ミスコンの出し物の有力な案が出た翌日。
私は体育館を借りて出し物の構成を考えていた。
体育館を借りたのはダンス隊も同じ場所で練習しつつ、私もそこでミスコンの出し物の練習をするためだ。
具体的には、ダンス隊の方の情報もある程度得つつ私の出し物を他のクラスの人の目に触れないようにして、さらには挙動の部分とかでダンス隊の指導をしている三奈ちゃんのアドバイスをもらうためである。
最初は昨日皆に見せたみたいな普通の演武をして、ある程度の所で波動を足に圧縮して跳び上がる。
手に可視化した波動を纏わせたままを意識しないといけないから、いつもよりも注意が必要だったりする。
そのまま着地して透ちゃんに見栄えを聞いてみる。
「どうだった……?」
「んー。前よりは全然いいと思うよ。だけどなんていうか……」
「もうちょっと動きが欲しい……?」
「そうそれ!」
透ちゃんが言語化しづらかったのか、言い淀んで口には出さなかったことを私が言語化してみる。
すると透ちゃんは私を指さしながらそれだ!と言わんばかりのポーズをした。
つまりもうちょっと全体の挙動に動きを増やした上での派手さが欲しいと言うことか。
とりあえず演武の部分の派手さを増すには挙動の節々で発勁とか真空波を織り交ぜればいいだろうか。
可視化した波動を纏った手で放てば、纏っている波動もある程度噴出した形に合わせて動くと思うし。
試しに纏わせた状態でそのまま発勁を使ってみる。
するとやはり噴出する波動に沿う形で可視化している部分も動いた。
これはいいかもしれない。演武で腕を突き出したところで使えば見えている波動に動きが出来て派手さが上がっている。
「これ……良い感じだと思う……」
「確かに!それ足すだけで普通の演武ももっと見栄えが良くなるね!」
透ちゃんも絶賛してくれている。
その流れのままで真空波も試してみた。
真空波をすると纏っている波動も少しだけ一緒に飛んでいくのか、可視化した波動も少しではあるけど離れたところまで飛んでいった。
これもこれで見栄え的にいいかもしれない。
後は演武のどこに発勁と真空波を入れるかかな。
その辺りも含めて透ちゃんとしばらく演武部分の構成について話し合った。
話し合いがある程度進んだあたりで、ダンス隊が休憩に入ったらしい。
三奈ちゃん含めたダンス隊の一部がこっちに近づいてきていた。
「波動ー、葉隠ー。進捗どう?」
「ん……演武に関しては……キレとかはまだしも……見栄えは良くなった……跳びはねるところは……まだなんとも……」
「空中での動きとかがねぇ。跳び上がってもそのまま降ってくるだけだと何とも言えない感じになっちゃって」
「あー。跳びはねに関しては最初にやってたのから進歩ないってことか。う~ん……」
三奈ちゃんも最初の動きは見ていてくれたのか、すぐに考え始めてくれた。
三奈ちゃんの場合はダンスが出来るのもあって色々な挙動が出来るから、アイデアはいっぱいあるみたいだ。
私がそれを出来るのかという問題が出てくるけど。
そんなことを考えていたら、今まで後ろの方でいつも通り普通な感じで見ていた尾白くんが声をかけてきた。
「演武の方、キレがって言ってたけど、もしよかったら俺が教えようか?これでも武術の心得は多少あるから、教えられると思うけど」
「……いいの……?」
「うん。俺で良ければ」
「流石尾白くん!フツーにいい人だね!」
「ふ、普通……うん、まぁ、そうね。うん……」
尾白くんは確かに尻尾っていう普通な個性で雄英でやっていけるほど卓越した武術の技量を持っている。
教えてもらえるなら凄く助かるし、嬉しいことだ。
尾白くんのそんな提案を聞いていたら、三奈ちゃんがさっきの続きを切り出してきた。
どうやら考えたのはいいけど、どこまで出来るか分からないから確認をしたい感じみたいだ。
「空中で1回転とかは難しい?跳び上がってる時に手の波動を揺らめかせながら回ったりしたら目がいくと思うけど」
「ん……落ちる直前になら……出来なくはないかもしれないけど……」
私がバク転とかバク宙とかをもとから出来たら話は変わるんだろうけど、そこまではできないのが問題だ。
三奈ちゃんの提案もその通りだとは思う。
だけど落ちながら波動の噴出で無理矢理回転して身体強化で着地してって感じになると思うから、失敗するリスクすらある方法だったりする。
「とりあえずステージ全体を使って跳び回るのはいいとしても、最後は何か凄く目を引く感じで締めたいよねぇ」
「波動の身体能力で出来そうなことかぁ」
こんな感じで結局あまり運動してこなかった私の身体能力がネックになってしまった。
体育祭の後から本格的に自主トレしているとは言っても、あんまり無茶な動きを出来るほどのものではない。
そう思っていたら、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんも近づいてきていた。
「ねぇねぇ!演習試験でやってたみたいに着地に合わせて何か技を使ってみるのは?あの時の鋭い裏拳、普通に見てるだけでも格好良かったし!手に波動が揺らめいてるならもっと見栄えも良うなる思うんやけど!」
「ん……なるほど……?」
「確かにいいかもしれないわね。でも上から降って来てる時に出来る技となると……」
空中からの落下の締めに技を組み込む。
いいアイデアかもしれない。
でも大きく跳ね上がった後に使えそうな必殺技がないのが問題だ。
今の私で出来そうな必殺技以外の技となると、裏拳、頭突き、肘とか膝による打撃に蹴り、踵落としあたりだろうか。
そこまで考えたところで、一つのアイデアが思い浮かんだ。
「……!空中からの締め……!足に波動を纏わせて……ミルコさんみたいな踵落としとか……いいかもしれない……!」
「ああ!ミルコさんの蹴り技凄いもんね!あれを真似できれば注目間違いなしだね!」
ミルコさんの蹴り技、というよりも
私が
もちろん着地失敗の危険もあるし、ある程度身体強化もかけておく必要もある。
さらに出し物の見栄え用に足に波動を纏わせることを考えると、繊細かつ多量の波動操作が必要になってだいぶ難しそうな感じだ。
でもこれが出来るようになったら必殺技としても選択肢が増えるし、頑張る価値はあると思う。
それからは技の練習になった。
跳び上がって踵落としをするという簡単な流れを何度かしてから、そこに波動の噴出を追加していって回転を足して勢いを上げていく。
途中で緑谷くんが興奮気味にミルコさんの細かい挙動とかを含めて早口でブツブツとアドバイスしてくれた。
自分がシュートスタイルで蹴り技を使っているとはいっても、その内容はすごく細かくオタク的な知識からくるアドバイスであることはすぐに分かった。
なんでミルコさんの技を何度も間近で見てる私よりも詳しい細かい分析が出来てるんだ。
緑谷くんのオタク知識は凄まじいものがあるのは知ってたけど、なぜ私が
ちょっと怖いなと思ってしまった私は悪くないと思う。
それから透ちゃんも含めた皆がダンスに戻ったりしつつ、私は技の練習を続けた。
練習自体は何度か着地に失敗しそうになったりとヒヤッとすることもあったけど、回数を重ねる毎に安定度が増していった。
ただ結構波動を使うのもあってずっとは続けていられないから、休憩や尾白くんによる演武指導を受けたりもした。
そんなこんなで3時間くらい練習を続ける頃には、ある程度の完成度で
私が着地したタイミングでまた休憩になったらしいダンス隊の皆が近づいてきた。
「瑠璃ちゃんそれもう出来てるでしょ!」
「ん……コツは掴んだと思う……後は調整次第……」
「すごいね波動さん!もう十分必殺技として成立するんじゃないかな!」
透ちゃんの声かけを皮切りに皆に声をかけられる。
特に緑谷くんが興奮気味に捲し立ててくる感じだ。やっぱりちょっと怖い。
「名前は!?必殺技の名前は付けたの!?」
「緑谷くん……ちょっと怖い……名前は……まだ付けてない……」
緑谷くんに言われてようやく名前について考え始める。
正直出し物として練習していたのもあって、名前とかは全然考えてなかった。
名前……何がいいだろうか。
ミルコさんの
色々と考えて、やっぱり名前も似せようということで波動蹴がいいんじゃないかなと思った。
波動を使った踵落としだし、意味合い的にも合いそうだ。
「ん……決めた……
「
私がそういうと皆納得してくれているようだった。
緑谷くんなんかはすぐに意図を読み取ってくれている。
私の技名までノートにメモを取っているその様子は相変わらずって感じだ。
「瑠璃ちゃん!最後のやつがそこまでできるようになったなら1回通しでやってみない?」
「ん……そうだね……やってみる……」
透ちゃんの提案を承諾して少し離れようとする。
そのタイミングで峰田くんが話しかけてきた。
「通しでやるならドレス着てやった方がいいんじゃねぇか?体操服だけで練習してても調整できねぇし」
……峰田くんの提案は間違ってない。
だけど尤もらしいことを言いつつ顔がニヤけている。
ピンク色の思考が透けて見えているせいで同意しきれない自分がいた。
百ちゃんから暫定のドレスは貰ってるから、着ることは出来るし調整のために着て練習もしておいた方がいいのも分かってはいる。
だけどこの下心が透けて見えるブドウ頭の前で着たくないというのが本音だ。
「瑠璃ちゃん、峰田ちゃんのことは私たちで見張ってるから、ドレスを着てやってみない?」
「ん……見張っててくれるなら……着替えてやってみるね……」
私が考え込んでいたら、梅雨ちゃんが見張りを提案してくれた。
それならドレスで練習するのも吝かではないか。
そう思って一度寮に戻った。
もう辺りは結構暗くなっていた。
ドレスを持ってササッと体育館近くの更衣室に移動して着替えてしまう。
当然丈の短いスパッツは穿いているし、下着もがっちりホールドしてくれる感じのを付けてブドウ頭がお望みのものは見れないようにしてある。
「おまたせ……」
「わぁ!綺麗だねぇ瑠璃ちゃん!」
「とっても似合ってるわ」
「おー!いいじゃん波動!」
ドレス姿を初めて見る女性陣が褒めてくれる。流石にちょっと照れてしまう。
時間も時間だし話すのもそこそこに通し練習の準備をする。
そのままダンス隊に見守られながら演武を始めた。
やること自体はさっき散々やっていたことと同じ。
発勁と真空波を織り交ぜた演武をやった後に、軽く跳びはねながら移動する。
そのままクライマックスとして一際高く跳び上がって、波動蹴を地面に叩き込んだ。
「わあ!」
「よかったよ波動!」
皆歓声を上げて褒めてくれる。
まだ構成とかが調整の余地があるけどなかなかだったと思う。
そう思って皆に笑顔で応じていたら、怒りを滲ませたブドウ頭が喚き出した。
「なんで下穿いてんだよぉ!!大事なチラリズムが台無しじゃねーか!!スリットも浅くてなかなか見えねーのに見えたらそれかよ!!がっかりだよ!!それならもっとスリットエグくてもいいじゃねーぅっ!!?」
三奈ちゃんが踊っていた時のスパッツに対して言っていた文句と似たようなことを喚いていたブドウ頭は、梅雨ちゃんの舌をお腹に叩き込まれて敢え無く撃沈した。
「しつこいわよ、峰田ちゃん」
「そういうの禁止だって言ってるでしょー!?」
「峰田も懲りないな……」
ブドウ頭は相変わらずだし論外なんだけど、その戯言を一部取り入れざるを得なさそうなことがさっきの通しで分かって正直気が滅入ってしまう。
スリットを深くした方がいいと言うのはある意味では間違っていなかったのだ。
踵落としで足を振り上げるのはいいんだけど、スリットがある程度の所で止まっているせいもあってチャイナドレスが足の可動域を制限してしまっていた。
これを解決するとなると、スリットを深くするのが現実的だったりするのだ。
百ちゃんに提案して調整はしてもらうつもりなんだけど、ブドウ頭がまた喚きだしそうでなんとも言えない気持ちになってしまった。
とりあえずブドウ頭がまた喚くようだったら即制裁するしかないか。うん、そうしよう。