こうして、クリスたちの、バトルロワイヤルにおけるチーム戦術がようやく固まった。
まず、クリスは「遊撃兼囮役」を担当。
他チームから狙われることを逆手にとって、あえて目立つように囮役として、バトルフィールド内をうろうろするのが役割だ。
とはいえ、なるべく他のメンバーから離れすぎないよう、距離感には気を付ける。
敵から攻撃を受けた場合は、ひとまず回避と防御に専念。
敵の目を自分へ釘付けにし、かつ味方へ被害が及ばないように、うまく立ち回ることが求められるポジションだ。
また、クリスの搭乗機体だが、彼の技量を最大限生かすために、「
次に、クリス以外のメンバーは、基本的に二人一組で行動することに決定した。
一組目は、アルフレッドとグレンのペア。
高火力だが、継戦力に乏しく、機動力に難のあるグレンを、万能機体であるアルフレッドがフォローする布陣である。
グレンが主に遠距離戦を担当し、アルフレッドが主に近距離戦を担当する。
中距離に関しては、その時の状況次第となるが、弾数の少ないグレンはなるべく温存の方針。
もし万が一、囮役のクリスの負担が大きいと判断された場合、アルフレッドとクリスが、役割をスイッチすることも想定している。
二組目は、アイビーとコレットのペア。
お互いの、長所短所が合わせ鏡のようになっている二人は、互いに補い合って行動する。
役割は明確で、コレットが中~遠距離からの射撃を担当し、アイビーが近接戦闘を担当する布陣である。
特にコレットは、携行する弾薬も多く、「カン」も優れているので、アイビー以外の全メンバーの後方支援も状況次第で担う作戦だ。
もちろん、これらは「基本編成」なので、状況に応じて流動的に役割を変化させる。
そのタイミングや指示は、リーダーであるアルフレッドの役割だ。
チーム方針が固まったら、いよいよ大会に向けての準備である。
とはいえ、普段の授業、課題、予定もある中で、全員の時間を合わせて練習することは、容易ではない。
限られた時間の中で、メンバーは練習を積み重ねる。
互いの動きの癖や距離感なども確認し、時には適役と味方役に分かれての対戦も行い、相互で技術を磨いていく。
とくにクリスに対しては、他チームからの集中砲火を想定した、「クリス 対 メンバー全員」といった、変則的な模擬戦も行った。
ちなみにその時、クリス以外のメンバーが、クリスと模擬戦をしたときに持った感想は、ここで多くは語らない。
ただあえて、一言で言えば、
「こいつ、宇宙人か何かだよね? 」
である。
あっという間に月日は流れ、いよいよエクウェス祭当日がやってきた。
ロザライム士官学校の年間行事において、この大会は毎年、非常に大きな盛り上がりを見せる。
生徒が個人、またはチームで分かれ、アームドフレームの技術を競うことになる、この大会。
ロザライム士官学校150年の歴史の中で、この大会は、毎年様々なドラマが生まれること、請け合いである。
この大会では、各生徒個人の技量や、立ち振る舞いに対し、個別で割り当てられた審査員から、常に厳しい目が向けられる。
審査員の厳正なる審査をもって、生徒のアームドフレームの腕前が、明確なランキングとして発表されるのだ。
上位ランク者には喜びを、下位ランク者には絶望を与えるこのシステム。
貴族、平民の違いや垣根を取っ払い、(
上位ランクとなったものは、勲章の授与、広報誌への掲載、インタビュー特集など、一年の間、ある種のヒーローとして扱われる。
軍の上層部からの覚えもめでたくなり、将来の地位も有望だ。
反対に、下位のランクとなったものは、「不出来」「落ちこぼれ」の烙印を押され、大変肩身の狭い思いで一年間を過ごすことになる。
そんな大会の開始が、あと約1時間と迫る中。
士官学校の、中央エリアにある「貴賓室」では、多くの関係者が集まっていた。
学園の教師、OB、関係者の他、ロザライム軍の上層部、幕僚など、そうそうたるメンバーが顔を並べている。
ちなみに、その中には、クリスの入学を後押しした、キースの姿もあった
そんな貴賓室の中央、黒い革製の立派な椅子に、背広を着た体格の良い男が座っている。
頭にうっすらと、白髪が見て取れるが、体格はがっしりとし、余計な贅肉もなく、眼光も鋭い。
彼は、ロザライムの国防において絶大な権力を持つ、レイモンド国防副長官である。
ちなみに、彼が、士官学校の行事に出席するのは、始業式以来。
関係者との顔合わせや挨拶を済ませ、彼は先ほど、席に戻ったばかりである。
そして、レイモンドの隣に座っているのは、ロザイライム士官学校の理事長であるリチャード。
顔は柔和な笑みを浮かべているが、目は油断ならない鋭さを放つ壮年の男である。
一息つき、紅茶のティーカップをソーサーに戻したレイモンドは、おもむろに、理事長のリチャードに対し、声をかけた。
「……ところで、君の眼から見て、今回の大会で、目玉となりそうな生徒やチームはあるのかね?」
そう尋ねられたリチャードは、自分の懐にある端末をレイモンドに示しながら、答える。
「はい、今回は例年にも増して、面白い大会になりそうです。私が考えるに、やはりクリス・エバンスが、今回の大会では、
「……例の、士官学校始まって以来の、凄まじい成績を残した平民のことか」
眉をひそめながら、レイモンドは言葉を発する。
レイモンドは、本士官学校の卒業生の一人であり、その昔、アームドフレームのパイロットにあこがれ、エースを志したこともある。
個人的にも、アームドフレームへの思い入れは強く、将来有望な若者については、部下経由で自分に報告を上げさせていた。
レイモンドが、クリスの報告を受けた時は、思わず目と耳を疑った。
たかが作業用フレームの経験が2年の人間に、そんなスコアは断じて叩き出せるものではない。
アームドフレームの操縦は、そんなに甘いものではない。
何かの間違いではないか、と疑ったが、多くの教師や生徒も見ている中での成果でもあるという。
レイモンドの心中は、穏やかではなかった。
レイモンドが、たかが一学生の成果に対し、なぜここまで心が乱されているか。
その理由はまず、彼自身がアームドフレームのパイロットとして、大成できなかったことにある。
彼にとって、アームドフレームのパイロットはヒーローそのもの。
幼い時からあこがれを持ち続け、いずれ自分はパイロットとして頭角を現し、国の英雄となって、国民からあふれんばかりの称賛をあびるものだと、レイモンドは固く信じていた。
しかし、現実は非情であった。
彼に、パイロットとしての才能はなかった。
もちろん、レイモンドは懸命な努力を続けたが、パイロットとしての技量はいつまでたっても平凡そのもの。
アームドフレームのエースとして、国民の英雄となるなど夢のまた夢であった。
彼は忸怩たる思いで、パイロットとなる夢をあきらめた。
鬱屈した気持ちや情熱を、「出世のための組織内政治」にすべて注ぎ込んだ。
幸か不幸か、レイモンドは出世競争に関しては、優れた才能と運を持ち合わせていた。
名門公爵家出身の彼は、他のライバルたちをあの手この手で押しのけ、瞬く間に高い地位へ上り詰める。
しかし、彼の心の奥底では、「
それは、現在のパイロットたちに対する、「
アームドフレームに思い入れがあり、将来有望な若者について気になっているのに、大きすぎる才能の持ち主には、嫉妬の心が抑えられない。
そんな、一見すると矛盾するような、精神状態を持ち合わせるのが、レイモンドなのだ。
また、クリスが平民であることも、拍車をかけていた。
レイモンドは名門貴族として、非常に高いプライド、気位をもっていた。
そのため、クリスが貴族出身であるならば、嫉妬の心を何とか押し殺して、功績を認める度量もあったのだが……残念ながら、現実は異なっていた。
「私も、報告は受けているが……しかし、いまだに信じられんな。不正などがあったのではないかね?」
「はい、副長官のお気持ちはもっともです。とはいえ、多くの教師、生徒が実際にテストの様子を見ておりますので、この成績は事実です。また、これだけ観衆の目がある中で、不正を行った可能性は限りなく低いでしょう。……ただ、アームドフレームを使った、実際の戦闘の実力は未知数。彼及び、彼のチームが、今大会でどのような立ち回りを見せるか、
「ふん……しかし一点気になるのが、その学生の苗字。たしか
レイモンドの言葉に対し、リチャードは、思わず口角をあげる。
「……さすがは副長官。はい、彼の苗字はエバンスです。……まさに副長官がご想像される通り、かの不忠物、アーサー・J・エバンスは、彼の保護者、つまりは親にあたります」
「なんだと!?」
その言葉に対し、レイモンドは不快感を隠し切れず、思わず声のボリュームが大きくなる。
「よりにもよって、あいつの息子とは……! くそっ……あいつを思い出すだけで、はらわたが煮えくり返ってくるわ……! なぜ、あの忌々しいアーサーの息子なんぞが、この学校に入学しているのだ!?」
「申し訳ございません。私どもとしても、かのアーサーの縁戚とわかった時点で、入学を認めない手段も取れたのですが……しかし、キース・S・リンドレー少佐が、クリスの入学にあたり、強力なバックアップをしておりまして、本校の立場としても、無下に拒否することもできず……」
「ちっ……最近でかい顔している、あの生意気な若造か。余計なことを。……そういえば、奴はアーサーとも以前、親しかったな」
レイモンドは、貴賓室の端の方に座る、キースをじろりと睨む。
幸いと言うべきか、キースはその視線に気づくことはなかった。
もはや、レイモンドのクリスに対する心象は「
「……だが、どうするのだ!? 伝統あるロザライム士官学校のエクウェス祭で、平民の、しかも裏切り者のアーサーの息子が、ヒーローとして持ち上げられることなど、断じてあってはならんことだぞ!」
さすがに周囲を気にして、リチャードだけに聞こえるくらいの音量で、レイモンドは声を荒げる。
リチャードは周囲を見渡したのち、レイモンドの耳元で、声のトーンを落として話を続けた。
「副長官のおっしゃること、もっともでございます。己の分をわきまえず、自分に才能があると思いあがった生徒の鼻っ柱を折ることも、学校の役目と心得ます。なので、恐れながら、すでに手は打っております」
「ふむ……というと?」
「彼と、彼の所属するチームには、大会から早々に退場してもらいましょう。彼らが参加する予選のバトルロワイヤルですが、彼のチーム以外の4チームには、すでに
……いくらアーサーの息子が素晴らしい腕前を持っていようと、4チームからの同時攻撃に耐えられることはありますまい。これにて、早々にチームは敗退し、そうすれば、彼がランキングの上位にあがることはなくなりましょう」
リチャードの話す策略に対し、レイモンドは思わず口元をゆがめた。
「なるほど……ひとまずは、安心というわけだ。さすがはリチャードだ」
「お褒めの言葉、恐縮でございます」
多少、
「……そういえば、あのニールセンの坊やは、今回どうなっている?」
「ええ……レノ・パトリック・ニールセンは、我々にとって
「ふっ……相変わらず、抜け目がない男だな」
その言葉に、にやりとした顔を浮かべながら、リチャードは優雅に礼をした。
この大会を通じ、様々な人間の、様々な思惑が重なりあっていた。
ある生徒たちは愚直に準備をし、ある生徒は悪魔の口車にのせられ、ある策士は裏で策略を巡らす。
そんな、人々の思いを乗せ、エクウェス祭はもう間もなく始まろうとしていた。
アーサー「やめた後でも、そんなに嫌われているなんて、聞いてない」
キース「なんだか妙な寒気が……?」