ビルボードチャートが発表された翌日。
今日は授業が終わった後に保健室で波動の注入の練習をしていた。
今はちょうど怪我人の治療が終わったところで、波動をゆっくりと注入していた。
リカバリーガールが見守っている所で、その男子生徒に手をかざしてゆっくりと波動を注入していく。
ゆっくりと、少しずつ、馴染ませるように。
私の波動を少しずつ男子生徒の波動に注いでいく。
いつもだったらそのまま活力の回復が終わるところだったけど、今日は違った。
注入していた男子生徒が、不思議そうな様子で急に口を開いた。
「……?あれ、今何か言いました?」
「……?何も……言ってないですけど……」
お互いにきょとんとして少しの間見つめ合う。
この人、嘘を吐いている様子はないしどういうことだろうか。
まさか幻聴?
「でも今波動さんの声で、馴染ませるように、みたいな感じの声が聞こえて……あれ?」
「私も見てたけど、この子は何も喋ってないよ」
リカバリーガールが付け加えるようにそういうと、男子生徒はさらに困惑し始めた。
なんだったら負傷している時に頭を打っている人だったから、リカバリーガールが心配して目とかいろいろな所を確認し始めている。
でも、馴染ませるように?
口には出してないけど、確かにちょうどそのタイミングで考えていたことだし、少し気になる。
「……ほんとに……聞こえたの……?」
「えっと、はい。確かに、"ゆっくりと、少しずつ、馴染ませるように"って……」
本当に私が考えたままのことが、幻聴として聞こえている?
嘘を吐いている様子は変わらずないし、この人の個性はリカバリーガールの問診で話していた感じだと出力の弱い念動力だ。
少なくとも読心や精神干渉系じゃない。
一応この人の頭の中に異常が起きてないか透視で見ておくけど、特に出血のようなことが起きている所はない。
男子生徒に聞こえないようにリカバリーガールにこのことを伝えてしまう。
「……リカバリーガール……透視で見ました……頭に出血とかの異常はないです……嘘も吐いてないですし……」
「そうかい……じゃあまあ、原因はあちら側と言うよりも、こちら側にあると考えるべきかね」
「やっぱり……そうですかね……?」
それから男子生徒は問題なしということになって、私の波動注入ももう終わっていたから帰ってもらった。
その後はさっきの現象に関してリカバリーガールと話し合いになった。
「……えっと……ゆっくりと、少しずつ、馴染ませるようにって……確かにその時考えてました……注入のコツを意識しながら……調整してたので……」
「となると、テレパスかい?今まで同じことが起きたことは?」
「1度も……ないです……」
「……試してみるか。何かを強く考えて私にテレパスできないかやってみな」
リカバリーガールはそう言ってやってみるように促してきた。
促されるのはいいんだけど、正直どうやればいいのかさっぱり分からない。
とりあえず強く考えてみればいいだろうか。
そう思って色んなことを思い浮かべてみる。
だけどいつまでたってもリカバリーガールの表情は変わらない。思考からして何も伝わってない。
そんな感じの状態を5分くらい続けた。
「……ダメそうだね」
「……はい……どうやればいいのか……さっぱり……」
「まあそうだろうね。あんたにとっても急だっただろうし。じゃあ後出来ることと言えば、条件を揃えて試してみるくらいかね」
そう言ってリカバリーガールが手を差し出してくる。
つまり波動の注入をしながら試してみろと言うことか。
リカバリーガールの手に私の手をかざして、ゆっくりと波動を注入していく。
リカバリーガールは条件を揃えるって言っていたし、さっきと同じような感じでゆっくりと、馴染ませるように注入していく。
「……確かに、微かにだけど何か聞こえる気がするね。私が年で幻聴が聞こえるようになってなければだけど」
「えっと……波動を注入すると……考えていることが……伝わっちゃうんですかね……?」
「それだったら今まで伝わってないのがおかしいよ。何か条件があるはずだ」
何か条件になりそうなことがあるだろうか。
波動の注入中に行っていることと言えば、手をかざしたり身体的な接触をする、波動を放出する、放出した波動を操作して相手の方に纏わせる、波動を馴染ませるという順序だ。
波動の注入中に勝手に考えていることが伝わってしまうのは困るし、もし意図的にテレパスが使えるならそれは絶対に役に立つ。
もう注入で行っていることを一つずつ試して、何が原因かを確定させるべきだと思う。
そのことをリカバリーガールにも伝えて、一つずつ順番に試していった。
まず手をかざす、または身体的な接触をする。
これはすぐに否定出来た。一応リカバリーガールに手をかざしたり、手を繋いだりしたけど。
まあ今まで生活しててテレパスなんて起きたことがないんだから当然でもある。
次に波動の放出。
これもすぐに否定出来た。というか、試すまでもなかった。
今まで私が波動を放出、注入していた時に真横にいたリカバリーガールに伝わってないんだからこれが原因の訳がない。
次が波動を纏わせる。
私が放出した波動を遠目に操作してリカバリーガールに纏わせたけど、特に何も起こらなかった。
多分これも違う。
となると複合的な条件でない限り、最後の波動を馴染ませるという部分が条件ということになってくる。
これはなんていうか説明が難しい。
私の放出した波動と相手の波動をゆっくり混ぜる感じで動かしているのだ。
この部分で条件になりそうなことはというと、一応2つある。
私の波動と相手の波動を混ぜているのと、相手の波動にも若干干渉していることだ。
そのどちらもの可能性もある。
まずは混ぜる方から試してみる。
私の波動を放出して、馴染ませようとしないで、無理矢理リカバリーガールの中に時間をかけて注入していく。
これでも注入はできなくもないけど、少し時間がかかるし集中しないといけなく疲れてくる。
少しの間それをやっていたけど、特にテレパスが発動することはなかった。
次は相手の波動への干渉だ。
今まで意識して試したことなんてない作業ではある。
試しにリカバリーガールが元から持っている波動を少し動かそうとする。
やっぱり他人の波動は全然動かないし使ったりなんてとてもじゃないけど無理だけど、多少干渉することくらいはできそうだ。
出来そうな範囲はやっぱり少しだけ動かして馴染ませたりすることくらいだった。
そんな感じでリカバリーガールの波動に干渉して少し動かす作業を続けていたら、リカバリーガールが口を開いた。
「……意味が分からない感じの声とも音ともつかないのが響いて、頭が痛いんだけど」
「えっ……ご、ごめんなさい……」
言われて大慌てで波動の操作をやめた。
「今何やってたんだい?」
「えっと……リカバリーガールの波動に干渉して……動かしてました……」
「……ふむ……読心について少し聞いても大丈夫かい?」
「……はい……」
リカバリーガールは少し考え込んでから私に質問を始めた。
「読心っていうのは、耳で音が聞こえるわけじゃないよね?」
「はい……波動を認識すると……頭に詰め込まれる感じです……深く見ようとするときは……波動を詳しく見て……細かく読み取ってます……」
「つまり、聞いてるんじゃなくて見てるわけだ。波動の形とか、質とかで見てるわけだね?」
「……はい……私は感覚で見てるので……おそらくですけど……そうだと思います……」
「……さっき、私の波動に干渉して動かしたって言っていたね?それは馴染ませるのとは違う動きなんだね?」
そこまで言われて、リカバリーガールが何を言おうとしているのかようやく理解できた。
つまり、馴染ませるという部分が重要。
というよりも、馴染ませる段階で、相手の波動を私の波動の形に無意識に変えていた可能性がある。
私の読心は、波動の形や質を読み取ることで読心をしている。
つまり思考や感情は波動の形として表に現れているということ。
なら、他の人の波動を私の波動の形や質に馴染むような感じで似せれば、私の考えていることと同じことが他の人の思考の方に伝わる可能性がある。
リカバリーガールも乗り気な感じで考察してくれているし、このまま少し試させてもらおう。
「……試してみても……いいですか……?」
「好きにしなさい」
リカバリーガールの返事を確認してから、波動の操作を始める。
リカバリーガールの波動を、私の波動と同じ感じになるように意識しながら、馴染ませるように動かす。
『リカバリーガール……聞こえますか……?』なんていう感じのことを常に考えながら試していく。
それを試して数分した頃、リカバリーガールが口を開いた。
「はいはい。聞こえるよ」
「ほ、ほんと……ですか……?」
「こんなことで嘘吐いてどうするんだい。それに、嘘かどうか分かるんだろう?大丈夫だよ。ただ、待ってる間頭に意味のない音が響くことがあるのが困るね。要練習って感じかね」
「はい……!練習します……!これ、凄く便利だと思うので……!」
リカバリーガールは小さく笑みを浮かべながら頷いてくれた。
その後患者を待ってる間にまだ練習をさせてもらおうかと思ったんだけど、そのくらいのタイミングで範囲内の人間の大部分の思考が不安や心配、怒り、不満といったものに変わった。
「っ!?」
「どうしたんだい?」
「……リカバリーガール……今日……もうおしまいでもいいですか……?」
「……?何かあったのかい?」
「……範囲内の人の思考が……不安……怒り……不満とかに……一斉に変わりました……思考からして……エンデヴァーが関わってるみたいです……なにか事件があったみたいで……」
私がそこまで伝えると、リカバリーガールはちょっと心配そうな表情をした後に終わりにすることを了承してくれた。
私はその答えを聞いて、すぐに寮に向かって走り出した。
轟くんの思考や皆の思考、寮に駆け込んでいる相澤先生の思考からは、不安や心配しか分からない。
轟くんが憎悪なんて完全に忘れて『見てるぞ!』なんて思考になっているくらいだ。
よほど危険な状況らしい。
私が寮に駆け込んだところで、テレビには空に輝くもう一つの太陽が映されていた。
その火の塊は、地面に凄まじい速度で落下していった。
『エンデヴァーーーーー!!!スタンディング!!立っています!!腕を!!腕を高々と突き上げて!!勝利の!!いえ!!始まりのスタンディングです!!』
炎が消えた瞬間姿を現したエンデヴァーは、右腕を高々と振り上げて立っていた。
全身ボロボロだし、腕に穴は空いているし、顔も血みどろだ。
だけど、確かに立っていた。
焼死体から見るに、多分敵は脳無。その中でも相当強いのが相手だったんだろう。
轟くんも力が抜けたようにしゃがみ込んで目を閉じている。
先生は彼の背中を撫でていた。
その後はヴィラン連合の荼毘までやってきたりして一時はどうなるかと思ったけど、ミルコさんが跳んできてエンデヴァーとホークスを狙った炎を打ち消すと、荼毘は何かの転移の個性で消えた。
ミルコさんが転移の時に出た泥みたいなものに触れた足の匂いを嗅いで悶えている。相当臭いみたいだ。
何にしてもいきなりエンデヴァーが殺されるなんていう考えられる限り最悪の事態にならなくて良かった。
それにしても先生、スリッパを片方だけ履いていないのはそれだけ焦っていたということなんだろうけど……
轟くんを心配して焦っていたんだろうけど、やっぱりドジっ子なんだろうか。