ついにバトルロワイヤル開幕です。
開始の合図と同時に、クリスたちのチームはさっそく行動を開始する。
まずはアルフレッドの指示のもと、彼らはクリスを先頭に「市街地エリア」へ向かって、早急に移動することにした。
これは、自分たちのチームが、他チームから狙われやすいことを鑑み、遮蔽物の少ないエリアにいることは危険であると、アルフレッドが判断したことに起因する。
クリスたちが現在いる、「荒野エリア」は、見通しはよいが、障害物が何もない。
360度の方向から、敵に狙われる恐れがある。
隣接する「市街地エリア」であれば、見通しは悪くなるが、仮に集中攻撃を受けた場合でも、敵からの攻撃から身を守りやすくなる。
「市街地エリア」に敵がいる場合は、もちろん戦闘となってしまうが、ここは先手必勝で叩き潰す!
クリスたちはそんな決意を胸に、「市街地エリア」へと突き進む。
「……レーダーに反応ありました!市街地エリアに敵影5を確認!」
メンバーの中で、一番の広域レーダーを装備する、コレットから他のメンバーへ通信が入る。
「ぐずぐずしていると、他チームからも襲撃を受ける恐れがあるな。」
「迷っている暇はありませんわ。ここは迅速に叩き潰しましょう!」
感想を漏らすグレンに対し、アイビーが威勢よく返答した。
「よし、当初の作戦通りいくぞ!クリス、さっそくだけど、先行して、君の腕を存分に、相手へ見せつけてやってくれ!」
「了解」
アルフレッドの指示に対し、クリスは短く返答する。
その返答は簡素ではあったが、力のこもった響きがあった。
市街地エリアが、スタート視点として割り当てられたチームのリーダー、ジョシュ・I・コナーズは、北西の方角より迫る敵を、レーダーで確認していた。
今回、生徒たちが標準的に装備する、各種アームドフレーム用のレーダー。
実は、クリスのチーム以外の、生徒たちのものには、とある「細工」が施されていた。
それは、クリスの位置だけは、「常に」レーダー上、どこにいるかがわかる、といったもの。
アームドフレームのレーダーは通常、「青色」の光点は味方を、「赤色」の光点は敵を表している。
しかし、そのどちらとも異なる、通常では存在しない、「緑色」の光点が彼らのレーダーには表示されていた。
この「緑色」の光点が、まさしく彼らのターゲットたる「獲物(クリス)」であった。
この光点が、たとえフィールド内のどこに移動したとしても、レノたちのレーダー上で、その方角と距離が常にわかるようになっているのだ。
そんな、最優先ターゲットを示す「緑色」の光点が、自分たちの方向へと、まっすぐに進んでくる。
こちらから赴く手間が省けたと、ジョシュは思わず口元がにやけるのを感じていた。
「よし!向こうからやってくるなら好都合だ!おい、全員、あの緑色の光点を、集中的に攻撃しろ!」
ジョシュは、チームメンバーに対し檄を飛ばす。
ジョシュのチームメンバーが持つ、スナイパーライフルの射程に、ついにクリスが到達した。
ターゲットの表示が赤(ロックオン)に変わった瞬間、彼らはライフルの引き金を引く。
クリスからの距離はまだ遠く、かつ自分たちは市街地の間に身を隠している。
こちらからの射撃に、クリスが気付くことはまずありえないし、また万が一気づけたところで、弾速の早いスナイパーライフルの弾丸を避ける術は、ほぼないに等しい。
ジョシュは、こちらからの攻撃は、100%命中すると確信していた。
……だが。
チュイン、チュイン、チュイン!
彼らが放った弾丸は、ターゲットを捕らえることなく、無情にもただ、地面をえぐっただけであった。
「な……なに…!?」
ジョシュは思わず、驚愕の表情を浮かべた。
これは、「
クリスは、攻撃を受ける寸前で、相手からのおおよその射線を特定。
弾丸に対し、直角の移動となるよう、補助ブースト(左右への急速移動を可能とするブースト)を使用して、彼らの攻撃を見事、すべて回避したのであった。
ちなみにこれは、言葉にすれば簡単だが、誰でもできるような技術かと言えば、断じて違うものである。
ブースターの音を響かせながら、クリスは敵機を、自身の装備するライフルの射程内まで、急速接近する。
ドシュウ、ドシュウ!
この間にも、ジョシュのチームはスナイパーライフルによる攻撃を絶えず続けていたが、そのすべてが、クリスのブースト移動によって回避されていた。
「畜生……!?一体全体どうなってやがる!」
当たるはずの攻撃が、ことごとく回避されている状態に、ジョシュとそのメンバーたちは、動揺を隠せなかった。
とはいえ、まだ勝敗が決したわけではない。
ひとまず、クリスを市街地の奥地まで誘い込むため、後退しながらの、遅滞射撃に切り替えるよう、ジョシュはチームメンバーに指示を出した。
「野郎なめやがって……!」
「おいバカ、やめろ!!」
……と、ジョシュのチームメンバーの一人が、苛立ちを抑えられず、クリスへ突撃を敢行する。
リーダーの静止の言葉を無視し、彼は、近接ブレードによる攻撃を仕掛けたのであった。
ブォン!という鈍い音共に、敵機のかざすブレードが、クリスへと迫る。
しかし、ブレードの間合いを完全に見切ったクリスが、それをぎりぎりで回避した。
そしてクリスは、空振りをした敵機に対し、すぐさまカウンターで、ブレード攻撃を仕掛ける!
クリスのブレードが、まるで吸い込まれるかのように、すんなりと敵機へと到達。
ザンッ!!という音を周囲に響かせた。
大会の会場のサブモニターではその瞬間、ジョシュのチーム員の一人の耐久値を表すメーターが0と表示された。
クリスの先ほどの攻撃で、撃墜判定がでた、ということである。
クリスの驚異的な回避技術と、見事なカウンターによる一撃に対し、講堂は大勢の観客による、拍手、歓声によって、大盛り上がりであった。
一般の生徒、観客とは別に、貴賓席では、学校関係者一堂、専用のモニターで大会を観戦していた。
この、バトルロワイヤルの「最初の
キースは、表情こそ変えなかったが、人に見えないよう、机の下でガッツポーズをしていた。
レイモンドは、苦虫を噛み潰したような顔をしている。
リチャードは、一見涼しい顔をしていたが、よく見ると額に、わずかにしわが寄っていた。
早々に、味方から犠牲がでたことで、ジョシュは焦りを隠せない。
「いいかお前ら!奴に対しては、絶対に深追いするな!あいつの二の舞になるぞ!何とか俺が、奴を引き付けて……」
「あら、彼だけに気を取られて、よろしいのですか?」
いつの間にか、アイビーの機体が、ジョシュのすぐ目の前へと接近していた。
ただ、そこは腐ってもチームリーダー。
ジュシュはすぐさま反転し、近接ブレードをアイビーの機体へと向けようとしたが……
「……!?ぬあっ!?」
その瞬間、ジョシュは鈍い振動を感じ、思わず機体がふらついてしまう。
遠距離からコレットが、ジョシュの機体の脚部を正確に狙撃し、体勢を崩したのだった。
ズザンッッ!!という音とともに、アイビーの機体は、ジョシュの機体を、近接ソードで十字に切り裂く!
会場のサブモニターでは、瞬く間に、ジョシュの機体の耐久値メーターが0にまで減少した。
「素晴らしいアシストでございました。コレットさん」
アイビーからの言葉に、「えへへ……」と照れるコレット。
「お、おい、ジョシュまでやられちまったぞ!」
「どど、どうすりゃ『ドウ!ドウ!ドウ!』ぐおぁぁ!!!」
と、3発の銃声が鳴り響いたのと同時に、ジョシュのチームメンバーの機体がまた1機、無残にも崩れ落ちた。
「いやぁ、すまない。あまりにも隙だらけだったものでね。思わず撃ってしまったよ。」
少し離れた場所に立つ、アルフレッドの機体が構えるライフルの銃口からは、白い煙が立ち上っている。
2発は頭部パーツ、一発は胴体パーツを撃ちぬいた、見事な射撃であった。
リーダーのジョシュを含む、計3名のチームメンバーが、一瞬のうちに退場してしまった。
残された2名は完全に、茫然自失の状態であり、彼らの頭にはもはや、「戦闘の継続」という選択肢は一切ない。
とにかく、生き残るために、一刻も早く、この場から離れなければ!
追い詰められた草食動物のように、彼らはわき目も降らず、逃走しようとするが……
当然のことながら、この絶好の機会を、
「おや、逃れられると思うかい?……皆、最後まで油断せず、残敵掃討といこうか?」
アルフレッドの言葉を合図に、クリス以下メンバーは、残された哀れな獲物に襲い掛かる。
指揮系統を失い、数の利も消失し、戦う意思をも失ったジョシュのチームは、まもなく全滅の憂き目にあうのであった。
グレン「あれ、俺の出番は……?」