波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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那歩島のなんでも屋

那歩島について早々に島の人たちに相談して、宿泊場所や活動拠点の相談をさせてもらった。

やり取りは基本的に飯田くんと百ちゃんがやってくれた感じだ。

交渉の結果、廃業していた元旅館を借り上げて事務所にすることになった。

建物自体ちょっと掃除すればすぐに使えそうだったし、電話回線も生きていたし、2階に寝泊りできる部屋まであったのだ。

ほぼ即決だった。島の人たちもクラス単位で来ると聞いてある程度整えてくれていたようだった。

 

そんな感じで決まった仮設ヒーロー事務所。

1階のラウンジをヒーロー活動の拠点にして、2階の大部屋で男女別に寝泊りする感じだ。

初日は事務所を整える班とヒーロー活動に従事する班に分かれた。

事務所を整える班は百ちゃんをリーダーとして、力仕事があるだろうから男子数人にお茶子ちゃん。

ヒーロー活動に従事する班は飯田くんをリーダーとして感知できる4人を含めた残った皆だ。

私はヒーロー活動班だからパトロールをして困っている人がいたら助けるという作業を繰り返している感じだ。

パトロールに関しては私が島の中央辺りをくるくる巡回して、他の感知3人にカバーしきれない外周部を中心に回ってもらった。

そんな感じである程度班の中からチームを組んで行動していた。

私はというと、とりあえず困っている人がいたら助ける感じで、自分で助けたり範囲内のA組メンバーにテレパスで依頼したりといった感じで動いていた。

そんな初日は問題なく無難に終わった。

 

百ちゃん主導で整えられた仮設事務所はなかなかのものになっていた。

ソファや多数のデスクに加えて、多くの電話、パソコン、データをまとめるためのファイルなどなど。

とにかく事務仕事に使いそうなものや通報を受けるために必要なものなどを大量に用意されていた。

この量があらかじめあったとは考えられないし、島の人たちが融通してくれたとも思えない。

百ちゃんが創造したのは明白だった。

翌日からはそんな感じで整ったヒーロー事務所を拠点に活動を開始した。

 

 

 

3日目。

 

「雄英ヒーロー事務所です!―――はい、すぐに向かいます!」

 

電話が鳴ってすぐに受話器を取った三奈ちゃんが元気よく応答する。

どうやら上鳴くんご指名で依頼があったらしい。

 

「上鳴!西地区の松田さん、バッテリーがまた上がったって!」

 

「またかよ!あのおっさんいい加減買い替えろって!」

 

「がんばれチャージズマ!」

 

「「「ゴーゴー!」」」

 

「ゴーゴー!」

 

「……上鳴くん……単純……」

 

電池扱いに不満を漏らしていた上鳴くんは、三奈ちゃんの声援と事務所にいたお茶子ちゃん、透ちゃん、響香ちゃん、緑谷くんの声掛けに素直に応えて乗り気で駆け出して行った。

響香ちゃんなんか仕方なくみたいな感じで言ってたのに乗せられているあたり、すごく単純だ。

それが上鳴くんの良い所でもあるんだろうけど。

そんなことを思っていたら電話が鳴った。

ササッと電話を取ってしまう。

 

「はい……こちら雄英ヒーロー事務所……」

 

『転んで動けなくなってる人がいてね。場所は』

 

「いえ……大丈夫です……分かりました……農道のあたりですよね……ヒーローを向かわせます……動かないで待っていてください……」

 

仮設事務所から600mくらい離れた畑の間の道の中に、転んでいる人がいた。

その人の近くの人の思考が今の通報と相違なかったし、間違いないだろう。

 

この島には軽救急車が1台しかないから、島の人はよほどのことがない限り救急車を呼ばない習慣があるようだった。

自分たちで対処できなさそうな病状や、明らかに異常だと判断できる時には救急車を呼ぶけど、救急車を呼ぶほどじゃないと判断するとヒーローを頼っていたらしい。

今転倒した人も捻挫して動けなくなっているだけ。

骨も折れてなければ出血もしてない。救急車を呼ばなくてもよさそうなのは確かだった。

向かってもらう人員は……飯田くんが適切だったけど、別件で今走って行ってしまった。

よくぎっくり腰で動けなくなるおばあちゃんがいるから、その人の所に向かったようだ。

私が行ってもいいけど、支えるか抱えるかしないとダメそうだし、身体強化が長続きしない上に背が小さい私よりも、緑谷くんか切島くん、爆豪くんが適切だろうか。

人を運ばないといけない以上青山くんだとちょっと不安だ。

爆豪くんはそもそも怪我人の介助とかには向いていない。

となると……

 

「切島くん……事務所を出て北西に600mくらいの……農道のあたり……捻挫して動けなくなってる人がいる……向かってもらってもいい……?」

 

「おう!任せろ!」

 

「じゃあ……この辺だから……よろしくね……」

 

「分かった。んじゃ、行ってくる!」

 

あらかじめある程度印刷してある地図に印をつけて切島くんに渡すと、切島くんはすごい勢いで走って行った。

その直後、迷子の通報を受けていたらしいお茶子ちゃんが、事務所内を見回しながら口を開いた。

 

「商店街で迷子!手の空いてるヒーロー、一緒に……あ!」

 

私が切島くんとやり取りしていたのを見て、お茶子ちゃんは暇そうに寝転がって地図を見ている爆豪くんの方に目を向けていた。

だけど爆豪くんはそれを察知して即座に反発した。

 

「断る」

 

「早っ!」

 

あまりにも素っ気ないその反応に、お茶子ちゃんが突っ込んだ。

まあ爆豪くんの考えていることは分からなくもないけど、いくら何でも素っ気なさすぎる気が……

暇そうにしてれば頼られるのは当然だろうに。

 

「切島行かせてクソチビの手が空いてんだろ。迷子探しなんてそいつがいりゃ十分だ」

 

「間違ってはないけど……素っ気なさすぎない……?」

 

「知るか。はよ行け」

 

そこまで言うと爆豪くんは地図の方に視線を戻してしまった。

もう会話する気もないらしい。

ヴィランが出た時の為に誰かが事務所に残っておかなきゃだめだっていう考えは分かるけど、百ちゃんもいるしそのあたりは大丈夫だと思うんだけど。

むしろ飛べる爆豪くんを遊ばせておく方が勿体ない。

説得するのが面倒くさいから放っておくけど、その姿勢はヒーローとしてどうなんだろうか。

というかその理屈なら事務仕事をしない理由にはならないのに何で地図を見ているのか。

もういいやと思って爆豪くんを無視してお茶子ちゃんに話しかける。

 

「はぁ……お茶子ちゃん……行こ……」

 

「うん。ありがとね、瑠璃ちゃん」

 

「気にしないで……」

 

「麗日さん!波動さん!僕も行くよ!」

 

お茶子ちゃんと一緒に事務所を出ようとすると、緑谷くんがそう提案してくれた。

緑谷くんのフルカウルによる爆走で速やかに現場に向かえるように手伝ってくれるつもりらしい。

それなら助かる。今事務所にはそこそこ人も残っているし、多分大丈夫だろう。

それにしてもさっき緑谷くんじゃなくて切島くんに頼んだ理由は、緑谷くんがオールマイティに色々対応出来たせいで、朝からひっきりなしに出動していて疲れていると思ったからなんだけど……

彼の内心は今、ヒーロー活動ができる充実感に満ち溢れていた。迷子もなるべく早く見つけたいらしい。

……まあ、あの人助けに狂った狂人思考ならそうなるのか。本人が充実しているならもういいかな。

 

「じゃあお願いしちゃうね!」

 

「ん……迷子……早く保護してあげよ……」

 

「うん!」

 

緑谷くんも伴って、事務所を出た。

彼はすぐに浮き輪を腰に回し、フルカウルを使った。

 

『ワンフォーオール、フルカウル8%!』

 

緑谷くんの邪魔にならないように、お茶子ちゃんが自分と私を無重力にしてくれた。

2人で緑谷くんの腰のところの浮き輪に掴まる。

さぁ出るぞと言うところで、緑谷くんが口を開いた。

 

「ヒーロー事務所!」

 

「1年A組!」

 

緑谷くんに応えるように、お茶子ちゃんも声を上げた。

何を言いたいのかは分かるし、合わせておくか。

 

「「「出動!」」」

 

掛け声とともに、緑谷くんが駆け出した。

私なんかとは比較にならない大きな跳躍で島をどんどん進んでいく。

この島はすごく綺麗なところだ。

本州では見ないような石垣に、それを彩る菜の花やハイビスカス、さらに広大なサトウキビ畑。

空は雲一つない快晴だし、海はエメラルドグリーンに透き通っていてキラキラと輝いていた。

 

 

 

商店街に着いた時、私はどういうことなのかを大体察してしまった。

とりあえずすぐ近くに迷子のような思考の子はいないと緑谷くんに伝えると、緑谷くんは迷子探しを始めた。

お茶子ちゃんもそれに続こうとするけど、聞きたいことがあるから声をかける。

 

「お茶子ちゃん……確認したいんだけど……」

 

「あ、うん!なんでも聞いて!」

 

「通報者……その子のお姉ちゃんであってるよね……通報って……どんな感じだった……?」

 

「え、えっと……泣きそうな声で、『弟が迷子になってどこにもいないの……』って」

 

「……そっか」

 

通報者と思われる少女は見つけた。そして、その近くに弟もいる。

商店街からちょっと離れたところにある、港を見下ろせる公園に一緒にいるのだ。

つまりどういうことかというと、迷子になんてなっていない。

少女の思考もタイムを計っているような感じだし、『ヒーローの化けの皮を剥がす』という思考が読み取れる。

嘘をついているのは確実だけど、悪意はほぼ感じない。

こちらを試すようなことをしているせいと言うよりも、弟を心配するあまりの行動だからだろうか。

姉として弟を心配するその姿勢は認めてあげなくもないけど、嘘はダメだ。

 

「お茶子ちゃん……ちょっと百ちゃんに電話したいから……先に探してて……」

 

「……?分かった。何か分かったらテレパスでもいいから教えてね!」

 

「ん……分かった……」

 

私が了承すると、お茶子ちゃんは緑谷くんが向かった先へと向かっていった。

それを見ながら、私は百ちゃんに電話を掛けた。

 

『波動さん?どうかなさいましたか?』

 

「ちょっと確認したいんだけど……事務所……まだ余裕ある……?」

 

『はい。口田さんや飯田さんも戻ってきましたし、葉隠さんと青山さん、爆豪さんもいます。余裕はありますが……何かありましたか?』

 

「そういうのじゃなくて……さっきの迷子の通報……嘘だったみたいで……」

 

『……それは本当ですか?』

 

百ちゃんは周りに嘘の通報ということが伝わらないように反応を返してくれた。

 

「ん……通報者……迷子って言われてた弟と一緒にいるし……タイムを計ってる……ヒーローを試してるみたい……」

 

『それは……』

 

「思考を見る限り……弟を心配してる感じだから……悪意はほとんどない……なんだったら……少し申し訳ないとも思ってる……だから……注意はしようと思うんだけど……私が最初に接触すると……注意にしかならなくて……余計に反発させる可能性があるから……」

 

『概ね状況は分かりました。つまり接触を波動さん以外の方からしてもらうために、余計に時間がかかるということですわね。大丈夫ですので、こちらは任せてください。よほど重大な何かがあって手が必要になれば連絡しますので』

 

「ん……ありがと……ごめんね……」

 

『いえ、お気になさらず。では』

 

そこで電話は切れた。

百ちゃんの承認は取れたし、最低限の誘導をして緑谷くんかお茶子ちゃんが初接触をしてくれればいいかな。

そう思って、少し時間を置いてから緑谷くんにテレパスをした。

 

『緑谷くん……そのあたりの……港が見える公園……そこにうろうろしてる子供がいるから……行ってみてもらってもいい……?』

 

『分かった!ありがとう!』

 

緑谷くんはそう思い浮かべてから駆け出して行った。

とりあえず私はお茶子ちゃんと合流してから緑谷くんの方に行こう。

 

 

 

お茶子ちゃんと合流して公園に着くころには、夕方になっていた。

 

「遅い!遅すぎる!あなた、名前は?」

 

「で、デクです……あの、キミは……」

 

「活真のお姉ちゃんの真幌!」

 

「じゃあ弟さん見つけてたんだね……良かった……」

 

緑谷くんが安心したようにため息を吐くと、真幌ちゃんは憤ったように声を荒げた。

 

「ちっともよくない!迷子探しに40分もかかるってどういうこと!?あの雄英ヒーロー科のくせに、ダメダメじゃない!これなら前にいたおじいちゃんヒーローの方がよっぽど良かったかも!」

 

「す、すいません……」

 

真幌ちゃんの勢いに、緑谷くんは膝をついて謝りだした。

何やってるんだ緑谷くん。通報してからのタイムを計られている時点でおかしいことに気付いてもいいのに、全く気が付いていない。

どれだけお人好しなんだ。

 

「ま、しかたないか、まだ高校生だし……」

 

「すみません、すみません」

 

「今後はちゃんとヒーロー活動してよね、デク!」

 

「は、はい、以後気を付けます……」

 

「行こう活真」

 

「え、あ、うん」

 

真幌ちゃんに声をかけられた活真くんは、緑谷くんの前まで言ってお礼を言ってから歩き出した。

終わったと見たらしいお茶子ちゃんはそのまま緑谷くんの方にかけて行って、事情を聞き始めていた。

真幌ちゃんは活真くんの手を引きながらこっちの方に歩いてくる。

2人が私の脇を通ろうとしたタイミングで、しゃがみこんで呟くように声をかけた。

 

「真幌ちゃん……」

 

「なにかようですか?」

 

「弟さんを守ろうとするのは偉いけど……嘘だけはダメだよ……本当に大変なことがあった時に……信じてもらえなくなるから……弟さんを大事に思うなら……絶対に嘘だけは吐いちゃだめ……」

 

「な、なにいってるんですか?あたしは嘘なんて……」

 

「大丈夫……分かってるから……今回は目を瞑るから……二度とこんなことしちゃだめだよ……」

 

「……っ。行くよ活真!!」

 

そこまで言うと、真幌ちゃんは活真くんの手を引いて走って行ってしまった。

これで響いてくれるといいんだけどと思いながら緑谷くんとお茶子ちゃんの方に歩いていく。

 

「……ほんとデクくんは、デクくんって感じだね」

 

「なにそれ?」

 

「根っからのヒーローってことさ!」

 

ちょうどお茶子ちゃんがにっこり笑いながらウインクしてサムズアップしていた。

お茶子ちゃんの内心を見るとほっこりしてしまう。

嘘を吐かれてちょっと落ちていた気分が少し持ち直した気がした。

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