フェノメノン   作:xtakashi

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お待たせしました。第二部を本日より開始いたします。

投稿頻度は、第一部の時よりも落ちると思いますが、ご了承ください。

第二部からは、主人公の【過去編】となります。


第18話 運命の出会い

 

 

 

アーサー・J・エバンスが、彼に出会ったのは偶然であった。

 

 

 

 

 

その日も、アーサーはいつものように「廃品回収」を行うため、グレートロックキャニオンに出向いていた。

 

今後の活動エリアとして、しばらく前から、アーサーが目を付けている

「グレートロックキャニオン」。

広大な砂丘が水平線いっぱいに広がり、ところどころ大小さまざまな岩山が鎮座する、荒野である。

 

その場所は、かつて大規模な軍事衝突があった古戦場であった。

 

複数の陣営による、()()()()()()()()をはじめとする軍事兵器が、何度も衝突を繰り返し、幾度となく、国境線も引き直された。

その時の「残骸」が今でも未回収のまま、砂丘のあちこちに散らばっている。

 

そうした残骸の中から、有益なもの、使えそうなものを「廃品」として回収し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが、アーサーの生業であった。

 

 

その日は、前日までの成果がウソのように、「いまいち」な日であった。

 

もともとアーサーも、一攫千金で大金持ちを、といった子供じみた夢をいまさら持っているわけではない。

ただ、それでも成果が「いまいち」であれば、さすがに目覚めも悪い。

 

そのためその日は、未開拓であったところにも足を延ばしてみようと、アーサーはグレートロックキャニオンの更なる奥地まで歩みを進めた。

 

軽快なブースター音を響かせながら、アーサーの乗る作業用フレームが、広大で無人の砂丘を疾走する。

照りつける太陽の日差しは、フレームの表面を焦がさんばかりの勢いだ。

 

 

グレートロックキャニオンの、だいぶ奥地まで移動した際、ふと、アーサーは、前方に大きな黒い塊のようなものがあることを確認した。

アーサーが近づくにつれ、だんだんと「それ」は輪郭を明らかにする。

 

 

 

それは、アームドフレームも搭載できる「大型輸送機」であった。

 

全長約150メートルのその機体は、アームドフレームを10機以上、やすやすと搭載できる代物で、その生産性、運用性のよさから、一時期多くの陣営で普及したモデルである。

 

翼に損傷が見受けられるが、そんな輸送機が姿をほぼそのままに、グレートロックキャニオン奥地に投棄されていたのだ。

 

これほどまでの「大物」は、いくらグレートロックキャニオンといえど、そう何度も拝むことはできない。

輸送船そのものも価値があることにも加え、場合によってはアームドフレームをはじめとする、各種武器、兵器なども、中に埋まっている可能性があるのだ。

 

アーサーは、久しぶりにうきうきした気分で、その輸送船に近づく。

 

作業用フレームを「大物」のそばに止めると、周囲に誰もいないことを確認し、アーサーは砂丘に降り立った。

 

ひとまず、護身用の銃を腰に下げ、輸送機の周囲をアーサーは歩く。

 

大型輸送機AX-03、通称「ヴィトール」。

見れば見るほど、その輸送機は、その当時使われていた状態をそのままに、残されていた。

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()ような……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…動くな」

 

その言葉と共に、背中に()()()()を突き付けられていることを、アーサーは感じた。

 

(ちっ…いやだねぇ。俺も鈍ったものだ。軍を抜けてずいぶん経っているうえに、しかも久方ぶりの大物に浮かれちまったようだ)

アーサーは、己の油断を後悔したが、時すでに遅し。

おとなしく両手を上げて、抵抗する意思はないことを示す。

 

「すまねぇ。あんたのものを奪う気はこっちにはない。いくらか渡すんで、ここはひとつ穏便にすましてはくれねえか?」

アーサーは両手を上げながら、後ろ向きの状態で、相手へ言葉を投げかける。

その間にも、相手はアーサーのホルスターに下げられた銃を奪い取っていた。

 

アーサーの後ろに立つ相手は、先ほどから一言も言葉を発しない。

 

ふとアーサーは、背中越しに突き付けられているものの位置が、()()()()()()()()、そして、相手がかすかに震えていることに、気が付いた。

 

 

 

 

 

 

その瞬間、アーサーは背中に突き付けられる銃を支点にして、とっさに体を回転させた。

流れるような素早い動きから、相手の手から銃をもぎ取る*1

 

形勢は突如として逆転。

 

アーサーは勢いのまま相手を押し倒し、奪った銃を逆に相手へ突きつけた。

 

 

 

「子供か…!?」

 

アーサーは、その時初めて、銃を突き付けてきた相手の顔を確認した。

 

押し倒され、苦しそうな顔をしながら、目だけはアーサーを射殺さんばかりに睨みつける少年。

アーサーの目から見て、どう見ても10歳にも届かない子供であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だからよう、悪かったって。」

ブリキ缶に入った焚火を支点にして、ちょうど90度に位置するように、アーサーと少年は座っている。

 

その少年は、砂嵐防止のためか、全身をすっぽりと包む茶色の外套を身にまとっていた。

首には、大型のゴーグルのようなものを下げている。

 

ちなみに、笑いながら話すアーサーとは対照的に、少年は先ほどから、押し黙ったままアーサーをにらみつけていた。

 

よく見たら、少年の右手人差し指に、包帯がまかれている。

アーサーが銃を奪ったときに、痛めてしまったようだ。

 

「言っとくが、最初に銃を突き付けてきたのは、おまえさんの方だからな!その後、ちゃんと治療してやったんだから、文句はいわせねえぞ。」

 

あの後、色々とひと悶着があったが、ひとまず落ち着き、二人はこうして火を中心に話ができる状態にまでなった。

 

聞けば、その少年はその大型輸送船を家代わりに使っていたらしい。

そのため、アーサーが来た時も、最初泥棒だと思って、警戒していたとのこと。

 

アーサーが自分に課したルールとして、「廃品の所有権は最初に手にしたやつにこそある」というものがある。

戦争によって発生したジャンクは、すべての人にとって平等。

だからこそ、「早いもん勝ちであるべき」というのがアーサーの考えであった。

 

既に持ち主がいる廃品を、自分は奪う気はないことを、アーサーは少年に懇切丁寧に説明。

ひとまず、少年も納得してくれたようであった。

 

とはいっても完全にわだかまりが消えているわけではない。

いまでも、少年は訝しげにアーサーを見ているうえに、アーサーから返してもらった銃を、いつでも手にとれる場所において警戒している。

 

 

反対にアーサーは完全に警戒を解いていた。

いつもの彼を知る人からすれば、驚くべき状態である。

いくら相手が子供とはいえ、会ってまだそんな時間もたっていないにも関わらず、完全に丸腰であった。

 

アーサーの長年のカンが、目の前の少年は、本質的には「悪人ではない」と、訴えていた。

 

「それにしても、いくら俺が鈍っていたとはいえ、俺に気取られずに背後をとるなんざ、大したものだぜ。しかも、まだ子供の時分で。お前さん、間違いなくセンスあるぜ。」

 

そう指摘するアーサーに対し、少年は黙って横を向く。

 

そして、何も言わず、少年はほほをかいた。

よく見ると、うっすら、ほほが赤くなっているようだ。

 

「…でも、結局、銃はとられた。」

「ははは!それは確かにそうだな。まあ、これは、俺がズルを使ったみたいなもんだから、あまり気に病むな!」

 

朗らかに笑うアーサーを、黙ってみているクリス。

アーサーにつられて、クリスもわずかだが、口元に笑みを浮かべていた。

 

「なあ、少年。お前さん親はどこにいるんだ?」

 

「…()()()。」

「あん?」

「少年じゃない。俺の名前はクリス。」

はっきりとした口調で、クリスは自分の名前を口にした。

 

 

「そりゃ悪かったな、クリス。」

アーサーも、クリスの態度を受け、素直に謝罪の言葉を述べる。

 

「…あと、親はいない。もう2年くらい、一人で暮らしている。」

 

その言葉に、アーサーは目を見開いた。

10歳にも満たない少年が、人里離れたグレートロックキャニオンで、たった一人で2年も暮らしているというのだ。

たしかに、大型輸送船の各種設備が、今でも生きていることを差し引いても、並大抵のことではない。

先の戦闘技術と言い、アーサーは、少年の持つセンス、逞しさに驚きを隠せなかった。

 

 

 

一方、クリスもまた、自分自身に対して驚いていた。

なぜ、自分はあって間もない、よくわからない相手に対し、べらべらと余計なことを話しているのだろうか。

自分のことや、今はいない家族のことなど、初対面の相手に、これほどまで話してしまっている自分に対し、クリスは驚愕していた。

 

アーサーの持つ、どこか温かみを持った覇気、包容力を前にしていると、どうしても警戒心が薄れてしまうことに、クリスは気が付いた。

 

 

 

しばらく他愛もない話が続いたのち、おもむろにアーサーが口を開いた。

 

 

 

「なあクリス、提案なんだが……俺と一緒に来る気はないか?」

 

 

 

その言葉に、クリスの目が大きく見開く。

 

「まあ、最終的にはお前さんの判断にはなるが、このまま、へき地にずっと閉じこもっていても、未来があるとは思えねえ。とはいっても、俺もしがないジャンク屋だ。いろいろと大変だし、危険な荒事だってしょっちゅう起きる。それでも、結構やりがいもあるし、金もまあまあ手に入るし、何といっても自由だ。ここにずっといるよりも、やりたいことや好きなこともなんだってできる。どうだ、俺と一緒にやってみないか?」

 

アーサーにとっても、その時なぜ自分がそんな提案をしたのか、自分でもわからなかった。

 

軍を退役し、一人で気楽なジャンク屋稼業が性に合っていると考えていたのに、出会ったばかりの少年に対して、なぜそんな提案をしたのか。

 

 

アーサーにとって、その瞬間は本当に、ただの気の迷い、気まぐれだったのかもしれない。

 

しかし、その提案がまさに、アーサーにとっても、クリスにとっても、人生の「大きな転換点」となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にクリスは、アーサーに対し、今はもういない、自分の父親の影を重ねていたことに気が付く。

 

そしてアーサーも、クリスに対して、自分の息子の影を重ねていたことに、ずいぶん後になって気が付くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし人生とは残酷なものであった。

 

アーサーとクリスは、本当の想い、本心を、相手へ伝える前に、二人は永遠の別れを迎えることになる。

 

その時は、刻一刻と近づいているのであった。

 

*1
現代の特殊部隊でも行われる、ディザーム(武装解除)という技術




次回に続きます。
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