を重ねていたことに気が付く。
そしてアーサーも、クリスに対して、自分の息子の影を重ねていたことに、ずいぶん後になって気が付くのであった。
しかし人生とは残酷なものであった。
アーサーとクリスは、本当の想い、本心を、相手へ伝える前に、二人は永遠の別れを迎えることになる。
その時は、刻一刻と近づいているのであった。
次回に続きます。