波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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仮面

相澤先生が走り去ったあたりで、トゥワイスがまた複製を作り始めた。

ミルコさんがすかさず飛び蹴りを当てて、完成しかけていた複製を一撃で元の泥に戻した。

 

「おせぇな!!」

 

「早すぎんだろうがよ!全然遅いね」

 

ミルコさんはそのまま回し蹴りを繰り出した。

顔面にミルコさんの足がめり込んだトゥワイスは壁まで吹き飛んだ。

その周囲には砂煙が立ち込めて姿が見えづらくなってしまっている。

 

「ってええ!!ちくしょうこのヤロー!!」

 

砂煙が晴れたその先には、トゥワイス以外の姿もあった。

波動で形を見た時に分かるように、ヴィラン連合の手配書は大体目を通している。

あれは、荼毘とMr.コンプレスだっただろうか。

 

「いいか!てめーらは!コピーだ!!よって、死んでも存在が消えることはない!復唱しろ!"僕たちは死んでも死ぬことはない!"心がスッと軽くなるハズ「しねぇよ。誰だあいつ」

 

「何言ってんのお前、こえーよ。おじさんビビっちゃうから」

 

「へぇ……」

 

複製で増えたヴィラン連合のヴィランたちを見て、ミルコさんが獰猛な笑みを浮かべた。

ミルコさんはチラッとこちらを一瞬伺ってからトゥワイスと複製たちに向き直る。

思考的に、トゥワイスの処理を優先したようだ。確かに先に片付けないと不味いのはトゥワイスの方ではある。

なら、私はトガを見張っておくべきだ。トガの捕捉に私以上の適任はいない。

 

「面白れぇ!蹴っ飛ばしてやる!」

 

蒼炎が広がり始める中に、ミルコさんは飛び込んでいった。

 

 

 

「どこ見てるんですか?」

 

複製に注意を割いていたら、懐に飛び込んできたトガがナイフで切りかかってきた。

緊急回避用に足に圧縮していた波動で後ろに吹き飛んでナイフを避ける。

 

「どこって……警戒してるんだよ……分からなかった……?」

 

「分かりませんでした!ごめんなさい!でもね、よそ見しちゃだめだよ!せっかくお友達とお話ししてるんだから!こっちを見てよ!!」

 

「……友達になった覚えなんて……ない……!!」

 

更に近づいてきて切りかかろうとしてくるトガに、発勁を繰り出す。

トガは身体の軸をスッと動かして、それを避けてくる。

ナイフで切りつけられるのかと思ったけどそんなことはされず、トガはそのまま私を押し倒そうとしてきた。

 

「相変わらず、素直な攻撃。ねぇ瑠璃ちゃん、お話ししましょうよ」

 

トガの言葉は無視して、倒されながらでも片手での発勁をもう一度トガに叩き込む。

流石に直撃するのは嫌だったのか、トガはバク転をして距離を取って来た。

 

「つれないねぇ。この前似た者同士だと思うって言ったの、本心なんですよ?瑠璃ちゃんなら分かりますよね?」

 

以前そう言われた時のトガの思考には、確かに嘘はなかった。

だけどトガの思考はそもそも血に執着しすぎていたり脈絡がなかったりで、参考にならないことが多すぎる。

特に好意を抱いているっぽい緑谷くんや、お友達扱いしている私やお茶子ちゃん、梅雨ちゃんとかを見た時の思考なんかトリップしすぎていて理解すら難しい。

この前のオーバーホールとの会合では比較的にまともだったから理解できたけど、今も仮免試験の時も本当に意味が分からない思考をしている。

 

「……あなたの思考は……理解できないから……信用できない……」

 

「あは、そういうこと言っちゃうんだ」

 

トガの目がスッと細くなった。

それと同時に思考が読めなくなって、トガの波動が素早く動き始めた。

波動に集中していないと見失いかねない。

トガの波動を注視しながら、迎撃できるように波動弾を作り始める。

トガが後ろに回り込んでこっちに近づいてきたところで、波動弾を射出しないで手の前で維持したままトガに押し付けようとする。

 

だけどトガはそれも異常と言えるほど巧みな身のこなしで難なく回避して、また距離を取った。

 

「ねぇ瑠璃ちゃん。こんな世の中、瑠璃ちゃんは生きづらくない?」

 

「……何が言いたいの……?」

 

私が聞き返すと、トガは鋭い犬歯を見せつけるように狂気的な笑みを浮かべ始めた。

 

「私は生きづらいです!だって、私は普通に生きたいだけなのに!私は嬉しい時に普通に笑って、好きな人の血を啜ってるだけなのに!これが私の普通なのに!それなのに誰も分かってくれないの!お父さんもお母さんも!皆皆!」

 

トガは口が裂けたのかと思えるほどの笑みを浮かべて、話を続ける。

でもトガの言いたいことは、もう分かった。

何が似ているって言いたかったのかも。

 

「だから仮面を被ったんです!必死でお父さんとお母さんが、皆が求める"普通"を演じたの!自分を抑え込んで!瑠璃ちゃんもそうじゃないんですか?」

 

「……別に……私は演じてない……」

 

私がトガの問いかけに答えると、トガはさらににんまりと笑顔を浮かべた。

 

「そうだね!演じてはないね!でも、仮面は被ってますよね?そうやって感情を押し殺して!自分にとっての普通を心の中に無理矢理押し込んで!我慢して!」

 

「っ……」

 

正直、これは図星だった。

読心がおかしいことだと理解させられた時から、家族以外から排斥されるようになった時から……

周囲は皆私を避けるようになったし、私もそれで平気なんだと見せつけるように無関心を貫いて、誰かに話しかけられても余計なことは言わないように最低限のこと以外は口にしなくなった。

読心から得られた情報なんて、A組の皆が受け入れてくれるまでは、お姉ちゃんたち家族以外には一切話さなくなっていた。

 

「あんまり喋らないのもそうだよね。私分かるんです。だって私がそうだったから!心にもないことを言って周りに合わせて!自分の感情を、欲求を抑え込んだから!ねぇ瑠璃ちゃん!瑠璃ちゃんも感情とか言いたいこととか、読心で分かったこととか!沢山抑え込んでましたよね!」

 

「……だったら……なに……っ……!?」

 

私が言い返せずにたじろいでトガの波動への注意が一瞬逸れた瞬間、トガが飛び掛かってきて今度こそ押し倒されてしまった。

トガはそのまま私に馬乗りになって、ナイフを首に添えてくる。

 

「瑠璃ちゃん、頑張って雄英のヒーロー科なんて"普通"のすごい所に入ったのに、瑠璃ちゃんの中学校を見に行った時そこの大人たちがなんて言ったと思いますか?『あんなやつ知らない』って、口を揃えて言ったんですよ。それで確信したんです!瑠璃ちゃんは私と似た者同士だって!どんなに私たちが周囲の"普通"に合わせてあげても!受け入れてもらえないんだって!」

 

そういうトガの顔は、トガの言う"普通"の仮面を完全に脱ぎ捨てて、素の顔を曝け出していた。

私は、四肢に波動を圧縮して脱出の機を伺いながら納得してしまっていた。

あの中学校の大人たちなら、間違いなくそう言うだろう。

あいつらは、そういうやつらだ。トガは、嘘を言っていない。

 

「だから、私も普通に生きるのです。そのために連合にいるのです。弔くんと全てを壊して、その上に私が私として生きやすい世の中をつくるのです。だから、瑠璃ちゃんを誘っているのです。私と一緒に、生きやすい世の中を、私たちが普通に生きても文句を言われない世の中を作りましょう?」

 

そう言ってトガは首に沿えたナイフを、ゆっくりと首に押し付けてきた。

 

 

 

次の瞬間、トガの頭があった位置にミルコさんの蹴りが飛んできた。

 

「リオル!」

 

トガはさっきまでの狂気的な表情を引っ込めてスッと無表情になって、ミルコさんを睨みながら伏せて蹴りを避けた。

それと同時に私もトガのナイフを持っている手に向かって波動の噴出を当てて、ナイフを吹き飛ばす。

ナイフを吹き飛ばされたトガはそのままの勢いでアクロバットな信じがたい身のこなしをしながら距離を取った。

 

「ミルコさん……!ありがとうございます……!」

 

「……邪魔しないでください」

 

「はっ!随分とリオルに入れ込んでるじゃねぇか!ヴィラン風情が」

 

ミルコさんはトガに威勢よく声をかけるけど、トガは興味なさそうに一瞥するだけだった。

 

「今回はもうダメそうですね。残念です。瑠璃ちゃん、理由も教えたし、今度こそ考えておいてくださいね。バイバイ」

 

そう言ったトガは、またミスディレクションを使って駆け出した。

傷だらけでスーツがボロボロのトゥワイスはたった今緑谷くんが開けた風穴の中で消えた。近くにコンプレスの複製もいるから、多分あのガラス玉に仕舞われたんだろう。

私がトガに拘束されたせいで、逃がさざるを得なかったってことかな……

あとはトガもそこに向かっているということだけは分かった。

でも、トガがミスディレクションを発動する直前に『更に混沌(プルスケイオス)』と考えていたのが気になる。

どう考えても、まだかき乱すつもりだ。

でもさっき接触するまでのトガとトゥワイスの思考は、死穢八斎會、と言うよりも治崎への復讐。

地上へ向かっているのと併せて考えると、多分お姉ちゃんたちを焚きつけて加勢を増やすつもりなんだろう。

 

「リオル、先に進むぞ」

 

「はい……」

 

ミルコさんはあの2人にもう直接的な妨害をする気がないことを本能で察したのか、そう提案してきた。

ミルコさんと一緒に最深部へ向かっていく。

途中で地上のトガが緑谷くんの波動に変わるのを感じた。その時のトガの思考は、やはりオーバーホールの打倒にヒーローを利用することだった。

……ここでは、それ以上の目的はないようだ。エリちゃんを確保したがっている節はあるけど、その一方でこちらを襲撃する意思はもうない。

こちらが先に保護してしまえば、ヴィラン連合の2人はおそらく逃げると思う。

 

 

 

少し走った先に、通形さんが倒れていた。

 

「通形さん……!」

 

「っ……リオルに……ミルコ……エリちゃんが……戦場に戻っちゃって……ごめん……エリちゃんを……助けてあげて欲しい……」

 

そこまで言って通形さんは気絶してしまった。

エリちゃんの波動は、確かにオーバーホールや緑谷くんの近くにある。

通形さんがここまで連れてきたのに、オーバーホールに刻み込まれた呪詛のような洗脳で戻ってしまったんだろう。

 

「行くぞリオル。こいつの意思を無駄にするな」

 

「はいっ……!」

 

通形さんには申し訳ないけど、ここに置いていくことにした。

とにかくエリちゃんの救助が最優先だったから、仕方ないと思っての行動だ。

この状態で戦場に連れ戻すよりも、ここにいる方が安全だろうし。

 

そして、オーバーホールのいる部屋に飛び込む。

部屋の中は荒れ果てていて、その中心にボロボロのオーバーホールがいた。

その後ろに、エリちゃんもいた。

 

「これで……!100%……っ!?」

 

緑谷くんがエリちゃんに当たらないようにしながら、オーバーホールに100%を打とうとしている。

だけど次の瞬間、天井が崩落してリューキュウと八斎會の巨体の男がオーバーホールの真上に一緒に落ちて来た。

その後に続いてお茶子ちゃんと梅雨ちゃんも降りてきていた。

 

「リューキュウ!!2人とも!!波動さんにミルコまで!!」

 

ちょうど周囲を見て私とミルコさんが部屋に入って来たことに気が付いたらしい。

 

「ナイトアイの保護を頼む!!」

 

緑谷くんはそれだけ私たちに言い放つと、全力でオーバーホールの方に駆け出した。

ナイトアイは片手と片足、それに脇腹をがっつりと抉られていた。

 

「ナイトアイ……!」

 

ナイトアイの方に急いで駆け寄る。

酷い。トガに集中していたせいで全然こっちを見れていなかったけど、このままだと確実に失血死する。

片手と片足が無くなっているし、脇腹が内臓ごとごっそり持って行かれている。

お茶子ちゃんと梅雨ちゃんもこっちに駆け寄って来てくれているから、2人と協力してなんとか保護して、すぐに手当てをしないと。

 

「リオル……」

 

「喋らないでください……!今、安全な所に……!」

 

「いい……リオル、イレイザーを連れてこい……ここに来て早々に、どこかに連れていかれた……オーバーホールは……修復で無傷の状態まで回復できる……100%でも……少しでも意識を保っていれば回復した上で反撃される……奴をどうにかするには……イレイザーが必要だ……」

 

そんなことをしている間にも、オーバーホールは自分の真上に落ちてきていた部下を分解して取り込み始めた。

ミルコさんもそちらに走り出していて、大きく跳び上がってオーバーホールの増えた腕に蹴りを叩き込んでいる。

 

ナイトアイの言うことは、間違っていないんだろう。

ナイトアイの思考を見る限り、さっき1度緑谷くんが100%を当てたみたいだけど、意識を保っていたオーバーホールは部下と自身を分解して融合しながら修復することで力を増しながら無傷の状態に戻っていたようだった。

その時の反撃から緑谷くんを庇って、ナイトアイは重傷を負ってしまっていた。

 

相澤先生は、少し遠くの地形変化に巻き込まれていない部屋で"クロノスタシス"と一緒にいる。

最短ルートでその部屋まで行って、あの男をどうにかして、先生を連れてくる。

あの男、玄野の個性の条件は警察がまとめた資料に書いてあった。

本人が停止している状態でないと、針を伸ばせない、だったはず。

虚を突けばすぐには個性を発動できない。

これなら、私でもどうにか出来ると思う。

 

「ウラビティ……フロッピー……ナイトアイのこと……お願い……」

 

「リオルはどうするの!?」

 

「私は……イレイザーヘッドを救出してくる……!」

 

私はそれだけ言って2人にナイトアイのことを任せて、イレイザーヘッドの下へ向かって走り出した。

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