エクウェス祭は滞りなく進行し、ついにメインイベントである、チーム対抗戦がもう間もなく始まろうとしていた。
チーム対抗戦の予選、バトルロワイヤルは、チームを入れ替え、合計4回実施される。
それぞれの回で勝ち抜いた上位2チームが、決勝トーナメントに進出する仕組みだ。
戦闘が行われる場所は、総面積が約80平方キロメートルに及ぶ、広大なフィールドである。
フィールドは、大きく5つのエリアに分けられる。
荒野エリア、砂漠エリア、市街地エリア、森林エリア、山岳エリアの5か所だ。
ちなみに、各チームがスタート時、どこのエリアに配置されるかは、直前まで知らされない。
どのようなアームドフレームの機体を使用するかは、参加する各チームの生徒たちに一任されている。
そのため、特定のエリアでの運用に特化した機体編成にするか、どんな状況でも能力を発揮できる万能性を重視するか、そのあたりは各チームの判断となる。
学校関係者を除いた、一般の生徒、観客は、士官学校の「中央エリア」にある、大きな講堂に集められていた。
講堂の前方、一番大きなスクリーンには、バトルロワイヤルのフィールドが一枚マップとして、写されている。
それによって、各生徒がフィールドのどこにいるかが、一目でわかるようになっている。
また、隣のサブスクリーンには、各生徒それぞれの、機体状況などの詳細が、わかるように表示されている。
加えて、それ以外にも、参加する生徒たちをリアルタイムで中継する映像が、いくつもモニターで映し出されている。
バトルロワイヤルの実際のフィールドは、学校の敷地から離れた位置に存在するが、遠隔でも臨場感あふれる戦場の様子を、観客は堪能することができるのだ。
先ほども記載したが、チーム対抗戦を行うにあたって、どんなアームドフレーム、どんな装備を使用するかは、生徒の選択であり、自由である。
ただ、それはあくまで「
完全に無制限にした場合、個人的に費用をかけて、機体をカスタマイズできる富裕層や、貴族が必然的に有利となってしまい、平民や貧困層が不利となってしまう。
また、乗りての安全性を度外視したような、むちゃな機体構成が選択されてしまう恐れもある。
あくまで本大会の目的は「生徒のアームドフレームの腕前を安全に競い、公正公平に順位をつけるもの」である。
予算をかけ、安全性を無視した、高性能機体によるごり押しは、本来の目的から逸脱するため、そうしたことができないような決まりとなっているのだ。
自動車レースのF1(フォーミュラーワン)でも、レギュレーションで、車体の大きさや、エンジンの仕様などが、事細かく設定されているのと、同じ理屈だ。
しかし、規定を設定し、チェックを行うのがともに人間である限り、「不正行為」というのは得てして発生するもの。
今回参加する、レノ・パトリック・ニールセン及び、彼のチームメイトも例外ではなかった。
バトルロワイヤル開始まで、残り僅か。
参加予定の生徒たちは、直前で発表されたスタート時の位置で、すでにスタンバイが完了している。
クリスやアルフレッド達、そしてレノのチームも、今か今かと開始の合図を待っていた。
レノ及びチームメイトは、リチャード理事長による手回しにより、使用する機体に対し、事前チェックの
ありていに言えば、彼らは、他の参加チームの機体と比較し、全体的に約1.2倍程度の性能を持つ機体での参加が、許されているのだ。
それは、レノの実家と、理事長の関係性による、ちょっとした「
レノは操縦席に座り、今回の大会に至るまでの思いにはせる。
彼は、今回の不正について、罪悪感で心を痛める……といったことは一切ない。
むしろ、使えるものを使って何が悪い、といったある種の「開き直り」の気持ちをもっていた。
「生まれに貴賤ない」「その人の持つ本来の実力、能力が重要である」
そんなものは、しょせんは綺麗ごとで、タテマエにすぎない、というのがレノの考えだ。
こうした、「裏技」を使えることも含めて、自分の実力であり、「裏技」も使えない馬鹿正直な平民は、やはり貴族たる自分とは、生まれながらにして「明確な差」があるのだ。
レノは今回、自分の考えが間違っていないと、改めて気持ちを強くした。
しかし、そんなレノの心を最近、ひと際ざわつかせる存在がある。
あの忌々しい平民、クリス・エバンスのことだ。
レノにとって当初、平民の分際で、自身が多少なりとも認めるアルフレッドと、親しげに話す様子が鼻持ちならない……といった程度のものだった。
そもそも、平民に対してフランクに話しかける、アルフレッドに対するイラつきもあった。
そのため、レノのクリスに対する印象は、その段階では、見下しはするものの「
しかし問題なのはその後。
クリスが実技テストを披露した時であった。
一目見て、レノは言葉を失ってしまった。
平民で、どうでもいい存在であるはずのこいつが、なぜこんなにも美しい操縦をすることができるのか。
クリスの操縦は、全てにおいて完璧で、非の打ちどころがなく、その瞬間、レノも思わず完全に見惚れてしまったのだ。
まさに天才、まさに伝説的。
自分と同じ年とは思えぬ、圧倒的な器。
掛け値なしの才気。
そして、そんなレノの心の内に、次に宿ったのは、「困惑」や「嫌悪」といった気持ちであった。
ちょっと待て、今、自分はどんな感情を持った?
まさか、自分は取るに足らない平民に対し、「憧れ」や「嫉妬」を抱いてしまったのか?
一瞬でも、格下と思っていた相手に、「敬意」を持ってしまったのか?
(違う! そんなことは断じて認めねぇ!)
(これは何かの間違いだ!)
レノは、自身の心に宿ってしまった、「感情」を必死に否定した。
こんな自分があってはならない、そんなことがあるはずがない。
貴族は上に立つ存在で、平民は下の地位に甘んじる存在だ。
貴族よりも平民が、優れた才を持つに留まらず、よもや、選ばれた存在である自分が、平民に「
そんなレノの気持ちとは裏腹に、クリスの実技テストを見たその日以来、眠っているときのレノの夢にまで、そのシーンが何度も、再現されることになる。
(くそがっ!)
(認めねぇ! 俺は絶対に認めねぇぞ!)
(こうなったら、こいつと実際に戦って、自分が上であることを証明するしかねぇ! そうだ、こいつはあくまでチュートリアルがうまかっただけだ! 実際、戦ったら大したことないに違いねぇ! そのことを絶対に証明してやる!)
レノは、今回の大会に対し、並々ならぬ思いをもって望んでいた。
そうした中での、理事長からの融通は、レノにとってまさに渡りに船。
しかも、聞いたところによると、自分及びチームへの融通の他に、他のチームも一斉に、クリスのチームへ攻撃を加えるというではないか。
(けっ……フェアプレー精神なんぞ、戦場で役に立つか! 不正上等、最終的に勝てばいいんだよ!)
できるだけ無残に、無慈悲に、クリスを衆目の前で、むごたらしく蹂躙してやる!
そうすることで、初めて自分は気持ちに区切りをつけられ、もう悪夢に悩まされることはなくなるのだ。
レノは改めてそう確信し、怨敵の方角を操縦席の中でにらみつけるのだった。
そしてついに、大会予選のバトルロワイヤルが開始された。
クリス「そんなん知らんがな」
お待たせしました、ようやく次回が大会本番となります。