波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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練習の日々

翌週の日曜日。

私たちダンス隊は今日もミーティングやダンスの練習をしていた。

そんな中席を外していた緑谷くんが戻ってきそうな気配を感じて、スーツを着て雰囲気づくりをしている三奈ちゃんが深刻そうな空気を作り出した。

事情を察した私たちも暗めの表情で気まずそうな雰囲気を作る。

そして、扉が開いた瞬間に三奈ちゃんが切り出した。

 

「緑谷……クビです」

 

三奈ちゃんが緑谷くんの肩に手を置いてそう宣告した瞬間、緑谷くんが絶望に支配された表情になった。

 

「クビ、っていうか厳密には、演出隊からの引き抜きです!人手が足らんのだと!」

 

「何故……僕に……?エリちゃんに……踊るって……言っちゃったよ……」

 

緑谷くんは表情を変えずに固まったまま呆然と呟いた。

まあそういう反応にもなるよね。うん、仕方ないと思う。

 

「フロア全体に青山が行き渡るようにしたいんだけど」

 

「青山くんが行き渡るってなに!?」

 

「そんな大掛かりな装置もないし、人力で動かせるパワーが欲しいんだって!他にできそうなのは砂藤と波動だけど、波動は出力不足だし砂藤も制限時間とかいろいろあるし!色々考えた結果緑谷が一番ってなったんだってさ!」

 

青山くんのミラーボールを効率的に行き渡らせるための提案に、緑谷くんが凄まじい困惑具合を見せている。

でも三奈ちゃんが説明してくれたとおりで、私もできなくはないけど多分すぐにガス欠になる。

跳躍から超パワーまでなんでもござれなフルカウルが出来る緑谷くんが割と真剣に適任なのだ。

そんな風に考えていると、青山くんがいつものポーズをキメながら緑谷くんの前に出て行った。

 

「僕、序盤でダンサーからミラーボールに変身するんだ☆ 新技☆ネビルビュッフェ、飛距離も抑えられるんだ。僕の為にある職☆同じタイミングで離脱して協力してほしい」

 

「つまりクビとは出番が削れるってことね……」

 

「ん……ちゃんと見せ場……ある……エリちゃんにも見せられるはず……」

 

「ワリィ!!おめーの練習を無駄にしちまうが……どうか頼まれてくれねぇか……!?さらに良いもんにしてぇんだ……!!」

 

悩む緑谷くんに、切島くんが手を合わせながら頭を下げる。

緑谷くんも少し考え込んだ後、頭に手を当てながら返答し始めた。

 

「……んん……!出番あるなら……エリちゃんに嘘吐いたことにはならないし……良いものにするためなら……分かった!」

 

「メルシィ!」

 

「ありがとう漢だおめぇは!!」

 

「緑谷最近青山と仲いいし、きっと良いよ!」

 

そんな感じで緑谷くんは青山くん運搬役に就任した。

 

 

 

その後はまた分かれてダンス練習に入った。

今はある程度形になってきたハーレムパートの段取りを女子で確認していたところだ。

峰田くんは連携訓練をしてくると言って離れていった緑谷くん、飯田くん、青山くんを除いたダンス隊の他の男子と一緒に休憩している。

障子くんや砂藤くんにミスコンのことを提案した時に漏らしそうになっていたことを弄られていたようだ。

それはいいんだけど、ハーレムパートの練習をしているのになぜ峰田くんが来ないのか。

私がそう思っていたら、三奈ちゃんとお茶子ちゃんが峰田くんに声をかけた。

 

「峰田、油売ってないで練習するよ!」

 

「峰田くんの見せ場なんやから!」

 

三奈ちゃんたちの呼びかけに、ブドウ頭がおもらしを弄られて憤慨していた顔を一転して満足そうな笑みを浮かべた。

 

「まず見本見せてくれよ、オイラのハーレムダンサーズ。まず全体像を把握しねーとな」

 

「……なに……?ハーレムダンサーズって……」

 

流石にその呼び方には少しムッとしてしまう。

そんな私を宥めるように三奈ちゃんが言葉を続けた。

 

「まぁまぁ波動。じゃあ見ててよ?」

 

三奈ちゃんの号令に従って渋々踊り始める。

一列になってから皆で少しずつ違う位置に手を広げて、素早く峰田くんの周りに分散する。

そのまま峰田くんご所望の崇める感じで手を上げて、峰田くんを引き立たせるような感じだ。

その流れを一通り披露すると、峰田くん以外の男子は「いいじゃん」と声を上げてくれた。

……にも関わらず、このブドウ頭だけは何故か不満そうな顔で口を開いた。

 

「まだまだ甘い!ハーレムだぞ?もっとハーレムっぽい振り付けにしろよ!」

 

「……もうこのパート……削ってもいいんじゃないかな……」

 

ブドウ頭の思考を読んでどんなものを求めているかは分かった。

そんなことを強制されるくらいならダンスなんてやめてやると言いたくなるレベルのものをブドウ頭は要求していた。

私の反応を見てどういうことか察しつつも、一応という感じで梅雨ちゃんがブドウ頭に確認する。

 

「ハーレムっぽい振り付け?」

 

梅雨ちゃんの質問に、ブドウ頭は男子の中から一歩前に出て来た。

 

「全員オイラに惚れてる感じでうねうねと身体をこすりつけるような振り付けだよ!もちろん本番の衣装はきわどいスケスケだ!ようし、オイラが今から見本を―――へぶっ!?」

 

変質者のお手本のような血走った目で鼻息を荒くしながら近づいてくるブドウ頭に、波動を集中した腕でアッパーをかけて空中に吹き飛ばす。

さらに追撃をかけるように、宙に浮いたブドウ頭を梅雨ちゃんが舌で確保して地面に叩きつけた。

 

「……変態……最低……何考えてるの……」

 

「もう!隙あらばだね!!」

 

透ちゃんも私に同調してプンプンと怒っている。

三奈ちゃんも怒った表情でぷんすかしながらブドウ頭に詰め寄った。

 

「エロばっか考えてるなら、波動の言う通りハーレムパート削っちゃうよ!?」

 

「モウニドトエロイコトハカンガエマセン」

 

「棒読みの見本!」

 

お茶子ちゃんが棒読みで謝罪するブドウ頭にプフーッと吹き出して爆笑している。

相変わらずお茶子ちゃんはおおらかすぎる。なんで自分たちが被害に遭いそうになったのに笑っていられるのか。

でもこのくらいのことなら笑って流してくれるお茶子ちゃんのラインを今まで何度も超えているあたり、やばすぎるブドウ頭にドン引きすることしかできないんだけど。

 

ちょうど通りがかって一連の流れを見ていたらしい心操くんが『アイツ、いつかセクハラで退学になるんじゃないか……?』なんて考えているけど、まさしくその通り。

こんなことを繰り返していたらいつか退学になる。

というか林間合宿での覗きとか退学になっていてもおかしくなかった出来事が多すぎる。

 

 

 

そんなこんなで練習を続けて夜になった。

私は百ちゃんが紅茶を淹れてくれているのを近くで見て、百ちゃんの淹れ方を見学させてもらっていた。

それにしても今日の紅茶はすごく香りがいい。

絶対いつものやつよりもいいやつだ。

 

「耳郎さん、ご指導も本職さながらですわ。素人の上鳴さんが一週間でコード進行まで辿り着くだなんて」

 

「別にそんな……ってか、今日のお茶良い香り」

 

「ん……茶葉だけでもすごく良い香りだった……絶対にいつものやつよりも良いやつ……」

 

私と響香ちゃんが茶葉がいつものレパートリーよりも良いやつそうなことを指摘すると、百ちゃんはパァッと朗らかな笑顔を浮かべながら興奮気味に話し出した。

 

「わかりますの!?お母様から仕送りで戴いた幻の紅茶、ゴールドティップスインペリアルですの!皆さん召し上がって下さいまし!」

 

「よくわかんないけどいつもありがとー!!」

 

「よくわかんないけどブルジョワー!」

 

百ちゃんの言葉に共有スペースの方の皆が盛り上がりながらお礼を言っている。

それにしても本当にいいのだろうか。味の違いが分からない人も多そうだけど。

多分何も言わないで分かるのは女子以外だと爆豪くんと砂藤くんくらいな気がしないでもないし……

 

「ゴールドティップス……ほんと……?すごく高いよね……?本当にいいの……?」

 

「分かりますのね!その通りですが、お気になさらず飲んでくださいまし。1人で飲むよりも皆さんで飲んだ方が美味しくなりますから」

 

「……それなら……ありがたく飲ませてもらうね……」

 

百ちゃんはプリプリして紅茶を淹れながらそう言った。

百ちゃんがそういうならありがたく飲ませてもらおう。

紅茶のブランドとか銘柄までは分からないけど、インペリアルなんて銘打たれてるってことは王室御用達とか、それに負けないくらいの味があると自負してないとつけない名前だし。

ちょっと茶葉を覗き込んでみたらほぼゴールドティップスって感じだし、絶対おかしな値段の紅茶だ。

私がそんなことを考えていると、響香ちゃんも茶葉が気になったのか不思議そうに聞いてきた。

 

「波動は分かるんだ」

 

「ん……ゴールドティップス……いわゆるゴールデンチップスのこと……お茶の樹の一番上の芯芽のことで……この茶葉の黄色がかった明るい色のやつがそう……収穫できる量がすごく少なくて……これが多いか少ないかで紅茶の味が決まると言ってもいい……銘柄までは知らないけど……この紅茶……ほとんどそうだし……しかもインペリアルなんて銘打っちゃうくらいだし……絶対に高い……少なくとも普通の茶葉の数倍……こだわりようによっては数十倍……」

 

「な、なるほど……」

 

「流石ですね。その通りですわ」

 

具体的な値段を言われたことで、響香ちゃんは冷や汗を流しながら百ちゃんが淹れてくれている紅茶を見ている。

 

「私が作るのはフレーバーティーだから……紅茶の香りよりも……お花の香りが大事だし……値段も安く出来るから……ゴールデンチップスとかはほぼないのを……使ってる……香り付けのために市販のいろんな紅茶を見てきたけど……このクラスの紅茶は見たことない……楽しみ……」

 

「ええ!期待は裏切りませんわ!ゆっくり味わってくださいまし!」

 

私がそう締めくくると百ちゃんは嬉しそうに頷いた。

響香ちゃんも戦々恐々と言った感じで渡された紅茶を飲み始めている。

百ちゃんが運ぶのを手伝って紅茶のカップを共有スペースの方に持っていく。

私の解説を何気なく聞いていたらしい皆も我先にとカップを持っていった。

 

そんな中緑谷くんはこっちの様子なんて一切気にしないでスマホを弄っていた。

思考がオールマイト一色で怖い。一体何があったんだ。

私がさりげなく緑谷くんから距離を取っていると、優しいお茶子ちゃんが緑谷くんの分の紅茶を持って近寄っていった。

 

「デクくん!ヤオモモちゃんのお茶飲まんの?」

 

「アイテム付きオールマイト……アイテム付きオールマイト僕としたことがそんなレアマイト知らないなんて不覚も不覚、グッズは?画像……ない……動画で残ってないか?」

 

「ヒッ!!?」

 

緑谷くんの鬼気迫る様子の久しぶりのブツブツに、お茶子ちゃんですら恐怖を覚えていた。

それでもちゃんと普通に接して紅茶を渡してあげているあたりが流石だと思う。

 

お茶子ちゃんの言葉や緑谷くんの思考を見る限り、オールマイトの何かの動画を探していたら紅茶の動画を誤タップで再生してしまったようだ。

それにしても緑谷くんクラスのオタクで知らないオールマイトの情報なんて、本当にレアだ。

だからと言ってあの取り乱しようはドン引きだけど。

 

お茶子ちゃんの邪魔をするつもりもないし、緑谷くんが探しているレアマイトなるものにも興味はない。

そう思った私は透ちゃんの隣に座って、百ちゃんが淹れてくれた紅茶をゆっくりと味わった。

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