数日後。
あれからインターンに関して学校側とヒーロー側で話し合いが行われて、しばらく様子見ということになった。
仕方なかった部分があるとは言っても流石に看過できない規模の組織との事件に、さらにヴィラン連合まで関わっていたという事実。
これらのこともあり、生徒の安全確保のための措置だった。
エリちゃんとナイトアイは無事目を覚ましたらしい。
エリちゃんは精神的に不安定でいつ暴走するか分からないから面会はできないけど、身体的には元気は元気らしい。
ナイトアイは目を覚ましたとは言っても重症だったこともあって、まだ面会が出来るほどの状態ではないと相澤先生から教えられた。
そんな感じで面会はしたいけどできないという状況なのもあって、私たちインターン組も普通に授業に打ち込んでいた。
「アマリ美シイ問イデハナイガ……コノ定積分ヲ計算セヨ。正解ノ分カル者ハ挙手ヲ」
エクトプラズム先生はそう言いながら黒板に数式を書いた。
上鳴くんなんてすぐに諦めて「うぇからね」とかふざけたことを言っているけど、解く努力はした方がいいと思う。
私もガリガリと解いていくけど、あと少しで解き終わるというところで緑谷くんが、挙手した。
「緑谷!」
「107/14です!」
「不正解!」
緑谷くんが不正解の宣告を受けた。
そのタイミングで私も解けて挙手したけど、百ちゃんよりも少しだけ遅かった。
「八百万!」
「107/28ですわ!」
「正解!デハ次ノページヘ」
私も同じ答えだっただけに、ちょっと悔しい。
上鳴くんに注意を向けた私が間違っていた。
「波動はあってたの?」
「ん……百ちゃんと同じ答えだった……」
「うわ、惜しかったね」
私が手を挙げたのも見ていた響香ちゃんが確認してきてくれるけど、仕方ない。
私の不注意だ。余計なことに気を逸らしすぎた。
それにしても最近の緑谷くんはすごく猛々しい感じだ。
ちょっと心配ではあるけど暗い感じの思考とかではないし、多分大丈夫かな?
そんなこんなで昼休み。
私の席に透ちゃんが近づいてくるのと同じように、緑谷くんの席にもお茶子ちゃんと飯田くんが近づいていっていた。
「デクくん猛々しいねぇ」
「勉強に力を入れるのは良いことだ!!さぁ午後のためにもランチラッシュの料理を食べに行こう!」
「うん、腹ペコ……」
緑谷くんがそう言うと同時に、青山くんが緑谷くんの口にチーズを差し込んだ。
「じゃあチーズあげる☆」
それと同時に虚を突かれた緑谷くんが固まった。
何してるんだ青山くん。思考からして純粋な心配と好意からやってるのは分かるけど、急にあれをやられたら流石に怖いと思う。
緑谷くんも実際にそう思っていたようで、少しの間完全にフリーズしていた。
「びっくりした!!チーズ!!?」
「ポン・レヴェックチーズ。まろやかで食べやすいんだ」
青山くんはそう言いながらももう一度チーズを緑谷くんに差し出した。
繰り返されるあまりに唐突な青山くんのその行動に透ちゃんとお茶子ちゃんなんか唖然として言葉を発することすら出来なくなっている。
「ええ!?いやいいよ!まだ口の中に残ってるよありがとう!!」
緑谷くんはそう言ってチーズを遠慮した。
それにしても青山くん、メシ処に来るつもりが無いみたいだけどまた教室で1人でご飯を食べるつもりだろうか。
以前までは内通者をしていた負い目やなるべくボロを出さないようになんていう目的があったんだろうって言うのは今なら分かる。
だけどそれももう気にしないでよくなったんだから、青山くんも一緒に食べればいいのにと思う。
「……青山くんも……一緒にご飯食べよ……いつも一人で食べてるでしょ……」
「俺もそれを提案しようと思っていたんだ!どうだろうか青山くん!」
「……そうだね☆せっかくの波動さんたちからの誘いだし、たまには一緒に食べようかな☆」
私と飯田くんの誘いを受けて、青山くんも一緒にご飯を食べることになった。
うん、やっぱりクラスの仲は良い方がいいよね。皆私を受け入れてくれるようないい人たちなんだし、仲がいい方が嬉しい。
それはそれとして透ちゃんが「ほー」なんて感じで私と青山くんの顔を交互に見ている。
なんだ。何が言いたいんだ。思考を見ているから分かるけど、そういう関係ではない。
これは注意しておかないと駄目か。
「……透ちゃん……そういうのじゃないから……」
「うんうん!分かってるって!そうだよね!まだそんな感じじゃないよね!」
「……まだ……?」
「ほら瑠璃ちゃん!早く行かないと席なくなるよ!」
誤魔化すかのように透ちゃんが私の手を掴んで走り出した。
本当に違うんだけど、なんでそんなにそういう邪推をするんだろうか。
お茶子ちゃんの恋バナを聞いたりするのは楽しいけど、こういうのは私にはまだ理解できない領域だった。
そして今日も授業が終わった。
「―――……以上だ、解散」
相澤先生がいつものようにホームルームを締める。
いつもならそのまますぐに職員室に向かうのに、先生は皆がぱらぱらと動き始めるのを確認してから私の方に向かってきた。
「波動」
「はい……なんですか……?」
「リカバリーガールから話があるそうだ。この後保健室に寄って行ってくれ」
「リカバリーガールから……ですか……?」
「ああ。インターンの最後にやった技術に関してだ。必ず寄ってから帰れよ」
「……分かりました……」
先生は私の返事を確認すると職員室へ戻っていった。
最後の技術って言うと、波動の注入のことだろうか。
相澤先生もだいぶ強く言ってきている感じだし、話の細かい内容を知ってそうな感じだったのに反対している感じは一切なかった。
「また呼び出し?」
「そうみたい……どのくらいかかるか分からないし……先に帰ってて……」
「そう?……分かった。何の用件かは分からないけど頑張ってね」
「ん……ありがと……」
透ちゃんがすかさず声をかけてくれた。
だけどどのくらいかかるかも分からない話だ。
いつもの透ちゃんだとこのままここで待ってるって言いそうだったから、先に寮に帰っておいてもらおう。
今日も宿題とか沢山出てるから、余計な時間を取らせたくないし。
透ちゃんも了承してくれたから、そのまま軽く挨拶してから教室を出た。
保健室の中に入ると、リカバリーガールがこちらを向いた。
「来たかい。ほら、こっちにおいで。ここに座りな」
リカバリーガールはそう言いながら自分の正面の椅子を指さした。
指示に従って椅子に座る。
「イレイザーから話は聞いてるね。ナイトアイにやったあの技術に関してだ」
「はい……それ以上の話は聞いてないですけど……」
私がそう返答するとリカバリーガールは真剣な表情で私の方を見つめてきた。
「あんた、あの技をこれからも使うつもりはあるのかい?」
「……どういう意味ですか……?」
「そのままの意味だよ。活力の回復だけとは言っても立派な治癒だ。それを今後も使うつもりがあるのかいって聞いてるんだよ」
リカバリーガールはそう言って質問を繰り返した。
正直、リスクのある技だっていうのは分かっている。
だけど、あれを使いこなせれば活力を回復させることが出来る。
お姉ちゃんに何かあった時でも、ナイトアイの時のように緊急で活力の回復をすることが出来る可能性がある。
あとお姉ちゃんは認めないだろうけど、あれを使いこなせば私がお姉ちゃんのエネルギータンクになれるっていうのもある。
そんなこともあって、リスクはあってもこれからも使うつもりは普通にあった。
「……はい……あれを使えれば……何かあった時に……絶対に役に立つので……」
「だと思ったよ。だけどね、自身の波動の譲渡だ。リスクがあるってことは自分でも分かってるんだろう?」
「……はい……」
私の返答に、リカバリーガールは溜め息を吐いた。
「あの後イレイザーとも話したんだよ。このまま放置すればあんたが勝手に練習するだろうってことも、リスクが大きすぎるって事もね。その上で出た結論が、もし今後も使う気があるなら教師の監督の下で練習させるってことだったんだ。ここまではいいかい?」
「はい……それは……その通りだと思うので……」
「そこで誰の監督の下で練習するのが一番いいのかって話になるんだよ。まあでも、正直選択肢なんてほぼないんだけどね。ここで治癒系の個性を持っているのは私だけだし、練習とはいえ活力の回復を無駄にするのももったいないしね」
「つまり……リカバリーガールの所で……助手をしながら練習しろって……ことですか……?」
「簡単に言ってしまうとそうだね。ただね、利用しようってつもりは私もイレイザーも一切ないよ。確かに私の個性との相性には驚いたけど、あくまでこの保健室での助手をって話だからね。私の個性で治癒をした後に、体力が減った生徒を相手に練習しないかって話をしてるだけだよ。嫌ならそう言ってくれればイレイザーが別の練習方法を考えてくれるだろうけど、活力の回復がうまくいっているかを確認するためにもこの方法が一番だと思うけどね」
リカバリーガールの提案は、実際その通りだと思った。
疲れてもいない人にあれをやっても効果は実感しづらいと思うし、訓練後で疲れてるところを狙うのも練習機会が限られる。
その上調整を失敗すると私が消滅しかねないのを考えると教員の指導の下でしか練習させないというのも合理的だ。
これらから考えると、確かに練習したいときにリカバリーガールの指導の下で助手をするのが一番効率的だし、無駄がなかった。
リカバリーガールの発言に一切の嘘もないし、思考も純粋に私の指導をしようとしているだけだ。信用は出来ると思う。
「……分かりました……じゃあ……お願いしてもいいですか……?」
「そのつもりで呼んでるんだよ。じゃあ今後は練習したくなったら保健室に来なさい。患者がいない時間は、そうだね。医療の知識でも教えようか。あんたの個性、確か透視もできるんだろう?透視で応急処置するために必要な簡単な診断の方法とかは、あんたには役に立つと思うしね」
リカバリーガールの思考を見る限り、私が学校に提出している個性の詳細から透視が出来ることが分かった感じかな。
確かに仮免試験の時に透視した上での最適な治療が分からなくて困ったりしたから、それを教えてくれるというなら助かりはする。
授業で習うような内容だと本当に簡単な応急処置だけで足りないと思っていたところだった。
「……いつ来ればいいですか……?」
「強制はしないよ。さっきも言った通り、練習したいと思った時に来なさい。ただし、練習のために呼んでるんだ。活力の回復は私がいない所では絶対に練習しないと約束するんだよ」
「分かりました……よろしくお願いします……」
私が頭を下げると、リカバリーガールは小さく頷いた。
「この後はどうする?せっかく来てるしこのままやっていくかい?急な話だし、後日って事でもこっちは大丈夫だけど」
「じゃあ……練習していっても……良いですか……?」
「大丈夫だよ。患者が来るまで待ちになるけどね」
リカバリーガールがそう言ったタイミングで、ちょうど保健室に怪我をした生徒が入ってきた。
その後はリカバリーガールが治癒をした生徒に波動を注入したり、応急処置について勉強したりして過ごした。
波動の注入は極少量ずつから試すように厳命されて、リカバリーガールの指示の下でやっていった感じだ。
効果は薄くなるけど、リスクを最低限にするためには仕方ないと納得している。
治癒が必要な生徒は疎らにしか来ないからそんなにたくさん練習できるわけではないけど、それでも治癒のスペシャリストのリカバリーガールの指示の下で練習するのは安心感があった。