私は1人で相澤先生の波動がある部屋に向けて全力で走っていた。
ミルコさんはいない。
ミルコさんは今、緑谷くんと連携してオーバーホールの対処に当たっているから、連れてくることはできない。
門の所にいた巨体の男と融合してから、オーバーホールは巨大な肉の鎧のようなものを纏った化け物になっていた。
そんな化け物にどうにか100%を当てようとする緑谷くんを、ミルコさんが跳び回りながら蹴りを入れて翻弄してサポートしている形だった。
だから、そんなところから最高戦力の一角であるミルコさんを連れてくることなんてできない。
通形さんも今は廊下で倒れているし、お姉ちゃんやお茶子ちゃん、梅雨ちゃん、リューキュウは活力を吸い取られてすぐに動くことは難しい。
ナイトアイは重症だし、ロックロックも結構深い傷を負っていて頼ることは難しい。
切島くんも気絶しているようでファットガムに介抱されている。
天喰さんはあの3人の処理を終わらせて動き出しているけど、先生がいる部屋までは距離がありすぎる上にそもそも合流に時間がかかりすぎる。
私以外に動ける人がいなかったのだ。
相澤先生は今玄野に踏みつけられて動けないでいる。
動きの遅さから考えて、先生は玄野の個性を食らってしまったんだろう。
玄野は『お前が敗けるはずない』とか、『もし……廻が敗北した場合、せめて完成品と血清だけでも……』とか『こいつの世話してる余裕なんてなかったんだ』とか考えている。
そんなことを考えながら、ナイフを取り出し始めた。
先生を殺して、オーバーホールの下へ向かうつもりなんだろう。
私は扉の前で、四肢に波動を圧縮しつつ波動弾を練り始める。
圧縮が済んでから、さらに残っている波動を身体の表面を覆うように寄せて疑似的なフルカウルのような状態にしておく。
そこまで準備が終わった段階で、中で玄野がナイフを振りかぶった。
それを確認すると同時に部屋のドアを開いて、ナイフに向けて波動弾を射出しながら足の波動を噴出して玄野に突撃した。
「なっ!?」
侵入に気が付いた玄野が驚愕に染まった表情でこちらに顔を向けた瞬間、手に波動弾が当たってナイフが吹き飛んだ。
「発勁っ……!!」
そのまま懐に潜り込んで両手で発勁を放って玄野を吹き飛ばして先生の上からどける。
玄野が痛みに悶えながら個性で私を狙おうとしているのが分かる。
だけど、玄野の個性は私と相性が悪い。
動かないなんて明らかに意識しなければ無理な行動に加えて、さらに髪の毛で対象を刺す必要すらあるのだ。
読心と波動の動きの感知で攻撃が簡単に予測できる。
追撃をかけるために玄野に迫りながら、波動の動きで針が伸びてくるのを感じた瞬間に身体の軸をずらして針を避ける。
「このっ……!なんで!!」
「そんな攻撃……当たらない……真空波っ……!!」
何度も針を伸ばしてくるけど、読心から玄野の意思が向いている場所を予測して攻撃をいなしていく。
そしてあと少しで玄野の近くに辿り着くというところで、右手で真空波を放って玄野を怯ませると同時に、玄野の身体を動かして針を伸ばせなくする。
そこから懐に潜り込んで、左手で発勁をお腹に思いっきり叩き込んだ。
玄野はそれで気絶した。
思考が読めない状態、寝ているのと同じ状態になったから間違いない。
「警察だ!!……ヒーロー?」
「波動さん……?」
そこで通形さんを背負った天喰さんと、大勢の警察が部屋になだれ込んできた。
「サンイーターに……警察ですか……すいません……警察の方……この人、クロノスタシスの拘束をお願いします……気絶していますので……」
「は、はいっ!!」
私の言葉を聞いた警察の人が、すぐに玄野を拘束してくれる。
これでもう反抗なんてできないだろう。
身体強化をして相澤先生を背負って連れて行こうとすると、地下全体に轟音が響いた。
波動を見る限り、エリちゃんを背負った緑谷くんがミルコさんに気を取られたオーバーホールを100%で上空に吹き飛ばしたようだった。
そこでフルガントレットと思われる緑谷くんの腕についていたサポートアイテムが砕け散った。
オーバーホールは天井を突き破りながら地上、上空へ吹き飛んで行く。でも、まだ意識はある。
このままだとまた修復で回復される。
緑谷くんもそれが分かっているのか、明らかにいつもの許容上限を超えた限界以上の力でフルカウルをして無理をしてでも上空に跳び上がった。
オーバーホールは意識が朦朧としながらもまだ諦めていないのか、周囲の地面やコンクリートを取り込んでどんどん大きくなっていく。
早く、先生を地上に連れて行くべきだ。
先生なら遅くなっていても見ることさえできれば個性を発動できるはず。
遠くからでも、見てもらえれば大丈夫なはずだ。
私が先生を背負ったまま部屋を出て行こうとすると、天喰さんが話しかけてきた。
「波動さん、どこへ?」
「先生を地上へ連れて行きます……デクが……オーバーホールに重傷を与えて……上空に吹き飛ばしました……だけど……オーバーホールの個性なら……傷も治せる……先生の抹消がないと……決め手に欠けます……」
私がそう返答したところで、梅雨ちゃんが駆けて来た。
「リオル!先輩!良かった、先生とルミリオンは無事!?」
「ケロケロさんそっちは!?」
梅雨ちゃんに事情を話そうとしたタイミングで、緑谷くんの思考が変わった。
さっきまでのただ追撃しようとしていたものとは違う。
緑谷くんが『骨折してない!それどころか……怪我も治ってる……!』という思考になってから、オーバーホールがご丁寧にエリちゃんの個性を事細かに説明してくれていた。
巻き戻す個性。自分で制御できない個性。
発動すれば触れるものすべてが"無"へと巻き戻される個性。
その説明を受けて、緑谷くんは、『体感した感じで分かった、身体が戻り続けるスピード……!』、『それ以上のスピードで常に大怪我をし続けていたら!』とか怖いことを考え出している。
つまり、エリちゃんの力を借りて、限界を超えて力を出して身体を破壊し続けるつもりか。
「フルカウル……100%って……正気……?」
「瑠璃ちゃん?」
「フロッピー……力を借りたい……!」
緑谷くんが危ない。
オーバーホールどうこうとかいう話じゃない。
緑谷くんの案がうまくいけば、オーバーホールはどうとでもなる。
オールマイト並みのパワーが大暴れすることになるんだから。
問題は個性のコントロールが出来ないエリちゃんの巻き戻しを頼りにそれを行うことだ。
勝った瞬間にエリちゃんを投げ捨てるなんてことが緑谷くんに出来るとは思えない。
この状況で、エリちゃんが急に個性をコントロールできるようになるなんて楽観視はできない。
つまり勝って自己破壊が終わった瞬間、緑谷くんが無まで巻き戻されてしまう可能性がある。
「どういうこと?リオル」
「デクが危ない……!先生を地上まで急いで連れて行く……!デクがオーバーホールを倒すまでに連れて行かないと……!取り返しのつかないことになる……!」
「っ!?分かったわ!移動しながら詳しく話して!」
梅雨ちゃんはすぐに了承してくれた。
最短経路は、正攻法でこの地下を出るんじゃなくて、緑谷くんが開けた大穴まで一気に駆け抜けて、梅雨ちゃんに先生を持って大穴を登ってもらうルートだ。
移動中、私はさっきの予想を全部梅雨ちゃんに話した。
梅雨ちゃんもすぐに理解を示してくれて、大急ぎで移動をし続けた。
背負われながら話を聞いていた先生も遅くなっているせいで返事はできないけど、理解は示してくれていた。
大穴までの道は私が先生を背負って波動の噴出による跳躍で加速しながら移動する。
横では梅雨ちゃんが蛙跳びで飛び跳ねて並走してきてくれている。
申し訳ないけど、天喰さんは置いてきた。天喰さん自身が怪我をしている上に、通形さんも背負っている。
2人にはゆっくりと地上に出てきてもらうことにしたのだ。
そして、ちょうど大穴に辿り着いた時、緑谷くんがフルカウル100%によるラッシュをオーバーホールに叩き込んだ。
「……梅雨ちゃん……!今からの攻撃が……止めになると思う……!ごめん、急いで……!」
「分かったわ!任せて!」
梅雨ちゃんはそう言うと先生を舌でぐるぐる巻きにして壁をすごい速さで登り始めた。
本来なら私も波動による跳躍でついていきたかったけど、正直波動が枯渇しかけてきていて意識を保つのがやっとだった。
しばらくは動くことすら難しそうだ。
梅雨ちゃんが登り始めたのを確認して、そのまま地面に座り込んでしまう。
そして梅雨ちゃんが大穴を半ばまで登り切った頃、緑谷くんはオーバーホールを地面に叩きつけた。
緑谷くんが地面に着地して、少しの間は大丈夫だった。
だけど、恐れていた事態が起こってしまった。
緑谷くんの意識が『エリちゃんの"個性"が、勢いを増してる!!』というものになっている。
梅雨ちゃんが登っている所に、リューキュウが追い付いた。
梅雨ちゃんがリューキュウに事情を説明したようで、リューキュウは背中に梅雨ちゃんを乗せた。
リューキュウもさっきの様子だともう動くのもやっとだったようだけど、無理をしてでも羽ばたいて地上に飛び上がってくれた。
そしてそのタイミングでオーバーホールが最後の悪あがきをして緑谷くんを潰そうとしたけど、暴走するエリちゃんに融合で増えた腕が触れた途端、個性によって元の普通の人間の状態まで戻されて気絶した。
多分、オーバーホールの変化が止まったのは普通の人の姿に戻ってエリちゃんとの距離が出来たからだと思う。
一方で、緑谷くんの変化が止まりそうにもない。
エリちゃんが『嫌……!!』、『止まって!!』ってすごく頑張って制御しようとしているけど、暴走は止まらなかった。
エリちゃんの悲鳴が地上に響いた時、リューキュウが地上に到達した。
梅雨ちゃんがすぐに先生の顔を緑谷くんの方に向けた。
それで先生がすぐに抹消を発動して、暴走が止まったエリちゃんは気絶した。
オーバーホールも起きる様子はない。
これで、エリちゃんの保護が完了した。
瑠璃視点の地の分でちょいちょい書きましたが分かりづらかったと思うので……
時系列順の流れ
・死者蘇生の事前把握による治崎の個性の再考察が大人たちの中で行われています。自己修復の可能性に関しても考慮されました
・瑠璃の正確な位置情報の伝達により通形が原作よりも早く治崎を襲撃しました
・ミミックは緑谷の100%で撃破。100%の周知により自己修復する可能性がある治崎への対策として、緑谷が一撃で意識を刈り取る戦力として数えられました
・緑谷たちはトガたちと戦闘を行なっていない+瑠璃の案内によって最短ルートに直行したことで、原作よりも早く治崎に辿り着きました
・通形は原作通り個性消失弾を打ち込まれましたが、合流が多少早くなったこともあり原作よりも軽症になりました
・イレイザーヘッドが原作通り別の場所に連行されたため、治崎対策での切り札が緑谷になりました。それにより緑谷、ナイトアイで協力して治崎の対応に当たっています
・2人がかりでなんとか100%を当てましたが、執念で意識を保った治崎が自己修復+融合で復活。不意をついた反撃を受け、避けきれなかった緑谷をナイトアイが庇いました
・瑠璃ミルコ到着と同時にトガの誘導を受けたリューキュウ落下
・緑谷の100%を脅威として考えた治崎が活瓶と即座に融合し、レイド戦になりました
・融合治崎の意識を1撃で刈り取るために、ミルコが遊撃で翻弄しつつ緑谷のフォローに入りました
・暴れ回る巨体からエリちゃんを守るために緑谷がエリちゃんを背負いました
・ミルコの必殺技を受けて怯んだ治崎の気が緑谷から逸れた瞬間、緑谷が100%を当てて治崎を上空に吹き飛ばしました