8人で所定の位置へ移動中に、拳藤さんが口を開いた。
「八百万さ!」
「はい拳藤さん」
「ミスコン、なんで出なかったの?波動に決まった経緯は聞いたけど、2人とも乗り気じゃなかったんだよね?絶対出ると思ってた」
「バンドの練習があったので……出来をよくするためにも、片手間では無理だと判断しました」
「ふーん」
百ちゃんのその返答に、拳藤さんは一応の納得は見せている。
「職場体験からCM出演しちゃって、なーんか同列に見られるんだよね。ハコ推しみたいな」
「箱おし?」
百ちゃんが拳藤さんの言っている意味を理解できず、箱を物理的に押す意味かなんて誤解している。
流石にこれじゃあ話が進まないし、ちょっと笑いそうになりながら声をかける。
「百ちゃん……違う……そういう意味じゃない……」
「あの子もこの子もまるごと好きーってこと!文化祭でも同じ人がヤオヨロズー!ケンドー!って叫んでたでしょ?」
「ああ、そういえば」
「イドラ。偶像崇拝」
私たちの補足で、百ちゃんもようやく理解できたらしい。
「八百万の方が成績も"個性"も上なのに一緒くたにされてんのが、地味に嫌だったからさ。個人的に、ちゃんと戦ってみたかったんだよね」
「誠心誠意お受けいたしましょう」
「ま、ちゃんと戦えるか分からなくなるくらいの不安要素もあるけどね」
百ちゃんに宣戦布告しながら、拳藤さんはちらりと私を流し見た。
やっぱり、拳藤さんは読心の可能性に気が付いている。
精度が分からないから、全て読まれている前提で考えているだけだ。
そしてそのことをまだ他の3人に伝えてすらいない。
今の拳藤さんのセリフに疑問符を浮かべているのがいい証拠だ。
拳藤さんの思考を深く見ても、百ちゃんに対するライバル心、戦ってみたいという期待、それに私に対する警戒とその対策くらいしか読み取れない。
思考がほぼ作戦に触れていないから、わかりづらいことこの上ない。
私対策で色々考えているのは分かる。読心ができる可能性。読心に普段している感知を合わせた場合、できるであろう感知内容。
そしてその場合に読み取れない可能性が高い内容。
それを考えたうえでどう伝達すれば私への作戦漏洩が最小限になるか。
拳藤さんは、スタート地点についてから一気に畳みかけるように作戦を伝えるつもりみたいだ。
確かにそれをされると音を感知できない関係上、思考からの推察しかできない私だと作戦全てを把握するのは困難だ。
ほぼ最適解と言っても過言ではなかった。
そうなると、読めた内容にもブラフが混ざってくる可能性を一考しないといけない。
……作戦を確認しようとしている感じを印象付けて、ちょっと揺さぶりをかけておこうかな。
そうしたらテレパスによる奇襲がもっと生きるだろうし。
私は拳藤さんの瞳をじっと見ながら話しかけた。
「……不安要素……私のことだよね……速攻が最善手だけど……作戦なしでするだけなら……私が丸裸にできる……さっき作戦会議……してなかったみたいだし……」
「さあ、どうだろうね。波動の個性が不安要素であるのは間違いないけど」
「ん……そっか……対策……楽しみにしてるね……」
「こっちこそ。この前の悪意がなんとかって話とか、どの程度のものなのか楽しみにしてるよ」
拳藤さんはにっこり笑ってから分かれ道で曲がっていった。
ここで別れて各々のスタート地点に向かうことになる。
なにやら常闇くんも黒色くんに何か言われていたようだけど、2人ともすごく迂遠な言い回しをしていて分かりづらい。
透ちゃんが会話に交ざらずに「わぁー」なんて言うだけで眺めているのも納得の意味不明具合だった。
自分たちのスタート地点について、私はさっきの拳藤さんの様子や今畳みかけるように説明している拳藤さんから読める内容を伝えていく。
「拳藤さん……やっぱり読心の可能性に気付いてて……全部読まれる前提で動いてる……今も……私が音を読めないのを分かったうえで……読心されても正確に読み取りにくいように……捲し立てるみたいに作戦を伝えてる……」
「やはりそうですか。ならば、私たちはブラフがある前提で動きましょう。波動さんも、情報はブラフだと分かってもそれを含めて伝えていただけると助かりますわ」
「ん……当然……」
百ちゃんもすぐに理解を示してくれる。
やっぱり百ちゃんは頭の回転が速いからこういう情報伝達がすんなりいって助かる。
「とりあえず……あっちの作戦は……初手黒色くんの突撃で場所を特定……その後は速攻からの分断……吹出くんのオノマトペで……分断してくると思う……それで……ブレーンの百ちゃんと……邪魔な私の各個撃破を狙ってる……」
「吹出くんかー。あのオノマトペ、分からないことが多いもんね」
「深淵の理解者が初手か」
「常闇くんそれ好きだねぇ」
「それとは?」
百ちゃんが考え込み始める中、透ちゃんと常闇くんが軽口を叩き始めた。
まあ緊張してないのはいいことだ。
百ちゃんが小森さん対策を考え始めた頃に、アナウンスが響いた。
『それではガンバレ拳藤チーム!START!!』
とりあえず歩いて移動を開始しながら感知を続ける。
あちら側は黒色くんが動き出している。
近づいてきたタイミングで透ちゃんに声をかければいいか。
そんな中、百ちゃんが皆に声をかけてきた。
「皆さん、小森さんの対策をしておきましょう。こちらを全身にかけてください」
「これは?」
百ちゃんがスプレー状の何かを各々に渡してくる。
それに対して常闇くんが疑問を呈した。
「滅菌スプレーです。中身はエタノールなどで人体に害はありません。小森さんのキノコが広範囲で展開できるのはいいとして、人にも生やすことができる可能性を考えての対策です」
「なるほどな」
「ん……大事だね……」
「ありがとー!」
そのまま皆でスプレーを全身に吹きかける。
それが終わりそうになった頃、黒色くんが高速で近づいてきていた。
「透ちゃん……!!フラッシュ……!!」
「おおっと!?集光屈折ハイチーズ!!」
私が叫ぶと、透ちゃんはすぐに反応してくれた。
凄まじい光が周囲を覆うと、影が消えて黒色くんが飛び出してきた。
「ケヒヒ!」
黒色くんはそのまま物陰の影になっているところに入っていった。
私は追撃するように黒色くんがいるところに波動弾を放つ。
でも私がいることで場所が捕捉されることが分かっていた黒色くんは、すぐに引いていった。
あらかじめ読んでいた通り、あれはこちらの場所の確認でしかなかったってことだろう。
透ちゃんがフラッシュで光れば遠くからでもある程度の場所は分かるだろうし。
それで場所を察したらしい小森さんがこちらに向かって歩き始め、拳藤さんと黒色くんも散り散りになって動き始めた。
小森さんが移動するのに合わせて、周囲を徐々にキノコが覆い始める。
B組はもちろん、私たちの身体にもキノコは生えてこないけど、地面や壁をキノコが埋め尽くしていった。
「菌茸類が大地を埋め尽くしていく!」
常闇くんが異常なその光景に率直な感想を述べている。
透ちゃんも急激に成長していって周囲を埋め尽くすキノコに、ゾゾっとした寒気を感じているようだった。
百ちゃんの対策がなかったらまずかったかもしれない。
そんな中でも、私は小森さんの思考を読み続けていた。
キノコで覆ってきたなら何か目的があるはず。そう思っての行動だった。
『クロハナビラタケくん、キシメジちゃん、エノキタケにヒトヨタケ、ソライロタケにカエンタケにテングタケ』
彼女の思考は、キノコの名前をつらつらと列挙していた。
さっきまでこんな思考はしていなかった。
つまり、生やしたキノコの名前を列挙している?
正直知らないキノコばっかりで全然参考にならないけど、一つだけやばいキノコは分かる。
「百ちゃん……ブラフかもしれない……だけど……小森さんがキノコを散布し始めてから……キノコの名前をつらつら考え出した……その中に……カエンタケがあった……」
「カエンタケですか!?」
「カエンタケか……本当にどこかに生やしているとしたらまずいな」
「なになに?どういうこと?」
百ちゃんと常闇くんはすぐに納得してくれたけど、透ちゃんが困惑した様子で聞いてくる。
そんな透ちゃんに対して、百ちゃんが説明を始めた。
「カエンタケ。炎のような形をしている殺人キノコとすら言われる猛毒を持つキノコです。その毒性は非常に強く、出てきた汁に触れるだけで皮膚に炎症を引き起こすほどだったはず……」
「こんなの生やしたらB組も動きづらい……ブラフだとは思うんだけど……用心しないわけにもいかない……」
「瑠璃ちゃんいつも嘘は分かるって言ってたよね?それでわかったりしない?」
透ちゃんが泣きそうな顔で聞いてくる。
透ちゃんの個性を生かそうとするとブーツを脱がないといけないし、不安がぬぐえないんだろう。
ボディスーツがあるとは言っても地面を歩いていたら破れたりする可能性はあるわけだし。
でも、聞いてくれたところで悪いけど今回のケースだと嘘かどうかは判断できない。
「ごめん……私が嘘かどうか判断してるの……悪意があるかと……言動と思考の乖離とかからだから……特に意味もなく思考で列挙するだけだと……嘘かどうかは分からない……」
「万能ではないということか」
「……波動さん、小森さんが思い浮かべていたキノコを教えていただいてもよろしいですか?」
「ん……分かった……」
足元に注意して慎重に移動しながら百ちゃんにさっき小森さんが列挙していたキノコを教えていく。
百ちゃんはさらに深刻な様子で考え込み始めた。
「……その中に、毒キノコが多数列挙されています。そこまで多数のキノコを出せるとなると……」
「なんだ?カエンタケ以外の懸念があるのか?」
「……はい。申し訳ありませんがキノコの名前までは覚えていません。しかしキノコの中には、菌糸を吸い込むことで喘息のような症状を引き起こすものがあったはずです」
百ちゃんの指摘にその可能性に関して考えを巡らせつつB組の方に注意を払うと、拳藤さんと黒色くんが違う方向から攻めてきていた。
「皆……!拳藤さんと黒色くんが近くまで来てる……!正面を0として拳藤さんは2時方向……!黒色くんは5時方向……!」
素早く近づいてくる2人のことを皆に伝える。
皆もその方向に注意を向けてくれた。
私たちの場合全員入り混じった乱戦にされる方が困る。
私も攻撃されたりしている間に指示を出すことが難しいし、乱戦にされると単純に勝率が下がるから。
だからこそあちらの作戦の分断して私と百ちゃんを優先して各個撃破という作戦にはわざとハマってしまうつもりだったのだ。
分断しやすいように固まりすぎないように警戒もしていて、実際吹出くんも良い感じに分断できるように企んでいる。
少なくとも分断してから4対1になったりしないようには動いているし、今の拳藤さんたちと吹出くんの位置関係的にB組全員が一塊になって潰しにくるということはないと思う。
拳藤さんたちは最低限の作戦だけ決めて、あとはその場の指示と各々の裁量に任せる感じっぽい。
今拳藤さんが考えていることとか意味が分からないし。
小森さんの巨大キノコで押し潰すとか、拳藤さん自身が超巨大化した手で潰すとか、どう考えてもブラフとしか思えない内容を思い浮かべている。
参考にならないにも程がある。黒色くんが吹出くんを気にしてるから、吹出くんで分断は変わらないだろうけど。
足元のキノコに注意しつつ、拳藤さんと黒色くんが潜む方向に身構えるように動く。
黒色くんが影に潜みながら近づいてきたところで、吹出くんが動き出していた。
来る。特大のオノマトペで分断する気だ。
「吹出くんが動き出した……!!来るよ!!」
「っ!!皆さん落ち着いて行動しましょう!!」
「うん!」
「ああ!」
奥の方から吹出くんの声が聞こえてきた。
「ゴンッ!!ガンッ!!ドガッ!!あーー~スドッズンッ!!!」
次の瞬間、特大のオノマトペが周囲のものを破壊しながら凄まじい勢いで吹き飛んできた。
「ダークシャドウ!!外套を纏え!!」
「アイヨ!」
「透ちゃん……!!」
常闇くんが百ちゃんを両脇を掴んで飛行を開始して、私が波動の噴出で吹き飛びながら透ちゃんを掴んでオノマトペの直撃コースから外れるように移動した。
とりあえずここまでは作戦通り。この後はこの分断された状況を逆手にとって行動しないといけない。
それにしても、常闇くんは作戦通りなのに何をそんなに慌てているんだろうか。
百ちゃんのスタイルがいいから脇を掴んで飛ぶのにドギマギするのは分かるけど、もっと冷静になってほしい。