第19話です。引き続き、主人公の過去編となります。
キースは今日、約2年ぶりに
軍人として、幾多の功績をあげ、その存在は半ば伝説ともいわれる、その男。
輝かしい実績と、それに見合う実力を持ち、本当なら自分を顎で使う立場になるはずのその男。
にもかかわらず、ひょんなことから当時の上官とそりが合わず、軍を退役した愚か者。
キースが何度も、軍に戻るようアドバイスしても、聞く耳すら持たない偏屈もの。
手紙ではやり取りをしているが、実際に会うのは約2年ぶり。
回数は頻繁ではないものの、そんな友人と、馬鹿話をしながら、夜通し飲み明かすのが、キースの数少ない楽しみの一つだった。
キースは、その友人が最近、活動拠点としているグレートロックキャニオンまで、足を踏み入れた。
キャリーケースいっぱいに、酒を積み込んだ、ホバーバイクに乗り、キースは颯爽と砂丘を疾走する。
この季節、まだまだ日差しが強く、強烈な日差しが容赦なく、キースを照らし出す。
キースがしばらく、ホバーバイクを走らせると、ようやく「あいつ」の拠点を確認することができた。
そして、拠点のそばで、彼の愛用する作業用フレームが、駆動音を立てながら、軽快に稼働していることも確認する。
ジャンク屋を営む友人は、ものをたくさん持つことを嫌う。
拠点としている建物も、シンプルなテントスタイルで、移動のしやすさ、効率を重視している。
先ほどから、稼働する作業用フレームは、黙々と土木作業に従事していた。
キースは、何の気なしに、その作業をしばらく見つめていた。
そのフレームは、先ほどからすべての動作を、最小の動き、かつ最適なタイミングで行っていた。
関節部分に余計な負荷がかっておらず、動作は非常になめらかで、まるで淀みがない。
(さすがだな。軍を退役したが、フレーム操縦の腕は、錆ついちゃいないようだな。)
キースは、かつての英雄の腕前が、昔日の姿そのままであることに、うれしさを感じていた。
そんなことを考えるキースの目の前で、テントの入り口が開き、一人の男が中から現れる。
「よう、キース早かったな」
「!?アーサー!?……どういうことだ?あのフレームを操縦しているのは誰だ!?」
「ふふ、おどろいたろう?あいつを操縦しているのは、ほらこの間手紙に書いた、例のガキだよ」
「なんだと!?……12,3才ほどの子供が、作業用とはいえ、フレームをあれほどなめらかに動かしているのか……!」
「な、すげーだろ!しかも、特別な訓練も何もしているわけでもない。ちょこっと俺が、最初に操縦の仕方を教えて、あとは全部自己学習。間違いなく、あいつにはフレーム操縦の天賦の才があるぜ。」
「……」
驚きのあまり、思わず黙り込んでしまうキース。
一方アーサーは、用意していたいたずらが、成功したかのように、先ほどから愉快そうに笑っている。
「ほら、何をぼさっと突っ立っているんだ。酒、持ってきたんだろ?さっさと中に運び込むぞ。」
そうせかすアーサーを横目に、キースはしぶしぶキャリーケースから酒を取り出すのであった。
久しぶりの宴会ということで、その日、二人は大いに飲み、大いに語り合った。
ちなみにクリスも、一応途中まで参加していたが、大人の話は退屈とばかりに、さっさと寝てしまった。
夜も更け、男二人の馬鹿話も、そろそろ尽きかけるころに、唐突にキースが口を開いた。
「なあ、アーサー。やっぱりお前、軍に戻る気はないか?」
「はぁ?くどいぞキース。何度言われても、俺は軍に戻る気はねえよ。前もそう言ったろうが」
「ああ、それはわかっているんだが…。本当のところをいうと……俺は心細いんだ」
そう話すキースは、グラスを両手で抱えながら、うつむいている。
「なーにを女々しいことを言っているんだ、キース
「だがな、アーサー。出世もいいことばかりではないぞ。上に登れば上った分、この国の上層部が腐っているのをより、目の当たりにするんだ。左官の俺が、こんなことをいうのもなんだが、この国の上の連中は、本当に終わっているよ。」
「おいおい、何を言ってやがる。それをわかってたうえで、『自分が上に行って変えてやる!』と吠えていた、キース・S・リンドレー殿は、どこへ行ったんだ?」
「……」
キースは黙ったまま、何も話さない。
そんなキースの様子を見たアーサーは、「はぁ~」と息を一息ついた。
「……お前はよくやっているよ。俺は所詮、軍や国の仕組みに嫌気がさして、抜け出した人間だ。対してお前は、まさに渦中の中で、孤立無援で歯を食いしばって頑張っているんだ。俺なんかよりもよっぽどできた人間だぜ。」
「…アーサー」
アーサーの言葉を受け、思わず目に心の汗があふれそうになるキース。
「おいおいよせよ!男の涙なんて、見ても一銭の価値もない!…あー、愚痴ぐらい聞いてやるから、まあ、その、なんだ、元気出せ!!」
バンバンと、キースの背中をたたくアーサー。
そんなアーサーの、不器用なやさしさに触れ、キースの気分は少しだけ晴れるのだった。
そうした中、キースは意を決して、とある一つの話題を口にする。
「……ところでアーサー。あの少年は今後どうするんだ?」
「あ?どうするって何を?」
「だから、クリス君の今後のことだ。彼には間違いなく才能がある。」
その言葉に、押し黙るアーサー。
「お前も、今のままでいいとは思っていないだろう?彼は、いっちゃあ悪いが、こんな辺鄙な場所の、辺鄙なジャンク屋をやっているにはもったいない才能をもっているぞ。」
その言葉に、苦虫をかみつぶしたような顔で、アーサーが答える。
「…お前の言っていることもわかる。あいつに初めて会ったとき、俺も勘が鈍っていたとはいえ、俺に気取られることなく、あいつは俺の背後を取った。何も軍事訓練も受けていない、ただの子供のくせにな。」
「!?おい、それは初耳だぞ!?」
「ふん、言ってなかったからな。」
「…お前というやつは!……まあ、いい。とにかく、そうしたものを含めて、彼はダイヤの原石なんだ。きちんとした教育、きちんとした訓練を受けたほうが、彼の将来のためにも絶対にいい。」
「……」
「お前が国や軍に対し、いい感情を持っていないことはわかる。ただ、彼の将来を考えてみろ。このままジャンク屋を続けたところで、本当に彼のためになるのか?今日会って間もないが、あの子は頭の回転だって別に悪くない。そして、あの恐るべき才能だ。ちんけなジャンク屋稼業で終わらせてしまったら、後悔しないか?」
「……」
「提案だが、まずは
「……すいぶんと、初めて会ったガキ相手に、お熱じゃねえか。まるで好みの女を、何とか口説こうとしているみたいによ。」
熱のこもった話しぶりのキースに対して、アーサーは冷めた口調で言葉を告げる。
「なあ、キースよう。一つ言っておくぜ。……もし、あいつをお前さんの、
その瞬間、周囲の空気が凍り付くような、鋭い殺気をアーサーは放った。
軍役時代、英雄と言われていた時を
「す、すまない。決してそんなつもりはない。……いや、正直に話そう。確かに、俺は今、味方がいない。上層部の連中の間でも孤立無援。いくら俺が組織を変えようとしても、都合の悪いことはすべて握りつぶされるか、黙殺される。組織はきれいごとだけではやっていけない。何かをかえようとおもったら、組織の中で一人でも多くの仲間が必要だ。そんな中、将来的に一人でも自分の味方になってくれそうな人間を、組織の中で作っておきたい、という気持ちは確かにある。」
青い顔をしながら、本心を話すキース。それをアーサーは黙ったまま聞いている。
「ただ!!それ以上に!彼の、クリス君の才能にほれ込んだことも、嘘じゃないんだ!彼のフレームの操縦を見たとき、本当にほれぼれした。かつてのお前の操縦と区別がつかなったほどだ!派閥とかそんなことを超越して、彼の才能を埋もれさせてしまうのは、この世の、この世界の損失だ!彼は絶対将来すごいやつになる!その手助けをしたい!!いや、是非、させてもらえないだろうか!!?」
半ば叫ぶようにして、必死で訴えるキース。
そんなキースに対し、しばらく腕を組んで、黙って聞いていたアーサーは、やがて、はあぁぁ~と大きな息を吐きだした。
「……わかったよ。お前の熱意に負けたよ。確かに将来を考えれば、いけ好かない軍がらみの組織かもしれんが、学校には行っておいたほうがいいのは確かだ。……ただ、まずはクリスが学校に行くことを望んだら、だ。そして、将来的に軍へ入るかどうかも、クリスが決めることだ。俺からは強制しない。すべてはあいつの選択しだいだ。それを忘れるな。……あと、面倒な手続きは全部お前がやれよ?」
さらっと面倒ごとはすべて押し付けてきたアーサーに苦笑しながらも、キースは力強くうなずいた。
「もちろん、万事私に任せてくれ!」
クリスとアーサーの出会いが、必然ならば、アーサーとキースの間に知己があったこともまた、必然であった。
クリスを取り巻く運命の歯車が、どんどんと動きだしていく。
当人たちは、そのことを知る由もなかった。
第20話に続きます。その前に、幕間を入れるかもです。