フェノメノン   作:xtakashi

29 / 42
もう間もなくと言ったが、今回ではない!


第25話 歪んだ思い

 

 

 

 エクウェス祭は滞りなく進行し、ついにメインイベントである、チーム対抗戦がもう間もなく始まろうとしていた。

 

 チーム対抗戦の予選、バトルロワイヤルは、チームを入れ替え、合計4回実施される。

 それぞれの回で勝ち抜いた上位2チームが、決勝トーナメントに進出する仕組みだ。

 

 戦闘が行われる場所は、総面積が約80平方キロメートルに及ぶ、広大なフィールドである。

 

 フィールドは、大きく5つのエリアに分けられる。

 荒野エリア、砂漠エリア、市街地エリア、森林エリア、山岳エリアの5か所だ。

 ちなみに、各チームがスタート時、どこのエリアに配置されるかは、直前まで知らされない。

 

 どのようなアームドフレームの機体を使用するかは、参加する各チームの生徒たちに一任されている。

 そのため、特定のエリアでの運用に特化した機体編成にするか、どんな状況でも能力を発揮できる万能性を重視するか、そのあたりは各チームの判断となる。

 

 

 学校関係者を除いた、一般の生徒、観客は、士官学校の「中央エリア」にある、大きな講堂に集められていた。

 講堂の前方、一番大きなスクリーンには、バトルロワイヤルのフィールドが一枚マップとして、写されている。

 

 それによって、各生徒がフィールドのどこにいるかが、一目でわかるようになっている。

 また、隣のサブスクリーンには、各生徒それぞれの、機体状況などの詳細が、わかるように表示されている。

 

 加えて、それ以外にも、参加する生徒たちをリアルタイムで中継する映像が、いくつもモニターで映し出されている。

 バトルロワイヤルの実際のフィールドは、学校の敷地から離れた位置に存在するが、遠隔でも臨場感あふれる戦場の様子を、観客は堪能することができるのだ。

 

 

 先ほども記載したが、チーム対抗戦を行うにあたって、どんなアームドフレーム、どんな装備を使用するかは、生徒の選択であり、自由である。

 ただ、それはあくまで「()()()()()()()()()()()()()()()()()()」での自由、となる。

 

 完全に無制限にした場合、個人的に費用をかけて、機体をカスタマイズできる富裕層や、貴族が必然的に有利となってしまい、平民や貧困層が不利となってしまう。

 また、乗りての安全性を度外視したような、むちゃな機体構成が選択されてしまう恐れもある。

 

 あくまで本大会の目的は「生徒のアームドフレームの腕前を安全に競い、公正公平に順位をつけるもの」である。

 予算をかけ、安全性を無視した、高性能機体によるごり押しは、本来の目的から逸脱するため、そうしたことができないような決まりとなっているのだ。

 

 自動車レースのF1(フォーミュラーワン)でも、レギュレーションで、車体の大きさや、エンジンの仕様などが、事細かく設定されているのと、同じ理屈だ。

 

 

 

 しかし、規定を設定し、チェックを行うのがともに人間である限り、「不正行為」というのは得てして発生するもの。

 

 今回参加する、レノ・パトリック・ニールセン及び、彼のチームメイトも例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 バトルロワイヤル開始まで、残り僅か。

 参加予定の生徒たちは、直前で発表されたスタート時の位置で、すでにスタンバイが完了している。

 

 クリスやアルフレッド達、そしてレノのチームも、今か今かと開始の合図を待っていた。

 

 

 レノ及びチームメイトは、リチャード理事長による手回しにより、使用する機体に対し、事前チェックの()()()()()を賜っていた。

 ありていに言えば、彼らは、他の参加チームの機体と比較し、全体的に約1.2倍程度の性能を持つ機体での参加が、許されているのだ。

 

 それは、レノの実家と、理事長の関係性による、ちょっとした「()()()()」というものである。

 

 

 レノは操縦席に座り、今回の大会に至るまでの思いにはせる。

 

 彼は、今回の不正について、罪悪感で心を痛める……といったことは一切ない。

 むしろ、使えるものを使って何が悪い、といったある種の「開き直り」の気持ちをもっていた。

 

「生まれに貴賤ない」「その人の持つ本来の実力、能力が重要である」

 そんなものは、しょせんは綺麗ごとで、タテマエにすぎない、というのがレノの考えだ。

 

 こうした、「裏技」を使えることも含めて、自分の実力であり、「裏技」も使えない馬鹿正直な平民は、やはり貴族たる自分とは、生まれながらにして「明確な差」があるのだ。

 レノは今回、自分の考えが間違っていないと、改めて気持ちを強くした。

 

 しかし、そんなレノの心を最近、ひと際ざわつかせる存在がある。

 あの忌々しい平民、クリス・エバンスのことだ。

 

 レノにとって当初、平民の分際で、自身が多少なりとも認めるアルフレッドと、親しげに話す様子が鼻持ちならない……といった程度のものだった。

 そもそも、平民に対してフランクに話しかける、アルフレッドに対するイラつきもあった。

 そのため、レノのクリスに対する印象は、その段階では、見下しはするものの「()()()()()()()()」であった。

 

 

 

 しかし問題なのはその後。

 クリスが実技テストを披露した時であった。

 

 

 一目見て、レノは言葉を失ってしまった。

 平民で、どうでもいい存在であるはずのこいつが、なぜこんなにも美しい操縦をすることができるのか。

 

 クリスの操縦は、全てにおいて完璧で、非の打ちどころがなく、その瞬間、レノも思わず完全に見惚れてしまったのだ。

 まさに天才、まさに伝説的。

 自分と同じ年とは思えぬ、圧倒的な器。

 掛け値なしの才気。

 

 そして、そんなレノの心の内に、次に宿ったのは、「困惑」や「嫌悪」といった気持ちであった。

 ちょっと待て、今、自分はどんな感情を持った? 

 まさか、自分は取るに足らない平民に対し、「憧れ」や「嫉妬」を抱いてしまったのか? 

 一瞬でも、格下と思っていた相手に、「敬意」を持ってしまったのか? 

 

(違う! そんなことは断じて認めねぇ!)

(これは何かの間違いだ!)

 

 レノは、自身の心に宿ってしまった、「感情」を必死に否定した。

 こんな自分があってはならない、そんなことがあるはずがない。

 貴族は上に立つ存在で、平民は下の地位に甘んじる存在だ。

 貴族よりも平民が、優れた才を持つに留まらず、よもや、選ばれた存在である自分が、平民に「()()」し、「()()()()()()」など、断じてあってはならない! 

 

 そんなレノの気持ちとは裏腹に、クリスの実技テストを見たその日以来、眠っているときのレノの夢にまで、そのシーンが何度も、再現されることになる。

 

 

(くそがっ!)

(認めねぇ! 俺は絶対に認めねぇぞ!)

(こうなったら、こいつと実際に戦って、自分が上であることを証明するしかねぇ! そうだ、こいつはあくまでチュートリアルがうまかっただけだ! 実際、戦ったら大したことないに違いねぇ! そのことを絶対に証明してやる!)

 

 レノは、今回の大会に対し、並々ならぬ思いをもって望んでいた。

 そうした中での、理事長からの融通は、レノにとってまさに渡りに船。

 

 しかも、聞いたところによると、自分及びチームへの融通の他に、他のチームも一斉に、クリスのチームへ攻撃を加えるというではないか。

 

(けっ……フェアプレー精神なんぞ、戦場で役に立つか! 不正上等、最終的に勝てばいいんだよ!)

 

 できるだけ無残に、無慈悲に、クリスを衆目の前で、むごたらしく蹂躙してやる! 

 そうすることで、初めて自分は気持ちに区切りをつけられ、もう悪夢に悩まされることはなくなるのだ。

 

 レノは改めてそう確信し、怨敵の方角を操縦席の中でにらみつけるのだった。

 

 

 そしてついに、大会予選のバトルロワイヤルが開始された。

 

 

 




クリス「そんなん知らんがな」

お待たせしました、ようやく次回が大会本番となります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。