ミスコン参加者個人の控室に着いてから、大急ぎで衣装に着替えた。
チャイナドレスはノースリーブで肩を露出しているし、スリットが深いから太ももも結構露出している。
出し物で跳びはねる関係上タイツを穿くのもやめておいたから、素足にヒールのないチャイナシューズを履いている感じになっている。
下着はスリットが深くなった関係からスパッツはやめて、チャイナドレスと色を合わせたアンスコにすることにした。
なんだったら形も普通のショーツに近いのを百ちゃんに作ってもらった。普通のアンスコを穿いたら結構ガッツリチャイナドレスの上から分かるようなラインが出てしまったのだ。
こんな感じの日によっては寒さも感じてしまうような恰好だけど、今日は天気も良くて10月なのにこの格好でも全く寒くなかった。
ドレスの色は青で、サラサラしててちょっと光沢のある生地だ。薄い金色みたいなキラキラしている糸でところどころに刺繍も施されている。
細部まで丁寧に仕上げられているドレスに、百ちゃんの気合を感じられた。
髪は特に弄っていない。もともと肩にギリギリ届かないくらいのボブカットだし、お団子を作るか悩んだ結果そのままにすることにしたのだ。
代わりに花の髪飾りを1つ付けることにしている。
「よし!できたー!」
「ありがと……透ちゃん……」
「なんとか間に合ってよかったよ!」
透ちゃんが汗を拭いながら笑顔を浮かべた。
透ちゃんも着替えやメイクを手伝ってくれていた。
透ちゃんはメイクなんてしたことがなかったのに、他の人に頼んだりしないで毎日練習してくれていたのだ。
その甲斐もあってか出来は上々だと思う。
普段あまりメイクをしない私が自分でやるよりもうまくメイク出来ていると思う。
笑顔でお礼を言って、リハーサルの時間も迫っていたからすぐに移動を開始した。
ミスコン会場後ろの大き目の控室に入ると、ちょうど入口のところで拳藤さんが自分の頬を両手でパンッて叩いて気合を入れていた。
拳藤さんの前を歩いていた柳さんがその音に驚いて振り返っている。
「なにしてんの?」
「ちょっと気合をさ」
「赤くなってんじゃん~」
柳さんが拳藤さんの頬を冷やすためなのか、自分の手を拳藤さんの手に当てた。
拳藤さんの思考を見る限り、柳さんの手は相当冷たいらしい。
「……瑠璃ちゃんはやらないでね?」
「大丈夫……やらないから……気合い入れるにしても……あれはしない……」
「ならいいんだけど……」
透ちゃんが冷や汗を流しながら私に注意してきた。
まあメイクしてくれた側としては、メイクをした後に頬を赤く腫らしたりされたら堪ったものではないだろう。
そんなことを考えていたらお姉ちゃんが控室に近づいてきていた。
お姉ちゃんも遠目に今のやり取りは見ていたみたいで、ササっと拳藤さんの方に近づいて行った。
「どうしたの?痛いの痛いのとんでけーってやってるの?」
「ねじれ先輩!?いえ、ちょっと気合を入れていただけで……」
「気合を入れるにしても……自分で頬を叩くのはびっくり……」
「波動まで見てたの!?」
きょとんと不思議そうにしたお姉ちゃんの声掛けに、拳藤さんは慌てて振り返ってようやく私と透ちゃん、お姉ちゃんが近くにいたことに気が付いたらしい。
甲矢さんも少し遅れて控室に入って来た。
そんな中、お姉ちゃんは気合と聞いてにこっと笑った。
「気合かー、私も入れよう、気合!ふんー!」
「お姉ちゃん……!溢れんばかりの気合が伝わってくるね……!」
「そうでしょー!今回は私、気合入ってるよー!」
お姉ちゃんは無邪気に拳を握って気合を入れた。
見るだけで伝わってくる溢れんばかりの気合を見て、私も気合が入ってしまう。
一方で甲矢さんは苦笑しながらお姉ちゃんに声をかけた。
「ねじれ、あんまり気合入れすぎて"個性"出しちゃダメだよ」
「わかってるってばー」
「喉渇いてない?ジャスミンティーあるよ」
「ありがと。渇いたー」
甲矢さんに差し出されたジャスミンティーをお姉ちゃんは嬉しそうに飲み始めた。
拳藤さんや奥の方にいた絢爛崎さん以外の他の参加者も、お姉ちゃんの無邪気な様子に肩の力が抜けて笑顔になっていた。
流石お姉ちゃん。周囲の緊張すら解してあげるなんて、女神のような慈悲すら持ち合わせている。
それにしても、あのジャスミンティーの匂い、前のやつと同じだな。
やっぱり茶葉の香り付けの方法を今度教えておくべきだ。
私がそう考えていると、甲矢さんはイヤリングやヘッドドレスを物色し始めた。
まだ悩んでいるらしい。
「ねじれに似合うのは……」
「……今回のお姉ちゃんのドレスなら……なしでもいいと思います……どうしても付けたいなら……こういうのがいいかと……」
これくらいならお姉ちゃんも怒らないよねと思って甲矢さんに助言した。
透ちゃんも苦笑はしているけど、助言すること自体は止めなかった。
お姉ちゃんの今回のドレスはふんわりした可愛い感じのドレスだ。肩と胸元は露出しているけど、この前みたいなセクシーな感じじゃない。
ちゃんとお姉ちゃんの妖精のような可憐さを活かせるドレスを選んでくれていた。
それにイヤリングとかヘッドドレスは正直いらない。
お姉ちゃんのもともと持つ美貌で十分すぎるほどだし。
仮につけるにしても、素朴な可愛さとか可憐さを損なわないシンプルな小さいイヤリングとかで十分だ。
そう思ってお姉ちゃんに似合いそうなのを示すと、甲矢さんがビックリしたように顔を上げた。
「瑠璃ちゃん!?……ううん、そうだよね。今回の方針からして、その方がいいよね」
「はい……派手なアクセサリーは……似合っていたとしても……今回は邪魔です……」
「うん……ありがとう!瑠璃ちゃん!よし、無しにしちゃおう!」
甲矢さんの思考はお姉ちゃんを負けさせられないって感じで結構追い詰められているのはこの前から変わらない。
焦ってもいる感じだし、多分他の出場者とかサポートしている人が言っても罠とかを疑って素直に聞き入れてはくれなかったと思う。
でも、私だけは違うことをちゃんと甲矢さんも分かってくれている。
私がいかにお姉ちゃんを大事に思っているか、お姉ちゃんの優勝を心から願っているかは、この前寮で話した時に十分伝わったんだろう。
それもあって、甲矢さんは笑顔を浮かべてお礼を言ってきた。
これでお姉ちゃんのドレスと装飾は確定したのかな。
このままお姉ちゃんが考えていた出し物をするなら優勝はまず間違いないと思う。
そのタイミングで、控室に絢爛崎さんが入って来た。
「オホホホホホホホホ!ごきげんよう、皆さん!」
入って来た絢爛崎さんの衣装は、とにかく豪華で光り輝いていた。
着物なんだけど、その表面は輝くスパンコールドレスみたいな感じになっている。
これであのちょっと離れた所に控えている、遊園地のパレードで使われるような大きな車に乗ってアピールするつもりなんだろう。
車の形状が絢爛崎さん自身の顔になっていて、とにかくインパクトが凄い。
このインパクトがあるせいで去年までお姉ちゃんは負けてしまっていたのだ。油断できない。
「今日は決戦の日、お互いに悔いの残らない戦いをしましょう!」
絢爛崎さんは控室にいる全員に向けて声をかけた。
他の参加者の人達は絢爛崎さんの圧に当てられたのか、緊張感が漂っていた。
この人は美人ではあると思うんだけど、やっぱりお姉ちゃんみたいな周囲を和ませる可憐さがない。
やはり勝つべきはお姉ちゃんだ。
絢爛崎さんは周囲を見渡すと、そのままお姉ちゃんの方に歩いて行った。
「よろしくね、ねじれさん」
「うん、がんばろうね。今年は負けないよ!」
お姉ちゃんは挨拶に応じつつも、勝利宣言とも取れることを言い放った。
流石お姉ちゃん。実力に見合った自信まで持ち合わせている。
そんなお姉ちゃんの返しに対して、絢爛崎さんは長い睫毛をピクリと揺らした。
「あらごめんあそばせ、今年も私が勝ちますわ。それより早くドレスにお着替えになったら?」
は?
お姉ちゃんはもうドレスに着替えているし、これ以上ない程可憐で可愛くて天使のような輝きを放っているのに、それが分からないというのか?
「もう着替えてるけど?」
「あらごめんあそばせ!あまりに地味なので、普段着なのかと思いましたわ!オホホホホホホホホホ!!」
「むぅーいじわる言ってー!かわいいドレスだもんっ!」
バチバチとした一触即発という空気ではあったけど、絢爛崎さんの罵倒に私はもう耐えられなかった。
甲矢さんと姉御肌の拳藤さんも止めるために動き始めようとしていたけど、私が動き始める方が早かった。
「そうだよ……!!お姉ちゃんは今……!!かわいいドレスで着飾って……!!その美貌を、可愛らしさを……!!さらに引き立てることが出来てるんだから……!!」
私が間に入って物申すと、絢爛崎さんはきょとんとした様子でこっちを見てきた。
「……ねじれさん?妹さんも出場なさるのですよね?」
「……あー、うん。そうなんだけど……瑠璃ちゃん、ありがとね。大丈夫だから、瑠璃ちゃんは自分の準備に集中してねー」
「ごめんなさいねじれ先輩!ほら瑠璃ちゃん!邪魔しちゃダメだよ!」
「ダメじゃない……!!お姉ちゃんのことを貶めるようなこと言った……!!許されない暴挙……!!透ちゃんも引っ張らないで……!!」
「うんうん、分かったから!許されないことだから!とりあえず一回離れるよ!」
透ちゃんに引きずられてお姉ちゃんから引き離されてしまった。
なんてことをしてくれるんだ。これじゃあまたお姉ちゃんが罵られてしまう。
そう思っていたら、甲矢さんがお姉ちゃんと絢爛崎さんの間に割り込んだ。
流石甲矢さん。お姉ちゃんの良さを理解しているだけある。
「絢爛崎さん、これ以上ねじれに絡むのはやめてくれる?」
甲矢さんはまるでお姉ちゃんの忠犬のように絢爛崎さんを威嚇した。
お姉ちゃんにとってその行動は意外だったのか、ちょっとびっくりしているみたいだった。
絢爛崎さん的にも甲矢さんの表情や行動に思うところがあったらしく、一切動じることなく口を開いた。
「甲矢さん、付き添いの方の余裕のなさはねじれさんに伝わるのではなくて?焦りは美しくなくてよ」
「っ……」
核心を突くような指摘に、甲矢さんは黙ってしまった。
なんてことだ。いくら核心を突かれたとはいってもこんなことで言い負かされてしまうなんて。
そのタイミングで、ミスコンの実行委員の人が入ってきた。
リハーサルの順番の説明に来たらしい。
甲矢さんは顔を顰めていたけど、その後は特に参加者間でバチバチとした空気になるようなこともなくリハーサルに移行していった。
リハーサル自体は問題なく終わって、ちょっと変な空気のまま各々の控室に戻っていった。