波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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複数個性の男

漁港の方に向かって波動の噴出で跳び続ける。

といっても、緑谷くんがどこにいるか分からないから、あの漁港が見える公園を目指している感じだ。

あの公園なら、漁港が感知範囲に入る。

それは昨日確認済みだ。

 

跳んでいる最中に、商店街の中に包帯の塊を振り回しているヴィランがいる。

透ちゃん、青山くん、峰田くんがそのヴィランに遭遇して対処に動ているようだった。

爆豪くんが凄い勢いで向かっているし、きっと大丈夫だろう。

透ちゃんは心配だけど、気にしないように努めて公園に向かった。

 

 

 

公園まで来たところで、海岸の方のヴィランも感知範囲に入った。

だけど問題は漁港の方だ。

壊滅的な被害を被っている。船が全て破壊されているのだ。

通信基地がやられたことも併せて考えると、この島が完全に外界と隔離されてしまったということに他ならなかった。

漁港のあたりの波動を注視するけど、ヴィランはいない。

緑谷くんも、真幌ちゃんも活真くんも、漁港にいない。

 

パニックになっている人の思考が煩わしくてなかなか思うように感知が進まない。

不安とかの感情は強いけど、憎悪とかの負の感情が薄いだけマシだと自分に言い聞かせながら範囲内を注視していく。

注意深く感知していくと昨日真幌ちゃんたちと話したサトウキビ畑の近辺に真幌ちゃんと活真くんの波動を見つけた。

思考からして、ヴィランに襲撃されて緑谷くんに助けられたらしい。

つまり近くに緑谷くんとヴィランがいるということ。

大急ぎでそっちに向かった。

 

真幌ちゃんたちに近づくにつれて、その近くの森も感知範囲に入ってきた。

その中では、ヴィランと緑谷くんが戦闘をしていた。

ちょうどデコピンによる空気砲でヴィランを牽制しているところのようだった。

 

『面白い使い方をする』

 

『ヤツを活真くんたちにちかづけさせるな。このまま牽制を続けて……』

 

警戒して牽制を続ける緑谷くんの足元を、おそらく突風が襲って、その直後にヴィランの爪が射出された。

いくらなんでも関係がなさすぎる。

まさか複数の個性持ちなんだろうか。

緑谷くんもそう考えたようで、出方を伺うのをやめて、先手を打つ方針にしたようだ。フルカウルで畳みかけようとしている。

 

『……パワーが上がった……!』

 

ヴィランはフルカウルを見ただけで、そんな思考になった。だけどその思考の仕方はいくらなんでもおかしい。

予測でしかないけど、何かしらの感知系統の個性も持っている?

私がそう思いながら駆けていると、緑谷くんの蹴りを盾のような謎の個性で防いだヴィランは緑谷くんの頭を掴んだ。

 

『この力……この"個性"……奪う価値がある』

 

そう考えて何かをしているヴィラン。

だけど、思考からして個性を奪おうとしているようにしか思えない。

緑谷くんはなんとか逃れようともがくけど、抜け出すことはできなさそうだった。

まずいと思って移動の速度を上げたけど、なぜか弾かれたように緑谷くんの身体がヴィランから離された。

 

『奪えない。いや、"空きストック"に収まりきらない。こいつ……潜在的に、"個性"を複数持っている……!?』

 

ヴィランが驚愕していた。個性の強奪に失敗したらしい。

潜在的に複数の個性を持っているなんて言っているけど、OFAの中にいる継承者たちの個性が干渉して奪えなかったということだろうか。

そして"空きストック"という言葉。

少なくともAFOのような無尽蔵の個性の強奪じゃない。個数の制限があるということは分かった。

 

ここでようやく私も森の中に入った。

ヴィランが緑谷くんを消すために片手を向けている。

その腕目掛けて、噴出の勢いそのままに突撃をかけつつ、片手で発勁を繰り出した。

 

「発勁……!!」

 

「……羽虫が増えたか」

 

発勁はさっき緑谷くんの攻撃を防いだ謎の盾のような個性で容易に防がれてしまった。

波動で吹き飛んでヴィランの間合いから離れ、個性を奪われないように警戒する。

ヴィランはそんな私を黄色く輝く瞳で見てきていた。

 

「……波動の感知の個性だと?……いや、感知はもはや不要。興味はあるが、邪魔するならば排除するのみだ」

 

思考を見て、私の個性の内容を完璧に読まれたことに気が付いた。

その個性の読み取り方、内容……それらに、何もかも見覚えがあった。

 

「……個性を奪う個性……それに……"サーチ"の個性……あなた……ヴィラン連合の関係者……?」

 

「……答える義理はないな」

 

誤魔化されたけど、今のやり取りで最低限ヴィラン連合と関係があるのは分かった。

それに、このヴィランがストック上限がある個性を奪う個性に、ラグドールさんのサーチを持っていることも。

他に見たのは、謎の盾の個性と爪を飛ばす個性、風のような何かをだす個性の3つだ。

 

ヴィランが手をこちらに向け、爪を飛ばしてくる。

それを横跳びで避けながら真空波を放つけど、盾で防がれてしまう。

私が攻め手にかけて攻めあぐねていると、緑谷くんが立ち上がって叫んだ。

 

「波動さん!!そいつの狙いは活真くんたちだ!!2人を連れて逃げて!!」

 

「っ!?……でも……緑谷くんが危ないでしょ……!」

 

「いいから!!波動さんが感知で逃げ続けるのが最善手だ!!」

 

緑谷くんがヴィランに跳びかかりながらそう言ってくる。

確かにサーチの個性をこのヴィランが持っていたとしても、半径1km以内なら抱えて逃げ続けられる私が2人を連れて行けば逃走はできる。

範囲外からこちらが対応できないほどの速度で突撃してきたりしない限りは大丈夫だろう。

だけど、問題は緑谷くんの方だ。

今でも押されているのに、どんな個性を持っているかさえ未知数なこのヴィラン相手に緑谷くん1人を置いていくのはリスクが大きすぎる。

だけどこのまま2人で戦って、そのまま負けたり、隙をついて真幌ちゃんたちを襲われた時に取り返しがつかないのも確かなのだ。

 

「……分かった……増援を呼ぶ……耐えてよ……!」

 

緑谷くんの背中にそう声をかけて、土手の方に逃げている真幌ちゃんたちの方に吹き飛んで移動した。

 

 

 

「真幌ちゃん……!活真くん……!」

 

「瑠璃さん!?」

 

「聞いて……あいつの狙いはあなたたち……今から一緒に逃げるよ……!」

 

それだけ伝えて身体強化をかけつつ2人を抱えようとすると、緑谷くんが森の中からすごい勢いで吹き飛んできた。

 

「デク……兄ちゃん……?」

 

「デク……!」

 

真幌ちゃんたちの声を聞いて、緑谷くんがハッとしたようにこっちを見た。

 

「逃げて波動さん!!僕のことはいいから!!」

 

激痛に顔を歪めながら叫ぶ緑谷くんに、私もやるべきことをやるために身体強化をかけて2人を抱えあげる。

移動を開始しようとした次の瞬間、緑谷くんの身体を凄まじい速度で飛んできた爪が貫いた。

 

「デク兄ちゃん!!」

 

まずい。このまま逃げれば緑谷くんが死ぬ可能性が高い。

今すぐにでも救援を呼ばないとダメだ。

一番近くにいるのは……漁港の方に跳んで向かっている爆豪くんがいる!

 

「真幌ちゃん!!大きな幻を出して!!なんでもいいから!!」

 

「ぅっ……!?は、はい!!」

 

『爆豪くん!!目印を出した!!こっちに来て!!』

 

真幌ちゃんが重傷を負った緑谷くんをデフォルメしたような幻を出してくれた。

それに気が付いた爆豪くんはすぐさまこっちに方向転換して、凄まじい速度で跳んできた。

爆豪くんはそのまま、ヴィランに向かって爆破を繰り出した。

 

「見つけたぜ、クソヴィラン!!」

 

「あの人……」

 

「バグゴー!?」

 

「爆豪くん!!そいつの狙いはこの2人!!私が2人を連れて逃げるから!!ヴィランをお願い!!」

 

驚愕している真幌ちゃんたちを気にしないで、爆豪くんに叫ぶ。

爆豪くんは一瞬こっちを見てから、ヴィランに突撃していった。

 

「ハッ!言われなくても俺が見せつけてやるよ!!ナンバー1ヒーローになる男の……強さをなぁ!!」

 

爆破を繰り出す爆豪くんを、ヴィランは盾で防いだ。

その盾に対して、以前円場くんに対してしたように爆破で急上昇をかけて回避して襲い掛かった。

それに対してヴィランは爪を発射して対応している。

……危険ではあるけど、いつまでも見てはいられない。

あのヴィランの底がしれない以上、狙われている子供たちは避難させるべき。

そう自分に言い聞かせて、2人を抱えてヴィランから離れるように動き始めた。

 

 

 

跳躍でヴィランから距離を取りながら感知を続ける。

緑谷くんの助言でAFO擬きの個性を持っていることを把握した爆豪くんは、そのまま背後に回り込んだりして攻撃を続けていた。

 

「ねえ、瑠璃さん……バクゴーとデク……大丈夫かな」

 

「……ん……大丈夫……あの2人……強いから……きっとどうにかしてくれる……2人が集中できるように……私たちは距離を取ろう……」

 

不安そうに聞いてくる真幌ちゃんと、ずっと爆豪くんたちの方を見ている活真くんに言い聞かせるように言う。

そんな中、爆豪くんが懐に潜り込もうとしたのに対して、ヴィランは青い骨でできた竜のようなものを出して、反撃した。

爆豪くんも『アバラァ……持ってかれた……』とか考えている。

まずい。このままだと、爆豪くんも緑谷くんも……

でも、ここで真幌ちゃんたちを置いて行くのはあり得ない。

今の私にできるのは、もっと救援を呼ぶことくらいしかない。

今範囲内で商店街の方にいる百ちゃんたちに、テレパスで場所を伝えて救援要請をしてしまう。

テレパスを受けた皆はすぐに動き出してくれた。

 

そんなことをしている間に、緑谷くんが再び動き出した。

2人は連携してヴィランに攻撃を叩きこもうとしたけど、緑谷くんが込めているパワーに驚愕したヴィランは、両手を振り下ろした。

その瞬間、2人の頭上から、巨大な雷が落ちた。

崩れ落ちる2人を、ヴィランは衝撃波のようなものを出して、吹き飛ばした。

生きてはいる。生きているけど、このまま放置はできない。早く治療をしないと命に関わる。

でも、ヴィランはすぐにこっちに向かい始めている。

私が行くことはできない。救助は今向かってくれてる百ちゃんたちに任せるしかない。

私は、ヴィランと追いかけっこをしないとだめだ。

 

そう思っていたら、突然ヴィランが苦しみだした。

『デメリット』、『細胞活性が無くては……』、『早く』とかそんな思考が読み取れる。

あの雷を落とす個性に、重いデメリットがあるということだろうか。

思考の感じからして、デメリットを無くすために活真くんを狙っているのは分かった。

理由までは分からなかったけど、先に襲撃した活真くんのお父さんだけだとダメで、活真くんを狙いに来たようだった。

それなら活真くんに執着する理由も分からなくもない。

今苦しんでいるヴィランを回収しに来たもう1人の女のヴィランの思考からして、『細胞が死滅する』という非常に重いデメリットがあるから、細胞活性を欲しているということか。

苦しみながら追うように指示を出しているヴィランだけど、女のヴィランはこの島から出られなくしたということを根拠に、撤退して身体を癒すことに注力するという方針になったようだった。

女ヴィランに庇われながら、苦しんでいるヴィランは去って行った。

 

皆と島に甚大な被害を出したヴィランは引いていった。

爆豪くんと緑谷くんは、百ちゃんたちが回収して搬送してくれている。

ひとまずは落ち着いたと言っていいだろう。

だけど、またあのヴィランたちが来ることは明白。

通信をできなくされて、船も壊された今、私たちだけでどうにかするしかない。

これから私たちだけで、デメリットがあるとは言っても天候すらも操って見せたヴィランの対処法を考えなければいけないという、絶望的とすら言える状況に陥ってしまっていた。

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