おや、コレットさんの様子が……
今回から、段落分けを新たにしました。
少し、読みやすくなっているかと思います。
エクウェス祭で、ランキング1位をとったアルフレッドは、日々を忙しくしていた。
ロザライム士官学校で、ランキングの上位に位置するということは、ただ単純に実力が認められる、というだけにとどまらない。ただでさえ、上位の者は実利以外にも、大きな意味合いを持つ上に、1位ともなれば、より一層、その肩書は重いものとなる。
広報誌への論文寄稿、広告塔としてのインタビュー取材、写真撮影、各種イベントへの出席など、通常の授業と同時並行で、たくさんの必要ごとに忙殺されることとなる。
とはいえ、様々な恩恵があることも事実。
授業料の免除や、授業外活動で発生する各種費用負担も免除。その他、数々の優遇措置が、生徒及びその保護者にまで適応されるのであった。
とはいえ、アルフレッドの実家の財力からすれば、そうした費用的な恩恵はあまり大きな意味はない。むしろ、貴族としての名誉のほうが、ウォルコット家にとって、大変重いものであった。
しかし、当のアルフレッドにとって、1位になったことについては、複雑な思いを抱えていた。なぜなら、自分よりも明らかに1位を取るに値する人物、自分の実力を明確に上回る実力者が、いつもすぐそばにいるからであった。
「なんだかすまないな、クリス。」
「……いったいどうしたんだ?アル。」
ある日の夜、いつものように、寝る支度をして、自分のベッドに入ろうとしたクリスに対し、アルフレッドが突如として声をかけてきた。
ちなみに、アルフレッドは1位となった特典として、個室への移動も許可されていたのだが、本人はそれを固辞した。本人の気持ち的にも、圧倒的な実力者のクリスを差し置いて、自分だけ個室に移動することが、どうしても気が引けたのだった。
とはいえ、ランキング上位の二人が生活する部屋、ということで、今までの部屋から、ホテルのスウィートルーム並みの広さの部屋へと移ったのだが。
「いや……君を差し置いて、僕が今、様々な恩恵を学校で受け、持てはやされているだろう?
……僕は、自分の実力が低いなんて、これっぽっちも考えていないが、それでもある程度、物事を公平に見る目はあるつもりだ。やはり、君を差し置いて、僕がランク1位であることは、僕自身、いまだに心がもやもやしているんだ。」
「なんだ、そんなことか。」
クリスは少し、あきれたように返答する。
「アル、何度も言っているが、俺は気にしていない。それに、俺だって色々と恩恵を受けているぞ。この部屋だってそうだ。学校に入学する前からは、考えられないくらい、今は快適な生活ができている。」
「そうは言うがな……。」
「まったく、お前らしくない。とにかく、俺のことは気にするな。むしろ、面倒なことはクリスがやってくれて、俺としては助かっているんだから。」
あっさりと話すクリス。そんなクリスに対し、アルフレッドはふっと、笑いが込み上げた。
「……まったく。君くらいだぞ?この学校で1位となることを、面倒だなんていうのは。」
「そうか?」
「やれやれ。」
そう言って、肩をすくめたアルフレッドは、少し、肩の荷が下りたように感じた。
「ところでだ……クリス君。」
「な……なんだいきなり。」
急に、アルフレッドはまるで、獲物を狙うハンターかのごとく、鋭い目つきとなった。口元にも、うっすらと怪しい笑みを浮かべている。そんな、ただ事ではない様子を見せるルームメイトに、クリスは一瞬たじろいだ。
「わが妹と、最近、
「!……それは!?」
「ふふふ……隠しても無駄だぞ、クリス君。この僕が、気が付かないと思ったのかい?」
「……」
思ってもみなかったアルフレッドからの強襲に対し、言葉に詰まるクリス。
「最近ソフィーのやつと、電話でやり取りをすると、いっつも君の話題ばかり持ち出されるんだ。……ちなみに、君と直接やり取りもしていることは、この間ようやく聞き出すことができたが……なぜか今でも、僕を通して君のことを根掘り葉掘り、聞こうとしてくる……やれ、今日は何を食べたのだの、授業の様子はどんなだの……毎度毎度聞かれる、僕の気持ちを君は想像できるか?」
「む……」
最近のアルフレッドの疲労は、ランク1位の諸々ではなく、妹からの電話攻撃のほうが割合として大きかった。ここ数か月、アルフレッドに対し、やけに頻繁に、取るに足らない要件で、ソフィアは電話をかけてきていた。そして、要件が終わると、必ず、クリスの様子を聞いてくるのがお決まりとなっており、アルフレッドは正直、うんざりしていたのだ。
「す……すまん。結果として、アルの負担になっていたようだな。」
「別に、君のことを攻めているわけでもないし、謝ってほしいわけでもない……とにかく、僕としては、今一度君に確認したいのは、ずばり、君はソフィーのことをどう思っているか、ということだ!」
「…!」
「……ちなみに、クリスにはソフィーと呼ぶことを許可しているようだね。まったく、家族以外でソフィーと呼ぶことを許可するなんて、ちょっと前まで考えられなかったぞ。
……で、どうなんだ?君は、ソフィー個人をどう思っているんだ?」
「……」
アルフレッドからの質問に対し、クリスは一瞬考える。
そして……
「……わからない。」
「わからない……?」
「……自分でもわからないんだ。」
「おい、これ以上、ふざけたことを言うと、いくら僕でも怒るぞ!」
「すまん、本当にわからないんだ。
……アルの誕生日会に出席したとき、ソフィーとは初めてあった。そのあと、色々と話して、なんとなくもっと話したいな、とそう思った。だから、連絡先を渡した。そして、すぐにソフィーからも連絡先を教えてもらえて、その後、折を見て、色々とやり取りをしている。ただ、自分があらためて、彼女に対してどう思っているのか、本当に自分でもよくわからないんだ。逆に、これってどういうことなんだ?むしろ教えてほしい。」
クリスにしては、珍しく焦った様子を感じ取ったアルフレッド。
「……いや、聞いているのはこちらのほうなんだが……と、とにかく、君は何か不埒な考えや、下心があって、妹とやり取りしているわけではないってことか?」
「不埒な考えって何だ……?」
心底、わからないという表情をするクリス。その様子に対し、アルフレッドは大きなため息を付く。
「……う~む……まあ、とにかく、ソフィーとのやり取りは、君自身、純粋に楽しんでいるってことだな?」
「ああ、ソフィーとのやり取りは、楽しいと思っている。」
「ぬ……」
「とはいえ、家族であるアルフレッドに、しっかりと報告をしていなかったことは、よくなかったかもしれない。それによって、アルの負担が増えることは、俺の本意ではなかった。そういった一般常識が、俺はたまに抜けていることがあるからな、そこについては申し訳なく思っているので、謝罪させてほしい。」
深々と、クリスはアルフレッドに対して頭を下げた。
想定とは違う反応を示されたことで、アルフレッドは内心焦りだす。
「い……いや、そういうことでないが……。」
「とりあえず、ソフィーとの電話の音声は、すべて録音し、後日、アルに聞いてもらう形にしたほうがよいかな?」
「そ、そこまでしてもらわなくていい!むしろ、そんなことをしていると、妹にばれたら、僕がソフィーに口をきいてもらえなくなってしまう!」
「そうなのか……?」
いまいち、ずれているクリスに対し、アルフレッドはどうにも調子がくるってきた。
(アームドフレームの腕前は天才的で、座学についても普通に問題ないくせに、こういうところがよくわからない奴だな……。)
混乱を抱きながら、アルフレッドは口を開く。
「話をまとめるとしよう。……とにかく、君は変な考えを抜きにして、純粋にソフィーとのやり取りを楽しんでいる。おそらくだが、君は、彼女のことを好ましいと考えていると思うんだが、違うのか?」
「おお、さすがはアル!確かに俺は、ソフィーを好ましいと考えているように思う。」
「……なんだか、頭が痛くなってきたが、まあいい。とりあえず、ソフィーも君とのやり取りを楽しんでいるようだし、幸せそうなので、ひとまずこのままやり取りを続けてやっていくということで。別に、君もそれについて、異論はないんだろ?」
「ああ、わかった、問題ない。ありがとう。」
「そのかわり、何かあったら、すぐに僕へ報告しろよ。」
「もちろんだ。ホウレンソウが重要であることは、授業でも習ったしな。」
これ以上話しても、埒はあかない。
アルフレッドは、面倒くさくなってきたので、ひとまずこの話を打ち切りにすることにした。
そんな彼らも、もうすぐ高等部の2年生になろうとしていた。
今回は取り急ぎ、幕間的な話です。