波動の噴出のよる跳躍を繰り返して爆豪くんと緑谷くんを追いかけていた。
目的地は城跡。
那歩島には海を挟んで島と細い道でつながった城山があるのだ。
その小高い山の上部に残っている城跡は非常に大きく、遠目に見ていてもかつての威容が窺える。
その細い道を渡り始めたあたりで、遠目に大きなカマキリのような巨大なヴィランのようなものが立ち上がって。
まあ分かっていることではあるけど、あれは実態のない幻。
波動を一切纏っていないそれは地面とかに足をつけている様子もなく、真幌ちゃんを深く読心するまでもなく幻だということはすぐに分かった。
爆豪くんがそれと戦闘を始めようとするけど、初撃でスタングレネードを放っていたのが功を奏してすぐに幻であることに気が付いていた。
手応えはなかったと思うけど、自身の技が放つ光を受けて影がないことに気が付いてすぐに幻であると予測をつけていた。
流石爆豪くん。察しの良さはピカイチだ。
爆豪くんは幻の攻撃を棒立ちで避けようとすらしなかった。
そんな爆豪くんに緑谷くんが驚愕しているけど、すぐに困惑に変わった。
爆豪くんはそのままゆっくりとした動きで構えて、地面に対して大規模な爆破を放った。
轟音とともにビリビリと揺れる地面に、幻も揺らめいた。
爆豪くんは爆破に驚いて這い出てきた真幌ちゃんを掴んだ。
ここまで来て、ようやく私も城跡に到着した。
物陰に隠れて様子を伺う。
「おいクソガキ、ヒーローおちょくって楽しいか?あ?」
「……え、あ……」
爆豪くんが思いっきり睨んで、真幌ちゃんがひるんでしまう。
「俺はそんじょそこらのヒーローとはわけが違ぇ……オールマイトを超えてナンバーワンヒーローになる男、爆豪勝己だ。おちょくる相手を間違えたな」
爆豪くんは今にも制裁を下しかねないほどの形相をし出した。
爆豪くんだけならこのまま飛び込んで止めてもいいんだけど、緑谷くんがいるし多分大丈夫だろう。
「ね、姉ちゃんを叱らないで」
「ああ?おめえもグルか……なら……」
「やりすぎだって、かっちゃん」
怯え切った子供を脅してメンチを切る爆豪くんを、緑谷くんが止めに入ってくれた。
爆豪くんが肘打ちを連打してでも緑谷くんをどけようとするけど、緑谷くんもめげずに必死で止め続けていた。
そんなやり取りを続ける2人がもみ合いでバランスを崩して転んだ瞬間、真幌ちゃんと活真くんは走り出した。
爆豪くんがゴキブリのように這いずりながら追いかけようとするけど、緑谷くんが爆豪くんに馬乗りになって抑え込んだことで子供2人には逃げられてしまっていた。
2人が逃げた先はサトウキビ畑の中のようだった。
追いかけてこっそりと2人に近寄って盗み聞きを続ける。
「な、なんなのよ。さっきのバクゴーってやつ……なにがナンバーワンヒーローになる男よ。ヴィランっぽいヒーローランキング1位の間違いじゃないの!?」
「……救けに……来てくれたよ」
「!……活真、そんなにヒーローになりたい?」
活真くんが爆豪くんを擁護すると、真幌ちゃんは活真くんがつけているエッジショットの缶バッジを見つめながらつぶやくように問いかけた。
活真くんの答えは決まっているのに、姉を思って返事をすることを躊躇っている感じだった。
「反対だな、危険だし……それにあたし、ヒーローよりももっとカッコいい人知ってるもん」
「……?誰?」
「お父さん。あたしと活真のことをいつも考えて守ってくれてる。活真には、そんなカッコいい人になってほしいな」
真幌ちゃんはそう言って空を見つめ出した。
真幌ちゃんが言いたいことも分かるし、活真くんがそれでもヒーローを目指したいと思っているのも分かる。
でも真幌ちゃんは、今伝えたことはすごくいいことだと思うのに、その手段がおかしい。
これだけは正しておいてあげないと、何かあった時につらい思いをすることになる。
そう思って、2人がしゃがみこんでいるサトウキビ畑の中に入った。
「言ってることは……活真くんのことを考えてる……いいことかもしれない……でも……やり方が間違ってるよ……」
「っ!?なっ!?えっ!?いつからっ!?」
「夕方の……」
真幌ちゃんがびっくりして固まりかけて、活真くんは呆然としながらこっちを見つめ返してきた。
「ん……夕方に二度と同じことしないでって……約束したよね……?」
「し、してないわよ!あなたが一方的に言っただけでしょ!」
「そっか……分かってなかったなら……分かるように説明するね……」
私も真幌ちゃんの近くにしゃがみこんで視線を合わせる。
「なんで嘘ついちゃだめって言ったか……分かる……?」
「そ、そんなの!あなたたちが面倒だからでしょ!さっきは信じられなくなるとか言ってたけど、短い間しかいないあなたたちに信じられなくても、どうでもいいし!」
「私がああ言ったのは……そういう意味じゃないよ……ね、真幌ちゃん……活真くん、大事なんだよね……」
「……さっきの話、聞いてたんでしょ。なら聞かなくても分かるじゃない」
お姉ちゃんが妹を想う感情をずっと見てきたからこそわかる。
この子はただ活真くんのことを考えて、どうにかしてあげたいと思って行動しているだけだ。
その行動が嘘を吐いてヒーローを試して、ヒーローの酷い姿を弟に見せるというものだったのがいただけないけど。
でも悪いことをしたくて、誰かに迷惑をかけたくてそんなことをしたわけじゃない。
子供特有の視野の狭さが原因で起こっただけだ。
「ん……分かるよ……大事なんだよね……なら……やっぱり嘘はついちゃだめだよ……活真くんに何かあった時に……誰も信じてくれなくなっちゃうよ……」
「あたしは別に誰にでもこんなことしてるわけじゃないし!さっきも言ったけど、短い間しかいないのにそんなこと言ったってなんとも思わないんだからっ!」
「……影響は……そんなことじゃすまないよ……ヒーローに嘘の通報をするのって……他の人から見てどれだけ印象が悪いか分かる……?私たちはいいよ……?人数もいっぱいいる……そのうちの数人がちょっと時間を取られるだけ……だけど……私たちの後に来るヒーローとか……救急隊の人とかはそうじゃないの……」
「それが、なんの関係が」
「ヒーローってね……通報とかの対応をしたら……報告書を作らなきゃいけないんだよ……さっきのは……嘘だって気づいてたのは私だけ……報告書も……緑谷くんがちゃんとしたのを書いてくれた……だけど……それを何度も繰り返してたら……どうなると思う……?嘘の通報が……記録に残っちゃうんだよ……そうしたら……次に来たヒーローがその報告書を見て……忙しい時に……真幌ちゃんから通報が来た時……どう扱うと思う……?嘘を吐くって噂になっちゃった子から……島に1台しかない救急車の要請があったら……救急隊の人に……どう対処されると思う……?もっとひどくなると……村長さんとかにもそう思われるようになっちゃうかもしれない……そうなると……誰も……あなたたちの言うことを信じてくれなくなるかもしれないんだよ……」
「っ……」
私の説明に、真幌ちゃんが息を呑んだ。
短期間しかいないヒーローを試すような真似をしても大きな影響はないと本当に思っていたんだろう。
正直ちょっとオーバーに言ってはいる。ヒーロー活動は必ず報告書を作らなきゃいけないけど、通報の1つ1つまで報告書を作っているわけじゃないとか、次に来たヒーローがすべての報告書を事細かに確認するかは分からないとか、そういう部分で。
でも大筋で間違ったことは言っていないつもりだ。
こんなことを続けていたら、いつか痛い目に遭う。
「つまり……狼少年になっちゃうんだよ……狼少年って知ってる……?」
「……はい」
「うん……なら分かるよね……活真くんが大怪我したり……危ない人に襲われたりしても……助けてもらえなくなっちゃうかもしれない……だから……嘘は吐かないでって言ったの……」
「……ごめんなさい……」
「ん……じゃあ約束……嘘の通報はしないこと……いい……?」
「はい……」
真幌ちゃんもようやく嘘を吐かないでって再三言っていた意味を理解したらしい。
しょんぼりしながら謝って、約束してくれた。
その上で、少し考え込んでからこちらを伺うように見つめてきた。
「……お姉さん……なんでこんなに色々言ってくれるんですか?こんな夜中に、わざわざ……」
「……私にもね……お姉ちゃんがいるんだよ……2歳差だから……真幌ちゃんと活真くんよりは……ちょっと年が近い気がするけど……だからかな……真幌ちゃんが活真くんを大事に思ってるのを……お姉ちゃんと私に重ねちゃっただけ……要するに……ただのおせっかい……」
「おせっかい……」
「そう……ただのおせっかい……妹だった私からしたら……お姉ちゃんが自分のために嘘を吐いて……傷付いたりしてたら……悲しくなっちゃうよ……ね……活真くんもそうだよね……?」
「うん!」
私が活真くんの方を見ながら問いかけると、活真くんはしっかり頷いてくれた。
「ほらね……だから……活真くんを悲しませないためにも……嘘は吐かないでね……?」
「はい……」
真幌ちゃんはしっかりと頷いてくれた。嘘もなさそうだ。
とりあえず分かってくれたみたいだし、これでいいかな。
そう思って立ち上がる。
そうしたら、真幌ちゃんが口を開いた。
「お、お姉さん!名前は……」
「波動瑠璃……ヒーロー名はリオル……好きに呼んでくれていいよ……じゃあ私は戻るから……真幌ちゃんと活真くんも……気をつけて帰ってね……」
「は、はい!」
真幌ちゃんは返事をしてくれなかったけど、活真くんは元気よく返事をしてくれた。
やっぱり嘘を吐いていても思考が素直だから、このくらいの年の子たちはそこまで不快感はない。
これが大人だったら私は容赦なく対応していたと思う。
エリちゃんもそうだけど、私って子供に弱いんだろうか。
まあいいか。とりあえず明日も早いし、私はササッとヒーロー事務所に戻った。
これできっと嘘の通報はもうしない、と思いたい。