「今日は重要な知らせがある。心して聞くように」
メディア演習の翌日、相澤先生はホームルームが始まるなりそう言い放った。
「実務的ヒーロー活動推奨プロジェクト……国主導で、ヒーロー科生徒によるプロヒーロー不在地区でのヒーロー活動を行うことが決定した。お前たちもこの対象となる」
「「「ものすごくヒーローっぽいのキターっ!!!」」」
先生のその言葉を聞いた瞬間、多くの生徒が立ち上がって叫んだ。
相変わらずこういう時のシンクロ率が無駄に高い。
公安が関わっているとなるとクラス対抗戦の後に目良さんがオールマイトと校長に話していたのは、この計画のことだったのかもしれない。
「ていうか、もうヒーローじゃん!」
「テンションウェーイ!!」
三奈ちゃんがさらに大声で続け、それにあてられたのか上鳴くんも呼応して叫んだ。
いくら何でもテンション高すぎじゃないだろうか。
「上鳴テンション高すぎでしょ」
「ん……もうちょっと落ち着いた方がいい……」
上鳴くんの様子に響香ちゃんが呆れた様子で呟いた。
それにまだ先生の話の途中だ。
私も注意はしたけど、早く黙った方がいい。
先生がガチギレ数秒前だ。
「話を最後まで聞け」
案の定先生が目を赤く光らせて髪の毛をざわつかせながら唸るような低い声で注意してきた。
皆それを聞いた瞬間、さっきまでの騒ぎは嘘だったかのように静まり返る。
心して聞けって言われたのにあれだけ大騒ぎの状況になれば当然の流れだった。
「……よし。おまえらの勤務地ははるか南にある"那歩島"だ。駐在していたプロヒーローが高齢で引退。後任がくるまでの間、おまえらが代理でヒーロー活動を行うことになる」
「那歩島?」
「確か、沖縄の方の島の一つではなかっただろうか」
「ってことは今も結構あったかい所な感じ?」
「あれ、でも沖縄でも冬は海に入れないくらいには寒いんじゃなかったっけ?」
「流石に調べてみないと分からないね」
「……何度も言わせるな」
勤務地を伝えた途端また雑談が始まってしまいそうになったところで、先生は再び髪の毛をざわつかせる。
流石にまずいと思ったのか皆も借りてきた猫のように静まり返った。
「このプロジェクトは規定により、俺たち教師やプロヒーローのバックアップは一切ない。当然、何かあった場合責任はおまえらが負うことになる。そのことを肝に銘じ、ヒーローとしてあるべき行動をしろ。いいな?」
「「「はい!」」」
「急な決定な上に、公安の指示で明日現地へ向かう日程になってしまった。そのため、今日の午後はヒーロー科のみ休校とする。各自準備を整え、備えるように。以上、解散」
先生は最低限の島の情報と集合時間、集合場所とかが書かれた紙を配ってからそう言って話を締めくくった。
配られた紙には本当に最低限の情報しか書いていなかった。
正直最低限必要な持ち物くらい教えてくれるのかと思っていたけど、それすらも書いていなかった。
そんなこともあり、各自で準備を始める前に皆である程度の情報を調べてから、それに対応できる準備をするという方針になった。
「那歩島……やっぱり沖縄本島の近くにある島みたい……」
「ね!でも1年を通して冬とは無関係とかも書いてあるよ!」
「つまり常夏ってこと?」
「少なくとも1年中観光客が海水浴とかを楽しめるところみたいね」
「沖縄でも冬は海に入れないのに、なんでここは大丈夫なんだろう?」
「海流とか色々あるんとちゃう?」
皆で島について調べていくけど、那歩島はやっぱり沖縄のすぐ近くの島だった。
でも沖縄とは違って海は暖かく気温も温暖。年中海水浴ができる環境のようだった。
そんな情報を聞いた上鳴くんが嬉しそうにし始めている。
何を考えているかは分かったけど、私たちが行く目的を覚えているんだろうか。
「……つまり、俺たちも海に入ったりできる可能性があるってことか!?ということは……」
「水着だな!水着が必要だ!!おニューの水着だな!!」
ブドウ頭まで同調し始めた。
確かに水着は必要だと思うけど、目的が違う。
2人が想像しているような水着は持っていく必要が皆無だ。
「……私たち……ヒーローの代理になりに行くんだよ……海に入るとしても……それはヒーローとして……」
「そうですわね。お洒落な水着などあり得ません。学校指定の物のみ持っていくべきですわね」
「プールの時も思ったけど、やっぱアホでしょあんたたち」
「そ、そこまで言わなくてもよくねぇか!?」
女子だけでなく、真面目な男子も百ちゃんの言葉に頷いていた。
少なくとも浮ついてお洒落な水着を想像したのは2人だけだ。
まあそんなことはもういいか。学校指定の水着で十分って結論になったし。
「島の広さ……横8~9km……縦2~3km……面積22km²くらい……私の感知だけだと……カバーしきれないくらいには広い……」
「なかなかの広さはあるよね」
「島の名所は、ビーチにハイビスカス園に……城山?あとは施設としては港とかがあるくらいみたいだね」
「城山っていうのはこの離れ小島か?」
「多分そうだろ」
皆自分が見つけた情報をどんどん発言して共有していく。
ただ小さな島ということもあり、あまり深い情報はこの段階では手に入らなかった。
小さいとは言っても私の個性でもカバーしきれない程度の広さはあるから油断できないわけだけど。
でも、とりあえず見つけられたのは観光目的で開示されているような浅めの情報だけだった。
だから情報収集はそこそこにして、皆で考察して必要な荷物を考える作業に移った。
「着替えとかどのくらいもっていけばいいかな?」
「先生は……後任のヒーローが来るまでって……言ってたよね……」
「少なくとも1週間、長ければ1か月とかかな?1か月もいたら年越しちゃうけど」
「だが期間は長めに見ておいた方がいいだろう。洗濯できる設備を借りられると仮定しても、そこそこの量は必要だと考えた方がいい」
しばらくそんな感じで話し続け、15時くらいになる頃にようやくある程度皆の意見がまとまった。
まあ簡単にまとめると、夏用の衣服、コスチューム、学校指定の水着、各自必要な日用品などなどって感じだ。
その後は各自部屋に解散して準備をすることになった。
詰めたりするのは後回しにして必要なものがあるかを確認しておくべきだ。
無かったら買いに行かないといけないわけだし。
着替え1週間分くらいに加えて、日用品を1か月分くらいトランクに詰め込んだ。
特に足りなそうなものはなかったから、そのまま荷造りして早々に終わらせてしまった。
これに加えてコスチュームのアタッシュケースも持たないといけないとなると、結構な大荷物だ。
まあそれは仕方ないからもういい。
皆は一部の人が近くのスーパーやコンビニ、ホームセンターに散り散りになって必要な道具を買いに行ったようだった。
……洗剤とかもクラス共用で持って行った方がいいんだろうか。
まあ洗濯はしなきゃいけない状況になりそうだし、持っていくか。確かストックがあったはずだし。
あとは、百ちゃんが凄い量の荷物を詰め込もうとしているから整理をちょっと手伝おうかな。
そんなこんなで荷物の準備も無事に終わって翌日。
私たちは早朝に駅に集合していた。
相澤先生も見送りに来てくれている。
「事前に説明したとおりだ。ヒーローとしてあるべき行動を心掛けろよ。みっともない真似はするな。あとは……バックアップやサポートはしないとは言ったが、万が一のことが起こった時に自分たちだけで対処できるかどうかを判断するのもプロには必要な能力だ。手に負えないと判断したら救援要請をするように。肝に銘じておけよ。じゃあ行け」
「はーい!」
「返事は伸ばすな芦戸。何回言わせるんだ」
「はい!」
三奈ちゃんが間延びしたような返事をして先生に注意されていた。
このやり取り、職場体験の時もやってたよね。
まあいいか。
そのまま皆で電車に乗り込む。
移動方法は電車で空港まで出て、空港から飛行機で那覇空港まで移動。
那覇まで着いたら港を目指して、那歩島にフェリーで移動することになっている。
結構時間がかかるルートだ。
電車の中や飛行機の中では大騒ぎとまではいかなかったけど、結構にぎやかな感じになってしまっていた。
林間合宿の時のバスの旅を思い出すようなにぎやかさだ。
「瑠璃ちゃん、これ食べる?」
「ん……ありがと……私のも……あげる……」
「ありがとー!」
かくいう私もその1人で、透ちゃんと一緒にお菓子を食べたり交換したりしていた。
貸し切りのバスならまだしも、公共交通機関では静かにした方がいいんだろう。
だけど私自身がちょっと旅行気分になっているのもあって文句を言うことはなかった。
飯田くんが狂ったように「静かにー!!」って言ってたりして、緑谷くんに宥められてたりしたくらいか。
そんな旅はあっという間に過ぎ去って、電車から飛行機に乗り継いで、飛行機も降りて空港に出た。
「け、結構暑いね」
「厚着してなければ……あったかいくらいなんだと思う……」
「あー、確かにそうかも。ちょっと薄着にしよっか」
「ん……服……透けないようにね……」
「もともと透けてるから大丈夫!!」
透ちゃんと軽口を叩き合いながら上着を脱いでとりあえず暑くないという程度まで服装を調節した。
皆結構こんな感じで薄着になっていった。透けたりもしてない。完璧だ。
いきなり空港で薄着になるためとはいえ脱ぎだすのはちょっとはしたないけど、暑いんだから仕方ない。
それはそれとして、後の移動はフェリーだ。
大荷物を持って順番にフェリーに乗り込んでいく。
皆の内心は、期待とやる気で膨れ上がっていた。
まあ当然か。全て自分たちでヒーロー活動をすることになるんだし。
私みたいに不純な動機でヒーローになろうとしている人間はごく少数。
他の皆は真剣にヒーローになるために訓練してたんだから、一時的とはいえ憧れのヒーローになれるとなると納得の思考でしかないけど。
そんな期待に胸を膨らませた私たちを乗せた船は、暑苦しいくらいの太陽が照り付ける那歩島に到着した。