ミスコンも終わって、私は一度控室に戻って制服に着替えた。
通形さんとエリちゃんは、付き添いの相澤先生以外にも緑谷くんとお茶子ちゃん、梅雨ちゃんと一緒に文化祭を回るようだ。
私も誘われたんだけど、着替えをしないといけないことや私たちがまだお昼ご飯を食べていないこととかもあって、先に回り始めてもらって後で合流できたら合流しようということになった。
エリちゃんは別れる前に興奮気味にミスコンの感想を教えてくれたけど、光りながら降ってきたのがきれいだったって捲し立てるように言ってくれて流石にちょっと恥ずかしかった。
そんなこんなで私たちも着替えが済んで動けるようになった。
「よし!じゃあどこから回ろっか?とりあえず何か食べる?」
「ん……クレープは食べたいけど……そっちは後にして……何かご飯食べたい……」
「だよね!じゃあどこがいいかなぁ」
透ちゃんがパンフレットを広げてどこから回るかを考え始めた。
とりあえず食べ物系であるのは、ランチラッシュ先生の出張屋台、フランクフルト、たこ焼き、焼きそば、焼きトウモロコシ、チリコンカーン、ポップコーンとかいろんな種類がある。
甘い物系も入れるならクレープやチョコバナナ、綿あめ、お団子にお饅頭、あんみつとかもある。
飲み物は普通のジュースを売っている所からセメントスカップのセメントスジュースなるものまである。
なんだあれ、カップのコストが洒落になってないと思うんだけど。
喫茶店系の出し物をしているところまで考えだすと、人間猫カフェとかいう一体何なのか名前を聞くだけでは一切判断できないものまで存在するのだ。
まあ波動を見る限り人が猫耳猫尻尾を付けてにゃんにゃん言いながら接客してくる意味不明なお店みたいだけど。
女子だけが接客するならまだしも男子も、なんだったら凄く体格がいいゴツイ男子までやっている。
すごいお店だ。行きたくはないけど。
「間違いないのはランチラッシュ先生の所だろうけど、流石に代り映えしないよねぇ」
「お祭り用にはしてるだろうけど……いつも食べてるから……違うのにする……?」
「んー、じゃあたこ焼きとかどうかな?ご飯にもなるし美味しいし!」
「ん……そうしよっか……」
話した結果そういうことになって、まずはたこ焼きの屋台を目指すことになった。
たこ焼きの屋台がある屋台通りに行くと、そこにはなぜかたこ焼き屋の屋台の中にいる障子くんと砂藤くんの姿があった。
……さっきまで普通に回ってたと思うんだけど、どういうことなんだろうか。
「あれ、障子くんに砂藤くん?何してるの?」
「おー、葉隠に波動か。なんか店番することになっちまってよぉ」
「経営科のたこ焼きなんだが、近くに人気のたこ焼き屋があるだろう。そのせいで客足が伸びず、今、この屋台のクラスは経営戦略会議と買い出しを兼ねて留守にしている。たまたま通りかかった俺たちが留守番を任されているんだ」
「……2人とも……お人好し……」
障子くんが複製腕で指し示す先には、確かに行列が出来ているたこ焼き屋があった。
留守番を押し付けられるのも意味が分からないし、一人も残さずに他クラスの人間に留守番を丸投げして全員で経営戦略会議と買い出しをしているのがもっと意味が分からなかった。
それを押し付けられて快諾している障子くんと砂藤くんがお人好し過ぎてびっくりだ。
そんなことを考えていたら、ちょうど通りかかったらしい青山くんがチーズを食べながら会話に入って来た。
「ハイ☆波動さんに葉隠さん、障子くん、砂藤くん。聞こえちゃったけど、大変そうだね」
「青山くん!やっぱり大変そうだよね!それで、なんで2人は留守番なのにたこ焼き作ろうとしてるの?留守番って悪戯されないようにする見張りとかじゃなくて、店番まで任されてる感じ?」
青山くんの言葉に透ちゃんが同意しつつ、たこ焼きを作っている障子くんと砂藤くんに疑問を呈した。
「留守番中、自分たちで作って食っていいって言われてよ。せっかくなら作りてぇだろ。障子もたこ焼き好きだっつーし」
「あぁ。波動たちも食べるか?」
障子くんは砂藤くんの言葉に同意しつつ、焼けたたこ焼きをパックに移してソースを塗り、鰹節と青のりを塗した。
「いいの?じゃあもらおうかな!」
「私も……食べたい……お腹空いた……」
同意した私と透ちゃんに、障子くんはささっと1パックずつたこ焼きを渡してくれる。
「ノン☆僕はチーズがあるから☆でもたこ焼きだけじゃないね?甘い匂いがする」
「せっかくならスイーツ焼きも作ってみるかと思ってよ。ほら、食べるか?」
「……!そっちも……!食べたい……!」
砂藤くんが差し出したのは、チョコがかかったたこ焼きサイズのロリポップケーキだった。
普通に凄く美味しそうだ。というかこれを留守番を任されてからその場の材料でサッと作れている砂藤くんが凄い。
「波動はさっき動きまくってたから腹も減ってるか!ほら、好きなだけ食いな!」
「ん……!ありがと……!」
私が笑顔で受け取ってたこ焼きとロリポップケーキの食べ比べを始めていると、考え込み始めた砂藤くんが青山くんに声をかけた。
「チーズ……青山、そのチーズ1つくれ」
「食べたいの?しょうがないなぁ、いいよ☆」
青山くんが快くチーズを渡すと、砂藤くんはそのチーズをたこ焼き器の生地の中に入れ、焼けたものを青山くんに差し出した。
「これならどーよ」
「……じゃあいただくよ☆」
青山くんは少し驚いた様子ではあったけど、砂藤くんが渡したチーズ焼きを食べ始めた。
焼きたてだから凄く熱そうな感じで、はふはふしながら食べていた。
そこまではよかったんだけど、匂いに気が付いた周囲の生徒たちが寄ってきていた。
「チーズたこ焼き?うまそー、一つちょうだい!」
「あ、俺もー」
「私、甘いヤツにしようかな」
「いや、俺たちは留守番で……」
障子くんがその生徒たちに対して断ろうとするけど、砂藤くんが止めた。
「今焼いてる分くらいなら、食ってもらっていいんじゃねぇか?せっかく俺たちの作ったヤツ、うまそうって言ってくれてんだしよ」
砂藤くんは嬉しそうな感じでそう言った。
結局売り始めたはいいんだけど、人が集まり始めたのを見て周囲の人達も興味を惹かれたのか、どんどん新しく焼き始めることになっていた。
私と透ちゃんも食べ終わったのもあって、手伝った方がいいかと思って声をかける。
「砂藤くん……手伝おうか……?」
「ん?いや、波動たち、その感じからしてミスコンやらで昼飯食う暇もなかったんだろ?大丈夫だから文化祭回って来いよ」
「そう……?」
「おう、気にすんな!」
提案したはしたけど、結局拒否されてしまった。
そう言うことならと厚意に甘えて文化祭巡りに戻ることにした。
それで屋台を離れようとしたら、青山くんに声をかけられた。
「あ!波動さん!」
「……?どうしたの……?」
「ミスコン、凄くよかった☆輝いていたよ!」
青山くんは思考からして残って行列の整理に協力するつもりみたいだけど、わざわざそのことを伝えるために呼び止めたらしい。
「ん……ありがと……」
私がそれだけ返すと、青山くんは言いたかったことは言ったとばかりに行列の整理をし始めた。
褒められるのは嬉しいし、それはいい。青山くんからは下心とかは特に感じないし。
だけど問題は、『ほ~ん?』って感じの思考でこっちを見ている透ちゃんだ。
まあ考えているだけだから無視するか。詳しく聞かれても青山くんとの関係は説明できないことが多すぎるし、墓穴を掘るだけだと思うし。
そう思って屋台からササっと離れていった。透ちゃんも特に何も言ってくることなく普通についてきてくれた。
その後はクレープとかセメントスジュースを買ったりしながら色々と見て回った。
セメントスジュースはカップはまだしも中身は普通にココナッツジュースだった。
口当たりのいいほんのり甘い感じの美味しいジュースだ。
ジュースを飲んだりクレープをパクついたりと食べ歩きしながら回っていると、ヒーロークイズ大会をしている教室からどよめきが聞こえて来た。
……これ、緑谷くんが原因か。
エリちゃんたちもいるみたいだし、そろそろ合流するかな。
「透ちゃん……そこのクイズ大会の所に……エリちゃんたち……いるみたい……」
「あ、そうなの?じゃあ合流しちゃおっか!」
「ん……行こ……」
透ちゃんも快く応じてくれたから、そのまま教室に入った。
「第25問!洗濯ヒーロー・ウォッシュがCMで―――」
クイズを読み上げている途中なのに、ピンポン!という音が鳴って緑谷くんのボタンが光った。
「ワシャシャシャシャ!5回!」
「正解!」
緑谷くんは、目を血走らせて殺気立った様子でクイズに望んでいた。
何やってるんだ緑谷くん。どういうことだこれ。
しかも通形さんがまたエリちゃんの目を塞いでいるし。『教育上良くない』とか考えている。
まあ今の緑谷くんは正直怖いから同意しかないんだけど。
「お茶子ちゃん……これ……どういう状況……?」
「あ、瑠璃ちゃん、透ちゃん。いやぁ、この大会の景品が雄英プロヒーロー教師のサイン寄せ書きでね?」
「緑谷ちゃんにとっては愕然とするくらい豪華な景品だったみたいなのよね」
「な、なるほど。だから緑谷くんあんなに殺気立ってるんだ」
お茶子ちゃんは普通に応援しながら見ているけど、梅雨ちゃんはちょっと苦笑いしているし、私と透ちゃんは正直に言ってドン引きしている。
一体何が彼をそんなに駆り立てるのか。
「では最後の問題……オールマ―――」
ピンポン!!
緑谷くんが、凄い勢いでボタンを押した。
なんでそこでボタンを押せるのか。私は読心の情報があっても問題すら分からないんだけどどうなってるんだ緑谷くん。
異様な緊張感に包まれるなか、緑谷くんはそっと口を開いた。
「―――7分31秒」
緑谷くんの具体的過ぎる意味の分からない回答に、会場全員がきょとんとする。
だけど、MCの人の思考が驚愕に包まれている。つまり正解なのか。
なんであれだけで正解できるんだ。八百長か何かか。
「問題は、オールマイトの伝説のデビュー動画の時間は何分何秒というものでしたが……7分31秒、正解!優勝はぶっちぎりで1年A組緑谷くん!」
「やったぁ!」
緑谷くんは先ほどの殺気立った感じから一転して無邪気に大喜びしだした。
だけどこっち側はもうドン引きだ。
お茶子ちゃんですらちょっと引いている。
「なんでオールマ……でわかるんやろ」
「ほんとに、意味分かんないね」
「……私でも……問題すら分からなかったんだけど……」
「きっとオタクの神様が降りてきたのね」
私たちが困惑している横で、通形さんによる目隠しを解除されたエリちゃんが緑谷くんに尊敬のまなざしを送っていた。
緑谷くんは照れくさそうにエリちゃんに笑顔を返しているけど、素直に褒められない自分がいた。
そんなこんなで合流して、エリちゃんたちと一緒に色んな所を回った。
心霊迷宮は、中の波動を見る限り心操くんあたりの仕掛けがエリちゃんのトラウマを抉る可能性があるから入らなかったけど、とにかくいろんな場所を見て回った。
そんな中、緑谷くんの思考がリンゴアメのことで染まってきていた。
なるほど。抜け出したいけど、当たり障りなく抜け出す方法がなくて迷ってる感じか。
今の思考の感じからして、「ちょっと用事を思い出した」とか言って無理矢理抜け出すつもりっぽい。
でもそれはエリちゃんが心配するだろうし、かわいそうだろう。
……流石に助け舟を出すか。今の挙動不審な感じが利用できそうだし。
「緑谷くん……」
「っ!?な、なにかな?波動さん?」
「そんなに挙動不審になるくらい……サインが心配なら……寮に置いてきたら……?」
「え?で、でも……」
緑谷くんが言い淀む。
「私たち別の所回ってるから行って来たら?あんなに必死になるくらいのお宝なんでしょ?」
「ん……その方がいい……ね、エリちゃんも少しの間……緑谷くんいなくても……大丈夫だよね……?」
「……うん。デクさんの宝物、大事にしまってきた方がいいとおもう」
私の声掛けで何を促そうとしているのか察したらしい透ちゃんも援護射撃をしてくれた。
とどめにエリちゃんの言葉があればいいかなと思ってエリちゃんにも援護射撃してもらえるように声をかけると、期待通りの答えを返してくれた。
お茶子ちゃんたちも急な提案に不思議そうにしているけど、挙動不審な理由に納得していて拒否している感じではなかった。
「ご、ごめんね!じゃあ寮で大事に保管してくる!ありがとう!」
緑谷くんはそう言って凄い速さで走っていった。
エリちゃんも認めてくれたけど、ちょっと寂しそうにシュンとしていた。
一緒に居たいのを我慢して緑谷くんの宝物を優先してくれるなんて、やっぱりすごくいい子だ。
そんなシュンとしているエリちゃんに、相澤先生が声をかけた。
「エリちゃん、猫は好きかな。人間猫カフェに行ってみようか」
「にんげんなの?ねこなの?」
エリちゃんはその珍妙なワードに興味を示してくれた。
……あそこに行くのかぁ。今とかさっきよりも体格がいい猫(人間)がいるから正直行きたくないんだけど、エリちゃんの気を紛らわすためなら仕方ないか。
そんなこんなで人間猫カフェに着いた。
女子ならそこまで酷くないんだけど、やっぱり男子側がかわいそうなことになっている。
エリちゃんは興味深そうに見ているから、まあいいか。先生含めた他の皆はだいぶ困惑しているけど。
私はもうこれは気にしなくていいかと思って緑谷くんの波動の方に集中することにした。
緑谷くんは爆走しているところを飯田くん、轟くん、常闇くんに見られて、事情を説明して一緒に作ることにしたようだ。
それでも誰も自炊できる人がいないから心配でしかないんだけど。
緑谷くんは動画を見ながらリンゴアメを作るつもりのようだ。
……とりあえずポイントだけでもメッセージで送っておくか。
エリちゃんに気付かれないようにスマホを机の下で出して、コツを箇条書きにして送っておく。
火にかける前に水、砂糖、食紅をよく混ぜておくこと、火にかけた後は混ぜると砂糖が結晶化しちゃって白く濁ってじゃりじゃりするから飴が出来るまで混ぜないこととかだ。
動画を見てるから大丈夫だとは思うけど一応という感じだ。
メッセージの既読自体はすぐについて、短いお礼のメッセージだけ送られて来た。