波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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偵察任務(後)

それから少しして、ようやくエリちゃんに対する拷問が終わった。

エリちゃんは恐怖に歪んだ表情のまま涙を流して、ただただ耐えていた。

治崎がエリちゃんの手を掴んで部屋を出ようとしたタイミングで治崎に電話か何かがかかってきたようで、スマホに向かって話している。

 

その話が終わるくらいの時、地下の端の方にある通路に見覚えのある波動が2つ現れた。

この波動は、トガと林間合宿の時に複製を作り出していた男の波動だ。

それを認識したところで、私は立ち上がってミルコさんの所に戻った。

 

「もう大丈夫なのか」

 

「……はい……心配かけて……すいません……」

 

「……まだ続けるつもりか」

 

ミルコさんは私の目を真っ直ぐ見据えて、そう聞いてきた。

 

「……はい……あの子……どうにかしてあげたいって……思ったんです……」

 

「……そうか」

 

「それに……地下の奥深くの……通路の所に……トガと……ヴィラン連合の複製個性の男、トゥワイス……2人の波動を感じました……」

 

さっきまで静かに私を見ていただけだったミルコさんが、そのことを伝えた途端獰猛な笑みを浮かべた。

 

「へぇ……つまり、ヴィラン連合との協力関係が明確になったわけだ」

 

「幹部と思われる……悪意の大きい者たちが……1つの部屋に集まっています……トガたちも……そこに向かっています……これから会合があると思います……」

 

「……まだ読めるんだな」

 

「はい……」

 

「死柄木じゃなくて部下2人と会合をしようとしている時点で協力関係は明白だからな。無理だと思ったらすぐに言え。そこは変わらねぇ。続けたきゃ続けな」

 

「はいっ……」

 

 

 

ミルコさんからの承認をもらったし、感知を続ける。

トガたちはしばらくの間地下を歩かされたあと、ようやく幹部たちが集まっている部屋に入っていった。

ヴィラン連合の目的を確認したい。口の動きと思考の内容から会話を予想して補足していこう。周囲全員の思考に注意を向けながら、治崎とヴィラン連合2人の思考を出来る限り深く読んでいく。

 

『上からの命令で仕方なく来ました。トガです』

 

『久しぶりだなトリ野郎!てめぇ絶対ゆるさねぇぞ!』

 

『マグネの件はすまなかった。俺も彼を殺したくはなかったんだ。恨む気持ちも分かるが協力関係となった以上、計画遂行に助力して欲しい』

 

マグネというのは林間合宿の時に襲撃してきた棒を持って吸い寄せたりしていた男のことだろうか。

あの男が、殺された?死穢八斎會に?

それで協力する理由はなんだ。理解に苦しむ。

少なくともトガとトゥワイスは乗り気でない上に、キレているのが伝わってくる。

 

『組の者同様、我々の指示に従ってくれればいい。そのためにも個性の詳細を教えてくれ。情報交換、もしもの時連携取りやすいようにしておきたい』

 

『もしもの時ならもしもの時に教えます。あなた達のことまだ好きじゃないので』

 

治崎にトガが口答えした瞬間、小さなペストマスクの人が激怒した。

思考が荒ぶっていて何を言っているかはよく分からないけど、多分トガの態度に激怒している感じかな。

 

『あーダメだやっぱダメ!!なってないね!!決めたね!!感じ悪いもん教えてやんねー!!』

 

トゥワイスが激しく首を振りながら拒否している。だけど次の瞬間、トゥワイスの思考が困惑に包まれた。

……口が意思に反して勝手に動いている?

思考の方は『口が勝手に!?』って感じだ。

治崎の方の思考の感じからしてトゥワイスは自分の個性のことをぺらぺら話しているようだ。

内容は、あらゆるものを2つに増やす個性。身長や胸囲といった多くのデータをしっかり測って明確なイメージを持つことで初めて複製できるようだ。

弱点は衝撃に弱いこと。ここは相澤先生と複製の戦闘からある程度分かっていたことだ。

新しい情報は、多くのデータがないと複製できないことと、2つまでしか複製できないこと、2つ目はさらに耐久性が下がること、個人的事情とやらのせいで自分を複製できないということくらいか。

 

……この個性、自分を複製出来たら大変なことになるのではないだろうか。

複製が個性を使えることはもう分かっている。なら、複製がさらに自分の複製をつくることもおそらく可能なはずだ。

つまり、無限に増え続けることが出来るということになる。複製の人海戦術で圧殺することすらできるということだ。

しかも2つの複製をつくれるということは、複製に自分+トガや自分+荼毘というように複製させ続けるだけで複製以外の個性持ちすらも無限に増やし続けられるということになる。

個人的事情とやらが分からないけど、警戒しておかないといけない危険度の高い個性だ。

 

トゥワイスがぺらぺら喋るのをやめたとたん、トガが責めるような目でトゥワイスを見ている。

『違う!』って言っているあたり、本当に自分の意思で喋ったんじゃないようだ。

周囲の人間の思考を探ると、"真実吐き(まことつき)"という個性の影響で問いかけに対して強制的に本心を語らせているようだ。

私の読心程じゃないけど、隠し事をさせないという意味では驚異的な個性ではある。

 

さらにトガに対しても個性が使われたようで、困惑するトガの内心とは裏腹に口が動いている。

こっちも周囲の思考からすると、個性の内容を話しているのは変わらないようだ。

トガの変身で新しい情報は、効果時間と服も含めて変身するから裸で変身しないと服が重なるということくらいか。

 

周囲の口の動きを見る限り、真実吐き(まことつき)の個性を持っているのは治崎の後ろの長身の男だと思う。

この男も深めに読心しておこう。

 

『死柄木から裏切りの予定を聞かされたか?』

 

深く読心を始めた直後に真実吐き(まことつき)の個性の男はそう質問したと思う。

それに対してトガとトゥワイスは否定の言葉を返したようだ。

 

つまり、裏切りの予定を直接は聞かされていないと言うこと。

だけど思考を見る限り、従う気がなさすぎる。

多分真実吐き(まことつき)の個性での聞き方が悪いんだと思う。

直接聞かされたかを質問しているからこうやって騙される。

どういう風に聞かされて出向してきたかを喋らせれば死柄木の意図を全て読み取れるだろうに。

そこまではできない個性なのだろうか。でもさっき個性の内容をぺらぺら喋らせたんだから、出来ると思うんだけど。

使い方が悪いだけのような気がする。

 

『オッケーだ。これから八斎會の一員として迎える。だが手配犯のおまえらを自由にさせるわけにもいかない。指示のない限りこの地下の居住スペースから出ないように頼む』

 

『軟禁かよ!?』

 

『ええー自由でいたい』

 

『もう少し信用できる仲になったら自由にしてやるさ。君ら次第だ』

 

ここまで話して治崎が部屋を出て行って会合が終わっていた。

 

少なくともヴィラン連合とは一時的な協力関係だけど、裏切る可能性が高いことは分かった。

あとトガとトゥワイスの個性の詳細も。

これは大きな情報だと思う。

 

 

 

「ルミさん……会合……終わりました……連合は……協力関係ではありますが……裏切る可能性が高いと思います……裏切れとは指示されてないようですけど……全然従う気がなさそうです……」

 

「おう。となると、何か他に目的があるとみるべきだな」

 

「はい……出向2人は……何も聞かされてないみたいで……それが何かまでは……分かりませんでしたけど……」

 

ミルコさんに伝えながら持ってきた紙に読心した内容をまとめていく。

エリちゃんのことから行われていた拷問、治崎の目的、連合のこと、トガとトゥワイスの個性、真実吐き(まことつき)の存在辺りをざっとまとめてしまう。

そこに私の所感も書き加えていく。

あとは地下の構造を地図っぽい感じで書いておこう。

エリちゃんの部屋だと思われるおもちゃが転がっている部屋やエリちゃんが拷問されていた部屋、会合に使われていた部屋とか重要そうな地点の周囲を重点的にまとめた。

書けることを書き上げて顔を上げるとミルコさんが人参をかじりながら私のことをじっと見つめていた。

 

「出来たか」

 

「はい……」

 

「見せてみろ」

 

「どうぞ……」

 

ミルコさんにノートを差し出す。

パラパラとゆっくりと捲られていくページに合わせて、ミルコさんの顔つきがどんどん険しくなっていく。

思考も粗暴な感じになっていっている。エリちゃんに対する行いに思うところがあるみたいだ。

 

「なるほど……さっきのはこういうことか」

 

「はい……」

 

「たくっ……無理すんなって言っただろうが」

 

「でも……」

 

「いい。無理した理由は理解できた」

 

反論しようとしたらミルコさんに遮られた。

 

「……だがいい仕事だ。ここまでの情報があれば少女保護の成功率は段違いになるだろう。よくやったな」

 

ミルコさんにぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。

髪が乱れるのは嫌だけど、悪い気分はしない。

エリちゃんのために頑張ったけど、これで少しでも突入が効率的に進められるなら嬉しい。

私がエリちゃんを見つけられたし、近いうちに突入日が決まるんじゃないだろうか。

 

さっきの店員さんが凄い凝視してきているけど、流石に話までは聞いてないよねあの人。

心配になって思考を深く読んだけど、特に怪しい点は見つからなかった。

ただあの記事みたいに頭を撫でられているのを見て、面倒見のいいミルコさんに感動しているだけみたいだ。

そんなことをしていたらミルコさんがメニューを持って店員さんを呼んだ。

店員さんは凄い反応速度でこっちに飛んできた。

 

「これ。早めにな」

 

「承りました!!」

 

店員さんが凄まじい速さで戻っていった。

……メニューを隠して頼んでたけど、ミルコさんが私にケーキを頼んでくれたのは分かった。

多分精神的に疲れたのを労うために頼んでくれたんだろう。

正直さっきの拷問の光景が頭から離れなくて食欲はあまりないけど、甘いケーキなら食べられる気がした。

ミルコさん、その辺りも考えて甘い物を頼んでくれたのかな。

 

 

 

運ばれてきたケーキを食べきって、喫茶店を出る。お金はミルコさんが払ってくれた。

最悪だった気分も、ケーキを食べて少しだけマシになった。

ノートはミルコさんが預かってくれた。ナイトアイの方にはミルコさんから情報共有してくれるらしい。

今日この後共有しに行くから、私はもう帰って休んでいいと言われた。

ミルコさん、凄く配慮してくれている。

不器用だけど私を気遣ってくれるその優しさが嬉しかった。

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