サー・ナイトアイのサイドキックであるバブルガールから、依頼したい内容の詳細が記載された紙を渡された。
要約すると現状エリちゃんがいる可能性の高い本拠地の偵察の依頼だった。
エリちゃんがいるかどうかの確認、可能なら侵入経路やそこからエリちゃんがいる場所までの経路の割り出し、構成員の人数の確認など多岐に渡った。
「……調査は私といる時以外はすんなよ。あくまで仮免のインターンだってことを忘れるな」
「大丈夫です……1人でしようとは考えてないので……」
「ならいい。私はもう帰るぞ。日時とかはまた電話で連絡する。じゃあな」
「はい……ありがとうございました……」
それだけ伝えるとミルコさんはスタスタと去っていった。
いつもならそのまま食事に連れて行かれてるけど、これは他の雄英生が集まっているのに気づいていて遠慮してくれた感じかな。
1人で突っ立っていても仕方ないし、私も皆の方に合流することにした。
ちょうどさっきまで緑谷くんがエリちゃんと接触した時の話をしていたようで、すごく暗い雰囲気になっている。
緑谷くんだけじゃなくて通形さんまで落ち込んでいた。
お姉ちゃんが真剣な表情で通形さんを見つめている。凛々しくて素敵だ。
でもこの空気の中に入っていくのはなかなか難しい。
「そうか、そんなことが……」
「悔しいな……」
「デクくん……」
合流しようとするタイミングを間違えたかななんて思いながら入るタイミングを伺っていると、私の次のエレベーターに乗っていたらしい相澤先生が物陰に隠れている私を見て溜め息を吐いた。
「……通夜でもしてんのか。波動も隠れてないで来い」
そのまま私の手を掴んで無理矢理引っ張り出される。
「先生!」
「瑠璃ちゃんまで!いつからいたの!?」
お茶子ちゃんがびっくりした様子でこちらに質問してくる。
「……緑谷くんたちの話が……終わったあたりから……入りづらい雰囲気だったから……様子を伺ってた……」
私がそう返答すると皆なんとも言えない雰囲気になった。
その雰囲気を一切気にせずに先生が話し始める。
「学外ではイレイザーヘッドで通せ。いやぁしかし……今日は君たちのインターン中止を提言する予定だったんだがなぁ」
先生はそう言い放った。
先生にそういう考えがあるのはここに着いたあたりから気が付いていた。
説明を聞いている途中で緑谷くんの様子からまた暴走しかねないことが分かって気が変わったみたいだけど。
緑谷くん、結構暴走するし前科もあるから当然か。
保須や合宿の時のような脅迫観念に等しい恐ろしい程の人助け精神や、爆豪くん関連の戦闘訓練や直近の喧嘩。それの複合である神野の件まで枚挙に暇がない。
普段の真面目な緑谷くんの印象からは想像もできないほどだ。
正直あの状態になっている時の緑谷くんの思考は、人助けに狂った狂人みたいになっていて普通に怖い。
自分の命を度外視しているし、怪我も一切気にしないで自分の身を投げうつ精神性はどうかしているとしか思えない。
オールマイトもそんな感じだし似たもの師弟なんだろうけど、嫌な所で似たものだと思う。
……むしろそういう精神構造をしているから自分の後継にしたのかな。
そう考えるとさらに怖いなこの師弟。
「ええ!?今更なんで!!」
ガーッて感じで切島くんが立ち上がって質問する。
「連合が関わってくる可能性があると聞かされたろ。話は変わってくる」
先生の意見を聞いて緑谷くんが苦虫を噛み潰したような顔をし出した。
切島くんもだけど、先生が最初に"予定だった"って言ったことに気が付いていないんだろうか。
「ただなぁ……緑谷、おまえはまだ俺の信頼を取り戻せていないんだよ……」
先生が「喧嘩したしな」なんてぼやきながら頭を掻いた。
そのまま先生は目線を緑谷くんに合わせるためにしゃがみ込みながら話を続けた。
「残念なことに、ここで止めたらおまえはまた飛び出してしまうと、俺は確信してしまった。俺が見ておく。するなら正規の活躍をしよう、緑谷。分かったか問題児」
そう言って先生は緑谷くんの胸に拳を当てた。
青山くんの時もそうだったけど、相澤先生はこういう時は本当に頼りになって格好いい。
除籍にするなんていう思考のせいで最初は掴み損ねていたけど、生徒のことをよく見て考えてくれている先生だっていうのが最近になって理解できてきた。
そんなことを考えていると、落ち込み続ける通形さんに天喰さんとお姉ちゃんが声をかけた。
「ミリオ……顔を上げてくれ」
「ねえ私知ってるの、ねえ通形。後悔して落ち込んでてもね、仕方ないんだよ!知ってた!?」
流石お姉ちゃん。端的で的確な助言だ。慈愛の聖母のようだ。
ここで流石お姉ちゃんと称賛したい衝動に駆られるけど必死で我慢する。
今騒いだらお姉ちゃんの助言が台無しになってしまう。自制しないと……
「……ああ」
通形さんもお姉ちゃんの助言をちゃんと受け止めたようで、表情を新たにしていた。
先生も緑谷くんを励ますために、言葉を続けた。
「気休めを言う。掴み損ねたその手はエリちゃんにとって、必ずしも絶望だったとは限らない。前向いていこう」
「はい!!!!」
緑谷くんもそれを受けて明るい表情で返事をした。
良かった。あんなにどんよりした思考と雰囲気のままだと、ちょっと近寄りづらかったし。
「俺……イレイザーヘッドに一生ついていきます!」
「一生はやめてくれ」
「すいぁっせん!!」
「切島くん声デカイ……!」
「ん……もっと声……抑えて……」
切島くんも感動するのはいいけど、流石に大声を出すのはやめて欲しい。
それにそんな舎弟みたいな感じの関係は相澤先生は望んでないと思う。先生はA組の皆を生徒として可愛がっているだけだし。
そんな風に話していたら先生は今度は私の方に向き直った。
「波動、お前もだ。無理や深入りはするな。今日のミルコの様子なら信頼は出来ると思うが、不調を感じたらすぐに伝えて調査を中断しろ。なんだったら途中で投げ出してもかまわん。おまえはまだ学生だということを忘れるな。学生に重大な役割を担わせているんだ。その尻拭いをするのはプロ、大人の仕事だ。無理をして潰れるなんてことだけはないようにな」
「はい……ありがとうございます……」
「そうだよ瑠璃ちゃん!絶対に無理しちゃダメだからね!つらかったらミルコとか先生に……私でもいいからちゃんと誰かに言うんだよ!溜め込んだりしないように!瑠璃ちゃんすぐ溜め込むんだから!」
「ん……お姉ちゃんも……ありがと……無理だと思ったら……ちゃんと相談するね……」
先生とお姉ちゃんからの念押しに、私もしっかりと頷いた。
聞いているだけでも狂気に満ちた行動としか思えない死穢八斎會構成員の読心。
正直不安しかないけど、お姉ちゃんもいるし、先生もいる。ミルコさんだっている。言われた通りに無理をしないで、皆を頼ろう。
「……それはそれとしてだ、プロと同等かそれ以上の力を持つビッグ3はともかく、波動以外のおまえらの役割は薄いと思う。蛙吹、麗日、切島。おまえたちは自分の意思でここにいるわけでもない。どうしたい」
先生の続けて確認し始めた。確かに先生の言う通りで、私以外は特に重要な役割を与えられているわけでもない。
緑谷くんみたいに暴走するような問題児でもない。来るなという強制はしないけど、望んでいないなら教師としてストップをかけてくれるということだろう。
それに対して勢いよく立ち上がったお茶子ちゃんを皮切りに、意思表明が始まった。
「先……っ、イレイザーヘッド!あんな話聞かされてもう、やめときましょとは行きません……!!」
「イレイザーがダメと言わないのなら……お力添えさせて欲しいわ。小さな女の子を傷つけるなんて許せないもの」
「俺らの力が少しでもその子の為になるなら、やるぜイレイザーヘッド!」
3人が一通り意思を伝えた。
「会議に参加させてる以上、ヒーローたちは1年生の実力を認めていると……思う。現に俺なんかよりも、1年の方がよっぽど輝かしい」
「天喰くん隙あらばだねぇ」
「天喰さん……相変わらずの卑屈さ……」
その横で天喰さんが相変わらずの卑屈な発言をして、お姉ちゃんに突っ込まれている。本当にどうしてお姉ちゃんに初めて話しかけた時の勇気を普段から出せないのか。
そんなお姉ちゃんたちの様子は気にせずに、立ち上がった相澤先生が話を続けた。
「意思確認をしたかった。わかってるならいい。今回はあくまでエリちゃんと言う子の保護が目的。それ以上は踏み込まない。一番の懸念であるヴィラン連合の影。警察やナイトアイらの見解では良好な協力関係にはないとして……今回のガサ入れで奴らも同じ場にいる可能性は低いとみている。だが万が一見当違いで……連合にまで目的が及ぶ場合は、そこまでだ」
「了解です!」
そんな感じで今日の集まりは終わった。
もう夕方で外は夕日に染まっている。
相澤先生から念押しのようにインターンに関する一切の口外禁止を言い渡されて、相澤先生を除く皆で帰路に就いた。
先生はまだやることがあるらしい。相変わらず忙しそうだ。先生、ちゃんと休んでいるんだろうか。