文化祭巡りも終わって夕方になった。
ミスコンの結果発表も終わった。
優勝は当然、お姉ちゃんだった。
流石お姉ちゃん!全人類を魅了する美貌を持っていてミスコンもグランプリ、にも関わらずビッグスリーと称えられる実力も併せ持ち体育祭も上位入賞!しかも雄英ヒーロー科に入れる頭脳まで持っている!非の打ちどころがなさすぎるハイパーお姉ちゃんだ!
表彰式ではお姉ちゃんも凄く嬉しそうな笑顔を浮かべてステージで観客に手を振っていた。
絢爛崎さんもお姉ちゃんのことを認めて握手していたし、わだかまりもなさそうだ。
他の順位は2位絢爛崎さん、3位拳藤さん、4位が私だった。
私の順位の発表の時に『最後のがなければ……』とか考えている人がそこそこいたけどどういうことなんだろうか。謎だ。
まあそんなこと気にしていても仕方ない。
私はお姉ちゃんの優勝がただただ誇らしくて、これが私のお姉ちゃんだという満足感と共にドヤ顔をしながらステージ上でお姉ちゃんに拍手を送っていた。
そしてエリちゃんもついに帰る時間になってしまった。
先生と通形さんは2人とも病院まで付き添うらしい。
校門までのお見送りはエリちゃんが特に懐いている緑谷くんと私だけでということになった。
あんまりわちゃわちゃしてもエリちゃんが困っちゃうだろうし、この方がいいと私も思う。
「今日はありがとう!楽しかった!」
「……うん」
エリちゃんは寂しそうにシュンとしている。
でも緑谷くんのサプライズがまだあるのだ。きっと大丈夫。
「エリちゃん、顔を上げて」
緑谷くんは静かにそう声をかける。
エリちゃんがゆっくりと顔を上げると、そのタイミングで緑谷くんは後ろ手に隠していたリンゴアメをエリちゃんの顔を前に差し出した。
「サプライズ!」
「リンゴアメ!?売ってた!?俺探したよ!?」
エリちゃんは目をまん丸にしてびっくりしながらリンゴアメの棒をぎゅっと握りしめて受け取った。
通形さんも凄く驚いている。
実際通形さんは回りながらパンフレットに載ってないけど売ってるお店はないかとかくまなく探していたから猶更だろう。
「プログラム見て無いかもと思ったんで、買い出しの時にリンゴを買っといたんです!波動さんと砂藤くんが他の材料を提供してくれて!作り方も意外にカンタンで!」
「あ、じゃああの時のサインをって言って抜け出した時に!?」
「ん……あのままだったら……緑谷くん……ちょっと用事思い出したとか言って……走ってどこかに行きそうだったから……助け舟を出しました……」
「うぅっ……やっぱりそこまで分かってたから助けてくれたんだよね……ご迷惑をおかけしました……」
私たちがそんなことを話していると、相澤先生がエリちゃんを見ながら口を開いた。
「まぁ、近いうちにすぐまた会えるハズだ」
先生は教師寮へのエリちゃんの引っ越しのことを考えている。
やはり近いうちにエリちゃんは雄英に来るらしい。
ここは優しい人がいっぱいだし、エリちゃんにとってもその方がいいだろう。
そんなことを考えていたら、エリちゃんはリンゴアメをゆっくりと口に運んだ。
カリッという音を立てて一口食べると、エリちゃんは花が咲くような大きな笑顔を浮かべた。
「フフ……さらに甘い」
「また作るよ。楽しみにしてて」
そこまで話すと、相澤先生はくるりと振り返って歩き出した。
私はリンゴアメを食べているエリちゃんの目線の高さにしゃがみ込んで話しかけた。
「エリちゃん……またすぐ会えるから……待ってるね……」
エリちゃんはリンゴアメを食べながらしっかりと頷いた。
その後は特に会話もなくて、手を大きく振る通形さんと一緒にエリちゃんは病院へ帰っていった。
手を振り終わった緑谷くんが自分の手をちらっと見てからデコピンするように指を弾き出した。
どうやら少し痛むらしい。
ダンスでそこは使ってないから、あのヴィランとの戦闘で負傷したんだろうか。
しかもその指の痛みを胸の痛みと重ねている。
あのヴィランに自分を重ねて『オールマイトに出会わなかった未来の自分かもしれない』なんて考え込んでいるようだった。
正直その考え方は私がトガに対して感じた考え方と似ているから分からなくはない。
だけど、緑谷くんはあのヴィランとは違うだろう。
そう思って私は緑谷くんの右手を両手で包んで、ゆっくりとごく少量ずつ波動を譲渡し始めた。
「波動さん……?」
「確かに……その可能性はあったかもしれない……でも……緑谷くんは出会ったんだから……彼とは違う……だから……挫折した人たちの想いまで背負って……抱え込むのは間違ってる……」
「……でも」
「緑谷くんがそういう風に考えちゃうのは知ってる……でも……一人で出来ることには限度があるから……誰かに相談して……オールマイトとか……爆豪くんなら……力に関しても相談に乗れる……もちろん私も……だから抱え込まないで……私も……人のことは言えないんだけど……」
「……うん、ありがとう」
「どういたしまして……あぁ、そうだ……相談……力に関してのこと以外なら……お茶子ちゃんにしてもいいかも……」
「麗日さんに?」
「ん……きっと……誰よりも真剣に……相談に乗ってくれるよ……」
「……そっか」
緑谷くんの暴走癖のことや人助けに狂った思考の懸念もあって、いい機会だから口を挟ませてもらった。
あとはお茶子ちゃんの恋が実るように、簡単な手助けも。
そろそろ緑谷くんの活力も十分回復したかな。
そう思って私は緑谷くんの手を離した。
「はい……これでいいかな……」
「今のって、ナイトアイにやってた?」
「ん……波動の譲渡による……活力の回復……手、痛かったんでしょ……?傷は治らないけど……活力が回復して……元気になるから……多少はマシだと思う……」
「うん、ありがとう。少しだけど、動かしやすくなった」
緑谷くんは手をぎゅっと握りこみながらお礼を言ってくれた。多少でも良くなったなら良かった。
その後は深刻な話とかはせずに、他愛もない話をしながら寮に戻った。
「ただいま」
寮に入ると同時に緑谷くんがそう声を出した。
それと同時に、共有スペースで集まってワイワイしていたA組の皆が出迎えてくれた。
「デクくん、瑠璃ちゃん、エリちゃん喜んでた?」
「ん……満面の笑みで……噛り付いてた……」
「うん!すごく喜んでくれたよ!」
緑谷くんは弾けるような笑顔をお茶子ちゃんに向けて頷いた。
それを見ていたリンゴアメ作りを手伝った飯田くんや轟くんも笑顔を浮かべて緑谷くんに声をかけ始めた。
そのタイミングで、砂藤くんが共有スペースに入って来た。
「おーい、みんなできたぞ!」
砂藤くんが持つお皿には、リンゴやイチゴ、みかん、ぶどうなどの色とりどりのフルーツが使われたフルーツ飴が乗っていた。
「わぁ、どうしたの、それ!」
「実はたこ焼き屋の店番やったお礼に、フルーツもらったんだよ。緑谷がリンゴアメ作るっていうから、じゃあフルーツ飴にしたら皆食べられるかと思ってよぉ」
驚いて聞く緑谷くんに、砂藤くんが説明した。
結局繁盛したまま経営科の生徒が戻ってくるまで行われた屋台の店番のお礼にフルーツを貰ったらしい。
「「フルーツ飴で打ち上げだよー!」」
ぴょんって感じでジャンプしながら透ちゃんと三奈ちゃんが声を上げた。
そんな2人に近づく不穏な気配を感じて、私は自分の身体をブドウ頭と透ちゃんの間に滑り込ませる。
「女子にはこの俺特製バナナ一本飴をやるぜ!だが条件がある!舐めるところをじっくり観察させてもら―――ぐへっ!?」
「自分で舐めなさい」
「普通に……ドン引き……自分で舐めてて……」
ゲヘゲヘと下心を隠しもせずに近づいてきたブドウ頭に、私の拳と梅雨ちゃんの舌が突き刺さった。
もはや制裁が日常になっているせいもあり皆一切気にせずに飴を選び始めている。
私も早く選ばないと。イチゴがいいかな。
「わぁ、どれにしようかな」
「わたし、イチゴ!」
「私も……イチゴ……!」
「オレはリンゴだ、絶対に」
私たちがフルーツ飴を選んでいる横で、爆豪くんが興味なさそうにソファに座った。
部屋に帰らない辺り、爆豪くんも素直じゃないと思う。
そんな爆豪くんには、切島くんが飴を勧めていた。爆豪くんは受け取らなかったけど。
でも砂藤くんはそれも予測していたようで、トウガラシ飴なんていうゲテモノまで準備していたらしい。
「辛ぇか甘ぇか分からなくなる」ってキレていたけど、最終的には無理矢理押し付けられていた。
そんなやり取りを終えたらしい爆豪くんが、珍しく自分から緑谷くんに声をかけた。
「おいクソデク……てめぇ、あのアスレチックやったんか」
「アスレチック?」
「在学中のオールマイトの記録がまだ抜かれてないヤツだよ」
言葉足らずの爆豪くんの質問を、尾白くんが補足してくれた。
……午後に爆豪くんがキレながら何十往復もしていたあたりにあった出し物のことだろうか。
「えっ!?そんなのあったの!?オールマイトもやったアスレチックなんて!!」
「ざまぁ」
「……爆豪くんがキレながら……何十往復も……してたところのだよね……」
「あぁ、結局オールマイトの記録抜けなかったんだよ」
「クソチビもクソ髪も余計なこと言うんじゃねぇっ!!」
爆豪くんがこっちに向けてキレながら、隣にいる切島くんを激しく小突いている。
そんなに悔しかったのか。
その怒りも落ち着いたところで、爆豪くんはトウガラシ飴を緑谷くんに突きつけて言葉を続けた。
「来年の文化祭でてめぇもやれや。俺はてめぇもオールマイトの記録も抜かすからな」
「……わかった!僕も負けないようにがんばるよ!」
爆豪くんのその宣言に、緑谷くんも意気込みながら両手の拳をぎゅっと握り込んでいた。
その後は皆でオールマイトの記録に挑戦しようとか、運動場γがアスレチックの動きに効きそうとかそんな話で盛り上がった。
そんな話で盛り上がる中、百ちゃんが皆に声をかけた。
「皆さん、来年のお話も結構ですけれど、とりあえず今日の締めをなさっては?」
「そうね、せっかく作ってくれた飴、早く食べたいわ」
百ちゃんに続いた梅雨ちゃんの言葉に、皆飴を持って自然と円になった。
爆豪くんは切島くんたちが無理矢理円にねじ込んでいる。
そして円が出来たところで、飯田くんがかしこまった感じで口を開いた。
「えー、今日という文化祭のために、全員で寝る間も惜しんで準備してきました。ですが、思えば出し物を決めるのに一苦労したのが昨日のことのよう……あの時は出し物も決められず相澤先生にお叱りを受け、それから俺たちは―――」
「そっから振り返るのかよ!こういうのは手短に!」
皆が苦笑いする中、思わずというように上鳴くんがツッコんだ。
それに対して飯田くんは「俺としたことが」なんて言いながら咳ばらいをして、皆を見回してから飴を掲げた。
「それでは簡素に……みんな、お疲れさまでした!」
「「「おつかれさまー!!」」」
飯田くんの掛け声に合わせて、飴を掲げて乾杯するように声を上げた。
皆すぐに自分の飴にパクついている。
色々あって疲れたけど、飴の甘さとフルーツの酸味がそれを癒してくれるような気がした。