波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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後半にグロテスクな表現があります。苦手な方はご注意ください。


偵察任務(前)

協議の翌日。

私は朝から死穢八斎會本拠地近くの駅に来ていた。

昨日の協議で依頼された、死穢八斎會の感知に来たのである。

日時はミルコさんの指示で、私服で来るようにと念押しされた。

密偵なのにヒーローコスチュームなんか着て目立ってたらバレるリスクが上がるだけだし、当然の指示だ。

 

私が来てから10分くらい経った頃、ミルコさんの波動が近づいてきた。

そちらに目を向けると、私服で耳を隠したミルコさんが歩いてきていた。

早速駆け寄って挨拶してしまう。

 

「おはようございます……!」

 

「おう。時間通りだな」

 

「はい……えっと、今日はなんて呼べば……いいですか……?いつも通りだと……ダメですよね……?」

 

「ん?ああ、そうだな。好きに呼びな。いつも通りじゃなきゃどうでもいい」

 

変装しているのにヒーロー名で呼ぶのはあり得ない。なんて呼べばいいだろうか。

何か適当な偽名で呼ぶのもありだけど、ミルコさんの本名で呼んでもいいと思う。

ミルコさんの本名は兎山ルミだったはずだ。

本名で呼んでも怒らないかな……?怒らないよね、きっと。

 

「じゃあ……ルミさんでも……いいですか……?」

 

「ああ。別にそれでいい。とりあえず行くぞ、波動」

 

「はい……!」

 

名前呼びを認めてもらえた嬉しさに頬を緩めながら、ミルコさんに先導されて歩き始めた。

 

 

 

死穢八斎會の本拠地の屋敷に近づいてくるにつれて、その地下に広がる広大な空間を嫌でも感知してしまう。

どれだけ広いんだろうこの空間。一応範囲内に収まってはいるけど、感知範囲ギリギリまで空間が広がっている。

ミルコさんはスタスタと歩いていって、死穢八斎會の本拠地から通りをいくつか挟んだところにある喫茶店に入った。

そのままミルコさんは店員に声をかけ始める。

 

「すまんが、外から見えない席に案内してくれるか?」

 

「外から見えない席にですか……?」

 

不思議そうな顔をしてすぐに案内してくれない店員に、ミルコさんは深く被っている帽子を少しずらして耳を見せた。

 

「今日はオフでな。周囲の目を気にせずにのんびりしたいんだ」

 

「……!なるほど!承りました!こちらになります!」

 

店員の後をついて喫茶店内の奥まったところにある席に案内される。

どうやらこの女性の店員さん、ミルコさんのファンらしい。思考もそうだけど、明らかに態度が変わった。

まあミルコさんは強い女性のシンボルみたいな感じで扱われている風潮もあるし、この店員もそこら辺がいいと思っているタイプっぽい。

ミルコさんが変装なんてするわけないって言う偏見からすぐには気が付かなかったみたいだけど、耳を見てすぐに自分の考えを修正していた。

なんというか、この人は結構拗らせてる感じだな。

 

案内された席は周囲に観葉植物とかもあって、お店の中からもなかなか目につかない位置の席だった。

 

「いい感じの席ですね……ルミさん……」

 

「おう。ま、私はゆっくり茶でも飲んでるからのんびり感知してくれ」

 

「はい……!」

 

とりあえず店員があまり近づいてこないように、先に注文を取ってしまう。

ベルを鳴らしたらさっき対応してくれた店員がやってきた。私は違和感を持たれないように紅茶と摘むものを注文した。

 

「紅茶とこの野菜スティック。あとは……生人参出せるか?」

 

「もちろんお出しさせていただきます!コックがダメだと言っても私が出させます!」

 

ミルコさんの無茶振りに女性店員が凄いハイテンションで答えた。

だけどコックがダメだと言ったものを出すのは飲食店として大丈夫なんだろうか。心配になってしまう。

そんな心配をしていたのに、注文を取り終わったはずの店員さんが離れずにもじもじしている。

思考を読んだから分かるけど、これ性格悪いヒーローにやったら怒る人もいると思う。

ミルコさんなら大丈夫だろうけど。

店員さんは少し声を抑えながら興奮気味に話すと言う器用なことをしながら色紙を差し出してきた。

 

「あ、あの!サイン貰ってもいいですか!」

 

「おう。してやるから後は仕事に集中しろよ」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

ミルコさんが色紙にさらさらとサインを書いていく。

ファンサービスも頻繁にしているミルコさんはやっぱりサインも書きなれているようだった。

書き終わったサインを嬉しそうに眺めた店員さんは、今度は私の方にも視線を向けてきた。

……なるほど。この人だいぶディープなファンみたいだ。

この前の記事で興味を持たれていたらしい。

 

「あの、あなたにもお願いしていいですか!?ミルコさんが認めた唯一のサイドキックのサインも一緒に欲しいんです!!」

 

「……私、学生ですけど……いいんですか……?」

 

「はい!お願いします!!」

 

店員さんの勢いに押されてミルコさんのサインが書いてある色紙の端っこに不慣れなサインを書いてしまう。

ミルコさんみたいな書き慣れた綺麗なサインじゃないから、ちょっと恥ずかしい。

 

「はい……どうぞ……」

 

「ありがとうございます!家宝にします!ご注文の品は最優先でお持ちしますので少々お待ちください!!」

 

ばびゅーんって感じの凄い速さで女性店員は去っていった。

嵐みたいな人だった。何だったんだろう。

 

 

 

少し待って注文した物が揃ってから感知を始めた。目を閉じて波動に集中する。

死穢八斎會の本拠地の地上部分はただの大き目なお屋敷でしかない。

ごろつきレベルの悪意の人たちが歩いている。

この人たちの思考はただのごろつきだったり、"若頭"への恐怖で支配されていたりするだけだ。

核心に近い情報は何もない。

若頭っていうのはナイトアイの所での協議に出てきた治崎という壊して治す個性を持っている人だったはず。

 

地下への入口は、普通の形状をしていない。

多分仕掛け扉とかになっている感じだと思う。周囲の枠とかに何か仕掛けのような機構があるけど、複雑すぎてどう動かせば開くのか見当もつかない。

地下の方も浅い所から順に集中して見ていっているけど、そこまで重要な思考をしている人が見当たらない。

なんだか今浅い所にいる人たちは大体ごろつき程度の悪意しか持っていない。

 

深い所にいるのかな?

そう思って地下深い所の波動に集中すると、小さい子どもみたいな大きさの波動を見つけた。

その子は今、ペストマスクみたいなものを付けた男に手を引かれて歩いていた。

 

多分この角が生えている小さい子がエリちゃんだと思う。

その子の波動を見て、思考を深く読んで、私は愕然としてしまった。

全身に、夥しい切り傷の跡が残っている。

それだけじゃなくて、凄まじい恐怖と絶望に支配されている。

殺害を仄めかされていた青山くんが林間合宿前に抱いていた恐怖よりも、更にすごく強い恐怖の感情だった。

思考も、『また……今日も……』とか、『もういや……!でも、逃げたら……また誰かが……!』とか見ていられないようなものばかりだ。

 

隣の男からは、凄まじい悪意を感じる。

この男、治崎は死柄木には劣るけど、その辺のヴィランなんか目じゃないほどの悪意を秘めていた。

『親父』、『組の為』、『あと少し』。そんな思考ばかり読み取れる。

親父と言うのはお屋敷の方の奥のベッドで色々な機械に繋がれている人のことだろうか。

大きな心電図の機械や点滴とかを繋がれているのを考えると、何か重い病気を患っているのかもしれない。

 

そんなことを考えながら波動を注視し続けていると、感じ取りたくもないような拷問が行われ始めた。

 

麻酔なんか使わずに切りつけられる少女の手足。

激痛に叫び声をあげる少女の思考。

そこから肉や血を喜々とした様子で採取し続ける治崎。

治崎の狂った思考。親父の為と言いつつ、親父という人を自分で昏睡させて、組を大きくするために個性を破壊する銃弾と修復する血清を作ろうとしていることも、何もかも狂気的な思考とともに読み取れてしまった。

 

 

 

「ぉぃ!おい!波動!」

 

肩を強く揺さぶられながら大声で声を掛けられて、私の身体がビクッて跳ね上がった。

そこでようやくミルコさんに呼ばれていたことに気が付いた。

 

「大丈夫か?呼吸が荒いぞ」

 

「は……はい……ルミさん……本拠地に……エ……少女が……いました……今……ちょうど……拷問を……」

 

「よし、よくやった。それだけ情報があれば十分だ。もう無理すんな」

 

ミルコさんにそう声を掛けられた瞬間、少女の悲鳴が、断末魔の悲鳴が、頭の中に響いた。

 

『あぁああああぁああああああああああああっ!!?』

 

断末魔の悲鳴とともに、死ぬ間際の思考と恐怖、苦痛とかの、ありとあらゆる不快で、身の毛もよだつような思考が、頭に叩き込まれてくる。

そして、波動が少しずつ霧散していって、少女は動かなくなった。

 

少女の死体は、腕も、足も引きちぎられていた。そこから肉を抉り取られている。

表情も、想像を絶するほどの恐怖と苦痛に歪んだ、この世の物とは思えない物になっていた。

 

「ぁっ……し、しんでっ……ぅぷっ……ルミさっ……ご、ごめんなさいっ……」

 

私はミルコさんに断って、大急ぎでトイレに駆け込んだ。

胃の中の物を全て吐き出しても、吐き気は収まりそうになかった。

 

殺された少女は、治崎の個性で蘇生されていた。身体は元通りになっている。

治崎は粛々と少女の血液や肉片を整理している。

エリちゃんは、それを恐怖と絶望に塗れた思考で、諦観の念を込めながら、暗い目で涙を流しながら見つめていた。

 

それからも、何度も何度も、その拷問は、殺戮は繰り返された。

何度も何度も、頭の中に少女の苦痛に満ちた声が、断末魔の悲鳴が聞こえてくる。

そのたびに死に際の思考が叩き込まれて、少女の苦痛に歪んだ死に顔が見えて、気が狂いそうだった。

 

なんでこんなことが出来るのか、なんでこんな、血も涙もない行いが出来るのか。

なんでこの少女は、何度も何度も殺されて、死という逃げ道すら封じられて、『私が我慢すれば……』なんて思えるんだ……

何もかも、気持ち悪くて、吐き気がして、見ていられるものじゃなかった。

 

こんな苦痛に、恐怖に晒したまま放っておくことなんてできない。

こんな状況に置かれた少女を、無視することなんてできない。

お姉ちゃんも、先生も、ミルコさんも、逃げていいって、投げ出していいって言ってくれた。

だけど、どうにか助けてあげないといけないと、強く思ってしまった。

そのためにも、嫌悪感も吐き気もなくならないけど、感知をし続けた。




この話以後、死穢八斎會編では似たような拷問の描写が入ることがあります
次話以降は前書きでの注意書きをしないので、苦手な方は重ねてご注意を
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