そんなこんなで普通の学校生活を送って数日後。
今日はサー・ナイトアイの事務所に行く日だ。
それとなく緑谷くんにも確認してみたら緑谷くんも今日はインターンで呼ばれているらしい。
お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、切島くんも今日インターンがある感じの思考をしていた。
相澤先生もナイトアイから協力要請を受けたっぽい。もう学校を出ているけど、多分現地に行ったら合流できると思う。
ちょうど切島くんと緑谷くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃんも寮を出たところみたいだから合流しよう。
「緑谷ぁ!!おはよ!!おまえも今日行くんだ!?キグーだな!」
「しばらく呼ばれなくってやっと今日だよ。コスチュームはいらないって言われたけど……」
「あれー!?おはよーーー!!二人も今日!?」
「4人とも……おはよ……私も……今日インターン……」
「奇遇ね」
玄関で合流して皆で駅に向かった。
それにしても、思考からして皆サー・ナイトアイの事務所に向かってるんじゃないかな。
緑谷くん以外が場所の名前とかを伝えられてなくて、なんとなくしか分からないけど。
「あれ?皆こっち?切島くん関西じゃ……」
「ん?ああ!なんか集合場所がいつもと違くてさぁ」
「あたしたちも」
皆も電車に乗る段階で不思議に思い始めているし、もうそろそろネタバラシしていいだろうか。
一応周囲には聞こえないように声を抑えめにして伝えればいいかな。
変装して来いとか言われていないし、ここまで大々的にナイトアイ事務所に集めてるんだから多分大丈夫だろう。
ミルコさんとかリューキュウなんて歩いているだけで人だかりができるくらいの人気ヒーローを普通に呼んでいるんだし。
「皆同じ駅!?奇遇だね……!」
「先輩と現地集合なのよ」
「……奇遇というか……私が向かってるの……サー・ナイトアイ事務所だし……他の3人も名前言われてないだけで同じだと思うよ……昨日からの住所とかの断片の思考を……見てる限りだと……」
緑谷くんの表情が驚愕に染まった。
「そうなの!?」
「ん……ミルコさんから電話で……協力要請受けたからお前も来いって……言われたよ……」
「だ、だからインターンの日の確認してきたんだ」
「ってことは、リューキュウとファットガムも協力要請受けてるってこと?」
お茶子ちゃんが私に聞いてくるけど、流石にそこまでは知らない。
でも同じ場所を目指しているんだし多分そうなんじゃないだろうか。
「流石にそこまでは……知らないけど……でも……相澤先生も協力要請を受けてたみたい……」
「それは、分かっているだけでもすごい数ね」
「ミルコにリューキュウにファットガム、それに相澤先生?どんだけヒーロー集めてんだ!?」
「そんなに大勢集めて、一体何を……」
そんな感じで話しながら移動して、サー・ナイトアイ事務所に着いた。
事務所の前にはお姉ちゃんたちビッグ3が待っていた。
お姉ちゃんが視界に入ってすぐにお姉ちゃんに駆け寄って抱き着く。
「お姉ちゃん……!」
「わ!瑠璃ちゃんもだったんだねー!」
「ん……!ミルコさんも呼ばれてた……!」
「そっかそっかー」
お姉ちゃんに頭を撫でられながら事務所の中の波動に注意を向ける。
事務所の中にはミルコさんやリューキュウといったいるのが分かっていたヒーローの他にも、グラントリノやよく知らないヒーローまでいる。
ナイトアイ事務所のヒーローも含めると20人以上のヒーローがいる感じだ。
そろそろ時間だし、8人で2階の大会議室に向かった。
会議室の中には感知した通りの人たちが集まっていた。
とりあえず壁に寄りかかって腕を組んでいるミルコさんの方に歩み寄って挨拶しに行く。
「ミルコさん……来ました……」
「おう。時間ギリギリだな」
「皆と……一緒に来たので……」
私がミルコさんと話しているのと同じように、お姉ちゃんもリューキュウの方に抱きつきながら話しかけている。
そして抱きつかれたリューキュウの声かけで、サー・ナイトアイが話し始めた。
「あなた方に提供して頂いた情報のおかげで、調査が大幅に進みました。死穢八斎會という小さな組織が何を企んでいるのか、知り得た情報の共有と共に協議を行わせて頂きます」
そのまま着席を促されて席に着く。
ミルコさんの隣に座ったけど、ミルコさんがすごくふてぶてしい感じで座っていてちょっと狭い。
文句を言うつもりはないけど、反対側に座っているヒーローの人もちょっと居心地悪そうにしていた。
「我々ナイトアイ事務所は約2週間程前から、死穢八斎會という指定ヴィラン団体について……独自調査を進めて……います!!」
ナイトアイ事務所のサイドキック、バブルガールだっただろうか。
彼女は不慣れなのかすごくたどたどしい感じで説明を始めた。
……それにしてもあのコスチューム、すごい露出だ。百ちゃんのコスチュームもすごいけど、あれも負けてないと思う。
素肌の露出が大事な個性なんだろうか。
「私、サイドキックのセンチピーダーがナイトアイの指示の下追跡調査を進めておりました。調べたところここ1年以内の間に全国の組外の人間や同じく裏家業団体との接触が急増しており、組織の拡大・金集めを目的として動いていると見ています。そして調査開始からすぐに……」
センチピーダーが言葉を区切ったところで天井からプロジェクターが降りてきた。
そこに映し出された映像には、男2人が路上で話している映像が映っていた。
「ヴィラン連合の1人、分倍河原仁、ヴィラン名トゥワイスとの接触。尾行を警戒され、追跡は敵いませんでしたが警察に調査協力していただき、組織間で何らかの争いがあったことを確認」
「連合が関わる話なら……ということで俺や塚内にも声がかかったんだ」
「その塚内さんは?」
「他で目撃情報が入ってな。そっちへ行ってる」
塚内さんは相変わらずヴィラン連合関係でかけずり回っているらしい。
相変わらず大変そうだ。
その後はグラントリノが緑谷くんに巻き込んだことを謝ったり、お茶子ちゃんたちがHNについて質問してお姉ちゃんが答えたりして少しの間話が止まった。
それに対して褐色肌の男性ヒーローが口を挟んだ。
「雄英生とはいえガキがこの場にいるのはどうなんだ?話が進まねぇや。本題の企みに辿り着く頃には日が暮れてるぜ」
「ぬかせ!この2人はスーパー重要参考人やぞ!」
そんな文句に対してファットガムが立ち上がって反論した。
それにしても、すごく丸い人だ。身長も高いし存在感がすごい。
横はいらないから縦の長さだけでも分けてもらえないだろうか。
私がそんなことを考えていたらお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが「丸くてカワイイ」って声を揃えて言ってアメを貰っていた。
そこからファットガムによる"個性を壊すクスリ"の説明が始まった。
個性因子を傷つけるクスリであること、撃たれた天喰さんも自然治癒で今では元通りになっていることなどを相澤先生の抹消の話も含めて説明してくれた。
「そして、その中身を調べた結果、ムッチャ気持ち悪いモンが出てきた。人の血ィや細胞が入っとった」
「えええ……!?」
「別世界のお話のよう……」
そこまで聞いた段階で、緑谷くんと通形さん、それにナイトアイの思考から、もうどういうことか分かってしまった。
人を切り刻む狂気の行い。
幼い少女を恐怖で縛り付けて行われる殺害と再生による拷問。
少女を切り刻んで作った弾丸。
それを売りさばくことによって資金を集め、完全に個性を破壊する弾丸を作ろうとしている可能性。
何もかもが、吐き気を催すほどの行いだった。
私の息が荒くなっているのを感じ取ったのか、ミルコさんが頭をガシガシと荒く撫でてくれる。
いつもだったら髪の毛が乱れるとかちょっと文句を言いたくなるような行いだけど、今はそれがありがたかった。
私が呆然としている間も話は進んでいる。
お茶子ちゃんや梅雨ちゃん、切島くんはすぐには分からなかったみたいだけど、さっき文句を言っていた褐色肌の人が解説してくれてどれだけ惨いことが行われているかを理解したようだった。
緑谷くんと通形さんは一度保護に失敗したことを悔いているようで、凄まじい自責の念が伝わってくる。
2人はもともとの気質にその責任感も加わって、いてもたってもいられずに立ち上がった。
「今度こそ必ずエリちゃんを……!!」
「保護する!!」
「それが私たちの、目的になります」
ナイトアイは2人の言葉に続く形で話を締め括った。
それに続く形で褐色肌のヒーローが疑問を口にする。
「ケッ、ガキがイキるのもいいけどよ。推測通りだとして若頭にとっちゃその子は隠しておきたかった"核"なんだろ?それが何らかのトラブルで外に出ちまった。あまつさえガキんちょヒーローに見られちまった!素直に本拠地に置くか?俺なら置かない。攻め入るにしてもその子が"いませんでした"じゃ話にならねぇぞ。どこにいるのか特定出来てんのか?」
「確かに。どうなのナイトアイ?」
「問題はそこです。何をどこまで計画しているのか不透明な以上、一度で確実に叩かねば反撃のチャンスを与えかねない。そこで八斎會と接点のある組織・グループ及び八斎會の持つ土地!可能な限り洗い出しリストアップしました!皆さんには各自その箇所を探っていただき、拠点となり得るポイントを絞ってもらいたい!!」
「なるほど、それで俺たちのようなマイナーヒーローが……見ろ、ここにいるヒーローの活動地区とリストがリンクしている。土地勘があるヒーローが選ばれてんだ」
……そういうことなら、ミルコさんの選出理由がない。
ミルコさんは事務所を持っていないし、全国各地を渡り歩いている。土地勘なんて皆無に等しい。
その状況でミルコさんに協力要請をしてくるなんて、ミルコさんの想定通りだとしか思えない。
私の個性の詳細がどこから漏れたのかなんて問題はあるけど、そんなの緑谷くんか通形さんを予知で見てしまえばいいだけの話だ。
私は緑谷くんや通形さんの前では一切個性の内容を隠していないし、読心で得た情報を元に色々すっ飛ばして行動していたりする。
未来予知で普段から行動予測しているであろうナイトアイが見たら、おかしな行動の違和感から読心ができることなんて普通に予想できるだろう。
それなら、私が呼ばれた理由は、敵地の偵察……?
「あのー、一ついいですか?どういう性能かは存じませんが、サー・ナイトアイ、未来を予知できるなら俺たちの行く末を見ればいいじゃないですか。このままでは少々……合理性に欠ける」
「それは……出来ない」
相澤先生のその質問に、サー・ナイトアイは目を伏せながら返答した。
「私の予知性能ですが、発動したら24時間のインターバルを要する。つまり一日一時間、一人しか見ることが出来ない。そしてフラッシュバックのように一コマ一コマが脳裏に映される。発動してから一時間の間、他人の生涯を記録したフィルムを見られる……と考えて頂きたい。ただしそのフィルムは全編人物のすぐ近くからの視点。みえるのはあくまで個人の行動とわずかな周辺環境だ」
「いや、それだけでも十分すぎる程色々分かるでしょう。できないとはどういうことなんですか」
「例えば……その人物の近い将来……死、ただ無慈悲な死が待っていたら……どうします」
ナイトアイは、明らかにオールマイトの寿命の予知のことを気にしていた。
それもそうか。緑谷くんが以前話していた話を聞く限り、ナイトアイはオールマイトフリーク。そんな人の死を自分が確定させたと考えていたら、こんな態度にもなるだろう。
ミルコさんなんかはナイトアイのその様子を見てイライラしている上に、思考が『弱虫め!』って感じになってしまっている。ちょっと怖い。
自分を予知しろなんて言っている人もいるけど、ナイトアイはそれも一蹴していた。
そこで話はいち段落したと思ったんだけど、ミルコさんが口を開いた。
「で?私を呼んだ理由はなんだ、ナイトアイ。私はどの地点にも土地勘なんかなければ、情報提供もしてねえ。呼ぶ理由がねーだろ」
「……その様子なら、もう分かっているのでは?」
その返答にミルコさんの額に青筋が出来た気がした。
思考が結構な罵倒になっていて怖い。
「じゃあはっきり言ってやろうか。私の所に来てるインターンの学生の個性が欲しいがために、私に協力要請を出したんじゃねーのかって聞いてんだが?」
相澤先生もある程度予想していたのか、頭に手を当てて溜め息を吐いている。
「その少女の個性は、我が事務所に来ている学生の緑谷を予知した際に知った。今回の調査において、彼女がいるといないでは天と地ほどの差ができる」
「そんなんインターン受け入れてる私が一番よく分かってるよ。だがいくら仮免持ってるとはいえ、学生相手にすることじゃねーだろ。それに私に対するスジが通ってねぇんじゃねぇか?」
「学生の力を借りるために協力要請を出したことは謝罪しましょう。ですが、その少女の個性が本案件に於いて重要であることが分かっているからこそ、ここに連れて来たのではないですか?」
「っ……!さっきから何だよ個性だの重要性だのぼかしやがって!分かるように話せよ!」
褐色肌の人が文句を言う。こんな意味深な会話だけされればそれも当然だろう。
ナイトアイも状況が状況だけになりふり構っていられないのか、こちらに視線を向けてきた。
相澤先生みたいに私にはっきりと向けてきた思考じゃないけど、話しても大丈夫かの確認だった。
ここにいる人たちは悪意を感じる人はいない。
多分大丈夫だと思う。私は小さく頷いた。
「そちらの少女の個性は、自己の周囲を広大な範囲に渡って感知が可能なのです。さらに、その範囲内の人間であれば読心も可能。緑谷を予知した際に見た過程を飛ばした行動や体育祭での挙動からの推測ですが、そう間違ってはいないでしょう?」
「……間違ってないです……」
「読心って……」
「……それは確かに、効率が段違いになるな……」
周囲のヒーローがざわつき始めた。
お姉ちゃんとかA組の皆は心配そうに私を見ている。
そんな雰囲気の中、相澤先生が口を開いた。
「……ナイトアイ、リオルの個性に頼るのは私は反対です。確かに密偵という点ではこれ以上の人材はいないでしょう。ですが、リオルはヴィランの読心を行った際に錯乱した過去がある。それだけの悪意が渦巻く死穢八斎會の構成員の読心は、負担が大きすぎる」
「……私も同意見だな。自分の弱虫を棚に上げて他人に負担を強いる根性が気に食わねぇ」
「負担になるのは百も承知です。ですが、それを押して協力を依頼したい……少女を確実に保護するためにも。もちろん協力が難しいということであれば断ってもらってもかまいません。その場合はここにいるヒーローで何としてでも拠点を割り出すだけです」
ナイトアイはそう言って目を閉じた。
反応しなくなったナイトアイを見て、ミルコさんは青筋を引っ込めて横目でこっちを見てきた。
「…………はぁ。気には食わねぇが、後ろ暗いこと考えてる様子もなければ、これに関しては間違ったことも言ってねぇ。お前の判断に任せる。ヤバイ思考を読ませようとしてるんだ。学生のお前が断っても誰も責めねぇよ」
ミルコさんの言うことも尤もだ。
さっき相澤先生が言ったように、少女を切り刻むような狂人の思考を読んだら黒霧の思考を読んだ時みたいに錯乱しないとも限らない。
だからこそ相澤先生とミルコさんは私に逃げ道を作ってくれた。
でも、私がいると効率が段違いになるというのも事実だと思う。
これだけの所業をしてのける死穢八斎會の構成員の読心なんてしたくないというのが本音だ。
どれだけの悪意や悪感情を読むか分かった物じゃない。錯乱しないなんて保証はできない。
それでも、エリちゃんという少女がその悪意に晒され続けているというなら、なんとかしてあげたいとも思った。
「……分かり……ました……錯乱しないかの保証は……できませんけど……協力……します……」
「感謝する」
私の返答を聞いて相澤先生とお姉ちゃんの思考が、さらに心配している感じになった。
でもこの場で何かを言ってくることもなく、これで話は終わったと判断したらしいナイトアイは立ち上がった。
「娘の居場所の特定・保護、可能な限り確度を高め、早期解決を目指します。ご協力よろしくお願いします」
「えー!では個別に詳細お渡ししますので―――……」
こうして、情報共有と言う名の会議が終わった。