フェノメノン   作:xtakashi

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※注意!
主人公の幼少期の話ですが、かなり暗い話となります。

とはいえ、主人公の性格を形成するに至る、重要なエピソードになりますので、お読みいただけると幸いです。


第21.5話 【幕間】心のありよう

 

 

 

 クリスは幼い日のことを、正直あまり良く覚えていない。

 

 物心がついた時には、「グレートロックキャニオン」周辺で何でも屋を営む、一家の次男としての自分がいた。

 当時、自分が兄の背中を、しつこく追い回していたことだけは、クリスも鮮明に覚えている。

 

 しかしクリスは、そんな兄の後姿は思い出すことはあれど、正面の姿を正確に思い出すことができない。

 もう、写真や記録など、何もかもが残っていないが、ただ何となく、優しかったことだけは、クリスも記憶している。

 

 クリスが兄の顔を思い出そうとしても、()()()()()()()がかかっており、造形は不確かであった。

 

 

 

 

 

 クリスの両親は、クリスの兄を溺愛していた。

 

 とはいえ、両親はクリスに対し、最低限の愛情は注いでくれていた。

 クリスは、学校へは行っていなかったが、読み書き、算数などは両親が教えてくれた。

 

 しかしクリスは、子供ながら自分と兄で、親からの思いが、明確に違うことを認識していた。

 日ごろの接し方をはじめ、我儘に対する対応、与えられる道具など……自分と兄とでは、明らかに「差」があることに、クリスは気が付いていた。

 

 

「いいこと。あんたは、今もこれからも、しっかりとお兄ちゃんを支えて、助けるんだよ。それがあんたの生きている唯一の意味なんだから」

 クリスが幼い時の、母親の口癖だった。

 

 

 幼いころからクリスは、何となく、自分と兄は違うんだ、兄の方が上なんだ、という思いが常にどこかにあった。

 

 

 

 

 ある日、クリスの兄が、高熱で倒れた。

 両親は、すぐに良くなるだろう、と気楽に考えていたが、熱は下がる気配もなく、上がる一方であった。

 

 何でも屋で生計を立てていたクリスの一家は、当時、貧困とまではいわないが、決して裕福とは言えなかった。

 薬などの物資は、常に不足気味である。

 

 

 

 クリスの兄の高熱が2日ほど続き、次の日も熱が下がっていなければ、いよいよ街におりて医者に見せた方がいいと、両親が考えていたその矢先。

 

 

 

 3日目の早朝に、クリスの兄は、あっさりと息を引き取ってしまう。

 

 クリスの兄はその時、わずか10歳であった。

 

 

 クリスの両親の嘆きはすさまじく、特に母親の憔悴ぶりは、目も当てられない状態であった。

 

 クリスは、そんな母の悲しみを少しでも癒そうと、率先して家業の手伝いを行った。

 少しでも、母親の助けになりたい一心であった。

 

 

 

 

 

 

 そんなある日、クリスが夜中にたまたま目覚めた時だった。

 用を足して自分の寝床に戻ろうとした際に、居間の電気がまだついていることに、クリスは気づく。

 

 どうやら両親はまだ起きており、何やら言い争っているようだった。

 兄が死んでから、両親はこうして夜中に喧嘩をすることが増えていた。

 

 そんな両親に、暗い気持ちを抱えながら、クリスは通り過ぎようとした。

 

 

 しかしその日は、クリスにとって、その後の人生を左右する、母親からの決定的な言葉を、たまたま聞いてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日から、クリスの心は、常に()がかかったような状態となった。

 

 食事をしても味を感じず、楽しく遊んでいたはずのおもちゃを、手にとっても心は動かず、好きだったはずの夜の星空をみても、何も感じなくなった。

 

 両親は、そんな感情を失ったかのようなクリスに対し、当初は心配するそぶりを見せた。

 しかし、いつまでたってもろくに反応を示さない息子に対し、両親は次第に疎ましい気持ちを感じるようになる。

 

 

 

 

 

 ある日、クリスの両親は、しばらく外出することをクリスに告げた。

 

 隣町まで商品を売りに行く関係から、帰りは遅くなると。

 3日ほどで戻るので、それまで留守番をしてほしいと。

 

 クリスは、それを黙って承知した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日たったが、両親は戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 5日たったが、両親は戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 10日たったが、両親は戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、1か月がたった。

 両親は戻ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスが、気が付いた時には、兄の墓は、いつの間にか掘り返され、中身はすべて持ち出されていた。

 

 

 

 

 

 

 クリスは気づいた。

()()()()()()()()()()()()()()」と。

 

 

 

 

 クリスは思った。

 それは当然のことかもしれないと。

 なぜなら、自分は()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 何かの間違いで、生きるべきだった兄が死んで、自分が生き残った。

 両親と血もつながらず、()()()であるはずの自分が生きて、大切なはずの兄が、なぜか死んだ。

 

 あの父と母のもとに、自分がいまだに、のうのうといること自体が「不自然」で「おかしい」ことなのだ。

 

 だから、何もかもリセットするために、両親は自分を置いて行ったのだ。

 

 

 クリスはそう結論付けた。

 その瞬間、ぎりぎりの状態で保っていた、彼の中での決定的な「何か」が、欠けてしまった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 一家が、家代わりに使っていた、大型輸送船「ヴィトール」の各種設備や装置が、まだまだ十分に動いていたことは、クリスにとって大きな幸運だった。

 

 また、兄が死んでから、クリスは両親の手伝いを率先して行っていたこともあり、その設備のほとんどに対し、使い方を熟知していたことも幸いした。

 

 設備や装置のほとんどが、手つかずで残っていたのは偶然か、それともクリスの両親のせめてもの情けだったのか。

 

 

 

 

 グレートロックキャニオンの気候、風土は、子供にとって厳しい環境である。

 日中の気温が40度近くまであがり、夜は0度近くまで下がることは日常茶飯事。

 定期的な砂嵐や、豪雨による災害も時には発生する。

 

 クリスは、残された財産、そして家でもある「ヴィトール」の各種設備を活かし、自分だけでも生活できる環境を整えるところから始めた。

 

 

 昔から、クリスは機械の使い方が、抜群にうまかった。

 一度説明されれば、一度説明書を読めば、大概の機械の使い方を理解し、使いこなすことができた。

 

 それは、「機械」であれば、ほぼ例外はなかった。

 まるで彼は、世の中のあらゆる機械から「祝福」を受けているような……そんな有様であった。

 

 そんなクリスの姿を見た父親は、一度だけ「()()()()()」と、言葉をこぼした。

 どういう意味なのかを、クリスが父親に聞いても、のらりくらりと話をはぐらかされた。

 

 とにもかくにも、クリスは自分が生きていけるだけの環境を、早めに整えることができた。

 

 

 

 

 その後クリスは、ただ「生きているだけ」の日々を、約2年続けていくことになる。

 

 朝起きて、飯を食い、気温が上がりきらないうちに外に出て、ヴィトールの整備に使えそうなジャンク品を近場で探し、狩りをして、畑を耕し、作物を育て、ヴィトールの整備を行い、拠点に戻り、飯を食って、残された本を読んで、シャワーは三日に一度入り、夜はラジオを聞き、寝る。

 ただ、それだけの繰り返し。

 

 それはまるで、クリス自身も「()()()()()」であるかのような、終わりのないルーティン作業のようだった。

 

 事実、彼の心は無意識にそうなることを望んでいた。

 自分の心に蓋をして、心までも「機械」になってしまえば、これ以上傷つくこともない。

 人としての感情を捨ててしまえば、もう思い悩んだり、悲しんだりすることもない。

 

 だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 心の中が、自分でさえも見通せないように、奥底まで霞で覆ってしまおう。

 喜びもせず、悲しみもせず、心に蓋をし、波風を立てず、淡々と生きよう。

 

 

 

 10に満たない少年が、心を壊してしまう前に形作った心のありよう

 ……それは一種の「防衛手段」でもあったのだ。

 

 

 

 喜びも悲しみも、目標や目的もない。

 本来、大空を自由に飛ぶはずのヴィトールに、「鎖」として地上に縛られ、ただ生きていくだけの人生。

 

 

 そんなクリスの人生は、「()()()()()」に乗ってやってきた「(アーサー)」と出会うことで、ようやく歯車が動き出すことになる。

 






次回に続きます。
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