波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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突入(後)

天喰さんに背後を任せて私たちは廊下を走り続けていた。

 

「先輩……大丈夫かな……やっぱ気になっちまう」

 

「うん……」

 

緑谷くんと切島くんが、天喰さんを一切信頼していない弱気な言葉を口走る。

 

「背中預けたら信じて任せるのが漢の筋やで!!」

 

それを受けて、切島くんの顔も思考も暑苦しいいつもの感じに戻った。

 

「先輩なら大丈夫だぜ!!」

 

「逆に流されやすい人っぽい」

 

「デクは……サンイーターのこと信じてないの……?」

 

「そうだ!!心配だが信じるしかねぇ!!サンイーターが作ってくれた時間!一秒も無駄にできん!」

 

切島くんはすっかりもとの調子を取り戻したようだった。

それを横目に見ながら、オーバーホールの方に向かうために最短ルートを模索する。

 

「あの階段を上って……上に戻りましょう……」

 

走っている人たちは、皆私の指示に従ってついてきてくれた。

今は周囲にヤクザも幹部もいない。

ミルコさんがいい加減焦れてきて飛び出そうとしている。

だけどそれは困る。ミルコさんが飛び出すとインターンの私も追いかけて飛び出さざるを得なくなる。

追いかけるのは波動の噴出でどうとでもなると思うけど、置いていく側が問題だ。

地形変化とかでさらに分断されかねない。

それに、入中がいる限り地形変化は続く。

突出すれば集中的に妨害されるだろうし、全方位をミルコさんでも砕けないくらい厚い壁で囲まれて地中に隔離される可能性すらある。入中をどうにかするまでは、突出したりするべきではない。

 

「ミルコさん……この地形変化……どうにかする案があります……単独行動は待ってもらっても……いいですか……?」

 

「……へぇ、いいだろう。見せてみろよ、その案とやら」

 

「今やっても……逃げられるだけです……機を待ちます……」

 

案は、要するにただのゴリ押しだ。

そのために確認したいことがあったから、緑谷くんに声をかける。

突入直前の思考で気になる部分があったのだ。

 

「デク……確認……そのサポートアイテムを付けてれば……100%を出しても大丈夫って認識で……いいんだよね……」

 

「うん、3回限定だけど、大丈夫なはずだよ」

 

「……じゃあ、タイミングと位置は……指示するから……1回分……私に委ねて欲しい……」

 

「……分かった」

 

「100%、だと……?」

 

私と緑谷くんの会話を受けて、ナイトアイが訝しんだ。

当然か。今の緑谷くんからはとてもOFAの100%を出せるとは思えない。

緑谷くんの100%と聞いたあたりで、切島くんが興奮気味に緑谷くんに話しかけ始めた。

 

「100%って、緑谷お前、いつものは5%だっけ?」

 

「うん、シュートスタイルなら8%も出来るけど、基本は5%」

 

「ってことは……いつもの20倍か!?」

 

緑谷くんは普段から使っている力が数%でしかないことをクラスで公言している。

100%がどれだけのものか興味があるんだろう。

その話で興味を持ったのか、ミルコさんが声をかけてくる。

 

「私じゃなくてそっちに言うってことは、そっちの方が確実だってことでいいんだな」

 

「……はい……ミルコさんには申し訳ありませんが……デクの100%は……オールマイトに匹敵します……」

 

「いい、私も興味が湧いた。見てみたい」

 

そう言ってミルコさんはニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

そんなことを話していたら、相澤先生が口を開いた。

 

「妙だ。地下を動かす奴が、なんの動きも見せてこないのは変だ。何の障害もなく走ってるこのタイミングで邪魔してこないとなると……地下全体を把握し動かせるわけではないのかもな。サンイーターに上に残った警官隊もいる。もしかするとそちらに……意識を向けているのかもな」

 

「把握できる範囲は限定されていると?」

 

「イレイザーヘッド……正解です……入中は目で見て把握したところだけを……動かしています……迷宮の壁の中を高速で移動するせいで……中々捉えられませんけど……変化する直前に……波動が近くで止まります……」

 

「やはりか……」

 

先生がそこまで言った瞬間、高速で近づいてきた波動が壁の中で止まった。

その波動は、相澤先生を凝視していた。

 

「入中が近くで止まったっ……!!来ますっ……!!先生っ!!」

 

私が声を発した瞬間、壁が横から迫り出してきた。

その壁は相澤先生だけを的確に狙っていた。

明らかに抹消されることを嫌がっていた。

私の声に先生は飛び退いて避けたけど、その移動先にもさらに壁が迫り出してきた。

私が先生を突き飛ばすなりして壁の迫り出しから避けさせたかったけど、さっきの迫り出してきた壁が邪魔で難しい。

だけど何もできずにいる間にファットガムと切島くんが先に先生を弾き飛ばした。

ファットガムたちはそのまま入中が作った横穴に落ちていった。

治崎の異常な個性を抹消で封殺出来る可能性のある先生を優先したんだろう。

入中の波動は、その時には既に高速での移動を再開していた。

ファットガムたちが落ちた先には、2人の幹部と思われる波動が感じられる。

切島くんは心配だけど、ファットガムもいるし信じて先に進むことにした。

 

 

 

さらに進んでいると、今度は壁、天井、地面、全てが迫ってきていた。

 

「迫ってくる!!圧殺されるぞ!!粗挽きハンバーグにされちまう!!」

 

「ロックロック!!」

 

「リーダーぶるない!この窮地!もとはと言えば、あんたの失態だろうが!!"本締(デッドボルト)"!!こっちへ!この辺はもう動かねぇ!」

 

褐色肌のヒーロー、ロックロックが"施錠"の個性で壁とかを動かなくしてくれた。

しかしその範囲はあまり広くないようで、少し離れた位置のロックされていない所から壁が迫り出してくる。

次々と迫り出してくる壁は、緑谷くんとミルコさんが蹴り技で砕いて対処を始めた。

 

「SMASH!!」

 

「おら!!」

 

ミルコさんなんか跳躍もしないで、立ったままの蹴り技で迫り出してきた石柱を粉々に砕いている。流石のキック力だ。

 

相澤先生が入中を探している。

トガやトゥワイスから私の情報を聞かされたのかは知らないけど、私の近くにいる時は特に頻繁に高速移動していて全然的を絞れない。

だけど、入中の限界は近い。この壁による圧殺は相当な負担がかかるようだった。

迫り出し続ける壁に、緑谷くんが焦れたように声を上げる。

 

「埒が明かない!!」

 

緑谷くんがそう叫んだ瞬間、入中が反応した。

そしてロックされていない周囲の壁全てが、急に皆が固まっている所に飛び込んできた。

入中はもう限界だ。判断力すらも鈍っている。思考も、凄く単純化している。

今までのような余裕がある分断じゃない、緑谷くんの声に反応してなりふり構わない無理矢理な分断を仕掛けてきたのがその証拠でもある。

だいぶ深い所からこっちを見ているのは一応の用心なんだろう。

あの深さだと、ミルコさんや緑谷くんの蹴りでもどうにか出来る深さじゃない。

だからこその油断。しかも、壁で分断するのに集中しきっている。

天井からこっちを見ている入中の周囲には他に人はいないし、射線上になるであろう地上も道路で今は誰もいない。

今だ。今しかない。

入中のいる位置を指さして叫ぶ。

 

「デク!!!全盛期のオールマイトの想定でも!!射線上に人はいない!!全力でやって!!」

 

「っ!!!」

 

私の声に反応してすぐに緑谷くんが飛び上がって、私が指さした場所に向けて拳を構えた。

 

「100%……DETROIT SMASH!!!」

 

緑色の光を右腕から溢れさせながら、緑谷くんが拳を振るった。

その瞬間、暴風が周囲を襲った。

凄まじい衝撃波が天井を貫き、それでも減衰すらしない衝撃波が、天を貫いた。

光が差し込んだ大穴から、粉々になった天井や道路の残骸と一緒に完全に意識を失った入中が落下してきた。

 

緑谷くんが飛び跳ねながら入中をキャッチし、そのまま降りてきた。

 

「緑谷……貴様……」

 

ナイトアイが緑谷くんを信じられないと言うように凝視している。

相澤先生やミルコさんですら絶句して緑谷くんを見ることしかできていない。

 

「ぐあっ!!?」

 

皆が呆然として動けなくなっていたら、唐突にロックロックの呻き声が響いた。

声の方に目を向けると、トガが血の付いたナイフを持って、倒れたロックロックを踏みつけていた。

 

「あは、最低限ですが、お仕事してあげました。もうこれでいいですかね」

 

「トガヒミコ!?」

 

「トガ……!!」

 

土壇場で集中していたのもあるけど、トガの波動を見落としていた。

やはりミスディレクションは厄介極まりない。常にトガの波動に集中していないとすぐに見失ってしまう。

緑谷くんがトガの名前を叫んだ瞬間、トガは恍惚とした表情を浮かべた。

 

「トガ!!そうだよトガです!覚えててくれた!!わああまた会えるなんて嬉しい!!嬉しいなぁ出久くん!!さっきのすごかったね出久くん!!かっこよかった!!本当に―――」

 

そこまでいた瞬間、トガがまた気配を消して緑谷くんに近づき始めた。

私はトガと緑谷くんの間に波動で吹き飛んで、すぐにトガに真空波を放つ。

 

「真空波……!!」

 

「あは、瑠璃ちゃんも久しぶりだねぇ!!どうだった!?この前言ったの、考えてくれた!?」

 

「それは……ごめんだって言った……!!」

 

トガは真空波を軽く避けながら、嬉しそうに話しかけてくる。

そんなトガをあしらって左手に波動弾を作りつつ、周囲の警戒を続ける。

トガが話している間にも、もう1人のヴィラン連合のヴィラン、トゥワイスが近づいてきていた。

その横には違和感のある波動、複製を連れてきている。

 

「ミルコさん……!!トゥワイスも来てます……!!隣の巨体は複製です……!!そっちをお願いします……!!」

 

「おう!」

 

姿を現したトゥワイスは、何故かポーズを決めて「ハァン!?」なんて意味が分からない感じで息巻いていた。

 

「どんなヒーロー来てんのかと思ったらコノヤロー!!只のリーマンにぼさぼさのおっさん!さらにはバニーにガキだぁ!?ヤクザなめんなコノヤロー!!やっちゃってください乱波の兄貴!!」

 

満月乱蹴(ルナラッシュ)!!」

 

突撃してきた巨体の複製に、ミルコさんの蹴り技の連撃が容赦なく叩き込まれた。

壁まで吹き飛んだ複製は、そのままドロリと溶けて泥に戻った。

その様子を呆然と見ていたトゥワイスは、大きく息を吸ってから叫んだ。

 

「ヤクザ、使えねぇな!!」

 

「本物はこんなに弱くねぇ。しっかし、地下闘技場の次はヤクザとはな。あげく魂の打撃も利用されてこの様とか、笑わせてくれる。やっぱりパンチ力よりキック力だな」

 

……ミルコさん、あの巨体の複製元と面識があったんだろうか。

とりあえずトゥワイスはミルコさんが牽制しているから大丈夫だろう。

私はトガを真空波と波動弾で牽制しつつ、周囲の探知をする。

もう入中はいない。これから地形が変わることはない。

そしてオーバーホールと戦っている通形さんと、通形さんに守られているエリちゃんはもうすぐそこだ。

 

「おい、デクとか言ったか。そこのもじゃもじゃの」

 

「は、はい!」

 

唐突なミルコさんの質問に、緑谷くんがどもりながら答える。

 

「さっきのはまだ撃てるな」

 

「さ、サポートアイテムがないとあの威力は出せないので、耐久度の問題であと2発だけですが、撃てます!!」

 

「それだけ残ってれば上々だ……ナイトアイ!!イレイザーヘッド!!デクを連れて先に行け!!ここは私とリオルでどうにかする!!警察はロックロックを避難させて応急手当してろ!!」

 

ミルコさんのその声に、緑谷くんが叫ぶ。

 

「なっ!?ミルコはともかく、波動さんも!?大丈夫なの!?」

 

「ミルコさんが言ったのが……!!最適解……!!私は、トガの変身も、ミスディレクションも……トゥワイスの複製も見破れる……!!ここは任せて行って!!」

 

「で、でも……」

 

緑谷くんが猶も渋り続ける。

でも、早く先に行ってもらわないと困る。

今まさに通形さんが、個性消失弾で狙われている。

エリちゃんを狙うなんてゲスな方法でやろうとしているそれを、通形さんが庇わないわけがない。

助けに行かないといけないけど、一方でトガとトゥワイスは放置できない。

トガのミスディレクションは言わずもがな。トゥワイスの複製は自分を複製できないとしても、ヴィラン連合などの凶悪なヴィラン2人を複製することが出来てしまう。

万が一にも自己複製なんてし始めたら目も当てられない。

それらを考慮して対抗できるある程度の戦力でこの2人の対応しつつ、一撃の大きい緑谷くんと抹消の先生には治崎の方に行ってもらった方がいい。

だから、残るのはミルコさんと私が最適解だ。

 

「いいから行って……!!ルミリオンが個性消失弾で狙われてる……!!取り返しのつかないことになる……!!もうオーバーホールはすぐそこ!!その道を真っ直ぐ走り抜ければつくから!!早く!!」

 

「っ!?デク、先を急ぐぞ!!」

 

私の言葉を受けて、ナイトアイが走り出した。

それに続くように、緑谷くんも動き出す。

 

「波動さん、気を付けて!!」

 

最後まで残った相澤先生が、駆け出しながら話しかけてきた。

 

「ミルコ、波動を頼みます」

 

「おう。任せろ」

 

「波動、深追いはするな。ヴィラン連合は今回の目的ではないからな」

 

「はい……!」

 

それだけ言うと、相澤先生は走って2人を追っていった。

残ったのはトガ、トゥワイスの2人と向き合う私とミルコさんの2人だけだった。

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