またまたひっそりと更新
【西方面】
西方面を担当するアイビーとコレットは、大苦戦を余儀なくされていた。
「……な……なかなか厳しいですわね……!」
「もう無茶はよしてください、アイビーさん!!」
「だ……大丈夫ですわ……! コレットさん……この程度!」
アイビーとコレットは、敵チームの猛攻を何とか耐えしのぎ、現在、遮蔽物のかげに身を隠している。
アイビーの機体は、既に左腕のブレードは動かなくなり、耐久地もレッドゾーンを示していた。
機体のいたるところにダメージが蓄積し、戦闘力がかなり低下している。
しかし、心配するコレットをよそに、彼女の眼に映る闘志は、いささかの陰りも見せなった。
「ちい……しぶとい奴め!」
敵の様子をうかがう、レノのチームのメンバー一人が、彼女たちの想定外のしぶとさに、舌打ちをうつ。
「まあ、これくらい、粘ってくれた方が、こちらとしても張り合いがあらあ。クリスとかち合わなかったのは、ついてねぇと思っていたが、そのかわりアイビー、お前に出会えたのは幸運だったぜ!」
レノが、操縦席で薄ら笑いを浮かべながら、オープンチャンネルでアイビーたちに語り掛ける。
レノたちのチームは、それぞれの役割において、微妙に武装をかえているが、5名すべてが中量2脚を操る、総合力の高いチームである。
チームは、リーダーのレノ、そしてレノの取り巻き、子分で構成されている。
「
また普段、あまり努力や勤勉という言葉が似合わないレノも、今回ばかりは、エクウェス祭が始まるまでの間、授業外のかなりの時間を、チーム及び個人練習に費やしていた。
全ては、自分をかき乱し、惑わせた、にっくきクリスを打ち倒すため。
しかし、勇んでやってきたものの、クリスと接敵することはかなわず、代わりに、アイビーとコレットと対峙することになる。
これは、レノにとってある意味、思いがけない幸運であった。
レノは、貴族同士の交流などで、アイビーとは昔ながらの顔なじみである。
子供のころから縁があり、年を重ねるごとに美しくなるアイビーに対して、レノは一方的な思いも寄せていた。
『自分は名門貴族で、才能もあふれ、選ばれた存在だ。
そんな自分と、同じく名門貴族で、美しく、優秀なアイビーは、まさにこれ以上ないベストな組み合わせだ。
彼女にとっても、自分が恋人になってやると申し出てやることは、この上ない幸福に違いない』
そう確信していたレノは、士官学校中等部の卒業式の後、アイビーに一世一代の告白をする。
しかし……
「申し訳ありませんが、お断りいたしますわ」
「…………は……?
どうやら、耳がおかしくなったらしい。……もう一度言ってくれ」
「お断りいたしますわ」
「…………なぜだっ!!!!
この俺が、こうして、わざわざ時間を作って、告白までしてやっているというのに、お前は断るのか!!?」
「はい。わたくし、あなたの性格があまり好きではありませんので」
アイビーからは、きっぱりと断られてしまった。
振られることなど、かけらも考えていなかったレノは、プライドを大いに傷つけられることになる。
その後、学校内や、貴族同士のイベントで、顔を合わせても、アイビーはレノを華麗にスルー。
レノは、彼女と会話すら、満足にすることができない状態であった。
アイビーからレノは、完全に「
レノが生まれて初めて、味わうことになった「大きな挫折」。
それをもたらしたのは、ほかならぬアイビーであったのだ。
「どうだ、アイビー! 俺の実力を見たか! これが、これこそが俺の力だ!
俺からの誘いを断り、あまつさえ、ずっと俺を無視してやがることを後悔しても、もう遅え!!
……とはいえ、こうして再び、相対することになったのも何かの縁というやつだ。だから、お前が、ど──ーしても、もう一度チャンスがほしいというのなら、まずは」
「お断りいたしますわ」
アイビーからは、明確な拒絶の返答。
慌てふためくのは、レノの取り巻きたちである。
「あ……あの大丈夫ですか、リーダー?」「つ、次に行きましょう次に!」と、気を使って声をかける。
しかし、ここでは完全に火に油であった。
レノの顔は、今まで見たことのないくらい、真っ赤に染めあがり、怒りのあまり湯気が出そうな勢いであった。
「き……貴様ぁぁ!!!! 一度ならずも、二度も、俺の顔に泥を塗りやがって!! もういい!! クリスの前に、てめえらから、さっさと退場させてやる!!」
怒髪天を衝く、といった有様で、レノはいきり立ち、物陰に隠れるアイビーたちへ、攻撃を仕掛ける。
彼のチームメンバーも、慌ててそれに続く。
実際の問題として、アイビーとコレットは、確かに窮地に追い込まれていた。
ただでさえ、5対2と圧倒的に不利な状況。
しかも、リチャード学園長の
そうした中、アイビーとコレットは連係し、地の利を生かした見事な立ち回りを見せていたが、やはり量と質、ともに上回る相手では、どうしても分が悪い。
特に、アイビーは囮として、コレットをかばいながら、大太刀周りを繰り広げていたため、機体の消耗も激しい。
満身創痍の状態ではあるが、未だ撃墜されていないことは、ほとんど奇跡的と言っていいだろう。
「コレットさん、お願いがあります。私が最後に、暴れまわって敵を引き付けます。その隙に、アルフレッドさんたちの方へ、逃げてくださいな!」
「!? ……な、何を言っているんですか!? それこそ、私が囮になります!」
「あの、下賤な男は、この私に執着している様子。であれば、私が囮になった方が、都合がいいでしょう。それに、平民を囮にして、逃げるなど、それこそ私の貴族としての矜持が許しません!!」
「そんな! アイビーさんの方が、機体の機動力があります! ここは私が……」
そんな言い争いをしている間にも、レノたちの攻撃は激しさを増している。
彼女たちの身を守っている障害物も、激しい攻撃により、見る見るうちに崩壊しかかっている。
「まったく! あなたはなぜ、こういうときばかり、自己主張をきちんとなさるのですか! いいから黙ってお逃げなさい!」
「じ……実力を考えれば、私よりも、アイビーさんの方が上です! アイビーさんの方が、私なんかよりもよっぽど凄いし、勇気があるし、チームに必要な人です! 今後のことを考えれば、私が犠牲になる方が合理的です!」
「あなたは何をいっているのですか!? あなたのサポートで、何度私が助けられたことか! あなたがあなた自身を悪く言うことなぞ、この私が許しません!!」
褒めあっているか、罵っているのか、よくわからない様子で、言い争いを続ける二人。
そうこうしている間にも、彼女たちを守る障害物は、もう間もなく崩壊寸前であった。
「か……壁が……!? もう、持ちそうにありません!」
「……もう、こうなったら……二人とも逃げたくないとなったら仕方ありません。今の私たち二人でどこまでできるかわかりませんが、少しでも敵にダメージを残しましょう。いいですね?」
「わ、わかりました! ……あ、あの、それにあたって、私から一つ提案があるのですが……」
「……?
…………なるほど。改めてお伝えしますが、コレットさん、あなたは、ご自身で思うよりも、よっぽど勇敢でいらっしゃいます。真の勇気をもつ、あなたに対し、私は敬意を表します」
「そんな……私はただ、アイビーさんや、他の皆さんの役に立ちたくて、必死になっているだけです」
コレットからの提案に、アイビーは微笑みながら、素直に称賛の意を示す。
コレットは、慣れない称賛に対し、思わず顔を赤らめ、口ごもりながら言葉を返したのだった。
一向に動き出さない敵に対し、レノは苛立ちを募らせていた。
このまま障害物ごと、火力で押しつぶしてもいいが、それでは面白くない。
追い詰められたネズミが、悪あがきをしたところを、無残にも徹底的に叩き潰す。
それでこそ、自分の腹の虫の居所が収まるというものだ、とレノは考えていた。
……と、障害物が崩壊するのと同時に、アイビーとコレットが、前へと躍り出た。
ようやく動き出したか! と、レノは口の端を吊り上げた。
レノは、性格はともかくとして、ことアームドフレームの戦闘においては、
先ほどまでの攻防から、アイビーとコレットの戦術に、ある程度あたりをつけていた。
大まかに言えば、アイビーが囮で接近戦担当、コレットがサポート役で遠距離戦担当、といった具合に、二人は役割分担しているのだろう。
そのようにレノはあたりをつけており、事実それはほぼ正解であった。
続けて、レノはこうも考える。
そうすると、囮のアイビーに対し、無理にかまう必要はない。
戦力が低下しているとはいえ、アイビーの近接ブレード及び、その技術はいまだ脅威であり、一発でこちらが撃墜されるリスクもある。
であるならば、その裏をかいてやろう!
つまり、狙うべきはアイビーではなく、コレットのほうだ。
コレットが狙われてしまえば、アイビーもコレットを庇わざるを得なくなり、そうすれば、必然的にアイビーからの攻撃も抑えられる。
彼女二人の連携を乱すことにもつながり、早々に撃破できるだろう。
「おい、おめえら! アイビーのことは無視しろ! あいつはただの囮。近接ブレードにだけは気を付けながら、あいつのことはかまうな、放っておけ! それよりも、もう一人のコレットに攻撃を集中しろ! あいつを狙えば、必然的にアイビーはフォローせざるを得なくなる! そうすりゃ、二人まとめて倒せる!!」
頭に血が上っているにも関わらず、冷静な思考で敵の状況を分析し、レノはメンバーに指示を出す。
その判断は的確であり、決して間違ってはいなかった。
……しかし。
「……?」
レノは、飛び出してきた二人の動きが、どうもおかしいことに気が付いた。
先ほどまでと比べ、囮であるはずのアイビーの機体の動きが、どうにも
機体にダメージが蓄積していることを差し引いても、どこかおかしい。
アイビーだけではない、コレットの動きも先ほどと異なり、何かがおかしい。
(なんだ……‥? どういうことだ? なぜ、囮役のアイビーが遠方で動かず、サポートのはずのコレットが、俺たちの方へ向かってくる!?)
ダンダンダン!
と、そこへ銃撃の音。
レノのチームメンバーの一人に、どこからともなく飛んできた、銃弾が着弾する。
急所を外れ、ダメージとしては、大したことはないが、レノたち一同は驚愕する。
(!? 敵の援軍……!?)
一瞬そのように考え、周囲を確認しようとしたレノであったが、その時にようやく気付かされた。
「……やはり、慣れないことはするものではありませんね」
先ほどの銃撃の正体は、アイビーだったのだ。
「馬鹿な……はっ……!?」
「やあああああぁぁぁぁ!!!」
「レノさん!!」
間一髪、レノのチームの3番機が、レノの機体と、コレットの機体の間に立ちふさがる。
技術も何もなく、とにかくブレードの切っ先を相手に向け、機体ごとフルスピードで突撃を仕掛けたコレット。
そのブレードは、3番機のボディーパーツのほぼ中心を捕らえ、そのまま深々と突き刺した。
その瞬間、観客が見守る、スクリーン上で、3番機の撃墜判定が表示されるのだった。
アイビーとコレットのとった戦術は、ひどく単純。
そのまま戦ったところで、自分たちが勝つことは当然不可能だろう。
であれば、チームのために少しでも相手にダメージを残そう……‥と考えてみたところで、なんだかんだ優秀なレノであれば、これまでの攻防を通じて、自分たちの役割分担すら、理解しているに違いない。
そうなれば、ダメージを与える、ましてや敵を1機でも倒すことなど、よほどのことがない限り不可能だろう。
であれば、役割がばれているのであれば、開き直ってそれを逆手に取る!
そう考えた彼女たちは、相互に武装を交換。
そして、その瞬間だけ、
アイビー、コレット共に、当然ながらそれは、自身の得意な分野からは、大幅に逸脱している行為。
まったくもって不慣れな戦い方であったのは間違いない。
とはいえ、アイビーとコレットは、互いの役割を交換した時の練習を、実は一度だけ、ひそかに行っていたのだ。
アルフレッド達にも、特に何も伝えていない、半ば冗談半分の練習。
彼女たちも、興味本位でやってはみたものの「やはり、慣れないことはするものではない」と、その時は結論付けた戦い方であった。
だが、この土壇場で、一度だけでも練習していたことが、功を奏した。
しかも、人一倍、臆病であるはずのコレットが、この状況における役割分担の変更を、アイビーに提案したのだ。
博打要素の強い、奇策ともいえる一手。
しかし、臆病な一人の少女が、ほんの一欠けらの勇気を振り絞り、自分たちのスタイルを捨て、撃墜されることも、すべて受け入れる……。
仲間を信じ、仲間のために、少しでも繋げようとした、彼女たちの黄金の覚悟は「
結果として、相手の機体1機を、撃墜判定まで持って行くことに、見事、成功したのだった。
状況を考えれば、それは間違いなく「大金星」と言えるだろう。
「……コレットさん、あなたは本当に素晴らしい人ですわ」
「皆さんのおかげです。臆病な私も、アイビーさんをはじめ、皆さんのおかげで、ちょっとだけ勇気を振り絞ることができました」
コレットの機体も、レノのチームから攻撃を受け、ボロボロの状態である。
それでも、アイビーとコレットともに、非常に晴れやかな顔をしていた。
彼女たちに悔いはなかった。
残念ながら、リーダーであるレノを撃墜することはかなわなかった。
加えて、自分たちは、この後、なすすべなく撃墜されるだろう。
それでも、チームのために、後につながる戦いを、確かになすことができたのだ。
レノは、相手の戦術を読み切っていたはずだった。
そのうえで、相手の裏をかき、無残にも相手を蹂躙するはずだった。
しかし結果として、自分があわや撃墜されるところまで追い詰められ、それは何とか回避したものの、メンバーを1機、失う事態を招いてしまった。
まだまだ、自分のチームの優位性は崩れていない。
にもかかわらず、彼の胸には、「
「くそが! 無駄な悪あがきをしやがって!! ……てめえら!!! 何をぼさっとしてやがる!! 使えねえクズどもが!! さっさと攻撃しろ! このボケどもを倒すんだよ!!」
こうなったら、何としてもこの二人をボコボコにして、少しでも憂さ晴らしをしてやる!
レノは怒りを胸に、部下に対して発破をかけ、慌てて部下たちは、武器をかまえる。
アイビーとコレットも、撃破されることに対し、覚悟を決めていた。
その時だった。
次回に続く。