午前8:30。
決行の時間になった。
「令状読み上げたらダーーーッ!!と!行くんで!速やかによろしくお願いします」
そう言って警察の人がインターホンの前に移動しようとした瞬間、中の家から巨体の男が出てきた。
悪意を感じるし、何よりもこっちを殴ろうとする意志が読み取れる。
これは、このまま突撃してくる……!
「しつこいな、信用されて「敵が来ますっ……!!門から離れてっ……!!」
私が合図をしたタイミングで、門をパンチでぶち破った巨体の男が飛び出してきた。
そのパンチに対して、ミルコさんがすかさず跳び上がった。
「
空中から振り下ろされたその強烈な蹴りは、男の巨大な拳を地面に叩きつけた。
「はっ!図体がでかいだけのウスノロだなっ!」
「オイオイオイ待て待て!!!感づかれたのかよ!!」
「いいから皆で取り押さえろ!!」
強気に言うミルコさんを尻目に、警察や他のプロヒーローが狼狽する。
男は地面にめり込んでいた腕を力尽くで引き上げて、そのままミルコさんに向けて拳を構えた。
「ほんの少し元気が入ったぞ―――……もぉ~~~~」
「なるほど、見た目通りフィジカルだけはいいってか?それだけでやれるほどヒーローミルコは甘くねぇぞ!」
「ミルコ!!」
「あ?」
ミルコさんが応戦しようとすると、その前にリューキュウが飛び出してきた。
邪魔されたと思っているミルコさんの顔に青筋が浮かんでいる。
そんなミルコさんを意に介さずに、リューキュウは個性を使ってドラゴンに変身した。
「あなたがここで時間をかけることは、リオルがここに残ることを意味します。人探しに於いて彼女の個性は必須です。それに、ここに人員を割くのも間違っている。ならばこそ、彼はリューキュウ事務所で対処します。皆は引き続き仕事を!」
そう言ってリューキュウは男の拳を掴んで地面に叩きつけた。
「今のうちに!!」
「よう分からん、もう入って行け行け!!」
「ちっ……」
リューキュウの合図に皆が走り出す。
ミルコさんも間違ってはいないと思ったのか、舌打ちをしながらも走り出した。
お姉ちゃんたちリューキュウ事務所でインターンをしている3人はリューキュウのサポートをするために走り出していた。
「梅雨ちゃん、麗日!頑張ろうな!」
「また後で!!」
緑谷くんと切島くんがお茶子ちゃんたちに声をかけてから走っていく。
私もミルコさんを追わないと。
だけど、その前にお姉ちゃんに伝えておかないといけないことがある。
「お姉ちゃんっ……!!その男、触ると活力を吸い取るみたいっ……!!気を付けてっ……!!」
お姉ちゃんが頷いたのを確認して、私もミルコさんを追いかけてすぐに走り出した。
死穢八斎會の庭に入ると、すぐにドラマとかで見るような分かりやすいやくざが出迎えてきた。
「おぉい何じゃてめぇら!」
「勝手に上がり込んでんじゃねーーーーー!!」
「ヒーローと警察だ!違法薬物製造・販売の容疑で捜索令状が出てる!」
やくざの男たちに対して警察が即座に罪状を述べたけど、男たちはそんなことは気にしないで反撃してきた。
『個性"葉操"』という思考と同時に、木から葉っぱが飛んできた。
その葉っぱはすぐに前の方を走っていたプロヒーローが捌いて、一切止まらずに走り続ける。
「まっすぐ最短で!目標まで!!」
走り続ける間にも、情報が伝達された死穢八斎會の面々が動き続ける。
今、あの拷問部屋の近くにいるオーバーホールは、『今見つかるわけにはいかない』、『あいつらが勝手に暴れたことにする』、『その間にエリもろとも全て運んで隠し通す』とか考えて逃走を図っていた。
私がそんな思考を読んでいる間にも、天喰さんや相澤先生がヤクザについて話していた。
忠義と結束の話をした上で先生が逃走を予測すると切島くんが憤りを露わにした。
「忠義じゃねぇやそんなもん!!子分に責任押し付けて逃げ出そうなんて漢らしくねぇ!!」
「んん!!」
「ミルコさん……オーバーホールが逃走を図っています……鉄砲玉、生贄の8人に大暴れさせて……エリちゃんも……銃弾を作る設備も……運び出すつもりみたいです……」
「弱虫が。おいナイトアイ!今の予想通りだ!急がねぇと何もかも持って逃げちまうってよ!」
「急ぎましょう……ここです」
ナイトアイが掛け軸の前で足を止めた。
壁の向こうには空間が見える。ここで間違いない。
ナイトアイはすぐさま掛け軸の前の花瓶を動かし始めた。
「この下に隠し通路を開く仕掛けがある。この板敷きを決まった順番におさえると開く」
そう言ってナイトアイが板敷きを押し始める。
……壁の向こうでヤクザが身構えている、警告しよう。
「……壁の向こうで……ヤクザが3人身構えています……備えてください……」
私がそういうと、センチピーダーが動き出した。
「任せてください。バブルガール。1人は任せます」
「はい!それにしても、忍者屋敷かっての!ですね!」
バブルガールが冗談めかしていっているうちに、開いた壁から3人のヤクザが飛び出してきた。
出てきた瞬間に何か叫んでいたけど、言い終わるのを待つことなくセンチピーダーに2人拘束され、バブルガールの泡による目潰しで残りの1人も拘束された。
すごい手際だ。
「追ってこないよう大人しくさせます!先行って下さい!すぐに合流します!」
「疾え……!!」
センチピーダーとバブルガールを残して階段を駆け降りる。
降りている途中で気がついたけど、通路が壁で塞がれている。
この前感知した時はなかったと思うけど……オーバーホールの個性で作ったのだろうか。
死者蘇生なんてできる個性だし壁を作るくらい簡単だろうし。
「……この前までなかった壁が……通路を塞いでます……壁の向こうに道は続いているので……正面の壁を壊してください……!」
「それは、来られたら困るって言ってるようなもんだ!」
「そだな!!妨害出来てるつもりならめでてーな!!」
私の発言に即座に反応した緑谷くんと切島くんが、壁が見えてすぐにフルカウルによる蹴りと硬化して繰り出すパンチによって壁を粉砕した。
次の瞬間、すぐ近くの壁の中に、高速で移動してきた妙な波動を感じた。
壁が、地面が、大きく歪んだ。
その現象はオーバーホールがいる最深部以外のほとんどの場所で起こっていた。
そして、その変化が起きているコンクリートの壁の中、その中を凄まじい速さで移動し続けている波動を感じる。
「道が!!うねって変わっていく!!」
「治崎じゃねぇ……逸脱してる!考えられるとしたら……本部長、入中!しかし!規模が大きすぎるぞ!奴が"入り""操れる"のは、せいぜい冷蔵庫ほどの大きさまでと―――……」
「かなーーーりキツめにブーストさせれば、ない話じゃぁないか……」
「モノに入り、自由自在に操れる個性……!!"擬態"!地下を形成するコンクリに入り込んで、"生き迷宮"になってるんだ……!!」
つまり、この壁の中を高速で移動している波動が入中という男なんだろう。
「何に化けとるか注意しとったが……まさかの地下。こんなん相当身体に負担かかるハズやで。イレイザー消せへんのか!!?」
「本体が見えないとどうにも―――……リオル!本体がどこにいるかは分かるか!?」
「壁の中を高速で移動しています……!変化している所の近くから覗いていますけど……全然一定の所にとどまりません……!おそらく動けなくなるくらい限界を迎えないと……捕えられません……!」
私が相澤先生に答えると、先生は顔を顰めてどうにか視界に入中を入れられないかと周囲を伺い始めた。
「道を作り替えられ続けたら……目的まで辿り着けない……その間に向こうはいくらでも逃げ道を用意できる。即時にこの対応、判断……ああダメだ……もう……女の子を救い出すどころか俺たちも―――……!!」
天喰さんのその卑屈な物言いにミルコさんがちょっとイラっとした瞬間、通形さんが声を張り上げた。
「環!!そうはならないし、おまえは!サンイーターだ!!そしてこんなのはその場凌ぎ!どれだけ道を歪めようとも目的の方向さえ分かっていれば、俺は行ける!!」
「ルミリオン!」
「先輩!」
「スピード勝負、奴らも分かっているからこその時間稼ぎでしょう!」
走り出そうとする通形さんに、ナイトアイと緑谷くんが声をかける。
今、オーバーホールとエリちゃんがいるのは、下に約55m、正面を12時として11時方向に70mくらいだ。
さっきトガとトゥワイスにこっちに向かうように指示を出して、自分はそのまま逃走しようとしている。
今オーバーホールの近くに残っている部下は、"
この情報を、今すぐに通形さんに伝えるべきだ。
「ルミリオン……!!今オーバーホールとエリちゃんがいるのは……下に約55m……正面を12時として11時方向に約70mの地点です……!!近くにいる部下は……"
「ありがとうリオル!先に向かってます!!」
そう言って通形さんは壁に潜り込んでバグのような挙動を繰り返しながら高速で目的地に向かい始めた。
そして、そのタイミングで壁の中の入中の思考は『すり抜けは防ぎようがない』、『辿り着けても一人じゃどうにもならない』というものが読めた。
その瞬間、地面が無くなった。
落下し始めてすぐに開いた穴も閉じてしまう。
ミルコさん1人なら跳躍で抜けられたんだろうけど、ミルコさんはそんなことせずに一緒に落下していた。
思考を見る限り、入中の個性のブーストによるものであるとすぐに気がついて、1人で突出するんじゃなくて私と一緒に落下するのを選んだっぽい感じだ。
ミルコさんは敵がいるのを気配で察知して、すぐに一歩前に出た。
「おいおいおい空から国家権力が……不思議なこともあるもんだ」
「このミルコを前にして、ごろつきが随分と余裕そうじゃねぇか」
「よっぽど全面戦争したいらしいな……!流石にそろそろプロの力見せつけ―――……」
相澤先生が抹消を発動して、ミルコさんとファットガムが今すぐにでも応戦しようとした瞬間、天喰さんがミルコさんのさらに前に歩み出た。
「その"プロの力"は、目的のために……!!こんな時間稼ぎ要員―――……俺一人で十分だ」
その豹変具合に、ミルコさんが呆気にとられたような顔をして天喰さんを見る。
「へぇ……さっきまでとは正反対の、いい闘気じゃねぇか……加勢はいらねぇんだな」
八斎會の幹部3人が銃や刀を構えるのに対してミルコさんは避けようとする素振りも見せずに、試すように笑いながら天喰さんに声をかけた。
それを受けて天喰さんは、慌てて拳銃を構える警察や前に出ようとするファットガムを押しのけて、貝に身を包みつつタコで3人を拘束、武器を回収した。
「はい。こいつらは相手にするだけ無駄だ。何人ものプロがこの場にとどまっているこの状況がもう、思うツボだ」
「でも先輩……!!」
「スピード勝負なら一秒でも無駄にできない!!イレイザー筆頭にプロの"個性"はこの先に取っておくべきだ!!蠢く地下を突破するパワーも!この状況でも周囲を把握できる探知も!拳銃を持つ警察も!ファットガム!俺なら一人で3人を完封できる!」
天喰さんの啖呵に、ミルコさんが賞賛するかのように口笛を吹いた。
ファットガムも天喰さんの言葉を受けて、表情が変わった。
「行くぞ!!あの扉や!!」
「ファット!」
切島くんが猶もファットガムに考え直すように声をかけている。
それを無視して、ミルコさんは駆け出した。
「行くぞリオル。ここはこいつで十分だ。任せられる」
「はい……私も天喰さんなら大丈夫だと……思います……」
私もミルコさんを追いかける。
天喰さんなら、天喰さんの弱気な姿勢が取り払われている今なら、あんな奴らに負けるはずがない。
「皆さん!!ミリオを頼むよ!あいつは……絶対無理するから助けてやってくれ」
走り始めた私たちの後ろで、まだ戸惑っている人たちに動くように促す天喰さんの声が聞こえた。
それを聞いて、天喰さん以外は全員走り出した。