前回、クリス君とゆかいな仲間たちは、無双状態でしたが、はてさて……
クリスが囮役で、敵の注意を引き付け、その隙に他のメンバーが攻撃する作戦(
開始早々、クリスたちのチームは、ほとんど被害や消耗もなく、敵チームの一つを全滅させることに成功した。
しかし、これで気を抜いてはいられない。
全5チーム中、トーナメントに出場できるのは、上位2チームのみ。
まだまだ敗退の可能性も残されており、トーナメントの組み合わせを考えると、できれば1位通過を狙いたいのが心情だ。
クリスたちは、ひとまず「市街地エリア」を拠点として、他のチームの出方をうかがうことにした。
「……来ました! 北東方面に敵影多数! 我々の方角に向かってきます!」
そうした中、広域レーダーによる索敵を行うコレットから、他のメンバーへ報告が上がる。
「おお、さっそく次の敵さんのお出ましかい! 腕がなるな」
「待ってください……西方向からも敵が来ています!
……え、そんなっ!? 南東方向からも! ……こんなことって……
「なんだって……!?」
コレットからの報告に、一同驚愕する。
自分たち除いたチームの数は3。
その残り3チームが、別方向から一斉に、自分たちへ襲撃を仕掛けてきているというのだ。
「まじかよ……いくら何でも、こんなことがありえるのか?」
「可能性は低いとはいえ、なくはないでしょう……どうやら私たちは、相当嫌われているようですわね」
グレンの疑問に対し、アイビーがうんざりしたように言葉を返す。
当然彼らは、理事長によって、自分たちが優先的に狙われるよう、仕組まれていることなど、知る由もない。
「ど……どうしましょう……‥? さすがに、3チームから同時に、別方面から攻撃されたら、先ほどのような作戦は使えそうにありません……」
コレットは不安そうに、仲間たちを見渡す。
クリスくんの敵さんホイホイ作戦は、あくまで敵が一方向からやってくる、もしくは時間差でやってくる場合に適応できる作戦だ。
このように、同時に、多方面から侵攻されてしまっては、クリスの囮としての役割は機能しない。
これでは、クリスたちの作戦は事実上、破綻してしまったと言って等しい。
そんな状況の中、リーダーであるアルフレッドは口を開いた。
「……やむをえないな。ひとまずチームを3組に分けて、それぞれで対応するしかないだろう。方針として、それぞれ市街地に引き込んで、ゲリラ戦に持ち込もう。他3チームも敵同士なのだから、うまくいけば敵同士での戦いも誘発できる」
アルフレッドの提案に、他のメンバーから異論はなかった。
「そうなると、チームをどのように分けるかだが……」
「俺は一人でいいよ」
クリスの発した言葉に、他メンバー全員が目を見張る。
「いまさら、メンバーの組み合わせを変更しても混乱するだけだ。だから、最初の編成通り、アルとグレンで1組、アイビーさんとコレットさんで1組、そして俺が単独。この編成でいい」
「おい待て……そうなると、最悪の場合、お前一人で5機を相手取らないといけなくなるんだぜ? さすがにそれは無茶だ!」
「大丈夫だ」
グレンの心配をよそに、クリスはこともなげに言う。
「アルフレッドさん、どうされますか?」
「……すまない……クリスには負担をかけてしまうが、ひとまずその組み合わせでしのぐしかない。僕とグレン、アイビーとコレットの組のどちらかが、何とか早めに敵を撃退し、早々にクリスの救援に行く……これしかないと思う」
アイビーが、リーダーであるアルフレッドに意見を求め、アルフレッドが、苦々し気に意見をまとめた。
彼にとっても、苦渋の選択であるということが、メンバーにもありありと伝わってくる。
重く、どんよりとした雰囲気が、チームメンバーの間に漂う。
「大丈夫だよ、アル」
そんなアルフレッドに、いつもと変わらない調子でクリスは言葉をかける。
「むしろ俺が、早々に5機を片付けて、みんなの救援に行く。それまでみんなは、頑張って持ちこたえてくれ」
クリスの発言に対し、他のメンバーは思わず目が点になった。
そして……
「ぷ……あははははははは!」
「いやいやいや、それはないだろう!!」
「くくくっ……さすがですわ、クリスさん」
「ふふふ……なんというか……やっぱりクリスさんは凄いですね!」
思い思いの反応が、クリス以外のメンバーから返ってきた。
当の発言の主であるクリスは、きょとんとした顔をしている。
そんなクリスに対し、アルフレッドが口を開く。
「ははは……‥いや、すまない。決して君をバカにしたわけじゃないんだ。こんな状況でも、そんな豪胆な発言ができる君に感心しただけだ。
……ただ、君が言うと、なんだか本当にそれができそうな気もしてくるよ」
気づけば、メンバー全体に漂っていた、重く張り詰めた空気がなくなり、全員が程よい緊張感に包まれていた。
メンバー一同が互いを見やり、小さくうなずいた(とはいってもアームドフレーム越しなので、素振りではあるのだが)。
「よし、ここが我々の正念場だ! 北東からの敵にはクリス、西からの敵にはアイビーとコレット、南東からの敵には僕とグレンで対応する! みんな、くれぐれも無理な深追いはしないように! 目の前の敵を撃退出来たら、柔軟に他のメンバーのサポートも頼む! ……では行くぞ!」
「おう任せとけ!」
「かしこまりましたわ!」
「了解です!」
「了解」
ケイティ・ルービスは、今回、リチャード理事長から持ち掛けられた「取引」に対し、本心では乗り気でなかった。
しかし、平民出身の彼女の実家は、経済的にゆとりがあるとは言えない。
そうした中、「
「何、難しいことはない。君たちは、あのクリスのいるチームを、ほんの少しばかり優先的に狙う。それだけでいいんだ。
……別に不思議なことはないだろう? 優秀なチームが、真っ先に狙われるなんて、過去の大会でもよく見られた光景ではないかね? それをほんの少し、ほんのちょっぴり、優先してくれればそれでいいのだよ。そうするだけで、君たちは、学校生活の1年の間、様々な費用が免除されるんだ。この中には、実家に兄弟、姉妹がいるところも多いことだろう。1年分の費用負担がなくなることで、ご両親も大いに助かるのではないかね?
ロザイライム士官学校の「授業料」は、国内の各種学校授業料の相場と比較しても、そこまで高額ではない。
しかし、そこには一つ、落とし穴があった。
授業とは別の、
「授業外」で、アームドフレームを用いた訓練や整備にかかる費用、ジムや道場などの各種トレーニング施設を使用するときの費用、各種武器類を使用・整備するときの費用等々……。
そうしたものは結局、各生徒の「自主負担」となるのだ。
ロザイライム士官学校は、「自由な校風」を特色として、掲げている。
授業がない時間、休みの日における、生徒の行動に、学校側は何も強制や、制限を課したりはしない。
しかし、その分「実力主義」で、劣等生や、実力のないものに対して、学校側は容赦しない。
授業外だからといって、訓練・鍛錬を怠り、結果として生徒が、課題やカリキュラムについてこれなくなったとしても、学校側は何もフォローしない。
そのため、ほとんどの生徒にとって、授業外での自主学習、トレーニングは欠かすことができないのだが、そのためには、どうしても「費用」がかさむのだ。
ケイティがリーダーを務める彼女のチームは、貧乏貴族と平民の混合チームである。
実家の懐事情も、けして恵まれているとはいえない。
そんな、彼女たちの状況を把握しているリチャード理事長は、狡猾な悪魔の契約を持ちかけたのだ。
柔和な笑顔を浮かべる理事長からの「取引」に対し、ケイティたちに抗うすべはなかった。
内心はどうあれ、一旦、取引を受けてしまったからには、それを遂行するしか道はない。
ケイティとそのチームメンバーたちは、迷いを押し殺し、クリスたちから見て北東方面から、ただまっすぐに、「緑色」の光点が指し示す場所へと進んでいた。
クリスは、アルフレッド達と別れ、ひとまず北東方面の配置についた。
敵が刻一刻と迫る中、操縦席で一人、今までのことに対して、思いをはせていた。
思い出したくもない幼少期があって、アーサーと出会い、アーサーと一緒に生活するようになり、キースとも顔見知りとなって、学校に入学して、初めて仲間、友達ができて……。
言葉にすると簡単だが、今まで実に、様々なことがあった。
アーサーと暮らす日々によって、わずかばかり「マシ」になったとはいえ、クリスの幼少期に培われた人間としての根本は、そう簡単に変化したりしない。
クリスの自分の感情に蓋をし、覆い隠し、内にこもる性質は、依然変わることなく、クリスの中に存在している。
だが、学校に入学してまだ数か月にすぎない月日が、
学校に入ることによって、出逢うことのできた、同学年の仲間たち。
共に学び、競い、そして助け合う、クリスにとって初めてできた「
エクウェス祭に向けて、実に多くの時間を、彼らと共に過ごし、語り合い、笑いあった。
自分から、多くのことを語らないクリスであったが、それでも彼らと共に過ごす時間は、心地よかったのだ。
基礎技術の才能に関しては、クリスが圧倒的に優れていたかもしれない。
しかし、それでも多くのことを、クリスは仲間たちから学んでいた。
コレットからは、戦場を俯瞰する力と、味方と協同する大切さを。
アイビーからは、思い切りよく決断する心構えと、勇気を。
グレンからは、攻守のバランス感覚と、判断力を。
アルフレッドからは、リーダーとしての責任感と、思考の柔軟性を。
いずれも、自分一人では気づけない、仲間がいたからこそ気づき、学ぶことのできたものだ。
基本的にクリスは、自己中心的な性格で、自分でもそれを自覚している。
実技テストの後も、うすうす周囲から孤立していることに気づいていながら、クリスは自分から周囲へ歩む寄る努力はしなかった。
クリスは、基本的に自分の殻に閉じこもり、感情を表に出さないことに加え、他者に対しての興味関心も、根本的に薄いのだ。
しかし、そんなクリスでも、彼ら4人のためなら、力を尽くしてもいいかもしれない、とまで考えていた。
エクウェス祭が始まる前の、仲間との模擬戦では、まだ仲間としての距離感がつかめなかった。
加えて、手の内を明かすことの恐れもあって、クリスの操縦は、遠慮がちとなってしまった。
さらには、「自主訓練にかかる費用は自己負担」ということもあり、ジャンク屋時代で身に着けていた、フレームの関節、パーツにかかる負担を最小限にする、丁寧な動きに終始していた。
しかし、今、直面しているのはチームの危機。
チームのため、仲間のため……遠慮や配慮といったものは、いったん脇に置こうと、クリスは心に決めた。
類まれなる才能を持っていながら、心を白い霞で覆い、自分のことしか考えていなかった、一人の若き天才。
彼は生まれて初めて、自分以外の他人のため、仲間のため……
今ここで、その才、その力の全力をふるうことを、決意するのであった。
「次回:北東からの敵、死す!?デュエルスタンバイ!」
■認識の違い
アルフレッド達「クリスの動きは、同じ地球人とは思えないような、素晴らしい動き!これはうちの完全なエースだわ」
↓
クリス君「遠慮して、しかも貧乏性もあわさって、くそしょぼい動きだったわ~」
アルフレッド達「「「「……え!?」」」」