フェノメノン   作:xtakashi

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またまたひっそりと更新


第30話 黄金の精神

 

 

 

【西方面】

 

 

 西方面を担当するアイビーとコレットは、大苦戦を余儀なくされていた。

 

「……な……なかなか厳しいですわね……!」

「もう無茶はよしてください、アイビーさん!!」

「だ……大丈夫ですわ……! コレットさん……この程度!」

 アイビーとコレットは、敵チームの猛攻を何とか耐えしのぎ、現在、遮蔽物のかげに身を隠している。

 

 アイビーの機体は、既に左腕のブレードは動かなくなり、耐久地もレッドゾーンを示していた。

 機体のいたるところにダメージが蓄積し、戦闘力がかなり低下している。

 しかし、心配するコレットをよそに、彼女の眼に映る闘志は、いささかの陰りも見せなった。

 

「ちい……しぶとい奴め!」

 敵の様子をうかがう、レノのチームのメンバー一人が、彼女たちの想定外のしぶとさに、舌打ちをうつ。

 

「まあ、これくらい、粘ってくれた方が、こちらとしても張り合いがあらあ。クリスとかち合わなかったのは、ついてねぇと思っていたが、そのかわりアイビー、お前に出会えたのは幸運だったぜ!」

 レノが、操縦席で薄ら笑いを浮かべながら、オープンチャンネルでアイビーたちに語り掛ける。

 

 レノたちのチームは、それぞれの役割において、微妙に武装をかえているが、5名すべてが中量2脚を操る、総合力の高いチームである。

 

 チームは、リーダーのレノ、そしてレノの取り巻き、子分で構成されている。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()」という、チームコンセプトが徹底されており、そう言った意味では、高いチーム力を誇る。

 

 また普段、あまり努力や勤勉という言葉が似合わないレノも、今回ばかりは、エクウェス祭が始まるまでの間、授業外のかなりの時間を、チーム及び個人練習に費やしていた。

 

 全ては、自分をかき乱し、惑わせた、にっくきクリスを打ち倒すため。

 

 しかし、勇んでやってきたものの、クリスと接敵することはかなわず、代わりに、アイビーとコレットと対峙することになる。

 これは、レノにとってある意味、思いがけない幸運であった。

 

 レノは、貴族同士の交流などで、アイビーとは昔ながらの顔なじみである。

 子供のころから縁があり、年を重ねるごとに美しくなるアイビーに対して、レノは一方的な思いも寄せていた。

 

『自分は名門貴族で、才能もあふれ、選ばれた存在だ。

 そんな自分と、同じく名門貴族で、美しく、優秀なアイビーは、まさにこれ以上ないベストな組み合わせだ。

 彼女にとっても、自分が恋人になってやると申し出てやることは、この上ない幸福に違いない』

 

 そう確信していたレノは、士官学校中等部の卒業式の後、アイビーに一世一代の告白をする。

 

 

 

 しかし……

 

 

「申し訳ありませんが、お断りいたしますわ」

 

「…………は……? 

 どうやら、耳がおかしくなったらしい。……もう一度言ってくれ」

 

「お断りいたしますわ」

「…………なぜだっ!!!! 

 この俺が、こうして、わざわざ時間を作って、告白までしてやっているというのに、お前は断るのか!!?」

「はい。わたくし、あなたの性格があまり好きではありませんので」

 

 アイビーからは、きっぱりと断られてしまった。

 振られることなど、かけらも考えていなかったレノは、プライドを大いに傷つけられることになる。

 

 

 その後、学校内や、貴族同士のイベントで、顔を合わせても、アイビーはレノを華麗にスルー。

 レノは、彼女と会話すら、満足にすることができない状態であった。

 アイビーからレノは、完全に「()()()()」として、扱われるようになっていた。

 

 レノが生まれて初めて、味わうことになった「大きな挫折」。

 それをもたらしたのは、ほかならぬアイビーであったのだ。

 

 

 

 

「どうだ、アイビー! 俺の実力を見たか! これが、これこそが俺の力だ! 

 俺からの誘いを断り、あまつさえ、ずっと俺を無視してやがることを後悔しても、もう遅え!! 

 ……とはいえ、こうして再び、相対することになったのも何かの縁というやつだ。だから、お前が、ど──ーしても、もう一度チャンスがほしいというのなら、まずは」

お断りいたしますわ

 

 アイビーからは、明確な拒絶の返答。

 慌てふためくのは、レノの取り巻きたちである。

「あ……あの大丈夫ですか、リーダー?」「つ、次に行きましょう次に!」と、気を使って声をかける。

 

 しかし、ここでは完全に火に油であった。

 レノの顔は、今まで見たことのないくらい、真っ赤に染めあがり、怒りのあまり湯気が出そうな勢いであった。

 

「き……貴様ぁぁ!!!! 一度ならずも、二度も、俺の顔に泥を塗りやがって!! もういい!! クリスの前に、てめえらから、さっさと退場させてやる!!」

 

 怒髪天を衝く、といった有様で、レノはいきり立ち、物陰に隠れるアイビーたちへ、攻撃を仕掛ける。

 彼のチームメンバーも、慌ててそれに続く。

 

 実際の問題として、アイビーとコレットは、確かに窮地に追い込まれていた。

 ただでさえ、5対2と圧倒的に不利な状況。

 しかも、リチャード学園長の()()により、レノたちは、他の参加者と比較し、約1.2倍程度スペックが上回る機体を使用している。

 

 そうした中、アイビーとコレットは連係し、地の利を生かした見事な立ち回りを見せていたが、やはり量と質、ともに上回る相手では、どうしても分が悪い。

 

 特に、アイビーは囮として、コレットをかばいながら、大太刀周りを繰り広げていたため、機体の消耗も激しい。

 満身創痍の状態ではあるが、未だ撃墜されていないことは、ほとんど奇跡的と言っていいだろう。

 

「コレットさん、お願いがあります。私が最後に、暴れまわって敵を引き付けます。その隙に、アルフレッドさんたちの方へ、逃げてくださいな!」

「!? ……な、何を言っているんですか!? それこそ、私が囮になります!」

「あの、下賤な男は、この私に執着している様子。であれば、私が囮になった方が、都合がいいでしょう。それに、平民を囮にして、逃げるなど、それこそ私の貴族としての矜持が許しません!!」

「そんな! アイビーさんの方が、機体の機動力があります! ここは私が……」

 

 そんな言い争いをしている間にも、レノたちの攻撃は激しさを増している。

 彼女たちの身を守っている障害物も、激しい攻撃により、見る見るうちに崩壊しかかっている。

 

「まったく! あなたはなぜ、こういうときばかり、自己主張をきちんとなさるのですか! いいから黙ってお逃げなさい!」

「じ……実力を考えれば、私よりも、アイビーさんの方が上です! アイビーさんの方が、私なんかよりもよっぽど凄いし、勇気があるし、チームに必要な人です! 今後のことを考えれば、私が犠牲になる方が合理的です!」

「あなたは何をいっているのですか!? あなたのサポートで、何度私が助けられたことか! あなたがあなた自身を悪く言うことなぞ、この私が許しません!!」

 

 褒めあっているか、罵っているのか、よくわからない様子で、言い争いを続ける二人。

 そうこうしている間にも、彼女たちを守る障害物は、もう間もなく崩壊寸前であった。

 

「か……壁が……!? もう、持ちそうにありません!」

「……もう、こうなったら……二人とも逃げたくないとなったら仕方ありません。今の私たち二人でどこまでできるかわかりませんが、少しでも敵にダメージを残しましょう。いいですね?」

「わ、わかりました! ……あ、あの、それにあたって、私から一つ提案があるのですが……」

 

 

「……? 

 …………なるほど。改めてお伝えしますが、コレットさん、あなたは、ご自身で思うよりも、よっぽど勇敢でいらっしゃいます。真の勇気をもつ、あなたに対し、私は敬意を表します」

「そんな……私はただ、アイビーさんや、他の皆さんの役に立ちたくて、必死になっているだけです」

 

 コレットからの提案に、アイビーは微笑みながら、素直に称賛の意を示す。

 コレットは、慣れない称賛に対し、思わず顔を赤らめ、口ごもりながら言葉を返したのだった。

 

 

 一向に動き出さない敵に対し、レノは苛立ちを募らせていた。

 このまま障害物ごと、火力で押しつぶしてもいいが、それでは面白くない。

 

 追い詰められたネズミが、悪あがきをしたところを、無残にも徹底的に叩き潰す。

 それでこそ、自分の腹の虫の居所が収まるというものだ、とレノは考えていた。

 

 ……と、障害物が崩壊するのと同時に、アイビーとコレットが、前へと躍り出た。

 ようやく動き出したか! と、レノは口の端を吊り上げた。

 

 レノは、性格はともかくとして、ことアームドフレームの戦闘においては、()()()()()()

 先ほどまでの攻防から、アイビーとコレットの戦術に、ある程度あたりをつけていた。

 

 大まかに言えば、アイビーが囮で接近戦担当、コレットがサポート役で遠距離戦担当、といった具合に、二人は役割分担しているのだろう。

 そのようにレノはあたりをつけており、事実それはほぼ正解であった。

 

 続けて、レノはこうも考える。

 

 そうすると、囮のアイビーに対し、無理にかまう必要はない。

 戦力が低下しているとはいえ、アイビーの近接ブレード及び、その技術はいまだ脅威であり、一発でこちらが撃墜されるリスクもある。

 

 であるならば、その裏をかいてやろう! 

 つまり、狙うべきはアイビーではなく、コレットのほうだ。

 

 コレットが狙われてしまえば、アイビーもコレットを庇わざるを得なくなり、そうすれば、必然的にアイビーからの攻撃も抑えられる。

 彼女二人の連携を乱すことにもつながり、早々に撃破できるだろう。

 

「おい、おめえら! アイビーのことは無視しろ! あいつはただの囮。近接ブレードにだけは気を付けながら、あいつのことはかまうな、放っておけ! それよりも、もう一人のコレットに攻撃を集中しろ! あいつを狙えば、必然的にアイビーはフォローせざるを得なくなる! そうすりゃ、二人まとめて倒せる!!」

 

 頭に血が上っているにも関わらず、冷静な思考で敵の状況を分析し、レノはメンバーに指示を出す。

 その判断は的確であり、決して間違ってはいなかった。

 

 ……しかし。

 

 

「……?」

 レノは、飛び出してきた二人の動きが、どうもおかしいことに気が付いた。

 先ほどまでと比べ、囮であるはずのアイビーの機体の動きが、どうにも()()となっていたのだ。

 機体にダメージが蓄積していることを差し引いても、どこかおかしい。

 

 アイビーだけではない、コレットの動きも先ほどと異なり、何かがおかしい。

 

(なんだ……‥? どういうことだ? なぜ、囮役のアイビーが遠方で動かず、サポートのはずのコレットが、俺たちの方へ向かってくる!?)

 

 ダンダンダン! 

 と、そこへ銃撃の音。

 

 レノのチームメンバーの一人に、どこからともなく飛んできた、銃弾が着弾する。

 急所を外れ、ダメージとしては、大したことはないが、レノたち一同は驚愕する。

(!? 敵の援軍……!?)

 

 一瞬そのように考え、周囲を確認しようとしたレノであったが、その時にようやく気付かされた。

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……やはり、慣れないことはするものではありませんね」

 先ほどの銃撃の正体は、アイビーだったのだ。

 

「馬鹿な……はっ……!?」

「やあああああぁぁぁぁ!!!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「レノさん!!」

 間一髪、レノのチームの3番機が、レノの機体と、コレットの機体の間に立ちふさがる。

 

 技術も何もなく、とにかくブレードの切っ先を相手に向け、機体ごとフルスピードで突撃を仕掛けたコレット。

 そのブレードは、3番機のボディーパーツのほぼ中心を捕らえ、そのまま深々と突き刺した。

 

 その瞬間、観客が見守る、スクリーン上で、3番機の撃墜判定が表示されるのだった。

 

 

 

 アイビーとコレットのとった戦術は、ひどく単純。

 

 そのまま戦ったところで、自分たちが勝つことは当然不可能だろう。

 であれば、チームのために少しでも相手にダメージを残そう……‥と考えてみたところで、なんだかんだ優秀なレノであれば、これまでの攻防を通じて、自分たちの役割分担すら、理解しているに違いない。

 そうなれば、ダメージを与える、ましてや敵を1機でも倒すことなど、よほどのことがない限り不可能だろう。

 

 であれば、役割がばれているのであれば、開き直ってそれを逆手に取る! 

 

 そう考えた彼女たちは、相互に武装を交換。

 そして、その瞬間だけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アイビー、コレット共に、当然ながらそれは、自身の得意な分野からは、大幅に逸脱している行為。

 まったくもって不慣れな戦い方であったのは間違いない。

 

 とはいえ、アイビーとコレットは、互いの役割を交換した時の練習を、実は一度だけ、ひそかに行っていたのだ。

 

 アルフレッド達にも、特に何も伝えていない、半ば冗談半分の練習。

 彼女たちも、興味本位でやってはみたものの「やはり、慣れないことはするものではない」と、その時は結論付けた戦い方であった。

 

 

 だが、この土壇場で、一度だけでも練習していたことが、功を奏した。

 しかも、人一倍、臆病であるはずのコレットが、この状況における役割分担の変更を、アイビーに提案したのだ。

 

 博打要素の強い、奇策ともいえる一手。

 しかし、臆病な一人の少女が、ほんの一欠けらの勇気を振り絞り、自分たちのスタイルを捨て、撃墜されることも、すべて受け入れる……。

 仲間を信じ、仲間のために、少しでも繋げようとした、彼女たちの黄金の覚悟は「()()」を生んだ。

 

 結果として、相手の機体1機を、撃墜判定まで持って行くことに、見事、成功したのだった。

 状況を考えれば、それは間違いなく「大金星」と言えるだろう。

 

「……コレットさん、あなたは本当に素晴らしい人ですわ」

「皆さんのおかげです。臆病な私も、アイビーさんをはじめ、皆さんのおかげで、ちょっとだけ勇気を振り絞ることができました」

 コレットの機体も、レノのチームから攻撃を受け、ボロボロの状態である。

 それでも、アイビーとコレットともに、非常に晴れやかな顔をしていた。

 

 彼女たちに悔いはなかった。

 残念ながら、リーダーであるレノを撃墜することはかなわなかった。

 加えて、自分たちは、この後、なすすべなく撃墜されるだろう。

 

 それでも、チームのために、後につながる戦いを、確かになすことができたのだ。

 

 

 

 

 

 

 レノは、相手の戦術を読み切っていたはずだった。

 そのうえで、相手の裏をかき、無残にも相手を蹂躙するはずだった。

 

 しかし結果として、自分があわや撃墜されるところまで追い詰められ、それは何とか回避したものの、メンバーを1機、失う事態を招いてしまった。

 

 まだまだ、自分のチームの優位性は崩れていない。

 にもかかわらず、彼の胸には、「()()()()()()」が去来していた。

 

「くそが! 無駄な悪あがきをしやがって!! ……てめえら!!! 何をぼさっとしてやがる!! 使えねえクズどもが!! さっさと攻撃しろ! このボケどもを倒すんだよ!!」

 

 こうなったら、何としてもこの二人をボコボコにして、少しでも憂さ晴らしをしてやる! 

 レノは怒りを胸に、部下に対して発破をかけ、慌てて部下たちは、武器をかまえる。

 

 アイビーとコレットも、撃破されることに対し、覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

 





次回に続く。
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