波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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深夜のサプライズ

リカバリーガールの所での練習は夕方には終わった。

初回だから無理をしないように調整されていた感じは否めないけど。

実際数人の怪我人にリカバリーガールの治癒の後に波動の注入をしてみたけど、なかなか調整が難しい。

もう十分すぎるほどに回復しているのに私がそれに気付かずに注入し続けていたり、逆に少なくしすぎることもあった。

その度にリカバリーガールに指摘されて、回復完了の目安の模索や微調整を繰り返していった感じだ。

リカバリーガールもまだ私のキャパシティを把握しきれていないのもあって、凄く慎重に微量ずつの注入を指示された。

これはもうお互いに慣れていくしかないんだと思う。

 

そんなこんなで練習も終わって寮に戻った。

寮ではいつもどおり透ちゃんたちと一緒にご飯を食べてお風呂に入った。

食後には砂藤くんが皆の分のデザートまで準備してくれていて、大喜びで食べさせてもらったのは言うまでもない。

 

 

 

そんな何気ない生活を送りつつ、そろそろ寝る時間と言うことで透ちゃんとも別れて部屋に向かおうとしていたら青山くんが近づいてきた。

 

「波動さん、少しいいかな」

 

「どうしたの……?」

 

「ちょっと相談があってね☆」

 

改まった言い方にちょっと身構えるけど、青山くんの思考には特に不審な点はない。

 

「実は、今日の夜に緑谷くんにサプライズをしようと思うんだ」

 

「サプライズ……?」

 

急な申し出に少し戸惑ってしまう。

サプライズをするにしても私にわざわざ言ってくる理由がよく分からない。

 

「そうさ☆緑谷くん、最近以前にも増して焦っているように見えるんだ。だから、ちょっと元気づけてあげたくてね」

 

「それで……サプライズ……?」

 

私が聞き返すと青山くんが頷いた。

 

「なんでそれを……私に……?」

 

「サプライズは深夜に仕掛けようと思ってね☆だから、怪しまれないように波動さんには事前に言っておいた方がいいと思ったんだ」

 

「……なるほど……」

 

それなら確かに私に言ってくる理由も理解できる。

それにしても、青山くんが進んで誰かに関わるのは凄く珍しい気がする。

内通者だった負い目もあってか、自分からそういうアプローチをかけるのは見たことがなかった。

 

「珍しいね……青山くんが……自分からそういうことするの……」

 

私がそう言うと、青山くんはさっきまでの感じとは打って変わって真剣な表情で話し始めた。

 

「緑谷くん、僕に似ていると思うんだ」

 

「似てる……?」

 

「彼の"個性"、身体に合っていないじゃないか。力を発揮するだけで大怪我したりして。僕も仕方ない事とはいえ個性が身体に合っていないから、共感しちゃってね」

 

……青山くんの言うことは間違っていない。

むしろ核心を突いていると言っていい。

緑谷くんはオールマイトに個性を貰った。

青山くんはAFOに個性を貰った。

2人とも他人に貰った個性なのだ。身体に合わないのは当然と言っていい。

青山くんの思考を見る限り、本当に純粋な善意でサプライズを仕掛けようとしている。

OFAのことなんて微塵も知らないだろう。思考からもそのことは分かる。

青山くんがこちらをどうにか騙して内通行為を続けていたとして、ターゲットにする可能性が高いのが緑谷くんではある。

だけど、本当に純粋な気持ちで励まそうとしているのは伝わってくるし、何より悪意も悪感情も、負の感情も、一切感じない。

信用は出来るとは思う。

 

まあ思考を読んだ時に見えたサプライズの内容には首を傾げざるを得ないけど。

なんだそのサプライズ。私がそれを仕掛けられたら、思考の純粋さと行動の乖離に普通にドン引きする自信がある。

緑谷くんでも仕掛けられた直後は絶対に怖がると思う。

だけどこれが青山くんなりのサプライズみたいだし、そこに口を出すのも野暮だとも思う。

とりあえず変なことをしないかだけ最後まで見守ればいいかな。

緑谷くんが恐怖体験することになるだろうけど、そこはもう諦めよう。青山くんの善意を全身で受け止めてもらうしかない。

 

「ん……分かった……一応私も起きておくけど……何時くらいにやるつもり……?」

 

「そうだね……緑谷くんが寝るであろう時間がいいかな。0時から1時くらいなんてどうだろう」

 

「……ん……分かった……頑張って……起きておく……」

 

結構遅い時間の決行予定に、睡魔に負けないか心配になってしまう。

 

「無理して起きておかなくても大丈夫だよ?変なことをするつもりがないのは読心で分かっているだろう?」

 

「……分かってはいるけど……一応ね……」

 

私の気が進んでいないのが分かった青山くんがそう言ってくれるけど、今回は相手が悪い。

緑谷くん相手じゃなければ私も寝たと思う。

だけど緑谷くんだけは流石にダメだ。

万が一にも緑谷くんから情報を抜かれたら面倒なことになりかねないから、一応の用心だ。

私が頑なに見張ると言ったことで、青山くんもこれ以上何か言ってくることはなかった。

その後は簡単な挨拶をしてお互いに部屋に戻った。

 

 

 

深夜。

私は自室で青山くんと緑谷くんの波動を注視していた。

緑谷くんは1時頃になってようやくベッドに入った。

その気配を察したらしい青山くんがようやく動き出す。

早く終わらせて欲しい。眠くて仕方ない。

 

青山くんは自分の部屋のベランダから緑谷くんの部屋のベランダに飛び移った。

外からベランダのドアを開けようとする青山くん。

普通に開くわけがないと思うのだが。普通は鍵を閉めてるよそこは。

そして緑谷くんは眠っていない。案の定青山くんの異常行動に気が付いて恐怖を覚え始めている。

 

部屋への侵入を諦めた青山くんは、ベランダにチーズを並べ始めた。

やっぱりこのサプライズは理解に苦しむ。なんでそうなるんだろうか。

最初は室内にそのチーズを仕掛けるつもりだったんだろうけど、入れたら誰かに侵入された恐怖体験だし、入れなくても恐怖体験だ。

青山くんはチーズを『ぼくはしってるよ☆』って形に並べて颯爽と自室に帰っていった。

 

緑谷くんの思考がかわいそうなことになってしまっている。

『何今の!!?』から始まり、『今の……青山くん……だよな!?』とか『ええ……!?なんでベランダ!?何しに!?なんで!?あああ怖っ、どうしよう!?』とか考えている。

かわいそうな緑谷くん。心を強く持って欲しい。

……これ、もしかして私も共犯扱いになったりするのかな。承認して見てるだけだから流石に違うと思いたい。

 

そして緑谷くんは『隣の部屋なのになんでわざわざベランダを……!?訪ねてみるか……!?いや!ちょっとわけわからなさすぎて怖い……!一体何しに……』って考えながら起き上がった。

ベランダを確認するつもりみたいだ。

そして謎のチーズを見た緑谷くんはさらに困惑と恐怖に包まれた。

これ、緑谷くん今日はもう眠れないんじゃないかな。

かわいそうに。

 

さて、私は寝るか。青山くんは自分のベッドに戻ったみたいだし、もう眠気が限界だったのだ。

 

 

 

翌朝。

 

「走ってはいけない!!しかし出せる限りのスピードで!!」

 

案の定緑谷くんは眠れなかったみたいで、飯田くんとお茶子ちゃんと一緒に競歩で教室に飛び込んできた。

入って来た瞬間にお茶子ちゃんがセーフセーフと手をブンブン振っている。可愛い。

 

「始業一分前!ギリギリセーフだ!……しかし夜更かしはよくないぞ、自律神経が乱れる」

 

「すいません委員長」

 

飯田くんの苦言に緑谷くんはペコペコ頭を下げていた。

そんな緑谷くんに青山くんが『サ・プ・ラ・イ・ズ』なんて小声で話しかけている。

緑谷くんは『怖くて眠れなかったよ……』なんて思っているけど当然の反応過ぎる。

 

そして授業は進んでヒーロー基礎学。今日も必殺技の訓練だ。

コスチュームに着替えるために皆移動の準備を始めている。

そんな中すぐに移動はせずに上鳴くんが峰田くんに話しかけていた。

 

「おい峰田!知ってるかコレ!?」

 

「Rは?」

 

「全年齢よ」

 

ブドウ頭のその確認はなんなんだ。R18じゃなかったら話は聞かないのか。

そんなブドウ頭の反応を一切気にしていない上鳴くんは話を続けた。

 

「Mt.レディがエッジショットとチーム結成!シンリンカムイもいるぜ!」

 

「マウント……レディ……だと!?」

 

「"ラーカーズ"だよね。前々から噂あったよ」

 

響香ちゃんが上鳴くんに返答してあげている。

それにしてもブドウ頭はなんでそんなにトラウマになっているんだ。職場体験で雑用として扱き使われただけだろうに。

普段から制裁を受けまくっているくせになんでそういうところだけ繊細なんだ。

 

その後はチームアップに関して話していたんだけど、三奈ちゃんが楽しそうに話し出した。

 

「私たちもプロんなったらチーム組もー!麗日がねぇ!私を浮かしてねぇ!酸の雨を降らす!」

 

「エグない?」

 

三奈ちゃんのその提案にお茶子ちゃんが思わず聞き返した。

確かにエグイ。つまりは三奈ちゃんが空から狙ったところがどろどろに溶ける技ってことだろうけど、凄まじいエグさだ。

 

「梅雨ちゃんが私をヤオモモの作ったロープで操作するんだよ!」

 

「……!万事お任せください!」

 

百ちゃんが頼りにされて嬉しそうにしている。それでいいんだろうか。

その技が完成した暁には凄まじいスプラッタが繰り広げられるけど。

 

「口田と障子と耳郎と波動が偵察ね!チームレイニーデイ!」

 

「オー」

 

「凄い……残虐だけど……大抵のヴィランはなんとかなりそう……」

 

響香ちゃんが気のない返事を返している。

実現は出来るだろうけど本当に情けも容赦もない凄まじい連携だ。

しかも私とか響香ちゃんまで呼ぶなら遠くから感知して位置を特定、はるか上空から酸の雨という不意打ちすら可能になる。

なんだこの連携攻撃。パッと思いついたとは思えない完成度とエグさなんだけど。

 

そんなことを話していたら名前を呼ばれなかった峰田くんと上鳴くん興奮気味で三奈ちゃんに声をかけた。

 

「「俺たちは!?」」

 

「いらない」

 

無慈悲に却下された。

まあ当然ではある。今の作戦に上鳴くんと峰田くんを呼んだところで出来ることはないだろう。

落ち込んだ2人は「ちょうど5で死ぬルールな」なんて言いながら手遊びをし始めた。

 

「チームアップは"個性"だけじゃなく性格の相性も重要ですわ」

 

「ヤオモモそれ追いうち」

 

「百ちゃんも……中々残酷……」

 

透ちゃんにすらツッコまれていた。透ちゃんは呼ばれないことに不満を抱いている様子は一切なかった。

透ちゃんを偵察として呼ぶことはできないでもないけど、酸の雨に晒すことになるし、危険なだけだ。適材適所だろう。

 

「皆!早く移動しなさい!着替える時間なくなるぞ!」

 

話し続けていたら飯田くんに怒られた。

それを受けて流石に皆更衣室に移動した。

 

 

 

TDLでの必殺技訓練はいつも通りの内容だった。

最初に言われた最低2つの必殺技。出来てなければ開発を、出来ていれば発展をという内容だ。

それをセメントス先生に言われた途端、切島くんが硬化を発動した。

 

安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)!!!」

 

「わっ」

 

唐突な切島くんの行動に、三奈ちゃんが軽い驚きの声を上げる。

切島くんの思考は死穢八斎會の幹部と思われる男、乱波のことになっていた。

相澤先生を庇って落ちた先で、色々あったようだ。

 

「乱波と同等の連撃受けて鍛える!!それには―――……爆豪!!砂藤ー!!緑谷!!波動!!思う存分俺をサンドバッグにしてくれ!」

 

「誤解を招くぜ!!?」

 

まさかの私にもお誘いがきた。

発勁による打撃を期待されているんだろうか。

だけど私はいい加減波動の取り出しとそれによる波動弾の生成を完成させたい。

今回は遠慮させてもらおう。

 

「ごめん僕は一人で……!」

 

「わかった!」

 

「ごめん……私も……別の練習したくて……」

 

「おう!気にすんな!!」

 

断る私と緑谷くんを、切島くんは嫌な顔一つせずに流してくれた。

とりあえず私も離れたところで練習しよう。

爆豪くんが"榴弾砲(ハウザー)"撃たせろなんて言っているし、近くにいると巻き込まれそうだ。

 

 

 

そんな練習のさなかに、緑谷くんに聞かれた青山くんがサプライズの理由を教えたようだった。

凄いビックリして愕然としているけど、青山くんの気遣いを受けて緑谷くんは最終的に笑顔になっていた。

青山くんも『辛いことと向き合ってるだけじゃ、きっとキラメけないのさ☆』なんて言いながら笑顔を浮かべていた。

そこまでならいい話だったのに、青山くんがやらかしたみたいだった。

流石に直視したくないから練習に集中することにした。

 

練習自体は順調で、人への波動の注入を練習したおかげなのか、体外の波動の操作もだいぶ精度が上がってきた。

コスチュームのこの水晶から波動を取り出して波動弾にすることもできるようになったし、これからは定期的に水晶に波動を注入しておこう。

なんだかんだでこれも波動譲渡の練習になるし。これに関しては先生たちにも止められていないからやめる理由がない。

 

 

 

授業が終わって寮に戻ってからも青山くんが緑谷くんにフィナンシェをあげたりしていた。

どうやら本格的に仲良くなったらしい。

よくクラスの仲を取り持とうとしている三奈ちゃんなんかも笑顔でその様子を見ていた。

私も青山くんがちゃんとクラスの輪に入ってくれて嬉しいなと思いながら、その様子を眺めていた。

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