皆さんお待ちかね、ようやく女性キャラクターが出ます。
あの、歴史的な日の後、クリスを取り巻く環境は、一変した。
クリスを見る周りの目、そして周囲の人々の振る舞いが、まったく違うものとなった。
あるものは尊敬の念を持ち、あるものは憧れのまなざしを、クリスに向けた。
特に、平民出身の人間は、クリスのことをまさに「英雄」として、見る傾向が強まった。
しかし、
あるものは羨望の気持ちを抱き、あるものは嫉妬の炎で身を焦がし、あるものは憎しみの感情も持つにいたるのであった。
そんな渦中のさなかにあるクリスに対し、以前と変わらない態度で接するものは少数派であった。
「やあ、クリス。ここにいたか。……校内はあいかわらず、君の噂が、色々と独り歩きしているようだな。まったく、栄えあるロザライム士官学校の生徒とあろうものが、根も葉もない噂に振り回されるなど、嘆かわしい限りだよ」
とある平日の昼休み。
食堂で一人、休憩していたクリスの前に、アルフレッドが近づいてきた。
両手には、飲み物のホルダーをそれぞれ抱えている。
あの日からすでにひと月以上経過し、多少は周囲の動揺も一時期よりは収まってきている。
とはいえ、相変わらず多くのクラスメートから、クリスは遠巻きに接せられていた。
クラスメートであっても、気軽にクリスへ声をかけるものも少ない。
そうした中、若干上から目線な気もしなくないが、アルフレッドは気にせず声掛けをする、数少ない一人であった。
二人は、ひとしきり談笑したのち、おもむろにアルフレッドが口を開いた。
「ところでクリス、再来月に行う合同演習大会だけど、これについて、君はちゃんと内容を把握しているかい?」
「いや、全然。説明冊子もまだ読んでない」
「やっぱりね……まったく君ってやつは……。もう少し、学校行事とかそういうのにも、興味関心を持った方がいいと、僕は思うんだけどね」
やれやれと、ため息をつくアルフレッド。
アルフレッドは一つ、咳ばらいをしたあとに、言葉を続けた。
「再来月に行われる合同演習大会……通称、エクウェス祭は、クラス混合で行われる、アームドフレームの技術大会のようなものさ。毎年盛り上がる、うちの士官学校におけるビッグイベントの一つなんだよ。
特に、最後に行われるチーム対抗の模擬戦は、学校関係者にも広く公開されていて、毎回白熱した戦いになること請け合いさ。そこでの成績に応じて、上位者はランク付けもされるから、そこで、同じ学年での実力がはっきりと明らかになってしまうのさ」
意気揚々と説明をするアルフレッド。
そんな彼に、クリスは適当に相槌を打ちながら聞いていた。
「……おい、平民」
と、そこで、クリスを一方的に呼びかける声が聞こえる。
アルフレッドとクリスが、声の方を見ると、そこに立っていたのは、口をへの字に曲げ、クリスを見下ろすレノと、その取り巻きたち。
仁王立ちするレノは、腕を組み、まるで「不機嫌が服を着ている」といったような有様であった。
対照的に、取り巻きの3人はおどおどした態度をとり、小声で「ちょっとレノさん」「やめときましょうよ」などと、レノに対してささやいていた。
そんな取り巻きたちの声をしり目に、レノは口を開く。
「いいか、確かにこの間の試験の時、お前は凄かった。……確かにすごかった。それは認めよう。でも、勘違いするな! あれは、あくまで
実際のアームドフレームの戦闘ではそうはいかない! あんな綺麗な、型通りの動きなんて、実戦では存在しねぇ! だいたい、練習でうまくできていても、本番ではビビッてうまくできない、なんてのもよくある話だ! 俺は絶対に、お前を認めない! 今度のエクウェス祭、お前のいるチームとあたるみたいだが、必ず、化けの皮を剥いでやる! 調子に乗った平民がどうなるか、俺が思い知らせてやるからな! 覚悟しろ!」
認めているのか、いないのか。
クリスのことを指さし、息も荒く、矛盾した言葉を発しながら、一方的に宣言をするレノ。
そして、レノはそのまま鼻息荒く、踵を返し、ずんずんと離れていってしまった。
その後ろに、慌てて取り巻きたちも続く。
「…………」
突然の出来事にあっけにとられ、言葉をなくしてしまったアルフレッドとクリス。
「………………ええっと、どこまで話したかな? ああ、そうそう。そのチーム対抗戦のチームも、今日の朝から発表されていたな」
そういったアルフレッドは、手元の端末を取り出して、最新情報にアクセスした。
ロザライム士官学校では、中等部から全員に、この小型端末が支給される。
日々の授業の電子テキスト閲覧、自身のスケジュール管理、お知らせの確認など、これ一台で大概のことができる優れモノだ。
「ほら、ここを見なよ。……1チームあたり大体5~6名に分けられている。幸いと言っちゃあなんだけど、僕とクリスは同じチームだね。対戦の形式は、まずは予選のバトルロワイヤル。これは、5チーム入り乱れての乱戦で、チームを入れ替えて例年、計4回ほど行われる。制限時間内に生き残ったメンバーが多い、上位2チームが、次のトーナメントへ続くんだ。もちろん、下位3チームのメンバー全員がやられた場合、制限時間内であっても、その時点で上位2チームのトーナメント進出が決まる。で、確かにレノのチームとは、最初のバトルロワイヤルで、我々とかち合うみたいだ」
ふんふん、といった様子でクリスは耳を傾ける。
「さすがはアル。物知りなんだな」
「ふふ、まあね。前も言ったかもしれないが、僕は初等部からいるからね。学校のことなら、何でも聞いてくれてかまわないよ。
……とりあえず、僕たちがやるべきことは、他のメンバーとの作戦会議だな。エクウェス祭で求められるのは、単なる個人技量だけじゃあない。作戦の立案能力と、遂行力、仲間とのチームワークなんかも、上位に進むためには重要だし、最終的なランキングに影響するからね。……放課後に、さっそく僕たちのチームメンバーと、顔合わせと行こうか」
ロザライム士官学校は、国内最大の士官学校であり、その施設面積は広大である。
クリスの入学した高等部では、大きく5つのエリアに分かれている。
1つ目は、各種事務所、教員室、イベントを行う講堂などが存在する「中央エリア」
2つ目は、教室、実験室、図書館、資料館などのある「文化エリア」
3つ目は、運動場、武道場、ジム、プールなどのある「トレーニングエリア」
4つ目は、兵器・武器格納庫、整備場、演習場、射撃場などのある「ミリタリーエリア」
5つ目は、生徒の寮、食堂、談話室などのある「学生エリア」
である。
平日は、基本的に17時頃にカリキュラムは終了し、その後は放課後。
放課後に、学生が何をするかは、基本的に学生の自主性に任されている。
自主練に励む者、スポーツを行う者、勉強する者、休息をとる者など、さまざまだ。
平日の学生の外出は許可制。休日、祝日においての学生の外出は、特に制限はない。
ロザライム士官学校の数ある施設の中で、生徒に隠れた人気を誇るのが、「学生エリア」にある談話室だ。
広々としたスペースに、観葉植物や風景画がいくつも飾られ、適度に落ち着いた雰囲気が、部屋全体を覆っている。
学校敷地内ではあまり見られない、ソファー席もいくつか用意されており、生徒がゆったりとくつろげる空間だ。
「文化エリア」では図書館もあるが、そちらは飲食、私語が禁止とされている。
その点、談話室は飲食の持ち込みも可能で、私語も禁止されておらず、ある程度騒がしくしても問題ない(もちろん、あまりにも騒がしい場合は注意されるが)。
学生は、そこで思い思いに勉強をし、語り合い、昼寝をする……そんな、ロザライム士官学校の、学生の憩いの場となっているのが、この談話室なのだ。
そんな談話室の一角で、5人の男女が同じテーブルで話し合いを行っていた。
いずれも高等部の1年生であり、話題の中心は、再来月に行われるエクウェス祭についてである。
先ほどから、話の進行を担い、集団の中心として熱弁をふるっている金髪の青年が、アルフレッド・フォン・ウォルコットだ。
一方、その横に座り、口数少なく、ドリンクのストローに口をつける黒髪の青年は、クリスである。
「……と、まあ以上が、簡単ではあるが、我らがロザライム士官学校の誇る、年に一度のエクウェス祭の輝かしき歴史、というわけさ」
「おいおい、アル。俺たちはそんな話をしに、集まったわけじゃあないだろが」
意気揚々と語るアルフレッドに対し、呆れたように口をはさむ青年が一人。
「いいじゃないか、グレン。色々と知識の足りない編入組に対し、歴史も含めた様々な学校のことを、しっかりと伝えていくことも、我ら初等部組の役割だろ?」
「……まったく、お前のその、『お節介』で『語りたがり』な性格は、昔からかわんないのな」
グレンと呼ばれたその青年。
フルネームは、グレン・ヴァン・フォード。
短く、シンプルにセットされた茶色の髪を持ち、がっしりとした肩幅と、制服越しにも伝わる力強い体格の持ち主である。
背が高く、目や、鼻といった顔のパーツの彫りは深く、はっきりとした顔立ちだ。まだ10代にも関わらず、ずいぶんと大人びた印象を周囲に抱かせる。
ちなみに彼は、アルフレッドと同じく、初等部から士官学校に通っている。
「とにかく、ありがたい歴史の授業はそのくらいにして、いい加減、本題に入ろうぜ。大会は、もう再来月に迫っているんだしな……なあ、アイビー」
「グレンさん、今の言葉遣いは、貴族としてどうかと思いますけど、それは脇に置いておいて、わたくしもそう思いますわ」
アイビーと呼ばれた女性が、凛とした声とともに、グレンの提案に追従する。
「エバンスさんと、レイノルズさん……高等部からの編入組のお二人にご配慮なさる、アルフレッドさんの御心は素晴らしいと思います。……しかし今は、喫緊の、大会に向けての計画を練る方が、優先順位が高いと、わたくしは考えますわ」
ダークブロンドの髪を、ミディアムショートにまとめ、スレンダーな体系をしたその女性。
フルネームは、アイビー・セント・チェノウェス。
背筋は、まるで一本の棒で支えられているように直立し、彼女の太ももの上で重ねられた手の指先まで、整然としている。
顔は、目鼻立ちのきりっとした印象を受け、非常に上品な美貌を携えている。
ちょっとしたパーティで、彼女がドレス姿をしていたら、さぞかし多くの男性から注目を浴びることだろう。
ちなみに彼女は、中等部からの編入組である。
「……す、すみません。私なんかのために、気を使ってもらったみたいで……」
自信なさげに言葉を発した女性の名は、コレット・レイノルズ。
アイビーの言う通り、彼女はクリスと同じく、高等部からの編入組である。
身長はこの中でも一番小さく、華奢な体格から、実年齢よりもかなり若い印象を見るものに与える。
ブラウン色の髪を、ボブカットにそろえており、その外見は、一見すると、中等部の生徒と言っても、通じてしまいそうである。
顔立ちは決して悪くはないのだが、その外見と、おどおどした態度から、影が薄い印象を受ける。
「まあ、確かにグレンやアイビーの言うように、そろそろ、大会に向けての具体的な話をしていこうか」
アルフレッドの言葉を受け、他の4人は改めて、佇まいを正した。
ようやっと、女性キャラクターが登場しましたね。
第二部以降、気づけばここまで男ばっかりでした……。