波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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トラウマ

寮に帰る頃には夜になっていた。

ミルコさんにケーキを奢られたり褒められたりして、少しだけマシになったとは言っても、正直気分は優れないままだった。

吐き気もまだ残っていて、とても夕食なんて食べられる感じではなかった。

 

私が玄関のドアを開けた途端に緑谷くんたちインターン組が駆け寄ってくる。

 

「波動さん!どうだった?」

 

「成果は……あったよ……」

 

「本当!?」

 

私の返答に切島くんとお茶子ちゃんが嬉しそうにしている。

その一方で、梅雨ちゃんが心配そうな表情で問いかけてきた。

 

「……瑠璃ちゃん、顔色が悪いわ。大丈夫?」

 

「……ん……大丈夫……だけど……食欲……なくて……ちょっと……休みたい……」

 

「休んだ方がいいわ。皆も、話を聞きたいのは分かるけど休ませてあげましょう」

 

梅雨ちゃんが背中をさすりながらそう言ってくれる。

緑谷くんたちも梅雨ちゃんの指摘で私の顔色に気が付いたようだった。

 

「す、すまねぇ!」

 

「よく見なくても顔色真っ青やん!?ご、ごめんね!!気になりすぎちゃって……」

 

「大丈夫……私の方こそ……ごめんね……」

 

切島くんとお茶子ちゃんが謝罪して道を開けてくれる。

緑谷くんは何も言ってこないけど、私の様子に気が付いてからどういうことかの予測がついてしまったらしい。

顔色を悪くして愕然としている。

 

梅雨ちゃんの気遣いをありがたく受け取って、今日はそのまま部屋に戻らせてもらった。

眠れば多少はマシになるかななんて思って、早々にベッドに横になった。

 

 

 

『いたいっ!!いたいよぉっ!!』

 

『やだっ!!いやぁっ!!』

 

『ゆるしてっ!それはいやっ!!あ゛ぁっ!?』

 

『あぁああああぁああああああああああああっ!!?』

 

『ぁっ……ぅっ……っ…………』

 

 

 

「っ……!!……はぁ……はぁ……」

 

エリちゃんの断末魔の悲鳴で、ベッドから跳び起きた。

全身がじっとりと汗ばんでいて、呼吸が荒くなってしまっている。

あの苦痛に歪んだ表情が、恐怖に満ちた表情が、脳裏から離れてくれない。

エリちゃんの断末魔の悲鳴が、死に際の思考が、恐怖が、ずっと頭の中で響き続けている。

苦痛と恐怖の中で、薄れゆく意識を、死に向かっていく少女の思考を、少女の身体から少しずつ波動が霧散していって、思考が読めなくなっていく様を思い出してしまう。

 

眠ればマシになるかなんて思ったけど、そんなことはなかった。

むしろあの拷問を、エリちゃんの恐怖と絶望に塗れた思考を夢で思い出してしまって、とてもじゃないけど忘れられそうにもなかった。

これ、フラッシュバックなのかな。

自分にされた拷問じゃないのに、こんな状態になってしまう自分に嫌気がさしてしまう。

実際にあの拷問に晒されているエリちゃんの苦痛は、恐怖は、私なんかの比じゃないはずなのに。

 

時間を確認すると、ようやく普段皆が寝ているくらいの時間だった。

とてもすぐには眠れそうにない。

そういえばまだお風呂に入ってなかったと思って、シャワーを浴びて汗を流すことにした。

皆眠っていて静けさに包まれた寮の中を、荒い呼吸のまま進んでいった。

 

 

 

結局あの後は一睡もできなかった。

目の下にクマも出来ていたけど、こんなの残しておいたら心配されるのが目に見えてる。

お母さんに女の子なんだから持っておけって無理矢理持たされている化粧ポーチの中のコンシーラーを使ってなんとか誤魔化した。

ほとんど使ったことがないせいで凄く時間がかかったけど、ぱっと見で分からなくなったからとりあえずこれでいいだろう。

そのタイミングでチャイムが鳴った。部屋の前にいるのはいつも通り透ちゃんだった。

 

「瑠璃ちゃーん!おはよー!ご飯食べに行こー!」

 

「ん……おはよ……透ちゃん……」

 

「……?……瑠璃ちゃん、顔色悪いよ。大丈夫なの?昨日は夕食も食べてなかったけど……」

 

「……大丈夫……心配かけて……ごめんね……行こ……」

 

「そう……?」

 

透ちゃんは私の顔を見てすぐに異常に気が付いたみたいだった。

私が誤魔化すと、違和感は残っていたようだけど訝しみつつもそのまま流してくれた。

 

食欲はなかったけど無理矢理朝食を詰め込んで登校した。

午前中はヒーロー基礎学だ。

今日は崖登りとかの訓練だった。

インターン組の皆の気合の入りようが凄かった。

私もエリちゃん救出のために気合を入れて訓練していたけど、インターン組は皆同じ気持ちだった。

それに対して爆豪くんが「何を掴んだか言え!!」なんてキレてたけど、単純に助けたいっていう気持ちと使命感に燃えているだけだ。

 

 

 

そして放課後。

今日も授業が終わって透ちゃんと話しながら寮に帰ろうとしていたら、お姉ちゃんとすれ違った。

そして、私たちとすれ違うタイミングで笑顔で手を振ろうとしたお姉ちゃんの動きが止まった。

お姉ちゃんは険しい表情に変わって私を凝視している。

まずい。バレた。

 

「あ、ねじれ先輩!こんにちは!」

 

「うん。こんにちは……ごめんね葉隠さん、瑠璃ちゃん借りていくね」

 

「お姉ちゃん……!私……大丈夫だから……!」

 

「そんな状態で何が大丈夫なの?ほら、行くよ」

 

お姉ちゃんが私の腕をぐっと掴んで無理矢理引っ張って歩き出した。

透ちゃんもその後を追いかけてくる。

 

「ねじれ先輩!やっぱり瑠璃ちゃん無理してたんですね!?私確信が持てなくて!」

 

「瑠璃ちゃんこういうのすぐ誤魔化そうとするから。普段してないお化粧までして誤魔化しちゃって……」

 

「あー!朝の違和感はそういうことか!?もー!!瑠璃ちゃん!?」

 

「……大丈夫だもん……」

 

「どこが。眠れてないでしょ。溜め込むなって言ったのに」

 

お姉ちゃんがプンプンしながら私の反論を悉く打ち砕いてくる。

 

「それで多分インターンのせいだと思うから、守秘義務もあるし葉隠さんには申し訳ないけど……」

 

「やっぱりそれが原因ですよね……分かりました!瑠璃ちゃんのことはねじれ先輩におまかせします!」

 

「うん。本当にごめんね」

 

お姉ちゃんはそう言って透ちゃんに謝りながら、私を引っ張って歩き続けた。

 

 

 

最初に連れていかれたのは職員室だった。

お姉ちゃんは相澤先生を探していたみたいだけど、生憎今日は不在だった。多分ナイトアイからの依頼をこなすためだと思う。

そこでお姉ちゃんはちょうど席に座っていたオールマイトに話しかけることにしたらしい。

 

「オールマイト!」

 

「?……あぁ波動少女。なにか用かな?」

 

「瑠璃ちゃんの外泊許可ください!」

 

「外泊許可?」

 

「はい!ちょっと色々あったみたいなので!今日は私の部屋に泊めようと思います!」

 

そういうことのようだった。

お姉ちゃんは明らかに眠れていない私を自分の部屋に泊めてメンタルケアするつもりらしい。

お姉ちゃんと一緒に寝れるのは嬉しいけど、迷惑をかけてしまっている気がして気が引けてしまう。

オールマイトはお姉ちゃんに掴まれている私の腕を見てから、私の顔をじっと見つめてきた。

 

「分かった。許可しよう。私から相澤くんにも伝えておくよ」

 

「ありがとうございます!」

 

すぐに許可をくれたオールマイトにお姉ちゃんもにこやかにお礼を言っている。完全に私の意思が無視されているけど……

そしてこれだけで終わるかと思ったら、お姉ちゃんはいつものように気になることが頭を支配し始めた。

とりあえず目的を達成することができて、オールマイトへの興味が少し大きくなってきたようだった。

無邪気で可愛い。さすがお姉ちゃん。

 

「それにしても……ねぇねぇしかし、オールマイトはなんでそんなにガリガリなんですか?直前までムキムキだったのに萎むみたいにガリガリになってたし!そういう個性なの!?なんでムキムキの時は画風が違うの!?ね!?ねぇねぇ答えて知りたいの!」

 

「いや、波動少女……それはだね、会見でも説明したように―――……」

 

オールマイトが律義にちゃんと説明し始めている。

それから少しの間はしゃぎ続けるお姉ちゃんに、困惑したオールマイトが誤魔化しながら当たり障りのない答えを返し続けた。

お姉ちゃんに変な情報を漏らさないか心配だったけど、杞憂だったようだ。

何度か助けを求めるようにこちらを見てきたけど、冷や汗を流しながら挙動不審になっていたからいつ余計なことを言うか気が気じゃなかったのだ。

お姉ちゃんに余計な情報を漏らしていらぬ危険まで持ち込まないように睨んでおいたおかげかもしれない。

 

お姉ちゃんはお姉ちゃんで、オールマイトが誤魔化していることも理解していたし、私が答えを把握しているであろうことも分かっているみたいだった。

その上でオールマイトにじゃれつきながら質問し続けていた。もしかして私に気を遣ってわざとこういうやり取りをしているのだろうか。

お姉ちゃんは突発的な行動が多いから行動理由までは読めないことが多くて、本当の所がどうなのかはちょっと分からないけど。

 

 

 

「オールマイトは気になることばっかり!不思議!」

 

職員室から出たお姉ちゃんは未だに興奮冷めやらぬ様子だった。

もう私も諦めてお姉ちゃんのされるがままになることにした。

お姉ちゃんの部屋にお泊りをさせてもらえるなら、いつもなら大喜びしているくらいの状況だし。

私に何があったのか詳しく話を聞こうとしているお姉ちゃんにどこまで話すべきかなんて考え込んでしまうけど……

お姉ちゃんの気遣いに甘えて、お泊りさせてもらって相談することにしよう。

守秘義務も、お姉ちゃん相手になら気にしないでいいだろうし。

お姉ちゃんを困らせてしまうかもしれないけど、それでも、溜め込むよりは吐き出した方が、いいかもしれないから。

 

その後は一度私の寮に寄って着替えとかの準備をして、3年生の寮に向かった。

A組の皆にもだいぶ心配されていたけど、お姉ちゃんの提案でお泊りすることになったことを伝えたらだいぶ安堵していた。

お姉ちゃんに任せれば大丈夫なんて皆が考えていた。

流石お姉ちゃんだ。メンタルケアまでこんなに信頼されているなんてハイパーお姉ちゃんである。

でもお姉ちゃんがメンタルケアをしている所なんて皆見たことないと思ったんだけど、なんでこんなに信頼されているんだろう。謎だ。

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