戦いが終わって、私は波動の枯渇による脱力で動けなくなっていたところを警察に保護された。
さっきトガが範囲外に消える直前にしていた行動が治崎の護送車の観察だったのが少し気になる。
明らかに私を警戒していて、思考がほぼ読み取れなかったから理由が全然分からなかったけど。
トゥワイスはトゥワイスでマスクが破れているせいなのか発狂しかけていて、思考が全く参考にならない。
確かめに行こうにも私はもう動けないし、他にすぐに動けそうなプロもミルコさんくらいしかいない。
しかも目的が分からない上に、まだ死穢八斎會の残党がいることを考えるとここから戦力の動けるヒーローを引き抜くのは良くない。
結局警察に注意を促しておくくらいしかできなかった。
警察も警察で私が動けないのをすごく心配してきた。
ただ波動が枯渇しただけだから大丈夫だって説明したのに、トガが首にナイフを押し付けてきた時についた切り傷があったせいか動けないのと合わせて結構重症に見られたようだった。
結局念のためだからって言われて押し切られて病院に搬送されてしまった。
検査の結果は当然なんともなくて、切り傷の処置をされた後にベッドに寝かされて波動の回復に努めることになった。
目を覚ましたら、もう夕方になっていた。
私の波動ももうだいぶ回復して、普通に動けるようになっていた。
波動を見る限り、切島くんはミイラ状態だけど命に別状なし。
天喰さんも同様で、ファットガムも包帯塗れ。
通形さんも腕と胴に包帯が巻かれている。
ロックロックは刺されたところの治療がされただけで命に別状なし。
問題は、ナイトアイだった。片腕片足を持って行かれて、内臓ごと脇腹を抉られている。
周囲にバブルガール、センチピーダー、リカバリーガール、医者に加えて、オールマイトまでいる。
思考を見る限り、もう助かる見込みがないという感じのようだった。
私はもうなんともなかったし、ナイトアイの下に向かっている緑谷くんと相澤先生の方に向かった。
「要するに、彼女の"個性"には頼れないという話だ」
「先生……緑谷くん……!」
困惑して聞き返そうとしている緑谷くんを尻目に、2人に話しかける。
「波動も来たのか……波動はもう状況を把握しているな」
「はい……」
「どういう……ことですか……?」
「受け入れるしかない。ちょうど彼も到着したところだ」
困惑したままの緑谷くんに先生がそう返答したタイミングで、病室の扉が開いた。
その先には、リカバリーガールとスーツ姿のオールマイトがいた。
「オールマイト……!リカバリーガール!なんで」
「私が呼んだの。だって……サー、いつもオールマイトのこと……」
「泡田」
自分がオールマイトを呼んだことを言い、バブルガールは泣き出してしまった。
人が増えたこともあって、医者が説明を始めてくれた。
「出血が多く、大量の輸血をした上での手術で内臓や手と足の切断面などの必要な処置をしなければ、どうしようもありません。ですが衰弱が激しく、もう、彼に手術に耐えられる体力は……」
「こうまで衰弱した状態じゃ、治癒も使えない。逆にとどめをさすことになるよ……」
「残念ながら……明日を迎えられるかも……怪しいと言わざるを得ません……」
リカバリーガールと医者の説明が終わると、オールマイトがナイトアイに声をかけた。
「ナイトアイ……!!」
「……オール……マイ……ト……死で……ようやく会う気に……?」
「返す言葉が見つからないよ……私は君に……ひどい事を……」
「ナイトアイ……!ダメだ生きて……!頑張って!」
オールマイトと緑谷くんが必死でナイトアイに声をかけている。
そんな2人に対して、ナイトアイもか細い声で声をかけていく。
「ずいぶんと……かしこまってるじゃないか……私は……別に……あなたを恨んじゃいないよ……あなたに……幸せになってほしかっただけだ……から……抗うと……決めてくれたなら……私は……いい……」
「君も抗ってくれ……!これまでの償いをさせてくれ!」
「……償いなど……私も……多くの人間に……迷惑をかけた……これまで……あなたが殺される……未来を変えたくて、変える術を探ってきた……ずっと……どうにも……ならなかった……私では……どうにも……変えられなかった……だが……緑谷が今日見せてくれた……」
ナイトアイは、今日緑谷くんの死を予知していたらしい。
緑谷くんを庇った瞬間に治崎の予知を行った。
その際に緑谷くんが最後の100%を当てた後に治崎が回復して、成すすべなく殺されて治崎が逃走する未来が見えていたらしい。
それからナイトアイは、緑谷くんがどうやって未来を変えたのか、その可能性に関して話し始めていた。
私は、そんなナイトアイの話を聞きながら、ナイトアイの波動を注視し続けていた。
ナイトアイの波動は、少しずつ、少しずつ霧散していっている。
散々見たエリちゃんの死に際の波動と同じだ。
波動が霧散していくにつれて、どんどんナイトアイが朦朧としてきて、衰弱していく。
その様子を見ていた時に、ある一つの可能性に気が付いた。
それは、波動と活力……体力の関連性についてだった。
個性は、何かの条件がある時には関連性のあるものが条件になることが多い。特に変換するタイプのものに関しては。
百ちゃんの脂質や砂藤くんの糖分、鉄哲くんの鉄分なんかがそうだ。
百ちゃんの脂質。百ちゃんの個性は分子構造が重要だ。脂質を分解してその分子を変換することで創造していると考えられる。
砂藤くんの糖分。人間はもともと糖分を、糖質をエネルギーに変換して筋肉などを動かしている。砂藤くんは余分に糖分をエネルギーに変換してそれで筋肉の動きに補強できる個性なのだと考えられる。
鉄哲くんの鉄分。これは一番分かりやすい。単純に鉄分を多く摂取しておくことで、その分鉄になった時に余分に鉄分が使えるから強度が上がるんだろう。
そう考えた時に、お姉ちゃんの個性の存在が出てくる。
お姉ちゃんの個性は活力を波動に変換している。
今まではそういうものなんだと思っていた。活力と波動の関係性なんて考えたこともなかった。
でも百ちゃんや砂藤くんのように、関連があるからこそ変換出来ていると考えることも出来てしまう。
私は人が死ぬ瞬間の波動の注視なんてしてこなかった。だって、そんなことをしたら死に際の嫌な思考や感情をダイレクトに読み取ることになってしまうから。
だけどエリちゃんの波動を見て、何回も何回も人が死ぬ様子を注視して、衰弱に合わせて波動が霧散していく様を見て……
波動と活力は、直接的な関係があるんじゃないかという考えが、私の中に芽生えていた。
現に、私は自分の波動が枯渇するとまともに動けなくなるし、気絶することすらある。
これだけでも活力と関係があると思えるけど、お姉ちゃんの個性で活力を波動に変換出来ていることで、よりその考えが補強された。
こんなことに気が付いて何か変わるのかっていう話ではある。
だけど、波動が活力に関係するとなると、一つの可能性が思い浮かぶのだ。
それは波動を注入……譲渡することで、活力の回復が図れないかということ。
試したことなんてない。私の希望的観測による絵空事かもしれない。
だけど、試してみる価値はあると思った。
私は最近コスチュームの波動を貯め込みやすい物質である水晶に、波動の注入を定期的にしていた。
この間ようやく少しずつ取り出せるようになってきたのもあって、結構頑張って練習していたのだ。
この波動の注入を、人に対してしたら、どうなるのか。
活力を回復できるのか。
確信は持てないけど、やってみようと思った。
私が動き出そうとしたとき、部屋の扉が開いて看護師を引きずっている通形さんが飛び込んできた。
「サー!ナイトアイ!」
「……ミリオ」
「ダメだ!生きてください!死ぬなんてダメだ!」
「ミリオ……辛い目に遭わせて……ばかり……私が……もっとしっかりしていれば……」
「あなたが教えてくれたから強くなれたんだよ!あなたが教えてくれたからこうして生きてるんだよ!俺にもっと教えてくれよ!!死んじゃダメだって!!!」
通形さんが、ナイトアイに縋り付いて泣いている。
通形さんはお姉ちゃんをもとに戻してくれた恩人だ。通形さんのこんな顔も、悲しみと嘆きに満たされたこんな波動も、見たくない。
「リカバリーガール……治癒ができないのは……衰弱しているからなんですよね……体力が、活力が戻れば……治癒は……」
「……確かに体力があれば治癒は出来るが、今からそんな体力を戻す方法なんてものは……」
リカバリーガールが苦々しく言うのを尻目に、私はナイトアイの側まで駆け寄った。
「波動さん……?」
緑谷くんが私の行動を見て呟いている。
ナイトアイも、駆け寄ってきた私を見てか細い声で話しかけてきた。
「きみにも……酷い負担をかけた……すまなかったね……」
「喋らないで……余計な体力を……使わないでください……試してみたいことが……あります……」
私はそれだけ言って、ナイトアイの身体に両手をかざす。
そのまま両手から、波動をゆっくりと放出していく。
放出した波動を、ゆっくりと、少しずつナイトアイに馴染ませるように注入していく。
「波動、お前何を……」
相澤先生も私がしていることを理解できなくて、そう聞いてくる。
私は少しずつ波動を放出してナイトアイに注入しながら、意図を説明し始めた。
「これは……あくまで私の推測です……波動と……活力の関係性について……」
「波動と、活力……?」
「はい……私は……波動が枯渇すると……動けなくなります……気絶することすらあります……お姉ちゃんの個性も……活力を波動に変換しています……これだけだと……そう言うものなんだって思っていただけでした……でも……何度も何度も……エリちゃんが死ぬところを注視して……気付いたんです……衰弱するのに合わせて……死に向かっていくのに合わせて……少しずつ波動が霧散していくことに……」
「波動少女、それは、つまり……!?」
「あくまで可能性の話です……波動と活力が……直接的な関係があるなら……活力が低下していくのに合わせて……波動が霧散していたんだとしたら……逆に……波動を注入することで……活力が回復するんじゃないかって……思ったんです……私は……最近物体への波動の注入の練習をしていました……それを……ナイトアイに試します……!」
私がそう宣言すると、周囲にいた全員が息を呑んだ。
通形さんなんか泣いたまま呆然としてしまっていて、何も話すことが出来なくなっていた。
皆が固唾を飲んで私の様子を伺っている。
私が波動をゆっくりと注入するのに合わせて、波動の霧散は止まった。
それを見て効果があったんじゃないかと思ったけど、そこまでだった。
ゆっくりとした注入じゃ、霧散の速度と釣り合うだけで死ぬまでの時間の引き延ばしにしかなっていないと思う。
この注入量じゃ、駄目だ。
私が出来る、最大限で注入しないと……多分……
危ないのは分かっている。お姉ちゃんやお父さん、お母さんの心配してくれている感情を、踏みにじるようなことだっていうのも分かってる。
だけど、やらないと駄目だと思った。
私は、今出来る全力で波動の放出を始めた。
それに合わせて、私の手から放出される波動が青白い光を放つ揺らめきとして可視化され始めた。
その段階になって、何をやっているかが相澤先生には分かったんだと思う。
「波動!!やめろ!!今すぐに放出を元の量に戻せ!!」
「ダメです……!!あの量じゃ……!!霧散の速度と釣り合うところまでしか行かない……!!先延ばしにしかならないんです……!!」
「ダメだ!!そうだとしても許容できん!!今すぐに戻せ!!」
「あ、相澤くん!?どういうことだい!?」
相澤先生のあまりの変化に、オールマイトが慌てた様子で聞き始めた。
「緑谷は林間合宿での波動を見ているだろう!波動は自己の波動が空になると霧散して消滅する可能性がある!」
「あ、あの時の、身体が透けていた、あれのことですか……!?」
「なっ!?そ、それは……!?」
「リオル……やめろ……君がそこまでのリスクを負う必要は……!」
それを聞いて、ナイトアイすらもそんなことを言い始めた。
それでも、無視して波動の注入を続ける。
ナイトアイの波動が少しずつ増えてきて、顔色がさっきよりはよくなってきた。
そう思って、もうひと頑張りって考えながら眩暈や脱力感を無視して波動を注入し続けていたら、それは起こった。
バチッバチッて感じで波動を迸らせながら、私の身体がぼんやり発光して透けるように明滅し始めたのだ。
「波動!!」
いよいよという所まできて、相澤先生が私の方に駆け寄ってきて、私の肩を掴んだ。
そのまま先生は私の肩を思いっきり引っ張って、注入をやめようとしない私をナイトアイから無理矢理引きはがした。
それと同時に、私の身体はもう抗えないほどの脱力感で、動くことが出来なくなってしまった。
「りかばりー……がーる……ちゆを……」
「波動少女!!」
「先生!波動さんは……!」
「こいつは……これなら、ある程度なら治癒もできるよ。すぐにでもやろう、チユーーー」
「本当ですか!?なら、サーは!」
「なんてことだ……!これなら手術も……君!今すぐに準備を―――……」
そんな声を聞きながら、相澤先生に抱き上げられた私の目の前は真っ暗になった。