全ての試合が終わって、講評の時間になった。
まずは第5試合の講評から始まったけど、相澤先生は最初に緑谷くんに声をかけた。
「えー、とりあえず緑谷。なんなんだおまえ」
「凄く黒いのが顕現していたが」
「暴走していたが、技名は?」
先生の指摘に、常闇くんと黒色くんがソワソワしながら声を上げた。
仲いいなこの2人。
その2人の声に続くように皆がざわざわと話し出した。
緑谷くんの個性に対する周囲の認識は超パワー。こんな反応になるのは当然だった。
「新技にしちゃ……超パワーから逸脱してねぇか?」
「どういう原理?」
「……私の個性も……根本の波動の感知からは逸脱したこと……たくさんできる……そんな感じ……?」
「ああ、確かに瑠璃ちゃんもそうだね。そんな感じなのかな」
少しでも皆の気を逸らすために、私の波動の感知という個性からは逸脱した技の数々を例に出して、根本から逸脱しているという部分に納得できそうな理由を付け足す。
まあ私の感知した波動を操作するという行動からくる逸脱とは全然違うんだけど、他の人からしたらそこまでは分からない。
実際透ちゃんも少し納得しかけてるし。
「僕にも……まだはっきり分からないです。力が溢れて、抑えられなかった。今まで信じてたものが突然牙を剥いたみたいで、僕自身すごく怖かった。でも麗日さんと心操くんが止めてくれたおかげで、そうじゃないってすぐに気付くことができました。心操くんが洗脳で意識を奪ってくれなかったら、どうなるか分からなかった。心操くん"ブラフかよ"って言ってたけど……本当に訳分からない状態だったんだ。二人とも、ありがとう!」
緑谷くんは話せる範囲のことを嘘なく、素直に話していた。
うん、これくらいなら話しても何も問題はない。むしろ自分にも分からないと予防線を張ることでこれ以上の質問を封じていた。
「ほんとね!緑谷くんの暴走に対して、心操くんはもちろん麗日さんの迅速な判断、素晴らしかったわ!友を落ち着かせるために身体を張って止めに出る!そうよそういうのでいいの!好きよ!」
緑谷くんの言葉に同調するように、ミッドナイト先生が小躍りしながらお茶子ちゃんを褒めた。
あの行動は本当にすごい。一切の躊躇が無かったのもさらにすごい。
これが恋心のなせる技なのかと驚いてしまったくらいだし。
そして当然そんな場面を皆に見せつけて、三奈ちゃんや透ちゃんが黙っているはずもなかった。
「麗日、びゅーんってすぐ飛んでったもんねぇ。早かったもんねぇ。ガッと抱きついたもんねぇ!」
「考えなしに飛び出しちゃったので、もうちょい冷静にならんといかんでした……でも……何も出来なくて後悔するよりは、よかったかな」
三奈ちゃんの指摘に、お茶子ちゃんは顔を真っ赤にして呟くように返事をした。
三奈ちゃんはそんなお茶子ちゃんを弄るように、さらに詰め寄っていた。
透ちゃんも三奈ちゃんのように詰め寄って根掘り葉掘り聞きたいという思考がひしひしと伝わってくる。
一応講評中だから今詰め寄ったりということはしていないけど、お茶子ちゃん今日の夜は大変なんじゃないかな。
「……俺は別に緑谷のためじゃないです。麗日に指示されて動いただけで、ていうか……柳さんたちも黒いのに襲われてるのが見えた。あれが収まんなかったら、どのみちこっちの敗色濃厚だった。俺は緑谷と戦って勝ちたかったから止めました。偶々そうなっただけで、俺の心は自分のことだけで精一杯でした」
心操くんなりに思ったことを素直に言っていたみたいだけど、先生的にはそれに思うところがあったらしい。
ツカツカと歩み寄って心操くんが首に巻いていた捕縛布で、心操くんの首を絞めた。
「暴力だーーー!!PTA!PTA!!」
その瞬間に皆が体罰に対して抗議するようにPTAコールをし始めた。
まあ体罰は良くないよね。体罰は。
実際今の感じなら口で言えばどうとでもなる内容だし。
「ここにいる皆、誰かを救えるヒーローになる為の訓練を日々積んでるんだ。いきなりそこまで到達したら、それこそオールマイト級の天才だ。人の為に、その思いばかり先行しても人は救えない。自分一人でどうにかする力が無ければ他人なんて守れない。その点で言えばおまえの動きは、十分及第点だった」
「心操くん、最後のアレ、乱戦に誘って自分の得意な戦いに戻そうとしてたよね!パイプ落下での足止めもめちゃ速かったし、移動時の捕縛布の使い方なんか相澤先生だった」
緑谷くんが相澤先生の言葉に続いて、さっきの試合で思ったことを伝え始めた。
わたわたしてるし、いつものオタク的なブツブツもちょっと混ざってる感じではあったけど、今回は暴走はしてない。
言ってることも特に間違っていることもなかった。
少しの間緑谷くんが思ったことをつらつらと言っていき、「誰かの為の強さでいうなら、僕の方がダメダメだった」と締めくくった。
心操くんはその言葉を受けて、きょとんとしながらも首の捕縛布をぎゅっと握りしめていた。
そんな感じで話が一段落したことを確認したブラドキング先生は、編入試験の大体の結果を伝えるために口を開いた。
「これから改めて審査に入るが、おそらく……いや、十中八九!心操は2年からヒーロー科に入ってくる。おまえら中途に張り合われてんじゃないぞ」
「おおーーー!!どっちーーー!!?Aーーー!?Bーーー!?」
実質的な編入試験の合格宣言に、皆もどっちのクラスになるのかなんて大騒ぎし始めた。
相澤先生の弟子的なところがあるし、A組になりそうな気もするけど。
「その辺はおいおいだ。まだ講評続いてるぞ」
「てゆーか先生ー。峰田最低だったんで断罪してくださーい」
「はぁ!?オイラは庄田たちを身体張って翻弄したんだが!?」
「……わざと三奈ちゃんに当たりに行った癖に……何言ってるの……?」
このブドウ頭は何素知らぬ振りで誤魔化そうとしているのか。
その前の行動が庇うというものでも、その後にする行動がこれでは流石に最低と言わざるを得ない。
そんなブドウ頭の裏で、今度は物間くんが騒ぎだした。
「フフ……今回は確かに僕らB組にクロ星がついた。しかし!!内容に於いては決して負けてはいなかった!緑谷くんの"個性"がスカだと分かればそれに応じた策を練れる!!つまりだよ!?今からもう一回やれば次は分からない!!」
「やんねぇよ。もう今日の授業は終わりだ」
「ああ、そうだ。話のついでで悪いが、物間。ちょっと明日エリちゃんのとこに来い。やってほしいことがある」
相澤先生が騒いでいる物間くんにそう切り出した。
どうやらエリちゃんの個性を物間くんにコピーさせるつもりらしい。
物間くんにコピーさせてエリちゃんの個性のコツを掴んでもらうことで、物間くんが助言できるようになるんじゃないかという期待を込めた呼び出しのようだった。
確かに物間くんの個性は私の個性もほぼ十全にコピー出来てコツも掴めていたし、スカでさえなければきっといい助言者になってくれると思う。
……エリちゃんに物間くんが悪影響を与える可能性があるのがなんとも言えないけど。
流石にそこは相澤先生も教育者だし、対策を考えてくれることを期待するしかない。
そんな感じで講評も終わった。
初めてのクラス対抗戦も終わりを迎え、解散ということになった。
解散になったことだし、透ちゃんと更衣室に行って着替えようと思っていると、物間くんに声をかけられた。
「波動、少しいいかい」
「……ん……大丈夫……ごめん透ちゃん……ちょっと待ってて……」
「……?うん、じゃあ待ってるね」
物間くんが珍しく私に声をかけてきたのもあって、透ちゃんが不思議そうにしている。
何か言ってきたりもしないで待っててくれるって言ってくれているからいいんだけど、内心が『珍しいなぁ』って感じになってる。
物間くんが話そうとしている内容的に、透ちゃんに伝えられないような内容ではないから後で何を言われたかを伝えればいいか。
そのまま物間くんに続いて少し離れた位置に移動する。
「一応の確認だ。今日の感じだと、読心に関してはもう隠さないでいいってことかい?」
「ん……A組の皆には……だいぶ前に話した……無差別に話されるのは困るけど……物間くんが大丈夫と思った人に話す程度なら……大丈夫……」
物間くんは今回の対抗戦で、拳藤さんたちに話すこともできたのに話さないでいてくれた。
拳藤さんたちにどういう感情を向けられたら苦痛かとか、どこまで読めるのかとか、そういう情報を話すことができたのにも関わらずだ。
青山くんの件で知ってから、一切他人に情報を漏らさないでいてくれている。
他人の情報を濫りに話さないというのは、詳細や弱点を知ることができてしまうコピーなんていう個性を持った物間くんなりの矜持なんだろう。
そんな物間くんなら、別に口留めしなくても私を貶めるために情報を利用したりはしないだろう。
わざわざこっちからお願いしなくても、読心でできることの範囲を話すことはあっても弱点を話したりすることはないと思う。
「ありがとね……今までちゃんと黙っててくれて……A組の皆……私の読心も……全く気にしないで……受け入れてくれた……だからもう大丈夫……受け入れてくれる人がいる……そう思ったら……他の人にどう思われようと……大丈夫だって思えたから……」
「そうかい……ま、君の為に黙ってたわけじゃないけどね」
「それでも……寮生活が始まって……視察って言って覗きに来た時も……皆がどこまで知ってるのか確認して……煙に巻いてくれてた……その後も……それ以上のことは誰にも言わなかった……物間くんの優しさは……ちゃんと伝わってたよ……」
そこまで言うと、物間くんはちょっと悔しそうな顔をしながら顔を赤くした。
優しさかどうかは別として、図星だったみたいだ。
でもあの気の遣い方は、私は優しいと思った。
思考もいつも通りちょっとねじ曲がった感じではあったけど、嫌な感じは一切なかった。ねじ曲がっているせいでちょっともったいないなとは思ったけど。
そんなことを考えていたら、物間くんはクルリと反転して恥ずかしさを誤魔化すように声を張り上げた。
「なら!これからは君の個性の情報も、ある程度はB組で共有させてもらうよ!確かに君の個性は厄介だ!しかし!!今回の僕らの負けは初見殺しと不正確な情報に起因する!!だからこそ!!正確な情報を以て対策を立てて、今度こそ僕らB組が勝利するのさ!!精々首を洗って待ってるんだね!!!アハハハハハ!!!」
「ん……黙ってくれてたお礼……私も全力で迎え撃つから……楽しみにしてる……」
私が声をかけても、物間くんは高笑いを続けたまま去っていった。
相変わらずねじ曲がってるけど、あんまり嫌な感じがしないのが不思議な感じだ。
まあこの煽りがないと、風邪でも引いたのかと心配してしまいそうな気がするからいいんだけど。
話も終わったし、透ちゃんの所に戻る。
話の内容が気になっていたのか、透ちゃんは私が合流するなり内容に関して聞いてきた。
「話ってなんだったの?物間くんの高笑いがここまで聞こえてきたけど。またいつもの感じで煽られた?」
「ん……煽るような言い方はされたけど……話は……読心に関してだったよ……」
「読心?なんで?」
「前……物間くんに……個性のコピーされたこと……あったから……物間くん……読心のこと知ってたんだよ……それを……私が隠しているのを知って……ずっと黙ってくれてたの……今日も……拳藤さんたちに言ったりもできたのに……黙ってくれてた……さっきの話は……もう隠さなくていいのかって確認……」
私が物間くんの優しさを透ちゃんに教えてあげると、透ちゃんは意外そうな顔で固まった。
「い、意外だね。いつもA組のこと煽ってるのに」
「物間くん……煽るせいで分かりづらいけど……優しいよ……?ちゃんとヒーロー志望の人の……考え方してる……他の人の個性の弱点とかだって……話したりしてないでしょ……?」
「確かに……言われてみればそうだけど、なんというか納得しづらい……」
「……まぁ……歪んでるのは事実だから……そこは仕方ない……」
透ちゃんは否定はしないけど素直に頷くのも難しいみたいだった。
やっぱりあの煽り、色んな所で損してるよね。根はいい人なのに本当に勿体ない。
透ちゃんとそんな感じの話をして笑い合いながら、更衣室に向かった。