ひっそりと更新
ドドドンッ!!
「!!?」
レノの機体前方で、突如として大きな音と共に、噴煙が巻き起こる。
それは
つられて、その場にいた誰もが、その攻撃のもとを注視した。
「……はは!!」
そこには、レノが待ち望んでいた
左肩に装備したロケット砲から、白い煙をゆらゆらと立ち昇らせたクリスの黒い機体は、まさに威風堂々といった出で立ち。
その頭部パーツの目の部分からは、まるで眼光のような、鋭い赤いライトをともらせていた。
「ようやく来やがったなぁ! クリスぅ!!!」
レノが、通信機越しに、声を張り詰める。
彼の顔は、まるで「暴威」が形をつくったような、有様だ。
「てめぇが……! てめぇの存在自体が、俺を苛立たせるんだ……! だからよう、今ここで、てめぇをぶちのめしてやるよおぉぉ!!」
そういうや否や、レノは部下たちに合図を送る。
部下1人をアイビー、コレットの見張りにつけ、レノと残りの2名は、一斉にクリスへ攻撃を仕掛けた。
レノは考える。
眼前の、ぼろぼろな連中など、今やもうどうでもよい。
それよりも、自分の心をかき乱す、この憎き野郎を、今すぐにぶちのめす!
荒れ狂う激情と、
もはや、彼の目に映るのは、憎き怨敵の機体のみ
かくして、戦闘は始まった。
レノの機体のメインウェポンは、右腕に装備した高出力のレーザーライフルである。
重量は重い代わりに、高い威力、弾速を誇り、一発でも命中すれば、相手に多大なダメージをあたえる優れモノだ。
そんな驚異的な獲物から今、特徴的な音とともに、黒い機体に向けて、何発も弾丸が発射された。
追従するように、レノの部下たちも、自分たちの武器のトリガーを一斉に引く。
しかし、そんな暴風雨のような、弾丸の雨の中を、クリスの機体は上下左右、前後ろと、縦横無尽に、まるで舞踊のようにかいくぐる。
クリスの機体は、弾丸の予想到達地点から、常に、絶妙に位置を外した場所をとり、弾丸が当たらない。
レノはコックピット内で身震いをした。
どういうからくりかわからないが、自分がロックオンをする瞬間に、すでにクリスの機体はロックオンサイトから外れているのだ。
コックピット越しに、こちらの思念でも読み取っているのではないか。
そんな、オカルトな気持ちにも、させられてしまい、レノの額からうっすらと、冷たい汗が流れたのだった。
(くそったれめ、くそったれめ……!!!)
何度も言うが、レノはことアームドフレームの操縦に関して言えば、
なまじ実力があるだけに、レノは自分とクリスとの間に、隔絶した実力差、アリと象ほどの実力の差があることを、正確に感じ取っていた。
(なんでだ!! 俺とあいつで何が違うんだ!! ふざけんじゃねぇ!!)
ズガァァン!
そうこうしているうちに、レノの仲間の一人が、クリスからのライフルを、頭部にもろにくらってしまい、撃墜判定が出された。
レノのチームは、レノ自身を含め、残すところあと3名。
いつの間にか、アイビーとコレットを見張っていたメンバーも、形成が不利とみて、クリスとの戦闘に参加していた。
「あああくそがぁ!! 役立たずどもが!! おら、フォーメンションCだ! さっさとしやがれ!!」
と、レノは味方一人の機体を、後ろから乱暴に押し、そのままクリスへとまっすぐ突撃させた。
そして、自身はそのメンバーの後ろをぴったりと追従し、そして残ったもう一人のメンバーは、レノの後ろを走る。
3つの機体が、縦一直線になるような編成。
クリスから見ると、レノとその後ろのメンバーは、先頭を走るメンバーによって、ちょうど死角になる編成だ。
対クリスの切り札として、レノたちが念のため、何か月も前から準備をしてきた必勝の策である。
「これは……!」
クリスは、レノたちの動きに少々意表をつかれることになった。
先頭の敵は、いつの間にか盾を両手に構え、完全に防御の体制。
クリスは、ライフルを立て続けに打ち込むが、相手は構わず正面から突っ込んできている状況だ。
いかにクリスの腕をもってしても、攻撃を捨てて完全に守りの体制に入っている相手を、早々に撃墜することは難しい。
かといって、他の敵を攻撃しようにも、正面の敵が邪魔で、そいつらを狙うことも困難な状態である。
クリスの機体と、レノのチームとの距離は、あっという間に縮まった。
「くらえ!!!」
近接戦闘の距離になった瞬間、レノと後ろにいたメンバーが、近接装備を持って、一気に前方へ踊りだした。
……とその瞬間
クリスの機体はとっさに跳躍。
正面の敵の突撃を回避すると、そのまま、なんとレノの機体の肩を足蹴にし、そのままさらに跳躍!
(な……いったい……何が起きた!!?)
とっさの出来事に、訳も分からず、驚愕の顔を浮かべるレノをよそに、クリスの機体は勢いそのまま、レノの後ろにいる敵機へと、近接ブレードを振りかざす!
後ろのメンバーも、慌てて近接ブレードを振るが、時すでに遅し。
そのままクリスの機体のブレードは、美しい軌道を描きながら、相手機体に滑り込んだ。
ザシュゥゥゥ!!
誰から見ても致命の一撃がもたらされ、レノのメンバーは撃墜判定を下された。
とっさの超絶技巧に対し、仲間であるにもかかわらず、アイビーとコレットもあっけにとられていた。
(こ……この野郎……!! あの瞬間、こ、この俺を、足蹴にしやがったのか……!!)
自分が何をされたのか、ようやく理解したレノは、わなわなと体を震わす。
練りに練った、必勝の奥の手が破られたばかりか、自分がただのジャンプの踏み台にされた……そのことは、彼のプライドに、大きな大きな傷をつけることとなった。
「今のは、なかなかよかったよ。俺も一瞬、焦った」
クリスから、広域通信でレノに言葉が投げかけられる。
その言葉に、嘘偽りや嘲りは一切ない。
クリスも、レノたちの編隊機動に関して、意表を突かれることとなった。
しかし先のケイティたちとの一戦で、見事な編隊行動をとる敵と、一度対峙していたことが、ここにきて幸いした。
結果として、あっさりと打ち破ることができたが、ケイティたちとの戦闘を経ていなかったら、
クリス自身もそう感じており、素直に賞賛の言葉をレノへ送った。
しかし、どんな事情があろうとも、その言葉は傷ついたレノの心に、さらにナイフのように突き刺さった。
「……う、う、う……」
レノは、今やコックピット内で、悔し涙を流していた。
プライドの高さゆえに、人前では絶対涙を見せないような彼が、コックピットの中で号泣していた。
「ん? どうした? まだ何かあるんじゃないのか? もっと見せてほしい」
続けて話すクリスに、悪気は全くない。
相手を挑発する意図も、あざ笑う意図もなく、純粋に、自身の興味関心に基づいて発言しているに過ぎない。
「う……う……うあああああああああああああああ!!!!!!!!!」
感情の爆発とともに、レノの機体は突如として、方向転換。
ゴウ! というブースター音とともに、ぐんぐんと戦場から離れていく。
クリスはおろか、ぼろぼろで身動きが取れないアイビー、コレットの機体も無視し、どんどんと遠くへ移動していく。
「レ、レノさん、ま、待ってくださいよ!!」
一人残ったレノの仲間も、慌ててそれに追従した。
レノの心はズタズタだった。
かつて告白した女に再び振られ、圧倒的な優位と考えていた戦いで敵に一本取られ、そして肝心の憎い
憤怒、憤慨、憎悪、怨恨、羞恥、悲嘆…………………………………………そして憧れ。
短時間で様々な感情が、レノの内側から湧きあがり、自分自身でそれらを消化しきれなくなったのだ。
そんな、ぐちゃぐちゃな心を抱えたレノが、最終的に取った行動は「逃走」。
とにかく、一刻もこの場から離れたい、いなくなりたい、消えてしまいたい。
そんな気持ちが、後先を考えない、全速力の逃走を選択したのだった。
いくら大人びていようとも、彼もまた、10代半ばのまだまだひよっこに過ぎないのだ。
「???」
静まり返った戦場に残されたクリスは、訳も分からず、その場でぽかんとした表情を浮かべるのであった。
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