皆の割り振りは、キメラに轟くん、飯田くん、切島くん、梅雨ちゃん、スライスに常闇くん、三奈ちゃん。
スライスは洞窟に追い込んでダークシャドウの力に頼る予定だから、暴走に備えて最低限の人数だ。
ナイン対策は、第一段階百ちゃん、青山くん、第二段階お茶子ちゃん、透ちゃん、砂藤くん、峰田くん、口田くん、第三段階兼真幌ちゃんと活真くんの護衛に緑谷くん、爆豪くん、私、障子くん、響香ちゃんだ。
怪我をしている尾白くんとショート寸前の上鳴くんは、万が一の時の為に島の人達の警護をしつつ、不安を抱かせないように元気づけてもらっていた。
城跡の頂上から百ちゃんが作った単眼鏡を使って、障子くんが島につながる道を監視してくれている。
あの道はギリギリ感知範囲外だったから、いち早くヴィラン襲来を知りたければこの方法が最適だったのだ。
「来たぞ。3人。予想ルートを固まって歩いてる」
『百ちゃん……正面から3人……予想通りのルートを通ってきてる……』
障子くんの言葉を受けて、麓でナインたちを待ち構えている百ちゃんにテレパスをしておく。
百ちゃんも単眼鏡を覗いているけど、一応だ。
それから少しだけ時間を置いて、ナインたちが予定のポイントである門に差し掛かった瞬間、青山くんがネビルレーザーを放った。
『キャントストップトゥウィンクリングスーパーノヴァ☆』
青山くんのすごく分かりにくい技名を叫ぶ思考が感じ取れる。
その技は、青山くんの最大出力と思われるほど巨大なビームだった。
キメラとスライスは左右に散開してビームを避け、ナインはバリアを使用してレーザーを防ぐ。
それを見た青山くんは、明らかに腹痛を耐えるような表情をしながら、ビームの出力を上げた。
さらに肩や膝からも大きなビームを連射し始めている。
キメラとスライスはさらに大きく飛び退いて回避し、ナインから大きく離れた。
『分かれた!』
それを見た百ちゃんが、すかさず反応する。
迷彩布で隠していた2つの大砲を晒し、轟音とともに砲撃を行った。
風切り音を伴いながら、ナインから少し離れた左右の地面に着弾した。
スライスが嘲笑しているのが伝わってくるけど、着弾した砲弾はそのまま地面を割った。
地下があるのは確認済み。そこに砲弾を撃ち込めば崩落する可能性が高いほど地面が薄いのも感知と透視で簡単に確認できた。
そこに三奈ちゃんの酸で細工してほぼ確実に崩落するだろうと感じられるまで脆くしておいたのだ。
私と百ちゃんで相談して、崩落させるポイントに当てられるように計算しておいた。
用意周到に、分断するための作戦を考えたけど、功を奏したようだった。
崩落し始めたことに気が付いたスライスの表情は、すぐに余裕がなくなった。
スライスは崩落に飲み込まれ、キメラは砲撃とレーザーを避けるうちに崖に追い詰められてそのまま崖下へとジャンプした。
何もかも、予定通りだった。
「シュガーラッシュ!!」
それに続くように、砂藤くんが空中に浮いている岩を次々と殴りつけて、ナインの方に吹き飛ばしていた。
1つの岩を殴るとそれが凄い勢いで飛んでいき、その岩がぶつかった無重力になっている岩も全て連鎖するように飛んでいく。
「解除!」
ナインの方に岩が飛んでいくのを確認次第、お茶子ちゃんが無重力を解除する。
だけど、ナインは爪弾の個性で難なく全て破壊しきった。
そんなこと分かり切っていたお茶子ちゃんと砂藤くんは、何度も同じ攻撃を繰り返す。
時折砂藤くんが狙われているけど、砂藤くんがシュガードープで強化した筋力での跳躍や横跳びで回避していた。
岩陰を走り続けるお茶子ちゃんよりも、狙いやすい砂藤くんを狙っているんだろう。
「ぐっ、足止めすらできねぇのかよ!」
「っ!これなら!」
お茶子ちゃんが体育祭で爆豪くんに見せていた瓦礫の雨と同じような技を繰り出すけど、それでもナインは衝撃波で難なく迎撃し、さらに正面から迫ってくる岩に対してもバリアで対処した。
それでお茶子ちゃんはキャパオーバーになりかけてしまっている。
そんなお茶子ちゃんを見たナインは、爪弾でお茶子ちゃんを狙った。
お茶子ちゃんだけだったらそのまま食らってしまうところだったけど、砂藤くんがお茶子ちゃんを抱き上げて本命の方に走り出した。
砂藤くんは肩とかに爪弾を食らって出血しているけど、致命的な傷ではない。
「砂藤!麗日!」
「峰田!」
砂藤くんたちはすぐに峰田くんと口田くんが待つ本命の方に到着した。
そこにはずらりと並んだ木の柵と、それに堰き止められた大量の巨大な岩があった。
木の柵は峰田くんのもぎもぎで接合されていて、連動して無重力にできるように細工されている。
「準備できてるぜ!」
「麗日頼む!!」
砂藤くんはナインに岩を投げ飛ばして時間を稼ぎながらそう叫んだ。
口田くんがお茶子ちゃんのお腹にロープを括り付けて、準備が完了した。
お茶子ちゃんは吐き気に耐えながら、木の柵に手をかけた。
同時に峰田くんが柵の脇へと駆け出し、口田くんはロープの端を砂藤くんに手渡している。
「プルスッ……ウルトラアアァァアア!!!」
お茶子ちゃんが明らかに現状のキャパを超えた重量の木の柵を、気合で空へと投げ飛ばした。
その瞬間、気絶しかけているお茶子ちゃんを砂藤くんがロープで引っ張り上げた。
柵という堰が無くなった大岩は、雪崩となってナインの方に向かった。
この後の計画は、防がれることは前提として、埋もれたナインをもぎもぎを利用して閉じ込めることになっている。
閉じ込めて行動不能になるならそれでよし。ダメでも大技を使わせる算段だ。
瓦礫にもぎもぎをつけて、大技以外でどけることを困難にするのだ。
だけど、その直前に一計を講じている。
ナインのサーチには、大きな穴がある。
ナインは、緑谷くんの個性をサーチにかけていたのに、私の接近も、私の個性の感知もできていなかった。
つまり、ラグドールさんが見たことがある個性でも、もう一度見ないと認識できていない。
ナインは、私を感知した後に、活真くんたちを連れて逃走した私を一度見失った。
つまり、デメリットのせいで常時使用していない。
ラグドールさんはこんなことはない。
ラグドールさんは常に感知を続けられたし、100個までという制限はあっても一度見た個性を忘れたりなんてしなかった。
これらから考えられることは、ナインの持つサーチは、オリジナルだとしてもなぜかリセットされているか、超再生のように複製された新しいもの、そのどちらかだ。
この条件があれば、透ちゃんなら、ナインの不意を突くことができる。
『透ちゃん!!』
ナインの意識は、今は轟音を立てて迫る岩雪崩に向いている。
思考を確認した。それは確実だ。
今なら、多少地面の草が歪んだり、足元の小石が動いたところで岩雪崩の振動と轟音が誤魔化してくれるから気がつくことは難しい。
この作戦は、岩雪崩に巻き込まれないようにするために、ナインの目の前で行うのが1番いい。
だけどどれだけナインに近づいても、岩雪崩に巻き込まれるかもしれない。
近づいた影響で、ナインに気付かれて殺されるかもしれない。
それでも、透ちゃんはしっかりと頷いて作戦に同意してくれた。
私の合図を聞いた透ちゃんは、静かにナインの前に立つと、そのまま無言で、凄まじい光量の光を放った。
「ぐぅっ!?」
ナインが目を抑えて怯んだ。
思考からして、目に激痛を覚えている。
成功した。
「インビジブルガールの奇襲が成功……!ナインは、目に激痛を感じてる……!」
「よし!」
「これで、個性を常時使用せざるを得ない!」
ナインが悶えている隙に、透ちゃんは岩雪崩に巻き込まれないように全力で駆け出した。
サーチがある以上、ナインは視覚に頼らなくても戦えるだろう。
でも、その戦い方をするためには、常にサーチを使用する必要がある。
それに、おそらくいる場所や個性の内容が分かるだけで、細かい動きまでは見ることが出来ない。
こちらの攻撃が通る可能性が増すし、ナインも防御を必要最低限の行動でするなんてことは難しくなるはずだ。
さらに、現状でサーチに登録されていない人間は、感知することすらできない。
ナインは目を抑えているけど、岩雪崩を思い出して悶えながら対処に動き出した。
もちろん最適解の行動なんて難しい。
あれだけの量の大岩の雪崩だ。正面に小さな盾を展開するだけでは対処しきれない。
岩に対処するためにある程度の技を使う必要がある。
実際にナインは、正面に盾を展開しながら周囲に小規模の衝撃波を放つことで最低限の回避を行った。
だけど当然それで防ぎきれるはずもなく、ナインは軽い傷を負いながら岩に埋もれた。
「行け!!峰田!!」
ナインの様子を見た砂藤くんは峰田くんを上空に放り投げた。
「スーパーグレープラッシュ!!」
峰田くんは、頭が出血するのもお構いなしでもぎもぎを投げ続け、大岩同士をくっつけた。
個々にどけることができなくなったそれは、1つの岩山のようになっていた。
岩山を作り出した峰田くんは、やり切ったように叫んだ。
「これが本命だ!!」
「よっしゃー!」
「やったー!」
「や、やった……う、おぇぇぇ」
ナインを閉じ込めて喜ぶ峰田くん、砂藤くん、口田くん、透ちゃんを尻目に、完全にキャパオーバーになったお茶子ちゃんが嘔吐してしまった。
皆喜んでいるけど、ダメだ、ナインは動いている。
それどころか、目を潰されたことに、激しい怒りを感じている。
「皆!!避けてぇ!!!」
個々にテレパスをしていたら間に合わない。
できる限りの大声で叫んだ。
次の瞬間、岩山から光が漏れ出して、光と衝撃波とともに、岩山が爆発したように吹き飛んだ。
「きゃああっ!?」
「うおお!」
反撃があることは予想して、皆ある程度の距離は取っていた。
でもナインは、激しい怒りをぶつけるように今までの比じゃないくらいの衝撃波を繰り出した。
5人は、衝撃波で凄い勢いで吹き飛ばされてしまった。
「くそっ!ナインはまだ、苦しむ様子もなく動いているっ!」
「ヴィラン、麗日たちに接近!」
「ナインは……!まだ目が見えてない……!サーチで位置を見てるだけ……!」
障子くん、響香ちゃん、私で感知した内容を緑谷くんたちに伝える。
この状況で、5人を助けに入れるのは私たちだけだ。
ナインは、手をお茶子ちゃんたちに向け始める。
私が飛び出そうとした次の瞬間、百ちゃんに支えられた青山くんが、ナインの背後からビームで強襲した。
「青山くん!」
「ヤオモモ!」
「無駄だ」
だけど、奇襲は容易に防がれて、青山くんと百ちゃんは衝撃波で吹き飛ばされてしまった。
さっき見た時に、登録されていた?
それなら、青山くんの接近と、気配から最低限の予測はできる。
ナインがもう一度手をお茶子ちゃんたちに向けたところで、爆豪くんが飛び出した。
すぐに爆破で戦闘を仕掛けてくれている。
「活真くんたちをお願い!!」
「……デク……」
「……デク兄ちゃん……」
緑谷くんも、その後を追うように飛び降りていった。
私も、透ちゃんも狙われていると思うだけで、いてもたってもいられなかった。
「私も行ってくる……」
「なっ!?まだ回復しきってないんでしょ!?それに、波動は万が一の時のためにここに残った方が!」
響香ちゃんがすぐにそう言ってくれるけど、今の適任は私じゃない。
活真くんを抱えて逃げる状況ということは、対ナインの人員が、全員やられているということ。
そんな状況で逃げ出したら、島民の人たちを人質にされてしまう。
最後に守るために戦わなきゃ行けないなら、感知されない可能性がある響香ちゃんたちの方がいい。
「戦力は少しでもあった方がいい……それに私は……もうナインのサーチに登録されてる……抵抗しないといけない時に……居場所を把握されるのは……私……響香ちゃんと……障子くんは……まだ遠目にしか見られてない……登録されてるかは……分からない……活真くんたちが登録されてるとしても……響香ちゃんたちの方が2人を守りやすい……違う……?」
「……分かった。気を付けてね」
「ん……行ってくる……」
響香ちゃんと障子くんは、渋々ではあったけど納得して頷いてくれた。
私は、山頂から飛び降りた。