フェノメノン   作:xtakashi

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前回、クリス君とゆかいな仲間たちは、無双状態でしたが、はてさて……


第27話 大包囲作戦

 

 

 

 クリスが囮役で、敵の注意を引き付け、その隙に他のメンバーが攻撃する作戦(()()()()()()()()()()()()()()())は、見事的中する。

 開始早々、クリスたちのチームは、ほとんど被害や消耗もなく、敵チームの一つを全滅させることに成功した。

 

 しかし、これで気を抜いてはいられない。

 全5チーム中、トーナメントに出場できるのは、上位2チームのみ。

 まだまだ敗退の可能性も残されており、トーナメントの組み合わせを考えると、できれば1位通過を狙いたいのが心情だ。

 

 クリスたちは、ひとまず「市街地エリア」を拠点として、他のチームの出方をうかがうことにした。

 

「……来ました! 北東方面に敵影多数! 我々の方角に向かってきます!」

 そうした中、広域レーダーによる索敵を行うコレットから、他のメンバーへ報告が上がる。

 

「おお、さっそく次の敵さんのお出ましかい! 腕がなるな」

「待ってください……西方向からも敵が来ています! 

 ……え、そんなっ!? 南東方向からも! ……こんなことって……3()()()()()()()()、我々は進攻されています!!」

「なんだって……!?」

 

 コレットからの報告に、一同驚愕する。

 自分たち除いたチームの数は3。

 その残り3チームが、別方向から一斉に、自分たちへ襲撃を仕掛けてきているというのだ。

 

「まじかよ……いくら何でも、こんなことがありえるのか?」

「可能性は低いとはいえ、なくはないでしょう……どうやら私たちは、相当嫌われているようですわね」

 グレンの疑問に対し、アイビーがうんざりしたように言葉を返す。

 当然彼らは、理事長によって、自分たちが優先的に狙われるよう、仕組まれていることなど、知る由もない。

 

「ど……どうしましょう……‥? さすがに、3チームから同時に、別方面から攻撃されたら、先ほどのような作戦は使えそうにありません……」

 コレットは不安そうに、仲間たちを見渡す。

 

 クリスくんの敵さんホイホイ作戦は、あくまで敵が一方向からやってくる、もしくは時間差でやってくる場合に適応できる作戦だ。

 このように、同時に、多方面から侵攻されてしまっては、クリスの囮としての役割は機能しない。

 これでは、クリスたちの作戦は事実上、破綻してしまったと言って等しい。

 

 そんな状況の中、リーダーであるアルフレッドは口を開いた。

「……やむをえないな。ひとまずチームを3組に分けて、それぞれで対応するしかないだろう。方針として、それぞれ市街地に引き込んで、ゲリラ戦に持ち込もう。他3チームも敵同士なのだから、うまくいけば敵同士での戦いも誘発できる」

 アルフレッドの提案に、他のメンバーから異論はなかった。

 

「そうなると、チームをどのように分けるかだが……」

「俺は一人でいいよ」

 クリスの発した言葉に、他メンバー全員が目を見張る。

 

「いまさら、メンバーの組み合わせを変更しても混乱するだけだ。だから、最初の編成通り、アルとグレンで1組、アイビーさんとコレットさんで1組、そして俺が単独。この編成でいい」

「おい待て……そうなると、最悪の場合、お前一人で5機を相手取らないといけなくなるんだぜ? さすがにそれは無茶だ!」

「大丈夫だ」

 グレンの心配をよそに、クリスはこともなげに言う。

 

「アルフレッドさん、どうされますか?」

「……すまない……クリスには負担をかけてしまうが、ひとまずその組み合わせでしのぐしかない。僕とグレン、アイビーとコレットの組のどちらかが、何とか早めに敵を撃退し、早々にクリスの救援に行く……これしかないと思う」

 アイビーが、リーダーであるアルフレッドに意見を求め、アルフレッドが、苦々し気に意見をまとめた。

 彼にとっても、苦渋の選択であるということが、メンバーにもありありと伝わってくる。

 重く、どんよりとした雰囲気が、チームメンバーの間に漂う。

 

 

 

「大丈夫だよ、アル」

 そんなアルフレッドに、いつもと変わらない調子でクリスは言葉をかける。

 

 

 

「むしろ俺が、早々に5機を片付けて、みんなの救援に行く。それまでみんなは、頑張って持ちこたえてくれ」

 

 

 

 

 クリスの発言に対し、他のメンバーは思わず目が点になった。

 そして……

 

 

 

「ぷ……あははははははは!」

「いやいやいや、それはないだろう!!」

「くくくっ……さすがですわ、クリスさん」

「ふふふ……なんというか……やっぱりクリスさんは凄いですね!」

 

 思い思いの反応が、クリス以外のメンバーから返ってきた。

 当の発言の主であるクリスは、きょとんとした顔をしている。

 

 そんなクリスに対し、アルフレッドが口を開く。

「ははは……‥いや、すまない。決して君をバカにしたわけじゃないんだ。こんな状況でも、そんな豪胆な発言ができる君に感心しただけだ。

 ……ただ、君が言うと、なんだか本当にそれができそうな気もしてくるよ」

 

 気づけば、メンバー全体に漂っていた、重く張り詰めた空気がなくなり、全員が程よい緊張感に包まれていた。

 メンバー一同が互いを見やり、小さくうなずいた(とはいってもアームドフレーム越しなので、素振りではあるのだが)。

 

「よし、ここが我々の正念場だ! 北東からの敵にはクリス、西からの敵にはアイビーとコレット、南東からの敵には僕とグレンで対応する! みんな、くれぐれも無理な深追いはしないように! 目の前の敵を撃退出来たら、柔軟に他のメンバーのサポートも頼む! ……では行くぞ!」

 

「おう任せとけ!」

「かしこまりましたわ!」

「了解です!」

「了解」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ケイティ・ルービスは、今回、リチャード理事長から持ち掛けられた「取引」に対し、本心では乗り気でなかった。

 

 しかし、平民出身の彼女の実家は、経済的にゆとりがあるとは言えない。

 そうした中、「1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」は、あまりにも魅力的な提案であった。

 

「何、難しいことはない。君たちは、あのクリスのいるチームを、ほんの少しばかり優先的に狙う。それだけでいいんだ。

 ……別に不思議なことはないだろう? 優秀なチームが、真っ先に狙われるなんて、過去の大会でもよく見られた光景ではないかね? それをほんの少し、ほんのちょっぴり、優先してくれればそれでいいのだよ。そうするだけで、君たちは、学校生活の1年の間、様々な費用が免除されるんだ。この中には、実家に兄弟、姉妹がいるところも多いことだろう。1年分の費用負担がなくなることで、ご両親も大いに助かるのではないかね? ()()()()()()と思って、軽い気持ちで引き受けてくれたら、それでいいのだよ」

 

 ロザイライム士官学校の「授業料」は、国内の各種学校授業料の相場と比較しても、そこまで高額ではない。

 しかし、そこには一つ、落とし穴があった。

 

 授業とは別の、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。

 

「授業外」で、アームドフレームを用いた訓練や整備にかかる費用、ジムや道場などの各種トレーニング施設を使用するときの費用、各種武器類を使用・整備するときの費用等々……。

 そうしたものは結局、各生徒の「自主負担」となるのだ。

 

 ロザイライム士官学校は、「自由な校風」を特色として、掲げている。

 授業がない時間、休みの日における、生徒の行動に、学校側は何も強制や、制限を課したりはしない。

 しかし、その分「実力主義」で、劣等生や、実力のないものに対して、学校側は容赦しない。

 

 授業外だからといって、訓練・鍛錬を怠り、結果として生徒が、課題やカリキュラムについてこれなくなったとしても、学校側は何もフォローしない。

 

 そのため、ほとんどの生徒にとって、授業外での自主学習、トレーニングは欠かすことができないのだが、そのためには、どうしても「費用」がかさむのだ。

 

 

 ケイティがリーダーを務める彼女のチームは、貧乏貴族と平民の混合チームである。

 実家の懐事情も、けして恵まれているとはいえない。

 

 そんな、彼女たちの状況を把握しているリチャード理事長は、狡猾な悪魔の契約を持ちかけたのだ。

 柔和な笑顔を浮かべる理事長からの「取引」に対し、ケイティたちに抗うすべはなかった。

 

 内心はどうあれ、一旦、取引を受けてしまったからには、それを遂行するしか道はない。

 ケイティとそのチームメンバーたちは、迷いを押し殺し、クリスたちから見て北東方面から、ただまっすぐに、「緑色」の光点が指し示す場所へと進んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスは、アルフレッド達と別れ、ひとまず北東方面の配置についた。

 敵が刻一刻と迫る中、操縦席で一人、今までのことに対して、思いをはせていた。

 

 思い出したくもない幼少期があって、アーサーと出会い、アーサーと一緒に生活するようになり、キースとも顔見知りとなって、学校に入学して、初めて仲間、友達ができて……。

 言葉にすると簡単だが、今まで実に、様々なことがあった。

 

 アーサーと暮らす日々によって、わずかばかり「マシ」になったとはいえ、クリスの幼少期に培われた人間としての根本は、そう簡単に変化したりしない。

 クリスの自分の感情に蓋をし、覆い隠し、内にこもる性質は、依然変わることなく、クリスの中に存在している。

 

 

 だが、学校に入学してまだ数か月にすぎない月日が、()()()()()()()、クリスの心境に変化を生じさせていた。

 

 学校に入ることによって、出逢うことのできた、同学年の仲間たち。

 共に学び、競い、そして助け合う、クリスにとって初めてできた「()()」といえる4人の存在。

 

 エクウェス祭に向けて、実に多くの時間を、彼らと共に過ごし、語り合い、笑いあった。

 自分から、多くのことを語らないクリスであったが、それでも彼らと共に過ごす時間は、心地よかったのだ。

 

 基礎技術の才能に関しては、クリスが圧倒的に優れていたかもしれない。

 しかし、それでも多くのことを、クリスは仲間たちから学んでいた。

 

 コレットからは、戦場を俯瞰する力と、味方と協同する大切さを。

 アイビーからは、思い切りよく決断する心構えと、勇気を。

 グレンからは、攻守のバランス感覚と、判断力を。

 アルフレッドからは、リーダーとしての責任感と、思考の柔軟性を。

 

 いずれも、自分一人では気づけない、仲間がいたからこそ気づき、学ぶことのできたものだ。

 

 基本的にクリスは、自己中心的な性格で、自分でもそれを自覚している。

 実技テストの後も、うすうす周囲から孤立していることに気づいていながら、クリスは自分から周囲へ歩む寄る努力はしなかった。

 

 クリスは、基本的に自分の殻に閉じこもり、感情を表に出さないことに加え、他者に対しての興味関心も、根本的に薄いのだ。

 

 しかし、そんなクリスでも、彼ら4人のためなら、力を尽くしてもいいかもしれない、とまで考えていた。

 

 

 

 エクウェス祭が始まる前の、仲間との模擬戦では、まだ仲間としての距離感がつかめなかった。

 加えて、手の内を明かすことの恐れもあって、クリスの操縦は、遠慮がちとなってしまった。

 

 さらには、「自主訓練にかかる費用は自己負担」ということもあり、ジャンク屋時代で身に着けていた、フレームの関節、パーツにかかる負担を最小限にする、丁寧な動きに終始していた。

 

 

 

 しかし、今、直面しているのはチームの危機。

 チームのため、仲間のため……遠慮や配慮といったものは、いったん脇に置こうと、クリスは心に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 類まれなる才能を持っていながら、心を白い霞で覆い、自分のことしか考えていなかった、一人の若き天才。

 

 彼は生まれて初めて、自分以外の他人のため、仲間のため……

 今ここで、その才、その力の全力をふるうことを、決意するのであった。

 

 





「次回:北東からの敵、死す!?デュエルスタンバイ!」


■認識の違い

アルフレッド達「クリスの動きは、同じ地球人とは思えないような、素晴らしい動き!これはうちの完全なエースだわ」



クリス君「遠慮して、しかも貧乏性もあわさって、くそしょぼい動きだったわ~」



アルフレッド達「「「「……え!?」」」」
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