皆様お待たせしました。
ようやく主人公の無双の一端が見られます。
「……では次! クリス・
ハリー教官から、ついにクリスの名前が告げられた。
「まあ、うまくいかなくても、気にするな。とにかく頑張って来いよ!」
アルフレッドの激励? を受け、クリスは苦笑いを浮かべながら、テスト用のアームドフレームの前へと進む。
ハリー教官は、手元の端末とクリスを見比べながら、口を開いた。
「エバンスは、まだアームドフレームに乗ったことがないそうだな。作業用フレームの操縦経験が約2年と」
ハリー教官の言葉を聞いた、周りの生徒の一部から、くすくすと笑い声があがる。
テストが始まる前にクリスへ絡んできた、レノとその取り巻き達も、ニタニタとした顔を浮かべていた。
「こら、お前たち、私語を慎め! ……まあ、エバンス、平民の身分かつ、高等部からの編入では、操縦の経験が不足していることは、そう珍しいことではない。なので、テスト結果が悪くとも、あまり気を落とさないように」
「はい、問題ありません」
ハリー教官の目をまっすぐ見ながら、クリスははっきりと言葉を口にした。
「よろしい。では、まずは基本動作の腕前を見せてもらおうか。初心者用チュートリアルの、課題4から順番に始めるように!」
ハリー教官の言葉を受け、クリスはさっそく、テスト用のアームドフレームの操縦席に乗り込んだ。
フレームの基本的な行動、例えば、前進、後退、左右旋回、しゃがみ、ジャンプ等々は、作業用フレームも、アームドフレームでも基本的に違いはない。
とはいえ、あくまで土木作業用として、とにかく頑丈かつシンプルにつくられたフレームと、多種多様な軍事目的を遂行されるために開発されたフレームでは、機能や操縦者の使用感も大きく異なってくる。
当然と言えばそうだが、アームドフレームの方が多機能で、操縦も複雑かつ、奥行きも広い。
楽器で例えていうならば、作業用フレームが「
つまり、クリスの経歴は、「
他の生徒たちが、クリスをあざ笑ったのも、そうした理由からなのであった。
クリスは、操縦席に座り、改めて自身の周りを見渡す。
そして、そのあまりの高機能・多機能ぶりに驚きを隠せなかった。
入学前の説明資料として配布された各種マニュアルを、クリスは一通り目を通してはいたが、こうして実際に目の当たりにすることで、クリスは改めて心が躍っていた。
(すごい! うちにあるボロい作業用フレームとは、何もかもが全然違う……。この機体なら、イメージだけで再現できなかった、あの動きもできるかもしれない)
そう考えながら、クリスは初心者用のチュートリアルのシーケンスを開始した。
その日、その場にいた関係者全員は、その日を生涯忘れることはないだろう。
彼らは間違いなく
若き天才の、才能の片りんが、ついに世の中に解き放たれた瞬間を、彼らは垣間見たのだった。
「……
冬の寒いとある日。
ぱちぱちと音を立てる暖炉のそばで、アントニオ・ミュラーは、安楽椅子にどっしりと座っていた。
アントニオの口元にある葉巻からは、ゆったりとした煙が漂い、暖炉の火はちらちらと揺らめき、アントニオの顔に、うっすらと光を照らしている。
取材に来たインタビュアーからの質問に対し、微笑みながらアントニオ・ミュラーは口を開いた。
「ふふ……あのお方の、初めての操縦を見た時の衝撃は、忘れようとも忘れられませんよ。
……はい、私は当時、ハリー教官の助手として、高等部に入学した生徒たちの、実力を図るテストの立ち合いをしておりました。そう、初心者用チュートリアルの……確か課題4、からだったかな? あのお方は始めました。……まあ、初心者用チュートリアルなんて、教官である私にとっては言わずもがな。初等部から学ぶ生徒たちにとっても珍しいもんじゃありません。ちなみに私も、その当時、あのお方の経歴は事前に聞いておりました。どうせ、課題にそって、『
そういうとアントニオは、葉巻をいったん口から離し、ふうっと、煙を吐き出した。
「……最初こそ、おそらく作業用フレームと、アームドフレームの機体スペックの差に戸惑われていたようですが、徐々に慣れるにつれ、あのお方の動きは、まるで水を得た魚のようになっていきました。課題7を過ぎるころには、とうに、作業用フレームを触って、2年足らずの若者が行うような、動きではなくなっておりましたよ。まあ、その後は、記者さんもご存じの通り。そうあれは、人馬一体ならぬ、
アントニオは身じろぎし、椅子に座る位置をわずかにずらした。
ぎしっ、という乾いた音が、その部屋全体に響く。
「いやあ、あの後は大変でした。生徒たちのみならず、教官である我々も、恥ずかしながら、自分の目が信じられず、興奮のるつぼといった状態でした。結局、本来であれば初心者用チュートリアルだけだったところを、時間も忘れて、結局上級チュートリアルも、その場であのお方にやらせたわけなのですが……はい、ご存じの通り、いずれもすべて、完ぺきでした。この国の英雄と言えば、アーサー様が有名でしたが、それを超える逸材であると、あの場にいた関係者全員、誰もがそう思ったことでしょう」
懐かしさからか、アントニオは遠くを見るような目つきをしていた。
「私はあの時、自分のちっぽけなプライドが、粉々に砕け散ることを自覚しました。教官の身でありながら、すぐにあのお方のファンになりましたよ……しかし、不幸なのは中途半端に『
……記者さん、私はねぇ、思うんですよ。あれほどの天才と同じ時代に生まれ、時間を共にできたことは、最大の幸福であると同時に、最大の不幸であったと。あの方は、この国に栄光を導いた輝かしい英傑で、彼の存在は我々の大きな希望、喜びであったとともに、
そう言ったアントニオの目は、だんだんと憂いを帯び始めていた。
彼の声にも、かすれたものが混じり始めている。
「……すみません、あのような
アントニオは、嗚咽をあげながら、両手で顔を覆った。
そんな彼の手の指の間から、ひそかに光るものが、頬を伝っていることが、見て取れた。
よくわかる?クリス君のすごさ(あくまでイメージ)
ロザライム士官学校高等部一年(フレーム操縦歴6~9年程度)は、どのくらいの実力が求められているか、というと……
ショパンの「幻想即興曲(https://www.youtube.com/watch?v=Ol_ggsZAzU0)」がある程度、きちんと弾ければ、普通にすごいレベル」と称されます。
それを、子供用ピアノを弾きはじめて、たった2年足らずのクリス大先生は……
・ショパンの「幻想即興曲(https://www.youtube.com/watch?v=_2c-KITvexw&t=44s)」は完全にプロ・・・というか伝説に残るピアニストレベルで弾けます。
・ショパンの「革命のエチュード(https://www.youtube.com/watch?v=c3aJoi3j6ok)」は完全にプロレベルで弾けます。
・リストの「ラ・カンパネラ(https://www.youtube.com/watch?v=Hf2MFBz4S_g)」は普通にセミプロレベル以上で弾けます。
……といった状況です。
ピアノをやっている人ならすごさはわかるはず。
クリス君、才能に嫉妬した人から殺されないように、気を付けましょう。
次回は、幕間となりますが、主人公の過去にまつわる重要な話となります。