12月初旬の日曜日。
仮免補講に参加している2人も今日が最終日だ。
そんな大事な日ではあったけど、今日は朝から雪が降っていた。
寮に残っている皆のテンションはうなぎ上りになっていた。
「雪だーーー!!」
「心頭滅却乾布で摩擦!!」
「布濡れますわよ」
「転ばないようにな」
「積雪情報みよーぜ。好きなんだよねー俺ー」
切島くん、峰田くん、三奈ちゃんが嬉しそうに外に駆け出していく。
そんな子供のような数人に、百ちゃんと飯田くんが注意を促していた。
なんていうか、この2人お父さんとお母さんみたいだ。お似合いとかそういう話ではなく、気質的に。
それにしても子供みたいに駆け出したり遊びに行ったりするのはいいんだけど、ドアはすぐ閉めてほしい。
梅雨ちゃんが丸まって動かなくなってしまった。
冬眠のような状態になっているみたいだ。やっぱり蛙的に寒さはダメらしい。
そんな梅雨ちゃんの様子を見て、お茶子ちゃんが即座にドアの近くにいる人たちに声をかけた。
「ドア閉めてー!梅雨ちゃん動かんくなった!」
「わー!?ごめん梅雨ちゃん!」
指摘を受けて響香ちゃんがすぐにドアを閉めてくれた。
それでも梅雨ちゃんは眠ったまま動かない。
一度冷えてしまった室温はなかなか戻らないから仕方ないことではあるんだけど。
私と透ちゃんはいつ梅雨ちゃんが再起動するのか観察しながら、つんつん突っついていた。
「やっぱりすぐには起きないねー」
「ん……熟睡……」
梅雨ちゃんはまだピクリとも動かないで、完全に眠ってしまっていた。
やっぱり暖房をある程度の温度で維持しておかないとダメだな。
後は起きるのを待つしかなさそうだ。
「今頃テスト中かねぇ。大丈夫かなぁ」
「大丈夫でしょ!爆豪くんも最近感じいいし!悪いけど!」
「ケーキでも作って待ってようか」
「……じゃあ……私料理作ろうか……?2人の好きなものなら……作れると思うけど……」
「やった!」
「じゃあ2人が帰ってきたらおめでとうパーティーだね!」
そんな感じで今日の夜は仮免取得おめでとうパーティーをすることになった。
料理何作ろうかな。
そんなことを考えていたら、上鳴くんがテレビのチャンネルを変えながらつぶやいた。
「俺があの2人に唯一勝ってたのが、仮免持ちっつーとこだけだったのになー」
「上鳴くん……みみっちぃ……」
「そんなチンケなこと言うなよ」
「上鳴チン気!」
「上鳴、お前だけの良さは多々あろうに」
「んだそりゃ!障子はありがとう」
上鳴くんがちょっとあれな方向でボヤいていた。
そんなところでだけ勝っててもなんの価値もないだろうに。それに人当たりとかは普通に爆豪くんと轟くんに勝ってると思う。
別に仮免だけってわけじゃない。
峰田くんも仮免試験の時にそれで轟くんを煽ろうとしていたけど、あの2人よりもリードしていることがそんなに重要なことなのだろうか。
他にやることが何かあるわけでもなく、そんな感じで軽口を叩き合いながらのんびりした朝を過ごした。
その後、おめでとうパーティーをどうするかを話し合いで決めた。
話し合った結果、提案通り砂藤くんがケーキを焼いて、私と梅雨ちゃん、お茶子ちゃん主体で料理を作ることになった。
今日は時間ギリギリでもないし、あくまで主体的にやるってだけで他の人にも協力してもらう予定だ。
料理は提案通り、爆豪くんと轟くんの好きなものを作る予定。
轟くんの好物の蕎麦、爆豪くんの好物の辛い物。
ちぐはぐになってしまう気がしないでもないけど、白米も準備するつもりだしきっと大丈夫だろう。
辛い物の方は四川風の中華料理中心で作るつもりだ。
「後で料理の材料買いに行かないと……梅雨ちゃんは厳しいだろうから……透ちゃんも一緒に来てもらってもいい……?」
「もちろんいいよ!何時くらいに行く?」
「ん……確か……帰ってくるのが6時くらいだから……10時くらいに出て……午前は買い物にして……午後から作り始めよっか……」
「分かった!任せてよ!」
明らかに材料が不足しているだろうから、透ちゃんと一緒に買い物に行くことにした。
ただやはりクラス全員分の量となると不安もあったから、他にも誰かに来てもらおうと思っていたら、お茶子ちゃんや緑谷くんたち男子数人もついてきてくれることになった。
男子も来てくれるのは心強い。
なんだったら全員ついてきそうな勢いで立候補があったけど、流石に大人数になりすぎてしまうから必要そうな人数に絞らせてもらった。
買い物も終わって寮に戻ってきた。
結局、作るものを相談しながら買ったのは、四川麻婆豆腐と雲白肉、四川鍋といった感じの辛い料理と、薬味とかを含めた蕎麦の材料だ。
香辛料とかも買ったから、袋の中がだいぶ赤い感じになっている。
一応麻婆豆腐は辛いのがダメな人用に、四川風じゃないあまり辛くないのも準備しようと思っている。
最悪蕎麦もあるし、大丈夫だとは思うけど。
料理自体はそんなに苦労もなく作れた。
梅雨ちゃんが鍋の方を作ってくれたから、私が麻婆豆腐、お茶子ちゃんが蕎麦、透ちゃんとか他の手伝ってくれた子たちに教えながら雲白肉を作ってもらった。
材料を切るのは飾り付けとかをしている百ちゃんと男子数人以外は大体手伝ってくれたと思う。
料理はなかなかの出来だ。私が作ったもの以外も味見したけど、ちゃんとおいしかった。
料理はそんな感じで普通にいい出来ってだけなんだけど、ケーキの方が凄かった。
砂藤くん、気合入れすぎじゃないだろうか。
ウェディングケーキかというくらい大きい立派な4段ケーキが出来上がっていた。
おいしそうではあるし、20人で食べることを考えれば妥当と言えば妥当なのかもしれない。
ただ見た目のインパクトが凄い。あと切るのが大変そうだ。
これは普通の1段のケーキを並べられるよりもインパクトがありそうだった。
とにもかくにも準備は終わった。
後は2人が帰ってくるのを待つのみ。
今の時間は大体18時前だから、そんなに時間もかからずに帰ってくるだろう。
そう思って部屋を真っ暗にして待っていたんだけど、2人はなかなか帰ってこなかった。
何かあったんだろうか。
流石におかしいということで電気をつけて皆で心配していると、19時くらいになってようやく2人が範囲内に入ってきた。
「皆……2人とも……今雄英に入ってきた……電気消して待機しよ……」
「ほんと?」
「よかった。普通に帰ってきたんだね」
「遅くなってしまったようですが、大丈夫でしょうか。仮免をもらえていないなんてことになっていなければいいのですが」
「それは大丈夫……2人とも……負の感情は……感じない……遅くなったのも……帰り道にヴィランに遭遇したせいみたい……怪我もないし……精一杯お祝いしよ……」
「なら安心だね!」
「帰り道にヴィランってマジか……」
皆思うところは色々あるようだけど、予定通り電気を消して待機し始めた。
こういうサプライズの為に待機する時間っていうのも意外と楽しいかもしれない。
そして待機を始めて10分くらいたった頃、寮の扉が静かに開いた。
「なんで真っ暗なんだ?」
「全員出かけてんのか?」
2人とも訝しみながら周囲を見渡して困惑している。
そんな2人を尻目に、お茶子ちゃんが大きく息を吸って元気いっぱいに声を張り上げた。
「仮免取得……!」
お茶子ちゃんの声に合わせて、ケーキを持って待機していた砂藤くんが電気をつけてくれる。
その瞬間、一斉に持っていたクラッカーの紐を引いた。
パァン!と大きな音が部屋に響いて2人の方にテープや紙吹雪が飛んでいく。
「「「おめでとうー!!!」」」
寮に響く祝福の声に、2人ともきょとんとしていた。
いつもキレている爆豪くんすらもきょとんとしてこっちを凝視している。
この2人は基本的に反応が薄いからここはまあこんなものだろう。
そんな2人に、砂藤くんが凄い勢いでケーキを持って詰め寄って行った。
「ケーキ食え!」
「こんなに食えるかぁ!!」
爆豪くんがキレてる感じで文句を言っているけど、内心は別に嫌がってない。
読心した結果もそうだけど、今ケーキを渡されて食べ始めてるんだから読心するまでもなく分かる。
それにしても砂藤くん、トウガラシ飴の時もそうだったけど爆豪くんを一切怖がっていない。
なかなかのメンタルだ。
「轟さん」
「おめでとう!」
「ああ」
「やったな爆豪!」
「かっちゃん!これで一緒にヒーロー活動できるね!」
「なに上から目線で言ってんだこのクソナードがぁ!!!」
「そういうつもりじゃあ!?」
「俺に口答えするんじゃねぇ!!!」
轟くんは祝福の声に素直に応じ、爆豪くんはいつもの爆ギレを見せつけていた。
私は早々にキッチンに戻って麻婆豆腐とお鍋を温め直してしまう。
ついてきてくれた透ちゃん梅雨ちゃん、お茶子ちゃんと一緒に、雲白肉や蕎麦も準備してしまう。
爆豪くんが食べていたケーキがちょうどなくなった頃、料理が温め終わったから皆に声をかけた。
「ごはん……温めたよ……爆豪くんと轟くんも……今日は皆で作ったから……食べて……四川風中心の辛めの中華料理と……お蕎麦あるよ……」
「おう」
「よっしゃあ!じゃあ飯食ってお祝いだぁ!」
「おお!」
轟くんは小さくお礼を言って、爆豪くんは舌打ちしながらではあったけど食卓に向かった。
料理も特に文句なくペロリと平らげてくれた。
轟くんも蕎麦以外の中華料理も食べていたし、爆豪くんは中華料理を結構な量食べていた。お腹が空いていたらしい。
緑谷くんがなぜか私が作った麻婆豆腐や梅雨ちゃんが作った鍋をブツブツと分析し出したりする一幕もあった。
なぜ今ここで分析するんだろうか。さっき味見とか好きなだけできたのに。
それだけ美味しいと思ってくれたってことだろうから、別にいいんだけど。
爆豪くんも「麻婆と鍋の味が落ちるわ!!」とか言ってキレてるだけですぐに怒りも鎮火していたし。
しかも爆豪くんはその感想ってことは、四川中華が美味しかったということだろう。
毎度素直に感想を言わないけど、節々から感想が読み取れるからそれで良しとしてやろう。