作戦会議の直前に、緑谷くんと爆豪くんは目を覚ました。
活真くんが頑張ってくれたおかげだ。緑谷くんも、目を覚まして活真くんの個性をすごい個性だって褒めてあげていた。
目を覚ました瞬間の活真くんと真幌ちゃんの笑顔は輝いていた。
子供特有の素直な思考と感情の動きは、やっぱり見ていてほっこりする。
とにかく作戦会議の時間も近いから、活真くんたちも伴って移動を開始した。
正直やつらの目的の関係上、活真くんたちに完全に事情を伏せるのが難しいのだ。
それなら行動力のある真幌ちゃんとかに変に勘繰られるようなことをしないで、あらかじめ作戦を聞かせて協力してもらった方がいいと思った。
起きた報告をする必要もあるし、ちょうどいいのもあるけど。
作戦会議をする場所として指定されていた休憩室に入る。
私が来たことで緑谷くんと爆豪くん以外が揃ったことを確認した飯田くんは、そのまま話し始めた。
「まずは現状の報告を……通信、電力網が破壊され、救援を呼ぶことができない……」
「先程、救難メッセージを発信するドローンを創造し、沖縄本島へと発進させました。到着は早くて6時間……救助が来るのはさらに時間がかかりますわ」
個性の使い過ぎでぐったりしている百ちゃんが、ソファから半身を起こして言った。
そんな百ちゃんの言葉に、尾白くんが深刻な顔で呟いた。
「それまで、ヴィランが待ってくれるとは思えない」
「今、我々がやるべき優先事項は、島の人々を守ること……」
「どうやって?」
言い聞かせるように言葉を発する飯田くんに、砂藤くんが問いかけた。
その問いを受けて、飯田くんが私の方を見てきた。
「波動くん、すまないが、尋問の結果を話せるか?」
「ん……大丈夫……」
私が了承して話し出そうとしたところで、障子くんが活真くんと真幌ちゃんを見ながら心配そうな表情で口を開いた。
「話してもらうのはいいが、子供に聞かせて大丈夫な内容なのか?」
「ん……むしろ聞いた方がいい……変に勘繰られて暴走する方が困る……核心的な部分は活真くんたちも知ってるし……作戦の中核になりかねない位置にいる……」
「どういうことだ?」
「これから説明する……けど、その前に報告……活真くんの細胞活性のおかげで……緑谷くんと爆豪くんは……とりあえず目を覚ました……」
「本当!?」
「よかったぁ……」
私の報告に、皆が少しほっとしたような感じで息を吐いた。
とりあえず障子くんも活真くんたちがいることには納得してくれたようだった。
不思議そうにしている活真くんと真幌ちゃんには申し訳ないけど、このまま話し始める。
「襲撃してきたヴィランは4人で全て……増援はない……複数個性のナイン……キメラ……スライス……マミー……こいつらの目的は……ある個性の強奪……」
「ある個性?」
「ん……順を追って説明する……ナインのもともとの個性は気象操作……雷、嵐、竜巻、大雨……天候を操ることができる凄まじい個性……この雷で……緑谷くんたちはやられた……」
皆その個性の凄まじい力に息を呑む。
質問したそうにしている人もいるけど、とりあえず話を続ける。
「ただし……この個性にはもともと重いデメリットがあった……もとのデメリットがどういうものだったかまでは分からない……だけど……このデメリットをどうにかするために……ナインは自分をヴィラン連合に売った……」
「ヴィラン連合!?」
「ん……ヴィラン連合の実験体に志願して……ナインはAFOの個性因子と適合した……ストックの上限はあるけど……個性を奪う個性を手に入れた……」
「個性を奪う個性って、それ、AFOそのものじゃ……」
「ストックが8個しかできないって欠点はあるけど……その通り……」
私がそこまで話したところで、緑谷くんと爆豪くんの波動が近づいてきた。
最低限着替えてからこっちに来たらしい。
「皆!ごめん!遅くなった!」
「緑谷!爆豪!」
駆けこんできた緑谷くんとその後ろをふてぶてしく歩いてくる爆豪くんに、皆の表情が明るくなる。
早い段階で来てくれて助かった。
ここまでの説明を2人にもサッとしてしまってから続きを話す。
「続き……その実験の影響で……ナインの個性のデメリットは……さらに大きなものになった……そのデメリットは……個性を使うほど自分の細胞が死滅していくこと……」
「ま、待って!じゃあさっき言ってた奪おうとしてるある個性って……!」
「ん……デメリットを克服するために……細胞活性の個性を狙ってる……活真くんのお父さんを襲撃して……個性を奪ったみたいだけど……A型の細胞活性だけじゃ足りなかったみたい……B型の活真くんの個性も狙ってる……」
「お、お父さんが襲撃された!?」
真幌ちゃんが泣きそうな表情で叫んだ。
家を壊されて、ヴィランに狙われて、さらに父親まで襲撃されていたとなれば当然の反応だ。
「大丈夫……殺してないのは確認が取れてる……それに……事前に真幌ちゃんたちに連絡がなかったことから……その後に死んだりもしてない……不安だろうけど……落ち着いて……」
「う、うん……」
真幌ちゃんたちもひとまず落ち着いてくれたのを見て、話を続ける。
「ナインが持っている個性は……気象操作……個性を奪う個性以外に……ラグドールさんのサーチ……衝撃波……バリア……爪弾……使い魔召喚……細胞活性A型……ストックはあと2つ……上書きができるかは分からない……正直……途方もない力を持ってる……」
「サーチを持ってるの!?それじゃあ……!」
「ナインが復活したら……ここの場所は間違いなくバレる……仮に活真くんたちだけを連れて逃げても……一般人を人質にされる可能性がある……最初にそれをしなかったから……この後それをやるかは疑問が残るけど……」
「サーチって、タルタロスにいるAFOが持ってるって話じゃ……」
緑谷くんが震えるような声を絞り出す。
確かにそうだけど、ヴィラン連合はどう考えても個性を増やしたり、人工的に作ることができている。
あり得ない話じゃない。
「そうだけど……ヴィラン連合は……珍しいはずの超再生の個性を……脳無に付与しまくってる……個性を人工的に増やしていてもおかしくない……」
その可能性に、皆も絶句以外の感想が出てきていなかった。
万が一今回の実験が功を奏してしまって、他の人間にも個性を奪う個性を付与できてしまったら。
脳無のような頭の悪いやつだけじゃなく、普通の人間が、凶悪な個性を大量に持って現れる可能性が出てきてしまうのだ。
到底容認できない緊急事態だけど、今はそんなことを気にしていても仕方ないから、気にしないで話を続ける。
「仲間の個性は……ヴィラン名の通り……キメラは……様々な特徴を併せ持つ異形型……火を吹いたりもできる……スライスは……髪の毛を刃物にして……自由に操れる……」
「キメラは、あの海岸に現れたやつか」
「ん……そのはず……苦戦したって聞いてる……スライスとはまだ交戦してないけど……相当な手練れだと思った方がいい……」
皆も交戦したヴィランの実力を思い浮かべながら聞いていた。
その後も、得た情報を順番に伝えていった。
皆絶句したり驚愕したりと感情が目まぐるしく移り変わっていた。
「一応……情報はここまで……作戦を考えたい……」
皆難しい表情で考え込み始めてしまった。
「聞いただけでも、やばい実力者だよな……爆豪と緑谷を、あそこまで痛めつけてるし……」
「俺らが戦ったヤツ、キメラもかなりの手練れだった」
「戦うにしても、ヤオモモや上鳴、波動も個性かなり使っちゃってるし……」
響香ちゃんが物作りで脂質をほぼ使い果たした百ちゃん、充電でウェイ状態になりかけている上鳴くん、治療で波動の譲渡を続けた私を例に挙げる。
確かに私もだいぶ波動を使ってしまっている。
正直、結構辛い。
「それだけのヤツらに、今の状況で一斉に襲われたらひとたまりもねーぞ」
「……瑠璃ちゃんに活真くんを抱えて逃げてもらう?」
「……やってもいいけど……逃げ続けて手に負えないと判断されたら……ヴィランたちがここを襲撃して……人質を取ってくる可能性がある……力押しでなんとかなると思われているうちに……どうにかした方がいい……」
「瑠璃ちゃんと活真くんに逃げてもらっても、島の人たちを背にしての防衛戦になる可能性が高いということね。勝ち目があるとは思えないわ」
透ちゃんの提案に苦言を呈すると、梅雨ちゃんが同意を示してくれた。
正直、活真くんを連れての逃走なんて手段を取ると何をされるか分からない。
逃げ回って埒の明かない追いかけっこになったと判断した時点で、暴虐の限りを尽くされる可能性すらある。
やるとしても、最終手段にした方がいい。
「波動、今やつらがいる場所は分かるか?」
話が行き詰まりかけていると、障子くんが問いかけてきた。
「……一応……スライスが逃走した時の思考から……灯台付近なのは予測がついてる……でも……キメラはわからない……灯台にいるかもしれないけど……いない可能性もある……」
「じゃあ波動に確認しに行ってもらうってのは……」
「……いなかったらどうする……?キメラが合流してない可能性……ナインが回復して行動を始めている可能性……考え出したらキリがない……」
「波動さんにそちらに行ってもらうということは、ここの警戒が手薄になることに直結します。それにこの雨……耳郎さんの感知も効率が悪くなりますわ。障子さんと口田さんを頼るにしても、それでは全方位の警戒は難しい。私たちを穴を埋めるように配置しても、確実とは言えません。島民の方を危険に晒すことになってしまいます」
「こちらから襲撃をかけるというのも、同じ、いや、それ以上のリスクがあるか……ナインだけでも緑谷と爆豪を圧倒出来るのに、そこにキメラとスライスまでいると、全滅しかねない……」
「敵の奇襲に備えて襲撃と防衛で戦力を分けないわけにもいかないし、こっちからの襲撃に勝ち目なんてほぼないよな……」
「戦力分けて防衛網はりつつ、灯台にあいつらが全員いるかを波動に確認してもらった上で、全員で奇襲するのはどう?」
「……いや、全員でかかっても相手は天候を操るんだぞ……それに、ヴィランが全員いるのを確認するということは、キメラもいる。轟たちでもどうしようもなかったやつまでいる状況で、どうやってナインを攻略するつもりだ……?」
「な、ナインが目を覚ましてない可能性とかは?」
「……背中の制御装置が怖い……暴走できるみたいだし……デメリットはすごくても……ナインを叩き起こして暴走させられたら……私たち全員殺されかねないと思う……そしたら……ナインはゆっくり活真くんを襲うだけ……」
逃走、偵察、こちらからの襲撃……様々な意見が出ても、無視できないリスクが提示されてすぐに否定されてしまう。
皆もあまりのヴィランの実力と、島民の安全を確保しながらどうにかしなければいけないという難しい問題に、頭を悩ませていた。
「ぼ、僕をヴィランに渡せば、何か変わりますか!?」
自分が重しになっていると思ってしまったらしい活真くんが、恐怖を飲み込んで震える声で絞り出すように聞いてきた。
「殺さないって言ってた。僕の個性なんて、無くなってもいい。それで島の皆が助かるなら……」
「活真……」
活真くんの悲壮な覚悟に、皆が息を呑んで、戸惑っていた。
だけど、活真くんを渡してナインがデメリットを克服してしまうと、エンデヴァーですら手に負えるか分からない状態になってしまうと思う。
それは許容できない。
「そんなのダメだ!!君が怖い思いする必要なんかない!そのために僕たちがいる!」
「要するに、あのクソヴィランどもをぶっ殺せばいいだけのことだろうが」
緑谷くんが活真くんに言い聞かせて、爆豪くんが安心させるようにいつもの強気で言い放った。
「爆豪、緑谷、その意見乗った」
「私も、島の人たちを守りたい!」
轟くんやお茶子ちゃんが2人の意見に同調する。
緑谷くんと爆豪くんの強大なヴィランに立ち向かう決意が、皆に波及していった。
皆、不安がないわけじゃない。
だけどこの困難を、この危機的状況をどうにかしたいという思考が、皆から湧き上がってくる希望と力強い闘志が、私にも、活真くんと真幌ちゃんにも、しっかりと伝わってきた。
「いつも言ってますもの」
百ちゃんが立ち上がって、隣の飯田くんに声をかける。
それを見て承知したとばかりに飯田くんが頷くと、拳を握って声を張り上げた。
「さらに向こうへ!」
「「「Plus Ultra!!!」」」
皆で気合を入れなおすように、拳を突き上げた。
気合を入れなおし終わったところで、梅雨ちゃんが確認するように呟く。
「でもどうやって?」
「チッ……クソデク、てめぇさっきブツブツ言ってただろうが。時間ねぇんだからさっさと話せや」
爆豪くんが不服そうに舌打ちしながら緑谷くんに話すように促した。
「あ、うんっ!考えたんだ、作戦。これが今、最善策だと……思う」
「さっすがデクくん!」
「いつもいつもきめぇんだよ。サブイボ立つわ」
お茶子ちゃんが緑谷くんを褒めて、確認するようにブツブツし始めていた緑谷くんに爆豪くんが苦言を呈した。
こんな時でも緑谷くんは相変わらずだ。
それから緑谷くんが考えを整理していっていたけど、その間に真幌ちゃんと活真くんは眠ってしまった。
皆の気合を入れなおすところや、戦う決意を決めた様子を見たことで気が抜けたらしい。今はソファで寄り添うように眠っていた。
「緑谷、作戦は?」
轟くんが緑谷くんに話を促す。
緑谷くんはテーブルに広げた地図を指さしながら、話し始めた。
「残っているヴィランは3人。後ろが断崖絶壁の城跡を拠点にして、敵の侵攻ルートを一つに絞らせる」
そう言いながら緑谷くんは、離れ小島の地図上の滝、鍾乳洞、岩場に目印を付けた。
……轟くんと常闇くんが有利に戦える地形か。
「そして先制攻撃でヴィランを分断。それぞれの地形を利用して」
「ヤツらを叩きのめす!」
緑谷くんの言葉に爆豪くんが続いた。こういう時だけ息が合う。
「島の人たちは断崖絶壁の洞窟に避難。活真くんと真幌ちゃんは僕らで護衛。いざという時の脱出経路も確保」
「ナインへの対応は?」
真剣な表情で地図を見ている緑谷くんに、轟くんが問いかけた。
「さっき波動さんが言ってたデメリット、僕とかっちゃんが戦った時に見てる。突然苦しみだして、戦うこともできなくなってた。これを利用したい」
「なるほど、消耗させんのか」
「ヴィランには波状攻撃を仕掛けて個性を使わせる。個性を奪われるから接近戦はなるべくしない方向で。それでヴィランが倒せればよし。たとえ倒せなくても、救援が来るまで持ちこたえれば、皆を守れるから」
「少なくとも……これから襲撃するよりは……分断した上での拠点防衛戦の方が利があるはず……移動の時のリスクはあるけど……こっちが作戦を立てて……準備をしてからの防衛戦なら……ありだと思う……」
そして、作戦は決定した。
主に百ちゃんと緑谷くんがいつものように詳細を決めていって、後はナインと接触した私が感じた所感から個性を使わせる上で有効打になりそうな手を提案したりした感じだ。
透ちゃんにリスクを背負ってもらうことになる作戦だけど、それでも、個性を使わせるというならこれ以上のものは無いと思う。
その後は作戦の準備に移った。
尾白くんと三奈ちゃんが島民を城跡裏の洞窟に誘導。
口田くんが家畜の避難。砂藤くんがリヤカーで食料を運んだ。
さらに峰田くんのもぎもぎでマミーを固定して、救出を困難にした。
各々が罠を仕掛けたり、地形の確認をしたり、準備に勤しんだ。
ヴィランを迎え撃つ準備を整え終わって、活真くんと真幌ちゃん、A組全員が城跡の頂上で待機する。
暗かった空が、オレンジ色に染まって明るくなってきていた。
キラキラきらめく海に、柔らかいオレンジ色の空。その間から、ゆっくりと輝く太陽が現れる。
こんな時じゃなければその美しさに感動してしまいそうになるくらい、綺麗な朝焼けだった。